060話 深刻な女子力不足(足りない分は魔力で補う系女子)
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▼大陸暦1015年、炎獅子の月21日
国家の命運を左右する翌月開催の外交会談に向けて、いよいよテネブラとアルビオンが動き始めた。
それに伴い、セレスティナも連絡やら打ち合わせやらでテネブラへと帰国することが多くなり多忙な日々を送っているが、そんな中でも趣味と実益を兼ねた魔道具の研究や作成の手は緩めておらず、この日も一つの成果物を勇者パーティ相手にお披露目しているところだった。
「こちらが、先日のイストヨークでの件で約束しておりました、洗濯用の魔道具になります。どうぞお納め下さい」
「まあ、これが……随分と本格的ですのね。ありがたく頂戴いたしますわ」
迎賓館の中、勇者リューク達に用意されている部屋に車輪付きの台車で運ばれてきたそれを見て、目を丸くするアンジェリカ。
セレスティナの記憶にある家庭用の全自動洗濯機をイメージして作り上げた大きな箱型の物体で、洗浄は勿論の事、細かい破損も魔術で修復してしまう優れものである。
それから操作方法を説明して軽く動作確認を行い、アリアの魔力量で問題なく起動したのを見てアンジェリカがふと疑問を口にした。
「ところで、セレスティナ様は何故このような魔道具を作ろうとお考えになられたのですの? あ、いえ、私としては凄く助かりますが、金銭的にも割が合わないような気がしまして……」
アンジェリカの言うとおり、魔道具の作成にはどれも結構なコストがかかる。
安物の服であれば普通に人手で洗濯しつつ古くなったら買い換えた方が経済的だし、高価なドレスであればそもそも同じものを何度も着回すことを想定していない。貧乏性で女子力も貧乏なセレスティナは気にしないが社交の場では同じドレスを同じ相手に複数回見られるのは特に家柄や財力に拘る良家のご令嬢にとっては耐え難い恥辱と言える訳だ。
「良いところに気が付きましたね。それには、聞くも涙、語るも涙な悲劇がありまして…………実家で花嫁修業をさせられている時、洗濯するのが面倒でしたので労力低減の為に自動化しようとして作ったのですが……」
「……その後、若奥様にインチキがバレてお尻ぺしぺし叩かれたのよね」
「それはむしろ喜劇じゃない?」
クロエの暴露にアリアが無慈悲なコメントを入れてくる。それにセレスティナはぐぬぬ、と呻ると更に言い訳を重ねた。
「だって、レースの下着って手洗いするとやたら手間がかかって時間が勿体無いじゃないですか。それに、女子力は体力や魔力と同じで生まれつき多寡がある訳ですから足りない分は知恵と工夫で補うものだと思います。インチキなんかじゃありませんっ」
ちなみに部屋の片付けの際は空間魔術でクローゼットを拡張するタイプである。その時も当然発覚してきっちり制裁を受けた。
「つまり……女子力不足を魔力で補った結果がコレということか」
しみじみと結論を述べるリュークに、クロエが今更ながらフォローを入れる。
「で、でも、女として終わってるおかげでティナは昔から女子人気が高かったのもあるわ……女の友情って、割とそういうところあるし」
「あー、分かるわー。ティナって可愛いし場所取らないし便利だけど胸小さいし女子力も壊滅してるからライバルじゃなくて愛玩用の妹みたいに思えるのよねー」
時代を先取りした斬新過ぎる家族関係を口走るアリア。彼女の交友範囲で自分より胸の小さい女の子は貴重なので、絶対に逃がすまいという強い決意を眼光からも感じる。
「だな。俺から見てもティナは美少女の割に色気とか感じないから戦友枠なんだよなあ。一緒になって女子更衣室覗いたりとか女湯覗いたりとか」
「それで、最後にはアンジェリカさんにえっちなお仕置きを受けるのが様式美ということですね」
「な、何故そこで目を輝かせるんですの!? しませんわそんなはしたないっ!」
リュークとセレスティナの会話に、アンジェリカは顔を紅くして椅子ごと後ずさった。
貞潔な淑女にして愛の精霊神に仕える聖騎士である彼女はちょっとしたお仕置きレベルでも執れる手段が限られており、せいぜい殴る蹴る投げる極めるの範囲内だ。
そこへ、入れ替わりになるようにアリアがずずいと迫り来て、所有権を主張するようにセレスティナに抱きついてがくがく揺さぶる。
「じゃあ代わりにあたしがティナ貰ってえろいお仕置きしたいー! 前に言ってた実力テスト、みんな色々忙しくて延び延びになってたけどそろそろ戦おうよー! それであたしが勝てばティナを半裸にして1日陵じょ……ええと、可愛がりたいー!」
「あ、出発前に、言ってた、対戦の件、ですね。私も、そろそろと、思ってた、ところ、でしたので……明日とか、どうですか?」
「あれ……本当にするんですの……!?」
魔術師同士の戦闘の危険性にアンジェリカが驚いた声を上げるが、魔術師二人は闘る気満々で次々と詳細を詰めて行く。
「当然よ。ティナの着替え中に乱入した以上決闘になるのは避けられない定めだし……で、明日ね、あたしも問題無いわ!」
「では勝った方は何か一つ相手にお願いできるということで、私が勝ったらアリアさんに一つ新魔術の開発を手伝って欲しいのですが、構いませんか?」
「そんなので良ければ幾らでも」
「なんだ。ティナはエッチなお願いしないのか。ならパーティリーダーとして中立かつ公平な観点からも俺はアリアを応援するしかないな」
両者とも自分が負けるとは毛ほども思っていないようで、勝利者報酬も実にスムーズに決まってしまった。
▼大陸暦1015年、炎獅子の月22日
そして翌日。空は青く澄み渡り熱を帯びた空気が風に乗って駆け抜ける絶好の決闘日和だ。
場所は、王城の敷地内にある訓練場の一角をアーサー王子の権限で貸し切っている。《飛空》禁止フィールドの範囲内だったがセレスティナが「片方だけ空を飛べて空中から一方的に攻撃できるのもフェアじゃないですから」の一言で了承し、特に問題にならなかった。
決戦の舞台は、綺麗に整地された土の上に直径20メートル程の円形の線を描いた簡素なものだ。
石造りの床の上で戦うのも見栄えが良くて人気が高いが、実戦を考慮した訓練としてあえて足下に凸凹を残したままにしていることと、あとは魔術戦ということで地質変化系の魔術との相性も考慮した上で今回は剥き出しの土を採用した。
当事者のセレスティナとアリアの他は、クロエとリュークとアンジェリカとアーサー王子が見届け人として観戦している。フェリシティ姫やシャルロットも興味津々だったが今日は学園で夏休み中の課外活動へと駆り出されていた。二人共学年ではリーダー的存在なので容易くサボれないのだ。
魔術師同士の戦いだと流れ弾が危険な時があるが、リュークとアンジェリカが王子の前で待機しているので大抵の攻撃はシャットアウトされるだろう。
「ティナって、女子力がどん底の割に身体柔らかいのね」
母親譲りのしなやかな身体で、うにょーんぺたーんと柔軟体操をしていたセレスティナに、さも意外そうな口調でアリアが言った。
その言葉を受けてアンジェリカも色っぽい溜息を返す。
「そうなのですわ。セレスティナ様にはお仕置きで関節技を仕掛ける際も、へし折るつもりで通常の2割増しぐらい深く極めないと効果が見られませんので……私としても技量の向上に良い経験をさせて頂いてますわ」
「……ええと、ではルールの確認しますね。威力は問わず攻撃魔術を相手に当てるか場外に弾き出せば1ポイントで計3ポイント先取、その際は同じ属性の魔術がカウントされるのは1ポイント分のみ。または戦闘不能にするか降参すればその時点で決着。異議はないですか?」
「オッケーよ。実戦じゃあ一発勝負だから3ポイント先取云々も要らない気がするけど、それくらいはティナに合わせたげるわ」
アンジェリカの乙女な雰囲気に似合わない物騒な台詞はスルーして、勝利条件を改めて合意するセレスティナ達。
3ポイント先取で同属性が1ポイントのみというのは主にセレスティナが学生時代の模擬戦で定番だったルールで、つまりは回避がほぼ不可能な《雷撃》に対するバランス調整的な側面が大きい。
負ける気も油断する気も無いが、他国の魔術師の力を真正面から受ける貴重な機会だ。なるべく長く楽しんで自分の知識や技術や経験を増やしたいのは向上心のある魔術師として当然の気持ちだった。
そしてそう思っているのはアリアも同じのようで、余裕の表情で指をくいっと曲げて挑発する。
「先手は譲るわ。かもん」
「では、お言葉に甘えまして――」
対するセレスティナも不敵な笑顔で愛用の杖を構えた。一応リュークの方に視線を送り、律儀に開始の合図を待ってから初手を繰り出す。
かくて、最強の美少女魔術師を決める激闘が幕を開けた。




