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魔物の国の外交官  作者: TAM-TAM
第5章 魔物の国の転換点
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066話 新魔術いろいろ(悪用厳禁)

▼大陸暦1015年、炎獅子(第7)の月28日


「――という訳で、私とアリアさんとはどうも従姉妹に近い間柄みたいです」


 国家戦略会議の後、セレスティナとクロエはまたもやアルビオン王国へとひとっ飛びして、もはや最近恒例となった勇者(パーティ)とのお茶会の席で、祖父に聞いた話をアリア達に伝えた。

 さすがに驚かれはしたものの、リュークもアンジェリカもどこか納得した顔でセレスティナとアリアを見比べていたのが趣深い。


「んー、あたしのご先祖が魔界の貴族令嬢ねぇ……柄じゃないなぁとは思うけど、でも可愛いドレスなんかは憧れるかも」

「宜しければ、いつかテネブラに遊びに来てみませんか? 爺様も立場上はっきりとは言いませんでしたけど、きっとそのセレスアクアさんの話を聞きたいと思ってるでしょうし歓迎しますよ」


 まだ国交再開前で気の早い話ではあるが、早速国際交流を持ちかけるセレスティナ。それに対しアリアも笑顔で「その時は名所の案内お願いね」と答えた。


 それから、雑談やら来月の外交会談に備えた打ち合わせやらを挟んだ後、セレスティナは今日訪れた主目的の一つを切り出す。


「それで、以前に話しました魔力変換器(コンバーター)の試作品が出来上がりましたので記念に……と言うのも変ですがアリアさんにお渡ししますね」

「マジで!? 貰って良いの!? おお~、なかなか格好良いじゃないの。ティナって意外とセンスあるわよね」

「…………そうかしら……?」


 セレスティナが取り出した指貫グローブの形をした魔道具(マジックアイテム)を受け取り早速右手に装着しつつ歓声を上げるアリアに、クロエが控えめな様子で小首を傾げた。

 いわゆるロマン枠の装備品なので選ばれし者でなければ良さが分からないのは自然の摂理だ。この場だとセレスティナとアリアとリュークがロマンを解する側でクロエとアンジェリカが理解を示さない側だ。


「一応、形状にも意味はありまして。得意属性まで変換器(コンバーター)を通すと平坦化して出力が弱まりますから、アリアさんの場合は水属性の魔術を使う際は指先からそのまま撃って貰って、苦手属性の時だけ手の平から変換すると良いです」

「成る程ねえ……でも良いの? こんな凄いの貰っちゃっても。王子様が見たらまた頭抱えるわよ?」

「研究のベースがアンジェリカさんからの貰い物ですから相応の還元はしないとですし。それに魔道具(マジックアイテム)作成は趣味ですからさっきも言ったとおり試作品ですのでどんどん使って貰って使用感とかもフィードバックして頂ければそれがまた私の技術向上に繋がるのです」

「なら、ありがたーく使わせて貰うことにするから。それじゃあ早速、試し撃ちに行こうよ」


 そう言って満面の笑みで立ち上がるアリア。そんな彼女に引っ張られるように一同は先日も利用した王城の訓練場へと移動するのだった。





 中庭の訓練場に爆音が響き、盛り土を固めて作られた的用のオブジェクトが木っ端微塵に吹き飛んだ。


「おおっ! 凄いよコレ! あたしでもまともな威力の《爆炎球(ファイアボール)》が撃てるなんてっ!」

「……アリア様にとっての“まともな威力”とは、宮廷魔術師のトップクラスを指すのですの……?」


 本来は苦手属性の《爆炎球(ファイアボール)》を高い威力でぶっ放したアリアが文字通り目を輝かせて歓声を上げる。隣ではアンジェリカが呆れたような声を出していたが人間の常識は魔族に通用しないということで諦めて頂くしかない。


「これはもう、“万色の星光(スターライトプリズム)”と命名して末代まで伝える家宝にしなきゃだわ」

「普通に変換器(コンバーター)にして下さい……それはそれとして、魔力の変換は色々応用が利きそうなので私としても研究を続けたいテーマですので、使っていて気付いた点とかありましたらお知らせ下さい」

「お。また悪巧みしてる顔になってない?」


 からかうようなアリアの指摘にセレスティナは心外です、と苦情を申し立てると説明を続けた。


「今回みたいに苦手属性をサポートする以外にも、例えば魔力が乏しい人の為の増幅器(アンプリファイア)とか、魔道具(マジックアイテム)の出力を安定させる為の調整器(レギュレータ)とか、他人の魔力のフリをして所有者登録を突破したりとか、世の為人の為になって私も儲かる素晴らしい設計ばかりですよ」

「ちょっと待って一つえげつない荒業が混じってなかった?」

「気のせいです。それで、他にも……っと、これは実際に見てもらった方が早いですね。アリアさん、ちょっと私に向けて《爆炎球(ファイアボール)》を撃ってみて貰えますか?」

「うん、いいわ」

「――ちょっ! 何考えてますの二人共!?」


 気楽な口調で非常識なリクエストを出すセレスティナに少しの躊躇も見せず頷くアリア。そんな二人に常識人のアンジェリカがつい声を荒げる。


「大丈夫です。ちょっと《爆炎球(ファイアボール)》対策の完成形を実験するだけですから。突然教室にテロリストが現れて《爆炎球(ファイアボール)》を発射された時に備えておかなければいけませんので」

「教室にテロリストか。男なら誰もが憧れるシチュエーションだな」

「他の重要施設じゃなくて学校を制圧するってどれだけ暇なテロリストなんですの!?」


 セレスティナの語った有事への備えへの、リュークとアンジェリカとの反応の温度差がおびただしい。男性と女性との思考や感性にはかくも大きく深い溝があるということか。


「まあ、魔術に関してだけはティナは信用できるからね。遠慮なく撃ち込むわよ」


 そもそも、アリアの全力の《氷雪嵐(アイスストーム)》連打にも耐え切ったセレスティナが今更《爆炎球(ファイアボール)》ぐらいでどうこうなるとは思えない。そう考えてアリアは先日の対戦の時のようにセレスティナと距離を置いて対峙する。


「それじゃあ行くわよ。あたしの新たなる力、《爆炎球(ファイアボール)》っ!」


 クロエとリュークとアンジェリカが固唾を呑んで見る中、アリアの右手から変換器(コンバーター)を通した魔力が炎の塊を作り出し、セレスティナに向けて射出された。

 対するセレスティナはそれを避ける事も《防壁(シールド)》を展開して遮る事もせず、ただ静かに杖を掲げて待ち受ける。


「よく見てて下さいね――《魔力変換(コンバート)》!」


 セレスティナが展開した魔術回路にアリアの火球が触れた瞬間、本来なら着弾の衝撃で大爆発を起こすはずのその炎がまるで杖の先端から吸い込まれるかのように消失した。

 予想外の事態にクロエ達が唖然とするが、魔眼族(イビルアイ)の目を受け継いだアリアにはセレスティナの持つ杖の周囲に渦巻く魔力の流れがはっきりと見えており、今の奇術の種に関してある予測が浮かぶ。


「まさか……《爆炎球(ファイアボール)》を元の魔力に戻した(・・・)の!?」

「ご名答です。魔力を炎に変換することができるなら逆変換も理論上は可能という寸法です。ただ、《氷槍(アイスジャベリン)》みたいな固形物を飛ばす魔術には使えませんから実戦での使い勝手は微妙ですけど……」


 ついでに言うなら、他人の魔力を扱う関係上どうしても変換効率が悪くなり、今の場合だと《爆炎球(ファイアボール)》に使用した魔力の95%程は逆変換して無力化できたが残りの5%分は余波としてその身に受けている。今回はドレスに付与された防御魔術で防いだがこれが魔眼解放したアリアの《氷雪嵐(アイスストーム)》だったとしたら即死はしないまでも重傷コースだろう。


「それで、奪った魔力は体内に戻す訳にはさすがにいきませんが、次の魔術を使う時の糧にはできます。とりあえず《照明(ライト)》っと」


 最後に残った魔力を無害な魔術に再変換し、新魔術のお披露目を終えることにした。

 それら一連の無駄の無い流れに感銘を受けたらしいアリアは、目を輝かせてセレスティナに詰め寄りがくがくと揺さぶる。


「凄い! 今の凄い面白そう! ねえねえ、あたしにもそれ使えるかな!?」

「あ、あの、落ち着いてっ……ええと、魔力変換自体は、無属性で、得手不得手に依存、しないはずなので、その手袋で魔力の変換に、慣れれば、自然とコツは掴めると、思いますっ……」

「こうやって非常識が連鎖して行くんだな……アーサーが見てなくて良かったぜ」


 リュークが呆れたような安堵したような声を出す中、揺さぶりから解放されたセレスティナがアリアに頼みごとを告げた。


「それで、新魔術の開発で思い出しましたが、先日の模擬戦での勝利者報酬の件ですけど……」

「そう言えば何か魔術の開発を手伝って欲しいって言ってたわね?」

「はい。水を使った切断系の魔術を新開発して欲しいのですが、出来そうですか?」

「水で切断!? ……考えたこともなかったけど、そんなこと可能なの?」


 セレスティナの知る工業の技術だと細い隙間から高圧で特殊な水を噴射することで金属も切断できるものがある。なので理論上は可能だと考えているが現実的にはなかなか難しく、研究が行き詰っているところだった。

 そこで、水の扱いに慣れたアリアとこれまでの成果を共有しつつ実用化へのヒントを貰おうと、そういうことである。


 ちなみに風属性で定番の真空の刃による切断は比較的初期の内に試してみた結果、所詮は気圧差なので漫画やアニメのような派手な切断力が得られずに早々に断念している。


「……なるほどねえ。分かったわ。あたしの方でもヒマな時に色々試してみるから」

「お願いします。本当はリュークさんの聖剣キャリブルヌスを解析してあの光の刃を飛ばす攻撃が再現できれば、切断系の技としては申し分無いのですけど……」

「さっきのあの話聞いた後だとますます貸す訳には行かないな」


 魔力変換を応用して所有者登録を突破するという話のことである。聖剣は厳密には国宝で国によって厳重に管理されているものを当代の勇者が借り受けるという形になっているので扱いには細心の注意が求められる訳だ。


「大丈夫です、その辺りの細かな操作は剣の柄からしかアクセスできないのが普通ですので。だから柄の側には手を触れないことを約束します」


 聖剣の解析を諦めきれないようで、セレスティナが土下座する勢いで頼み込む。


「なので、せめて切っ先(さきっちょ)だけ! 切っ先(さきっちょ)だけで良いですから!」

「そういう事言う奴は絶対に先っちょだけで満足しないんだ! 俺には分かる! だって男の子だもん!」

「……酷い会話ね……」

「……酷い会話ですわね……」


 苦い表情のクロエとアンジェリカが頷き合う。お互いパーティメンバーに関して苦労が耐えないようだった。



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