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長編小説 3 『限りなく純粋に近いグレイ』  作者: くさなぎそうし
第六章 玄冬の『豪』雪(ごうせつ)
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第六章 玄冬の『豪』雪 PART6

  6.


 交代の時間が迫っていた。


 リーはなるべく一目につかない雪道のルートを辿りながら荒祭宮に向かっていた。通常のルートでは間違いなく他の警備員に出くわす恐れがある。慎重に歩を進めなければならない。


 山道を通り抜けている途中、携帯電話が振動した。音を消しているのでメールなのか、電話なのかはわからない。一つわかるのは班の連中ではないということだ。


 ……葵か美里のどちらかだ。


 自分の携帯にはこの二人の連絡先しか入っていない。それ以外の番号からは繋がらないことになっている。ここで葵からの連絡であれば、きっと作戦に支障をきたすだろう。


 しかしこのまま集中できなければ、途中でミスをしてしまうかもしれない。リーは迷った挙句、携帯電話を覗き見た。

 相手は美里だった。しかもメールだ。一つ大きな溜息をつきながら、リーはメールの内容を読んだ。



「この間出した問題は解けましたか? 空白の一文字についてです。


 解けていないのであればヒントを差し上げましょう。


 ヒントは前回リー君と一緒に食べた烏賊墨いかすみです。ここから頓知を聞かせて、一文字入れて見て下さい。

 解けたら一度メールを下さいね。


 それでは 美 里より」



 ただの雑談のメールだった。取り立てて急いで返す必要のない内容だ。再び大きく吐息をついて荒祭宮に向かう。


 目的の場所の近くに踏み込み、リーは辺りを見渡した。


 他の警備員はいない。素早く宮の中に入り込もうとすると、無数の赤外線が張られていた。しかし通り抜けられないほどではない。大人が通り抜けられるくらいの緩んだような糸が少なめに張られている。


 ……まさか、囮なのか?


 リーは慎重に赤外線のセンサーに反応しないように、体を捻じ曲げて進んだ。賽銭の奥まで入り込んでみると、祭壇の下に何やら石で出来た丸い窪みが四つほどある。ちょうど勾玉が入り込む形だ。


 どうやら場所はここでいいらしい。


 窪みに四つの勾玉をはめ込んでみる。すると祭壇の奥でかちりと金属音が鳴った。


 ……アタリだ。


 祭壇には赤外線は張られていなかった。それどころか他に鍵らしいものはない。普通なら二重、三重の鍵があるはずだ、そのために様々な鍵穴を開ける訓練をしてきたのだが……。


 音をたてないようにそっと扉を開いてみると、四色で装飾された巻物が掲げられていた。分厚い巻物で結構な重量がある。


 これに真実が書かれてあるのだろうか。本当にスサノオが日の神なのだろうか?

 頭の中では別の推測が渦を巻いているが――。


 巻物を開いて覗くと、古文で書かれていた。どうやら今すぐに理解できるものではなさそうだ。これはフォンに任せるしかない。


 ……これなら、彼に任せても大丈夫だろう。


 そうだ、勾玉を回収しなくては。


 窪みにはまっている勾玉を外そうとするが、中々取ることができない。青の勾玉を外そうと手に力を入れると、ぱりっと音を立てて砂のように崩れた。一つの勾玉が壊れると、連鎖するように四つの勾玉は音を立ててガラスの破片に変わっていった。


 ……このまま置いて帰るわけにはいかない。


 丁寧に破片を取り除く。黒の勾玉の破片を見つめると、破片は冷たく彼の苛立った心のように尖っていた。どうやら修復は可能なくらいに集まったようだ。


「……どうやら手にいれたようだな、ヘイ?」


 後ろから男の声がして振り返ると、フォンだった。その顔には冷徹さと狡猾さが滲んでいた。


「なぜここにいる? まだ作戦は終わっていない。早く持ち場に戻れ」


「まあ、そういうなよ。解読するのがオレの仕事じゃないか」


 フォンはにやりと笑って中指で巻物を渡せと合図を送ってきた。

「お前がヘマをしてないか確認しにきたんだ」


 違うな、とリーは反射的に思った。ここまでの道のりはリスクを背負う。彼なら悠々と自分の帰りを待つはずだ。

 リーは巻物をきつく握り締めてフォンを睨んだ。


「……理由になっていない。本当のことを答えろ」


 フォンの目が鋭くなった。ナイフのように目尻まで尖らしている。


「……ふう、わかったよ。お前には何をいっても無駄だろうしな」


 彼は大きく口元を歪ませた。


「お前はここで死ぬ。それで作戦終了だ」

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