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魔物の国の外交官  作者: TAM-TAM
第5.5章 エルフの森への表敬訪問
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074話 そうだ海へ行こう・1(提案編)

※番外編と言う程視点が変わったりはしませんが、少々寄り道気味の章です。

 時間軸が少し戻って、073話で言及のあった『海に飛んだり森に飛んだり』の部分にスポットを当てております。


※昨今の無断転載問題を受けて、各章の冒頭に著作権表記を入れることにいたしました。

 お読みになる際のテンポや没入度を崩してしまい大変申し訳ございませんが、ご理解の程を宜しくお願いいたします。


――――――――――――――――――――――――――――――

Copyright (C) 2016-2017 TAM-TAM All Rights Reserved.

この小説の著作権は著者:TAM-TAMに帰属します。

無断での転載・翻訳は禁止させて頂きます。

――――――――――――――――――――――――――――――




▼大陸暦1015年、戦乙女(第8)の月20日


 時は少し戻って、外交官会議の翌週のこと。

 アルビオン王国首都グロリアスフォート、その中心部を占める王城の敷地内にある迎賓館の一室、勇者リューク達一行の本拠地にて6人の男女がお茶の席を囲んでいた。


 この日のメンバーはセレスティナとクロエ、リュークとアンジェリカとアリア、それからフェリシティ姫という顔ぶれだ。

 一国の姫君が“野蛮な”魔族と同席するのは城内でも反対論があったが、国内最強戦力の勇者リュークがついていることやイストヨーク協定が締結間近で魔族の国への対応が急激に変わりつつあること、そしてセレスティナやアリアが居るこの場所は冷気の魔術によってとても涼しく快適であることから、彼女は空いた時間に自ら望んでこの部屋に足を運ぶ機会が増えている状況だ。


「それで、先日の外交官会議で出た大海蛇(シーサーペント)退治の話ですが、差し支えなければ私が行きたいのですけれど如何でしょうか?」

「――ぶふぅっ!?」


 しゅたっ、と挙手しつつ今から釣りにでも行こうか程度の気安さで現在諸国家を悩ます超大型魔獣討伐の希望を口にするセレスティナに、フェリシティが思わずお茶を噴きかけた。

 そんなフェリシティの背中を優しくさすりつつ、リュークが呆れた声で返答する。


「……ティナは相変わらず魔物素材マニアだよなぁ。わざわざ確認取らなくても、好きに行ってくれば良いと思うんだが」

「この件は外交官会議に挙がるくらい各国の思惑が激しくぶつかり合ってますので、アルビオン王国側の意向もお伺いしながら最適解を探りたいのですよ」


 セレスティナのその言葉にアリアが高貴な猫を連想させる色違いの両目を向け、問い返す。


「え? 帝国と公国は航路が使えるようになって貿易が捗るし王国(ウチ)も討伐のお礼貰えるしでみんな得してめでたしなんじゃないの?」

「でも、アルビオン王国としては北の帝国と南の公国が親密になり過ぎると南北から挟撃の危険を抱えることになりますし、航路に危険があることで物や情報の流れが停滞する現状維持を望んでるかも知れませんよ」


 実際のところ、大海蛇(シーサーペント)が出現している海域直近の王国最西端にある浜辺の町ではその魔獣の影響で漁に悪影響が出ているらしいが、国際関係を相対的に捉えるなら自国が少し不便を被っても他国がそれ以上に損をするならば却って有利な状況になっていると言え、なかなか悩ましい問題なのは間違いないだろう。


 そこまで説明したところ、博愛を尊ぶアンジェリカの顔が悲しそうに歪んだ。


「嘆かわしい事態ですわね。国と国の間に愛は成立しないのでしょうか?」

「……理念は立派だと思いますが……『隣国を援助する国は滅びる』という言葉もありまして……」


 真っ向から否定すると面倒臭そうなので微妙な笑顔で受け流すセレスティナ。国益より愛を取る相手は外交官の天敵なので避けて通るのが正解である。


 更に彼女の矛先を逸らすべく、続けてこの討伐依頼を持ちかけたシュバルツシルト帝国とルミエルージュ公国の狙いにも言及していく。


「もっと言うなら、帝国と公国もアルビオンをハメようとする意図があるのは明白ですから。リュークさんとアンジェリカさんに大海蛇(シーサーペント)は相性が悪いですし」


 海中の敵に剣や拳は届かないし、聖剣キャリブルヌスの光刃を撃ち出すにも船の真下の死角に潜り込まれたらお手上げで、最悪一方的に船を破壊される悲劇が待ち受けているからだ。


「ですから帝国・公国側としては、アンジェリカさんとフェリシティ姫殿下の手前大変言いにくい話ですが……大海蛇(シーサーペント)が退治できればそれで良し、逆に勇者が倒されて聖剣諸共海の藻屑になっても敵国の戦力が弱まるから歓迎できて、仮にこの依頼が断られたら国際的に非難声明を出して勇者の名声に打撃を与えてと、どう転んでも何かしらの旨味がある一手になるんです」

「それでアーサーと宰相はこの話に乗り気じゃなかったのか」


 納得したように頷くリュークとは裏腹に、フェリシティは憤懣やるかたないご様子でつい悪い癖が出て親指の爪を噛みながら怨嗟の篭もった声を出す。


「何てことを……わたしのリュークに何かあったらその時は計画に加担した両国の大使全員、外患罪で一族郎党縛り首にしてやるわ」

「それはもう宣戦布告を通り越して世界大戦の引き金になりますね……」


 しばし頭痛を堪えるような表情でこめかみの辺りを押さえるセレスティナ。やがて、「ですが――」とアリアの方に向き直り話題を転換した。


「実際のところ、今の話は各国にとっての都合の良い未来図にすぎませんから。アリアさんが居れば大海蛇(シーサーペント)相手でも最悪の事態にはならないと思います。恐らく帝国と公国はアリアさんの実力を過小評価してそうですね」


 彼女の見立てではアリアの魔力と水属性の熟練度があれば、水中戦でも大海蛇(シーサーペント)に真正面から打ち勝てるだろう。

 但し、それならアリアが船を護りながら安全に戦えるかと言うとまた別問題で、小さい獲物より大きい獲物に喰らいつく習性を持つ大海蛇(シーサーペント)を相手にするにはリスクが残っているのもまた事実である。


「なるほど……それでティナの《飛空(フライト)》の出番って訳ね」

「はい。船は持ち込まずに《飛空(フライト)》や自前の飛行能力で海面付近を航行して釣り出して、相手が頭を水上に出したところで一撃で仕留める。テネブラでは定番の漁法です」

「ほほう」


 アルビオンの面々の感嘆の声を受けてセレスティナは、腰に手を当てて自慢げに薄い胸を反らす。


「なので、私が大海蛇(シーサーペント)討伐に行く事でアルビオン王国としては戦力や資産を失うリスクが無くなりますし、帝国と公国は迅速に航路の安全を得られますし、テネブラとしてもアルビオンの魔獣討伐に協力した実績がつくのは今後の他国との交渉にもプラスの影響がありますし、全員が少しずつ得をする妙手だと思うんですよ」


 そう言い切ったセレスティナに、アンジェリカが我が子の成長を喜ぶ母親のような優しい笑顔を浮かべる。


「ふふ、セレスティナ様は最初の頃は冷徹な数学の家庭教師の方みたいに人間関係も国同士の問題も方程式で正解を導き出す方だと思っていましたが、実際は凄く優しい人ですのね」

「や、優しくなんかありませんっ。私は大海蛇(シーサーペント)の素材と肉が欲しくて理論武装してるだけですから。か、勘違いしないで下さいねっ」


 慌てたようにわたわたと両手を振るセレスティナに生暖かい目線が集中する中、フェリシティの驚く声が上がった。


「ええ!? 魔物の肉を食べるの!? やっぱり父上が仰った通り野蛮だわ!」

「何でよ! 美味しいのよ!?」


 そこにいち早く反応したのは、難しい話の間中ずっとお菓子を頬張りつつ空気になっていたクロエだった。外交はセレスティナに丸投げでも食に関することだけは相手が王族であろうとも譲る訳に行かない。

 それから話題は一気に、『大海蛇(シーサーペント)の美味しい食べ方』にシフトしていくことになる。


「塩焼きにしても煮付けにしても美味しいし、お刺身とか絶品なのよ!」

「お刺身って……生のまま食べるんですの!? 野蛮ですわそんなの!」

「ちゃんと専門の訓練を積んだ料理人が芸術的な手際で盛り付けますから、アンジェリカさんの想像する生食とは違うと思います」

「そこまで自信があるのなら、今度テネブラに遊びに行く時に食べさせて貰おうかしら……それは良いとして、大海蛇(シーサーペント)の大きさ考えると腐る前に食べつくすようなアテはあるの?」


 内陸部にある王都では魚介類は加熱して食べるのが常識になっているのでアンジェリカもフェリシティ側に付くが、アリアは興味を示したらしくいつかテネブラ自慢の大海蛇(シーサーペント)の刺身を振る舞う約束をすることとなった。

 女子力がどん底なセレスティナは当然として、料理のそこそこ得意なクロエでも刺身は一歩間違うとお腹を壊すのでまだ不安があり、今回の討伐ではお預けになるのは必然の流れだ。


 さておき、アリアの質問にセレスティナは外交官の顔になってこう答えた。


「大きさ的に殆どの部位が余りそうですから、それを持ってエルフの森にご挨拶に行きたいと思っております。これと言った外交的課題は無いですが、いわゆるご挨拶と顔繋ぎ目的の表敬訪問ですね」

「ああ、ラピスの故郷の森か」

「はい。折角なのでラピストーカさんから手紙でも預かっていけば門前払いはされないかな、と」


 東にある街イストヨークで会ったエルフの美人親子を思い出してリュークが頬を緩ませる。

 位置的にはエルフの森もイストヨークの近く、アルビオンとテネブラの国境近辺に広がっており、現状ではアルビオンにもテネブラのどちらも属しておらず特殊な魔術の施された迷路のような森の奥深くで鎖国同然の生活を送っていると言う。


 なのでエルフ達は人間族とも魔族とも交流を持っていないが、エルフの森は王都と同じく内陸部なので海の幸は珍しく喜ばれるだろう、という狙いがセレスティナにあるのは明白だった。


 とは言えいずれにしても、セレスティナとしては王国(アルビオン)側の意向を確認し許可を得てから大海蛇(シーサーペント)退治に出かけるつもりだったので、この場では一旦フェリシティが話を預かって報酬や同行者の指定も含めてアーサー王子やクリストフ宰相に伝達するということで、この場のお茶会はお開きになるのだった。



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