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魔物の国の外交官  作者: TAM-TAM
第3章 白亜の国の遠征部隊
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【番外編】魔物娘アンソロジー・5(歌姫の一日)

※番外編ということで、時間軸が少し戻って3章序盤の頃の裏側での話となっております。

 本編への影響はありませんので読まなくても4章以降で不備が生じるようなことはないつもりです。


 今回、ちょっとパロディに走っている部分もあります。判らない方、合わない方には申し訳ございません。


▼大陸暦1015年、堅蟹(第6)の月中旬・朝


 歌鳥族(セイレーン)のジレーネの朝は早い。本能に従って日の出と同時に目を覚ます。


「よし! 今日も良い朝だ空気が美味しいっ!」


 朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、真っ白い下穿き(ショーツ)一丁の軽装で日課の体操を始める。

 彼女の場合は背中の翼が天然の羽毛布団になるので、この格好で抱き枕にしがみついてうつ伏せになって寝るのが常態なのだ。

 見せる相手も居ないので特に気にしないがそれはそれで寂しかったりする微妙なお年頃。


 それはそれとして、朝は有り余るほどに時間があるので彼女はゆったりと水浴びをしたり昼食のお弁当を作ったり部屋を軽く掃除したりと何気に女子力の高い時を過ごすのだった。




▼午前中


「おっはー! 外務省航空便だよー!」


 ばさりと純白の翼をはためかせ石畳に降り立ったジレーネは、軍務省の受付に向けて無駄に綺麗な声で呼びかけた。

 いつもの白いワンピースに、空を飛んで移動しようとすると必須な黒いスパッツ姿で、総合すると清楚な中に快活な魅力のある装いだ。


「ああ、ジレーネさんか。最近は届け物が多いね」

外務省(ウチ)の優秀な外交官が次々と成果を挙げてきてくれるからね! ボクも負けてられないよ!」


 受付に佇むまだ若く頼りない羊の耳と角を生やした士官に茶色の封筒を手渡すジレーネ。


「じゃあコレ、来週以降の分の資料室入場許可申請だから宜しく!」

「うん、確かに届けておくよ」


 穏やかな笑顔で受け取った茶封筒を掲げる青年士官に、ジレーネは「それと……」と少し声を落とした。


「今夜の合コンも、宜しくね」

「えぇと、その、お手柔らかにお願い」

「一応釈明しておくと、ボクだってそれほど男に飢えてるって訳じゃないんだけど! ほら、外務省(ウチ)って本当に怠け系女子が多いから! こういったイベントで釣らないとなかなか仕事してくれないし!」


 誰に対する釈明なのか、自分も草食系だよとさりげなくアピールする。

 一応名目としては、以前にセレスティナから要望が挙がっていた『拉致被害者の名簿作成』に向けて外務省から軍務省の資料室への入室許可を求めているのだが、その作業者5名の人となりを判断する為に今夜両省の担当者で集まって親睦会(・・・)を開こうという話なのだ。


 元々、男性比率の極めて高い軍務省に女子ばっかりの外務省という構造的な特性からこのような親睦会の需要は非常に高く、どちらの省も参加希望者が殺到するのである。

 そのような状況でジレーネは省庁間の連絡役という立場をフルに活用して合コンの仕掛け人をしつつ、外務省内では「お仕事手伝ってくれた人から合コン参加優先枠をあげる!」と職権濫用のようなやり方で仕事を割り振っているということだ。


「そう言えば、外務省の子からよく聞かれるんだけど! 外務省の子からよく聞かれるんだけど! 噂の公爵家跡取りのヴァン君は合コンに参加しないのかな!? しないのかな!?」


 二回繰り返すことで、人に聞かれたから渋々と言った(てい)で尋ねる。


「うーん、ヴァンガードさんは前に誰かが誘った時もそういうのにあんまり興味ないみたいな反応だったらしいから……」

「残念! 彼を射止められれば将来間違いなく勝ち組なのにね! やっぱり公爵家長男だと合コンなんかに頼らなくてもよりどりみどりで選び放題なんだろうね!」

「でもまあ彼も、自分は長男なんかに生まれたくなかったって零してたこともあったらしいから重圧とか色々あるんだと思うよ」


 しみじみと語る羊獣人の士官。こと恋愛の自由度という一点では彼やジレーネのような庶民の方が有利な立場であり、身軽で気楽なものだ。


「ま、悩みは人それぞれ立場それぞれだもんね! じゃ、ボクはこれで! あ、人手が欲しい時はすぐ伝えてね! お茶汲みとか書類仕事ぐらいなら手伝える子も多いから! それじゃ!」


 数ヶ月前までは外交関係の仕事がほぼゼロに近い程無く、少し仕事が出来た今でも全体的に暇な外務省職員の“主要業務”は他の省庁の手伝いだったりする。特に軍務省の手伝いは婚活の場として職員人気も高いのだ。

 そう言い残すとジレーネはその綺麗な翼を広げると空へと飛び立ち、次の場所を目指す。午前中に内務省と財務省にも向かわなければならず意外と忙しいのであった。




▼昼下がり


 あれから各省を回って各担当者に連絡事項を伝えたり、外務省に戻ってサツキ省長に連絡事項を伝えたり、忙しく行き来したジレーネは午後の少し落ち着いた時間に会議室へと向かった。

 黒板を前に真面目な面持ちのジレーネが、同じく真剣な表情でテーブルを囲む4人の女子と見つめ合い、大きく頷くと、今回の会議のテーマについて説明を始める。


「合コンの要諦(ようてい)はフォーメーション! よって我々は魔国式十字(テネブラルクルクス)という陣形で戦う!」


 ……仕事の話じゃないのかとかの突っ込みは野暮であろう。彼女達にとっては人生で仕事なんかよりも重要な局面なのだ。

 ジレーネは黒板に手早く十字型の陣形を展開させながら配置を次々と決めていく。


「まず下ネタに対する防御力の高いアマリアが前衛に立って話題の取捨選択を行うこと! 刺激の強い話題は身体を張ってブロックしてね!」

「了解よぉ」


 綺麗な金髪に露出度の高い衣装を着込んだ淫夢族(サキュバス)のお姉さんのアマリエが妖艶な声で返した。

 種族柄学生の頃からモテてはいるのだが、いかにも遊び慣れていそうな外見が災いしてなかなか家庭に入れないのが悩みの種なのだ。

 こう見えて実は本人は純愛志向であるが、夫婦の愛があればかなりハードなプレイでも大丈夫という柔軟な一面も持つ。

 踏んだ場数も多く、合コンで前衛を任せるには最適な人選であろう。


「両脇は機動力に長けたラァナと知識の豊富なウェネフィカで固める! タイミングを見て話題を投入して場のイニシアチブを握り続けるんだ!」

「おっけー」

「心得たわ」


 軽い調子で返事をしたのは兎の獣人のラァナ。彼女は外務省の中でも最近勤労意欲が高い一人で、「妹が人間の国に攫われてるからあたしが少しでも帰国のサポートになれば」と今まで手付かずだった様々な資料の纏めを手伝ってくれている。

 これから本格化する拉致被害者リスト作成の難事業には絶対に必要な人材なので、この機会に息抜きを兼ねてと合コンに誘ったのだった。


 もう一人名前を呼ばれたのはダークエルフの魔術師のウェネフィカで、根が真面目な彼女はこれまで魔術の研鑽や外務省の資料から歴史や風土の研究を重ねていた。

 だが気が付くと彼氏居ない暦がそろそろ3桁の大台に乗りつつあり、少し危機感が出てきたようだ。


「初陣のムースはボクの後ろに居て貰おうか! 後衛が一番安全なポジションだから心配しなくて良いよ!」

「は、はい……」


 ムースは昨年入省したハムスターの耳をした小柄な獣人で、引っ込み思案なお嬢さんだがこのままだと出会いが無いと友人達に脅されて背中を押され、今日この場に来ている。

 特に今日みたいなベテラン揃いのメンバーの中だと周囲のフォローもあるので、OJT(業務内訓練)には最適の布陣であろう。


「この最強のメンバーが最適の陣形で望めば、勝てない戦いなど決して無い! 今夜こそ、良い男をお持ち帰りするぞ!」

「「「おー!」」」


 最後にジレーネが拳を高く突き出して檄を飛ばし、他の肉食系女子3人も力強く唱和した。




▼夜


「……うあー……またやっちゃったよ……」


 その日の夜、へなへなとした足取りで自室に返って来たジレーネは沈んだ調子で呟いた。


「途中までは、良い感じだったのになー」


 お酒が入るとつい歌ってしまう。悪癖だとは自分でも思っているがお酒の勢いにはどうしても勝てないのだ。


 彼女の名誉の為に補足すると決して歌が下手な訳ではなく、むしろその逆。ジレーネがそのオペラ歌手も顔負けの美声と音域と声量をフルに活用して歌ったのは、一族に伝わる悲しい恋の歌だった。

 その結果、男性陣はドン引きしたり女性陣には空気を読めと怒られたり酒場の主人や他の客まで感極まって貰い泣きしたりして大惨事になってしまった。


 それで最終的に、店から追い出されたのであった。ちなみに彼女を叩き出したのは意外なことにハムスター獣人のムースで、呑むと虎になるタイプの子のようだった。新発見である。


「お母さんも、もっと明るくて楽しい歌を教えてくれれば良かったのに」


 愚痴りつつ、今日の戦装束の淡いピンク色をしたカクテルドレスやその下のスパッツ等を脱ぎ散らかし、片付けもせずにベッドにぽふっとダイブした。

 彼女達は朝が早い分、夜も日が沈むとすぐ眠くなる体質なのだ。


「はー、ボクって女子力低いのかなー、ティナよりはマシだと思うんだけどなー」


 男受けのする酔い方を今度、人生と婚活の先輩のサツキ省長に聞いてみよう。そう考えつつ、ジレーネの意識は夢の中へと落ちていった。



活動報告にこれまで寄せられました「Q&A集3」を纏めました。

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/590758/blogkey/1504376/


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