表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物の国の外交官  作者: TAM-TAM
第4章 栄光の王国の勇者御一行
64/154

059話 快気祝い(呼ばれるとは限らない)

▼大陸暦1015年、炎獅子(第7)の月17日


「何ですって!? じゃあ、ティナ先生は功労者なのに謁見にもパーティにも呼ばれなかったの!?」


 憤慨した声と共に、シャルロットがテーブルを叩く。がしゃん、と白磁の高級そうな紅茶カップやお茶菓子を乗せた皿が跳ねた。


 あれから1週間が経ってようやく落ち着きを取り戻した王城の庭園、彼女達は涼しげな木陰で丸テーブルを囲み、優雅なティータイムを満喫しているところだ。

 余談であるが、セレスティナが以前池にダイビングを決めた想い出の中庭である。


 それはさておき、ここ数日は、フェリシティ姫が快癒した件でお祝いの訪問者が続いたり、リューク達が国王に謁見し直接お褒めの言葉を賜ったり、快気祝いの食事会やダンスパーティが開催されたりとイベントが目白押しで、ようやく一息ついたフェリシティがプライベートなお茶会を開催したのだった。

 極めて少人数を何回かに分けて招く方針のようで、記念すべき第1回目の参加者はピンクのふんわりしたドレスのフェリシティ姫と若草色の涼しげなドレスのセレスティナの他は、白い礼服姿のリュークといつもの純白法衣のアンジェリカと青いシャープなシルエットのドレスを着たアリアとそして黄色い正統派Aラインドレスのシャルロットの合計6人であった。


「まあ、国王陛下を含めて要人が大勢集まりますから防犯上しょうがないと思います」

「だからって! 魔族ってだけの理由でっ! ティナ先生はこんなにポンコツ可愛いのに!」

「かかか、可愛くなんかないですしポンコツでもありませんっ!」


 不名誉な称号を辞退するセレスティナに、シャルロットとアリアがそれはもうとても暖かい笑顔を向ける。

 その頃テーブルの向こう側では、先日の謁見の際にこれまでの功績の積み重ねを評価されてこの機会に男爵位を叙爵されたリュークを挟んで、左右に陣取ったフェリシティ姫とアンジェリカとが一見和やかにお茶しつつも水面下で火花を散らしており、まるで別世界のようだ。


「リュークもこれでようやく国や民を導く側の立場に来たのね。これからの勇者として、そして貴族としての活躍を思えば、正妻としてリュークの隣で支えるのは一国の姫ぐらいじゃないと格が釣り合わないと思わない?」

「愛に格とか立場だとか関係ありませんわ。それにリューク様を妻として支えるのでしたら背中を任せられる戦いの実力が無いと厳しいと思いますわよ」

「……ははは…………そういう重要な問題は、簡単に結論を出せないから、もうちょっと考える時間を……だな……」


 どう見ても地雷原で、猛者の筈のシャルロットやアリアでさえあからさまに視線を逸らしている。あの場に生身生足で踏み込むぐらいなら、高位魔族のえげつない魔術師であることを加味してもセレスティナをいじってる方がまだ安全と言えるのは自明の理だ。


「それにしても、ダンスパーティに参加できなかったのは女の子としてさぞ悔しいわよね。可哀相に」

「いえ別に……裏で有意義な話し合いもできましたし」


 華やかなダンスパーティの記憶を呼び覚ましたのか、シャルロットが頬に手を当ててうっとりした表情になる。聞けば先のダンスパーティでアーサー王子と一緒に踊れたとのことで、相当舞い上がっているようだ。

 外交会談優先でダンスパーティはどちらかというとコネを広げる手段の一つぐらいにしか思っていないセレスティナとの温度差が著しい。


「またまた~。うふふ、大事な友達を助けてくれたお礼も兼ねて、わたくしの卒業記念パーティを盛大に祝う際は代わりに呼んであげるわ。あ、それか婚約発表会が先になるかも!? きゃー!」


 歳相応の夢見る乙女の本性を曝け出し、悶えるシャルロット。しかし意外とお金に細かくて緊縮財政派の王子と商業国家出身で財政拡大にも抵抗感が無さそうな彼女の組み合わせを考えると、仮に結婚した場合は家庭内経済政策論争が勃発しそうな気もする。


「ええと、はい、楽しみに待ってますね……」

「あ、良いなー。公国(ルミエルージュ)のダンパは凄く豪華絢爛って噂で乙女の憧れなのに。ティナももっとチャンスを生かして出会いに貪欲にならないと、干からびて干物になっちゃうよ?」


 その話題に今度はアリアが食いつき、自然と各国のパーティの様子の話で盛り上がっていく女子一同。

 女子会特有の急激に乱高下するテンションに危うく脱落しそうになりつつも、何とかお茶会を無事に切り抜けたセレスティナはそれだけで疲労困憊することになったがそれもまあよくある話である。






▼その日の夕刻


 華やかでかしましいお茶会の後、セレスティナはそろそろ入り慣れてきた応接室へと足を運んだ。

 ここでのメンバーは彼女とクリストフ宰相の他は、アーサー王子と彼の護衛役のリュークにアンジェリカにアリアの比較的大所帯だ。最近はセレスティナと宰相の会談にアーサー王子が同席することが多く、そうなると必然的に勇者パーティが護衛として加わることになるからだ。

 信用が無い訳ではないだろうが、万が一を考えると防衛体制に手を抜けないということだろう。


「では、栄えある第1回の外交会談は、翌月にシルフィレークの街にて、で宜しいかな?」

「はい。魔国(こちら)からは、私とクロエさん以外だと護衛含めて3名での訪問になると思います。周囲を刺激しないようできるだけ少人数でとのことでしたので、絞れるだけ絞りました」


 アルビオン王国の最近の最優先課題であったフェリシティ姫の一件が解決し、ここ数日でセレスティナが強く求めていたテネブラとの外交会談に向けての動きが一気に加速していた。

 あれから連日のように移動を繰り返してクリストフ宰相とサツキ外務省長との間でメッセージを運搬していたセレスティナであるが、疲れを笑顔の下に隠して事態の進展を喜んでいる。


 宰相の言葉にあったシルフィレークの街とは、王都とイストヨークの中間距離ぐらいにある高原の街で、美しい湖の(ほとり)にある風光明媚な避暑地である。

 元々ここで翌月の中旬に、人間族(ヒューマン)の3国の外交官が集い国際的な会議が開かれることになっていたので、それに便乗してこの会談の予定も入れてしまおうという訳だ。


 勿論本命の外交官会議の場にはセレスティナは呼ばれていないので恐らく参加は難しく、その会議開催の数日前、つまりシュバルツシルト帝国やルミエルージュ公国からの使節が到着する前に対外的には秘密裏に二国間での話し合いの場を持つという流れになる。


 いずれは、対等な立場で大陸4国の外交会議が開催されるようになるだろうか。

 その頃には、自分も諸外国から一目置かれる敏腕巨乳外交官になっているだろうか。

 まあ夢を見るのは自由である。


「未来への夢や希望が広がりますが、まずは目の前の山を越えないと始まりませんね……こちら、魔国テネブラの要望書をお渡しいたします」

「うむ。こちらもアルビオン王国の要望書をお渡ししよう」

「はい。近日中に本国にお届けします」


 そして会談に先立ち、お互いの要望を纏めた書類を交換する。何も予備情報が無い段階で交渉の場を設けてもまず纏まる事はないので、こうやって事前に双方の要求を伝え、落とし所を国内で協議してから実際の会談に向かう為である。

 テネブラ側の要求は勿論、略取した人的そして物的資産の返還とそれに付随した巨額の賠償金。

 対するアルビオン王国側の要求は、主に各地の魔獣被害の補償と、先の戦争の爪痕となっている“滅びの砂漠”に封印された魔獣兵器の後処理だ。

 その他に双方とも輸出入の希望品目や細々とした雑事等があるがここでは省く。


 どちらの要求も丸呑みはほぼ不可能な難題であり、どこまで妥協するのか、交換条件でどういった追加要求を出すのか、時に大胆に、時に繊細な舵取りがこれから求められる。


「余としては正直なところ、さっさと国交結んで友好国扱いにすることでどこぞの非常識な外交官が非常識の限りを尽くさないよう我が国の法の影響下に置くのが一番の国益だと思うのだがな……イストヨークで銀貨1枚の依頼で犯罪組織丸ごと潰したと聞いた時にはマジふざけんなと思ったものだぞ」

「酷い言いがかりですっ!」


 アーサー王子の沈痛な様子でのコメントに心外と言うような声を上げるセレスティナ。本人としては法と常識の範囲内でちょっとだけ裏技に頼ったぐらいの意識である。ゲーマーの中では裏技やバグ技はセーフ判定だ。

 それにイストヨークの件ではリューク達勇者パーティもある意味共犯者だ。そう思って助けを求めるように彼らの方を見ると……


「リュークとどっちがマシだろうね?」

「いくら俺でもあそこまで酷くないだろう」

「リューク様との同行で慣れたつもりでしたけれど……いえ、やっぱり黙っておきますわ」


 みんな薄情だった。


「……今からでも要望書に書き加えておくか。貴国の外交官に常識をしっかり教え込んで頂きたいと……」

「うぐっ……そ、それでも、外交官は相手国に歓迎されて歓待されるようになると却って危ないと言いますし、だとすると今の路線が正解ということですね……」


 王子のちくりとした牽制に平静を装って負け惜しみを返すセレスティナ。彼の気さくな性格も大きいのだろうが、思えば随分フレンドリーに会話できるようになったものである。


 それはともかく、遂にセレスティナが待ち焦がれた本当の意味での外交会談への道筋が整ったのだ。

 何としてでも会談を成功させ、これからの魔国の未来に、ひいては大陸全体の安定に寄与しなければならない。思いを新たに次なる試練へと臨むセレスティナであった。






 第4章 栄光の王国の勇者御一行 ―終―



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ