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長編小説 3 『限りなく純粋に近いグレイ』  作者: くさなぎそうし
第四章 灰秋の『爛』葉(らんよう)
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第四章 灰秋の『爛』葉 PART4

  4.


 楸田馨。そう聞いた時には彼が天岩戸神社の後継者であることがわかった。苗字に秋の季節が入っているからだ。

 だが色が入っていないのが、気になる。


「私は彼のことが好きだった……」


 葵は呟くようにいった。

「彼といると、とっても居心地がよかったの。リー君と同じくらいにね。だけどこの神社のご子息と聞いた時には自分の運命を呪ったわ」


 葵はリーの様子を伺いながら話を進めた。確かにこの話は宮司の前で話す内容ではない。

 しかし神社の子同士だと何か都合が悪いのだろうか、葵の意図が読めない。


「どうしてですか? 神社同士の方が共通点が多くて、都合がいいんじゃないんですか」


「まあ、一般的にはね。だけど私達は気味が悪いほど似ていたの。容姿だけでなく、考え方から得意なことまで……」


「いいことづくしじゃないですか。それのどこに問題があるのですか」


「そうね……。こんな言い方、私らしくないわね」

 彼女は長い吐息を吐き、両手をテーブルの上に載せた。


「馨君と私は血の繋がった双子だったの」


 心臓に衝撃が走る。彼女が天岩戸神社の子であることは予測できていたが、まさか兄弟がいるとは思ってもいなかった。


「私達は本当によく似ていて、姉弟のようだといわれていたんだ。だからね、彼と一緒に神社に行った時にはおじいちゃんも気づいていたと思う。今日おじいちゃんに再会した時、何度も謝罪されたの」


「何で謝罪なんですか? 葵さんが熱田神宮に預けられたのは蒼介さんに子供ができなかったからですよね」


「うん、それがね……」


 そう言い掛けた時に従業員がチキン南蛮を運んできた。葵一人でこれを食べられるか心配になるくらいの量だった。


「ここで話すような内容じゃなかったね……じゃあ食べよっか」


「そうですね、また後でお話を聞くことにします」


 名物のチキン南蛮はとても柔らかくそれなりに旨かったが、葵の話の方が気になり味に集中できなかった。


「リー君、ホテル決めてあるの?」


「ええ、決めてますよ。葵さんが泊まるホテルを教えてくれていたので、同じホテルにしました」


「……そっか」


葵は上目遣いでリーの方をじろじろと見つめてきた。

「じゃあそっちはキャンセルして私と一緒の部屋に泊まろうよ。平日だし、ダブルの部屋も空いていると思うし」


「そうですね。そうさせて貰おうかな」


 リーの返事を聞くと、葵は嬉しそうに声を上げた。


「……よかった。本当はね、今日は一人でいるのはちょっと寂しかったの。だからリー君と一緒にいれると思うと嬉しいな」


 宮司と話したことで彼女の疑問は解決したのだろう。昨日とは違った明るい表情が浮かんでいる。


「せっかくリー君との旅行になるんだったら、もっといい服を用意しておくんだったなぁ。一人旅になると思っていたから、あんまり用意してないの」


「僕は好きですよ、白のワンピースに緑のコート。最初のデートの時の服装じゃないですか」


「……凄い。覚えていてくれたのね」


 どうやら当たりくじを引いたらしい。葵の機嫌が見る見る上昇していく。


「これからどうしよっか。夜はね、色々と連れて行きたいお店があるの」


「葵さんが働いていたレストランですね」


 彼はつい先日の会話を思い出した。

「それにその旦那さんがバーを営んでいるといってましたね」


 彼女は子犬のように何度も首を振る。

「リー君も参考になると思うよ。オーナー一人で切り盛りしているんだけど、動きは早いし正確だし、たくさんのカクテルがあるの」


「そういえば、僕に飲んで欲しいカクテルがあるといってましたね」


「うん。だけど、時間がまだ早いのよねぇ」


 彼女は時計を見ていった。

「九時過ぎないと開かないから、それまではどこか行きましょうか。せっかくだし、東本宮にいってみる?」


 葵は近くにある看板を指差した。その看板には西本宮が右を差し、東本宮が左を差している。


「天岩戸神社には伊勢神宮みたいに二つの宮があるの。さっきの神社が西本宮ね。ここから歩いて十分くらいの所に東本宮があるんだ。そこにはアマテラス様が祀られているんだよ。もしかしたら内宮の神様に関わるものが出てくるかもしれないね」


 内宮の神と聞き、意識が研ぎ澄まされていく。


「そうですね、せっかくだし行ってみたいです」


「じゃあ決まりね」


 葵は嬉しそうに最後の一口を頬張った。その表情には安堵とご機嫌の色が浮かんでいた。

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