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長編小説 3 『限りなく純粋に近いグレイ』  作者: くさなぎそうし
最終章 郷花堅乱(ごうかけんらん)
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最終章 郷花堅乱 PART1

  1.


 五月三日。端午の節句の二日前。


 コードネーム・フォンは一時間に一本しか運行していないバスに揺られていた。目の前には見渡す限りの茶畑が広がっている。


 目的地まではここから五十分ほどだ。ゆらゆらとバスの中から、蓬色に染まった世界をあてもなく眺めていた。


 地方のバスは小刻みにバス停に止まる。もちろん乗客は少なく、待っている人間は年寄りばかりだ。頭を空にして、ただ時間が過ぎるのを待っていた。


 到着したのは予定より五分遅い時間だった。小銭をベルトコンベアの中に突っ込み、力なく歩く。


 目の前に見えたのは石で出来た坂道だった。両端にびっしりと檜が生えており、鋭い日差しを遮っている。皮が剥げている木がほとんどで、苔が生えている部分と裸になっている部分のコントラストに目を奪われた。


 突き刺さるような太陽の日差しを手で遮りながら、フォンは坂道をひたすら登った。観光客も少なからずいるようだ。皆、お賽銭を飛ばし天井にぶら下がっている鐘をゆらゆらと揺らしながら手を叩き、願い事をしている。


 ……ここの神社では拍手は二回でいいのだろうか。


 周りの観光客を眺めながらお守り売り場に目をやると、そこには見慣れた女性の姿があった。色が陶器のように白く、艶やかで背筋をきちんと伸ばして座っている。


 近くの食堂で名物の鳥飯を食べながら、田舎特有の静謐な時間を味わう。食堂の花瓶には黄色の椿が生けられていた。琥珀色を薄くしたような菜の花色だ。彼はそれをぼんやりと眺めながら夜がふけるのを待った。


 茜色の空から闇が零れていく。春の季節に相応しく、涼しい風が心地いい。空の色が竜胆色に移りかわる頃には宵星が控えめに輝き始めた。


 まさに黄昏たそがれ時だ。


 ……そろそろだな。


 彼は時計を眺めながら神社の奥に向かうことにした。


 神社に入る前に靴を脱ぎ襖を開ける。そこには昼間盗み見た女性が正座をしていた。やはり行儀よく背筋を正して座っている。


 みしりと木の板の音を鳴らしながら一歩一歩近づいていくと、女が声を上げた。

「……よかった。ちゃんと来てくれたんだね、薫君」

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