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長編小説 3 『限りなく純粋に近いグレイ』  作者: くさなぎそうし
第二章 朱夏の『絢』雨(けんう) 
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第二章 朱夏の『絢』雨 PART3

  3.


 気を取り直して本殿の方に向かうと、たくさんの人で賑わっていた。最近修繕されたばかりで檜の匂いが上品に香っている。香りを吸うことによって少しずつ心が晴れていく。


 本殿の近くにお守り売り場があった。葵はそこに勾玉のストラップがあるのを見つけた。


 色は五色で、青、赤、白、黒、黄色があった。どれもに縁結びの効果があると書かれている。もちろん熱田神宮にも同じものがあるのだが、それには縁結びの効果があるとは書いてない。その言葉だけで別の魔力が掛かっているように煌いて見える。


 自分自身に呆れつつも、葵はそのうちの二つを取ることにした。


「葵さん、これがオオクニヌシですかね?」リーが銅像を眺めながら尋ねてくる。


「うん、そうだと思うよ。それにしても何をしているんだろうね?」


 二人でじろじろと銅像を眺めていると、後ろから声を掛けられた。


「これはオオクニヌシ様がご自分の魂に向かってお願いしているんですよ」


 二人で振り返ってみると、巫女服の華奢な女の子が立っていた。彼女は二人の真剣な眼差しに動じて一歩後ろに下がった。


「失礼しました。大変興味深そうに見ているので、つい声を掛けてしまいました」

 巫女は箒を両手に持ち頭を下げた。


「どういうことです? 自分で自分を祀り上げているんですか?」


「ええ、古代の朝廷では御自分で御自分の魂を祀るということはよくあるんです」


 巫女は頭を上げてリーの質問に答えた。

「これを首長霊信仰といいまして、簡単にいえば血族主義の一環です。要するに祖先を大事にするという考えですね。農耕民族である日本人は自然に助けて貰っているという考え方を持ち合わせていますから、祖先を大事にすることは当然なんです」


「なるほど。そういう話を聞けばなんとなく理解できます」


 リーの相槌を受け巫女は彼の方を向いて話を続けた。


「オオクニヌシ様が祀ってある魂は幸魂奇魂さきみたまくしみたまといいまして良い魂です。魂にも種類がありまして、大まかにいうと荒魂と和魂という二つの魂に分けることができます」


 彼女は箒を近くに生えていた木に立てかけて両手を自由にした。


「荒魂は陰の部分、つまり悪い性格を持った魂です。代わって和魂というのは陽の部分、いい性格を持った魂です。荒魂と和魂は、同一の神であっても別の神に見えるほどの強い個性があるので、別の神名が与えられるんです」


「……同じ神様でも性格が違うわけだ」


 リーは大きく頷き巫女に尋ねた。

「同じ神様でも伊勢神宮の内宮にある正宮と荒祭宮といったように、別々の宮に祀られているんですね?」


 巫女は意表を突かれたように目を見開いている。

「そ、そうです。オオクニヌシ様は和魂を借りて国作りをすすめようとしています。その神様がここ、出雲大社に祀られているわけです」


「そうですか。ならお供えものというのは神様の機嫌をとるためのものなんですね。それでお祭りが周期的にあると」


 巫女は再び箒を握った。そしてぶんぶんと振りながら頷く。

「そう、そうなんです。神社の祭りというのは大抵、『荒魂』を和魂に変えるために行なわれるんですよ。あなたがおっしゃったように、神様のご機嫌をとるためです」


「つまり神様の魂とは太極図のように正反対の双互関係をもつのですね」


 太極図。太極とは万物の根源を表し、この世の全ては陽と陰に分けられる考えのことをいう。白の勾玉は陽を意味し、代わって黒の勾玉は陰を意味を表す。そして二つは永遠になくなることはないという意味で交わった中間色がない。


 この極端な二面性が神道の根源となっているわけだから、彼のいっていることは間違ってはいない。


「す、凄い……極論でいえばその通りです」


 巫女は熱を持ってリーの言葉を肯定した。

「あなたのように答えられる人は初めてです。どうしてそこまでご存知なんですか?」


「僕の国では道教が主流なんです。神道の根幹にあるのはこの道教だと聞いていましたので、なんとなく繋がっているのかと思いまして」


 道教。中国の漢民族の伝統的な宗教だ。万物全ては五元から成っていると考えられている。

 五元とは五つの元素を意味し、木、火、金、水、土を表す。これら全てには星がつく。

 木星、火星、金星、水星、土星。

 この道教を元にして作られたのが日本の神道であり陰陽道である。


「本当に博識なんですね、御見それしました」巫女は唖然としている。


「いいえ、とんでもありません」

 リーは笑みを浮かべていった。

「彼女に教えて貰ったことがほとんどですから」


 ……ええっ?


 葵はリーを見返した。神道の説明は粗方しているが、ここまで詳しく話した覚えはない。きっと自分が巫女だということでこの場を譲ろうと思ったのだろう。


「お二人とも凄い方なんですね……」

 彼女は交互に目をやっている。尊敬の眼差しを込めているようだ。


「私が神社に勤めているんです。名古屋の熱田神宮にです」


 葵はしぶしぶ白状した。

「ですがあなたのような丁寧な説明はできないと思います。私の方がびっくりしていますよ」


 そういうと彼女はあっと声を上げてこちらを吟味するように覗き込んできた。


「……もしかして、葵ちゃん?」


「えっ?」葵は首を傾けた。「そうですけど、なぜ私の名前を?」


「私よ、私。小さい頃遊んだこともあるじゃない」

 巫女は箒をぶんぶんと振り回しながら喜びを表している。


「失礼ですけど、お名前は?」


 巫女はがくんと頭を下げて答えた。

「そうよね、もう二十年以上前のことだもんね」


 彼女は名刺を取り出して葵に差し出した。


あかねよ、葵ちゃん。榎本えのもと茜です、覚えてないかな?」

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