生きているコイン。
漫画家、魔夜 峰央(1953年3月4日 - )先生のタロットカードが、私の最初のデッキである。全78枚のすべてが絵札で、ウェイト版を基にしているのはカードの意匠からも一目瞭然だ。1980年に白泉社から出た『TAROT 魔夜峰央のオリジナルカード タロット占い―トランプ占い・遊び方付』である。
このカード、ペンタクル(貨幣)のスートになんと顔がついているのだ。あの魔夜 先生の妖しくも美しい絵柄の、こどもとも女性ともつかない顔が、貨幣についているのだ。私は既視感を覚えていた。おそらくはこちらを先に買ったのだと思う、『大魔女の秘法 (エキサイティング・ゲームブック5) /(1985年桐原書店)』にも同じような図案が載っていた。
どちらも私が生まれる前の出版物で、しかも今は手元にない。『大魔女の秘法』は小学生のときに近所のブックオフで購入したのだ。せっかく集めた富士見ドラゴンブックやなんかも本棚を圧迫するからと随分と処分させられたものだった。なので、実家にあるかどうかも定かではない。
だが、きっとあの本だったのだろう。そこには、主人公が手に入れた金貨を確かめている場面が描かれていた。目を閉じた顔が描かれた貨幣が山と積まれている中に、一枚だけ、目を開けているものがある。そして、その貨幣はパンくずを食べるのだ。持ち主が対価を払える間だけ、加護を授けてくれる、そんな魔法生物だったと思う。
さて、この貨幣から連想されるのは、『Wizardry』シリーズのクリーピングコインだ。這い回る貨幣という意味になるだろうか。これも資料が手元にないし、うろ覚えの記憶しかないが、このコインたちにも顔がついていなかっただろうか。ネットの海から拾える情報では、そんなことは書いていなかった。2005年にホビーベースから出版された『ウィザードリィRPG(復刻版)』の53pに載っている説明では奴らは火を吹くし、イラストには蜘蛛の文様のあるコインが描かれていた。ちなみに検索で出てきた海外のカードゲーム画像では、クリーピングコインと言えば虫が擬態した物と言う解釈なのか昆虫っぽい足が生えていた。
コインに擬態した虫ということならば、人気急上昇中(当方調べ)の『ダンジョン飯(九井 涼子/KADOKAWA)』じゃないだろうか。2015年発行の第二巻、第十話「おやつ」にはそのものズバリ「コイン虫」と呼ばれる貨幣に擬態したモンスターが出てくる。他に宝石に擬態する宝虫や真珠ムカデがおり、主人公パーティは赤貧のためにモンスターを食べながら目的地に向かっているので…………美味しくいただかれてしまうのであるが。
なかなか、ストレートにモンスター食べてる漫画は少ないよな。私が知っているのは『ダンジョン・マスター Dengeki comics EX(栗橋 伸祐/1993年メディアワークス)』かしらと思う。これもクソッタレなゲームが原作の漫画で、非常に面白かった。ただ、シナリオがどうしても『Wizardry』と『指輪物語(J・R・R・トールキン)』を思い出させるのだ。敵であり味方である魔法使いのあれは、どうしたって“灰色の”ガンダルフを思わせるし、大本の事件も『Wizardry』の漫画『メイルストロームの彼方 ウィザードリィ5 (作: 竹内誠 / 画: しのざき嶺 /1993アスキーコミック)』を連想してしまうんだよなぁ、なぜか。どうでもいいことだが、ウィズはwikiに載っていなかったアンソロジー集の中にすごく好きな作品があって、ハーフドワーフのお姉ちゃんがすごく好きだったのだ。手元にないけどな! くっそ。でもメイルストローム共々、相方さんの部屋に置いてあると思うんだよ。うん。
ああ、話がどんどん逸れてしまったが、そもそもウィズ自体がゲームシステムに『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ(1978年TSR社)』を用いているので、私は遭遇したことがないが、類似したモンスターはいるのかもしれない。う~ん、『モンスター・マニュアル』略してモンマは何冊あるんだっけかな。ウチのサークルでは「マスター以外は読んじゃダメ」だったんで知識には相当抜けがあるんだ。
というわけで、貨幣には顔があるものなのだ。迷宮で拾った宝物には、時々とんでもない物が紛れ込んでいるかもしれないから、くれぐれも鑑定を忘れないように。中には、ひとたび抜いたら人を斬り殺さないと鞘に戻ってくれない“嵐の運び手”なんて呪われた代物もあるのだからね……(エルリックぅ……)。
【追記】
LED 様のご指摘により、コインに擬態した虫はファミコン版『WizardryⅢ ダイヤモンドの騎士』に出てくる、ライノゥビートルだと判明しました。情報いただき、本当にありがとうございました。
最後のネタ、“嵐の運び手”の所有者エルリックについて。
マイケル・ムアコックが著したファンタジー小説シリーズ『エターナル・チャンピオンシリーズ』に登場する架空の人物。『エルリック・サーガ』の主人公。「白子の皇子」「メルニボネのエルリック」と呼ばれる。虚弱体質で魔剣「ストームブリンガー」のもたらす力がないと生きていけない。呪われた剣は持ち主の意志を裏切って彼の恋人や友人を殺す。
『エターナル・チャンピオンシリーズ』は東京創元社と早川書房で主人公別のシリーズごとに翻訳されている。ホークムーンやエレコーゼなど。壮大なファンタジー大作である。