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魔物の国の外交官  作者: TAM-TAM
第5章 魔物の国の転換点
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061話 決戦!邪皇眼(笑)の氷姫・1


「――《水球(ウォーター)》!」


 セレスティナが大きく振った杖の軌道上に、メロンぐらいの大きさの《水球(ウォーターボール)》が連続で生まれる。

 その数は20個近く。学生時代や王都に来た直後に比べても大きく増えていて、魔力と制御技術の成長度合いが伺える。彼女も日々進歩しているということだ。


 生み出された《水球(ウォーターボール)》は少しずつ軌道とタイミングを変えてアリアへと迫る。だが、彼女も慌てず防御魔術を展開。


「《防壁(シールド)》!」


 瞬間、雪の結晶を模したような魔術回路がアリアの周囲で光を帯びる。放射状に6本延びた魔力供給線を主軸に、そこから繊細かつバランス良く魔術素子を並べるという、美しくも実用的な構成だ。

 そして最小限の面積と持続時間の防壁を立て続けに生み出し、飛来する《水球(ウォーターボール)》を全て叩き落とした。


「綺麗な魔術回路ですね。流石“氷姫”といったところでしょうか」

「ありがと。(ウチ)に代々伝わる秘伝なのよ」


 今のセレスティナの攻撃は、相手がどう防ぐかでその実力をある程度類推する目的で放たれたものだ。

 身体を覆うような大きな《防壁(シールド)》1枚で防ぐのは楽ではあるが魔力の無駄が大きく複数を連続で受けることで破られる危険もある。

 回避する以外だと、アリアがやって見せたような一発ずつ個別に対処するのが魔力効率的に最適解で、並列処理に優れた女性脳との相性もあるが発動速度や複数同時展開する技術を見ても彼女がハイレベルな魔術師であるのは間違いない。


「さてと、じゃあお返しと行こうかしら」


 今度はアリアが、その手に持つ青水晶のような輝きを秘めた杖を振り上げ、反撃に転じる。


「埋め尽くせ、《白霧(ホワイトミスト)》!」


 霧を発生させる水系統の魔術だ。瞬時に闘技場を真っ白い霧が覆い、視界を妨げる。

 数歩先の様子もはっきりとは見えないぐらいぼやけ、強烈な真夏の日差しさえも薄ぼんやりと拡散されて、周囲の気温も一気に下がったように感じた。


「ふえっ!?」


 そんな中、攻撃の気配を感じて咄嗟に横に飛び退いたセレスティナの側を冷たい風が高速で通過する。アリアが放った《氷槍(アイスジャベリン)》だ。

 立て続けに2発、3発と氷の槍が飛来するが、視界が利かないにも関わらずセレスティナは鋭いステップで右に左に回避する。


「《突風(ブラストウィンド)》っ!」


 連続攻撃が途切れた一瞬の隙を突いて、風の魔術で霧を吹き飛ばすセレスティナ。

 荒れ狂う風の余波でいつものようにドレスが捲れそうになるが、今日はきちんと下を押さえているので太ももまでしか見えない。彼女も日々進歩しているということだ。


 尚、ドレスの下は高級感の溢れるガーターストッキングで、この勝負への意気込みが見て取れるが、それはさておく。


「まさか《防壁(シールド)》張らずに避けるとはね……」

「狙いが正確すぎましたので、攻撃の瞬間の魔力を察知すると同時に動けば当たらないという寸法です。《防壁(シールド)》を張らせたければ魔力をケチらず散弾にするべきでした」


 驚いた顔のアリアに、律儀に解説を行うセレスティナ。

 きっとアリアは何らかの方法で霧の中でも視界が利いたのだろう。それゆえ攻撃の軌道が正確すぎて却って避けやすくなった訳だ。弾幕シューティングゲームでお馴染みの『ちょん避け』とか『みょん避け』と呼ばれる手法である。


「では、次はこちらから行きますね――《雷撃(サンダー)》!」

「っと! 《氷壁(ウォールオブアイス)》っ!!」


 続いてセレスティナは黄金色の杖を地面にかつんと打ちつけ、得意技の《雷撃(サンダーボルト)》を発射する。杖の両端から同時に2発、片方は空中を一直線に飛来しもう片方は地面に沿って足下から襲う軌道だ。

 ただでさえ対処が困難な電撃の魔術が上下同時に2発。絶体絶命のアリアであったが彼女の対処も早かった。


 セレスティナが魔術を発射すると同時に、アリアの防御魔術が起動してセレスティナのすぐ前方に分厚い氷の壁が建造された。

 放った《雷撃(サンダーボルト)》は2発とも、青く透き通る氷に阻まれてそのまま地面へと流れて溶けるように役目を終える。


「――からの、《氷刺棘(アイススパイク)》っ!!」

「ふわっ!?」


 間髪入れずにアリアが攻撃魔術を解き放つ。本来は地中から魔力を通して垂直に突き上げる魔術であるが、魔力の流れを変えることでたった今作り上げた氷の壁から水平に氷の棘を撃ち出す。

 槍衾(やりぶすま)のような高密度の攻撃に、それでも咄嗟にセレスティナは転がるように横へと回避する。


「もう一丁、《氷刺棘(アイススパイク)》!」


 その回避先の地面に、アリアが更に《氷刺棘(アイススパイク)》を発動させる。今度は本来の垂直に撃ち上げる攻撃だ。


「っ! 《防壁(シールド)》っ!」


 対するセレスティナは足下に防壁を展開し、強引に踏み潰すように着地する。

 ぎゃりぎゃりと耳障りな破砕音が響き、地面と《防壁(シールド)》に挟まれて行き場を無くした氷の棘が粉々に砕け、辺りに散らばった。


「……ここまで攻めてやっと《防壁(シールド)》1枚って、割に合わないわね」

「私の方も、上下の《雷撃(サンダーボルト)》を初見で防がれたのは初めてです。お見事でした」

「話自体はリュークやアンジェから聞いてたから。発射してから防御は無理でも魔力の流れが見えれば前もって準備できるしね」


 そう言って楽しそうに笑いあう少女二人。セレスティナも大概だがアリアも負けず劣らず戦闘脳のようだ。

 そして一呼吸挟んで、セレスティナが攻撃態勢を取った。示し合わせたかのように交互に攻撃しているが、双方とも相手に全力を出させて更にそれを上回る力で勝ちたいという戦闘狂(バトルジャンキー)特有の強い拘りがあるのは間違いない。


「さて、次は派手なの行きましょうか。《火炎嵐(ファイアストーム)》っ!」


 上級魔術に恥じないオーバーアクションで杖を一振りすると、アリアの周囲が一瞬で炎に包まれる。その名の通り、逃げる時間も隙間も与えずに広範囲を激しい炎で埋め尽くす派手な魔術である。


 観戦していたアーサー王子も、その容赦の無い攻撃を見て思わず驚愕の声を上げで固まったが、リュークとアンジェリカは心配無用とばかりに落ち着いた様子で彼を手で制する。この程度でアリアは崩せないという信頼の表れだ。


 やがて、炎の勢いが弱まると、全方位を《防壁(シールド)》で護られたアリアが姿を見せた。広範囲魔術といえども遮蔽物を跳び越えて作用する訳ではないので防御魔術を打ち破らない限りはその奥に攻撃が届かないのだ。

 だが彼女の《防壁(シールド)》も激しい炎を受けてボロボロになっていて、炎が収まると同時に粉々に砕け散った。その様子は繊細な氷細工を床に叩きつけたかのようで、儚くも美しく陽光を反射しつつ空気に溶けていく。


 中から現れたアリアの身体には煤一つついておらず、アイスブルーの髪をかき上げつつ強気に微笑む。


「ふっ。如何に強力な魔術でも単発なら防ぎようはいくらでもあるわよ。あたしを倒したければもう一工夫けひゅっ――」


 その台詞の途中で鳩尾の辺りに衝撃が入った。派手に燃え上がる《火炎嵐(ファイアストーム)》を目くらましに使い、こっそり発動させた《突風(ブラストウィンド)》が時間差でアリアのお腹を直撃したのである。


「きゃんっ!?」


 怪我をしないよう威力は抑えてあるがアリアの小柄な身体を浮かせるには十分で、後ろへと弾かれた彼女は場外ラインを超えて背中からこてんと転がる。

 これでまずはセレスティナが1ポイント先取である。


「……くー、まさか上級の《火炎嵐(ファイアストーム)》を囮に使うとはね……」

「アリアさんなら防げると信じていましたから。……それにしても、アリアさんはミニスカートだと思ってましたがキュロットだったんですね」


 上半身を起こして悔しがるアリアを眺めつつ意表を突かれたようにセレスティナが呟いた。ぺたんと尻餅をついた格好の彼女が羽織るローブの合間から見える女学生めいたセーラー服の群青色のボトムは、一見ミニスカートのようで実は半ズボン状の構造になっており、意外とガードが固かった。

 ……ただ、裾がヒラヒラしたキュロットは油断すると隙間から見えることがあるので後でこっそり忠告してあげようと思うセレスティナであった。ちなみに今日は白とピンクの縞パンでなかなかにバリエーション豊富らしい。


「ミニスカで立ち回るのは恥ずかしいけど可愛い服も着たい……乙女心は複雑なのよ。ティナも分かるでしょ?」

「なんとなくは。パンチラを軽々しく見せると希少価値とか有り難みが無くなりますからね」

「それ、あたしが知ってる乙女心となんか違わない!?」


 ちょっとしたカルチャーギャップに戸惑いながらも立ち上がったアリアが場内へと戻る。

 尚その間、観戦席のクロエは猫耳を悲しそうにしおれさせつつ「アレは魔族女子の標準じゃないから一緒にしないでー」と言いたげに周囲に向けて目で訴えていた。


「……まあ、少しは(・・・)やるじゃないの。遂にあたしの邪皇眼が真の力を見せる時が来たようね……本当はお婆ちゃんからこの呪われた力は人前で使う事(まか)りならんって言われてるんだけど……」

「あ、はい。では遠慮なくどうぞ」


 金色の右目を押さえつつ重苦しく口上を述べるアリアに手で「どうぞどうぞ」と促すセレスティナ。

 どうやら彼女の、その、言い方に気を遣うなら設定に拘り抜く性格は家系らしい。


「行くわよ……ここからが本番っ!」


 その言葉と同時に、アリアの金色の右目が強い輝きを放った。それも、光を反射するのではなく、自身の魔力の高まりを受けて自ら発光する種類の輝きだ。

 同時に、彼女の体内を流れる魔力が一気に強化され、まるでオーラに包まれたかのように全身から立ち上る。


「――ええっ!?」


 思わず驚愕の声を上げるセレスティナだったが、驚いた理由はアリアが急激にパワーアップをして見せたから、ではなかった。

 彼女が良く知る“切り札”によく似ていたからだ。


「まさか……魔眼族(イビルアイ)の、魔眼解放ですか!?」



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