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魔物の国の外交官  作者: TAM-TAM
第9章 南の公国の革命勢力
147/154

135話 それぞれの仕事風景(冒険したり接待されたり婚約したり)

▼大陸暦1016年、走牛(第4)の月14日


 石造りの街並みが紅く染まる、夕暮れ時の公都サンクエトワール。


 沈みゆく夕日をバックに、セレスティナの操る《飛空(フライト)》の掛けられた絨毯が、大量の戦利品を積載して冒険者組合の裏庭へと着陸した。


「戻りました。納品物のご確認と査定を宜しくお願いします」

「畏まりました。直ちに取り掛かります」


 ここ一週間ですっかり顔馴染みになった組合の裏方業務担当に帰還報告をするセレスティナ。そのまま彼女とクロエは足の速い素材の解体の手伝いを申し出る。

 その間、素材の扱いにはあまり明るくないコゼットがパーティ代表として表の依頼カウンターへと回り、達成報告を行うことになる。ここ数日間で自然と決まった彼女達の役割分担だ。


「ではこれで……“底無しの森”を荒らす狼の駆除にロックボアの討伐と毛皮納品、大怪鳥ガルーダ退治、それから薬の材料になるブランタンネージュの花の採取を達成……と。毎度の事ですが1日でよくこれだけ集められますね」


 素材部門から納品確認の一報を貰った受付嬢が、半ば呆れたような声音で依頼の完了を告げる。

 それを受けたコゼットも、自分はまだ常識人側のつもりでいるような顔でしみじみ同意した。


「そうよね。やっぱり空飛べるのは卑怯だわ。歩きだと一泊とか二泊になるような場所を一日で何箇所も回るんだもん」

「野営の有り無しは準備する予算とか荷物量とか体力とかにも大きく影響してきますからねえ……」

「しかも、ティナは魔獣や薬草に詳しくて狩り方なんかも的確だし。色々おかしいわ」

「コゼットさんパーティの持ち帰った納品物は状態が良いと素材部門にも好評ですから。魔獣狩猟権が制定されて以来、討伐や遠方の採集のお仕事が不人気になっていましたので、一気に消化して頂けるのは組合としても大変ありがたいことです」


 そう言って花の咲くような笑顔になる受付嬢。

 最近は需要と供給の調整の結果、討伐系の依頼料の相場が上がっており、その中でも生息地や難易度の問題で後回しにされていた“不人気依頼”がもう一段階増額したタイミングでセレスティナ達が纏めて片付けたことになるので、報酬を山分けした結果コゼットの取り分も相当な金額になっている。


 このことを語る上で欠かせないのはセレスティナの持つ魔獣狩猟免状だ。ジェラール大公爵の署名入りの特別な許可証で、公都周辺とルージュ領内における全ての魔獣に対し有効になっており、これは勇者クロヴィスを含めた政府や領主のお抱えと同等の待遇だ。

 これにより例えば依頼に向かった際に偶然他の魔獣に出くわしてもついでに狩ることで討伐報酬や素材代金を稼ぐことができるようになる。

 今日の戦利品の中にもそのような依頼外の魔獣が多数混じっており、それらも合わせるとここ数日のコゼットの稼ぎがそれ以前にソロで頑張ってきた数ヶ月の稼ぎに匹敵する勢いになり、嬉しくも悲しい微妙な乙女心と言ったところだろうか。


 ついでに記しておくと、溜まった報酬を使って先日にコゼットは冒険者ランクを“赤銅”へと昇格させた。更に上を目指して3人揃って“白銀”まで上げるかどうかは現状相談中だ。


「……恵まれてるのは確かなのよね」


 これが公国で標準的なスタイルの冒険者であれば、魔獣討伐依頼を受ける際には対象の魔獣の狩猟権を1週間分程契約し、保存食や消耗品なんかを背嚢(バックパック)に詰め込んで徒歩や馬で出かけることになる為、狙った獲物を仕留められなければそれだけで赤字が出てしまう。

 戦闘だけでなく探索や追跡にも自信が無いとなかなかその手の依頼を受けられないのが今の公国の冒険者事情だ。


 反面、セレスティナとクロエを加えたコゼットのパーティはこれらの問題がほぼ全て解決してしまう。

 移動や野営にしても狩猟免状にしても前述の通りに経費や手間が極めて少なく、探索と追跡もクロエの野生の感覚で狙った獲物はこれまで全て追い詰めている。

 戦闘の際はコゼットがメインアタッカーを任されているが、後衛からのフォローも万全なのできっと花を持たせてくれているのだろう。

 その結果、短期間で様々な種類の魔獣との戦闘を経験し、コゼット自身もまた強くなったのは間違いない。


「なんか、このままだとソロに戻れなくなりそうだわ……はっ、こうやって少しずつ依存させていくのが新手の外交戦略!?」

「ナイトクラブ通いから抜け出せなくなった同僚も似たような事を言ってましたが、まずは意志力を鍛えて流されない強さを得るのが良いかと思います……」

「うぐぐ……」


 そのようにあちこち脱線しつつ雑談を続けていると、やがて素材の引渡しを終えたセレスティナ達が依頼料を持って合流してきた。


「お待たせしました。こちらがコゼットさんの取り分です」

「っと、うん、ありがとう……今日も重いわね」


 金貨と銀貨が入り混じった皮袋を受け取って、まだ慣れない重みについ身構えてしまうコゼット。使い道は後で考えるとして大事に懐に仕舞うと、受付嬢が真面目な顔で話しかけてきた。


「あ、全員揃った所で伝達です。実はコゼットさん宛てに指名の依頼が入っておりまして、詳細はちょっと別室で説明しますのでお時間に問題が無ければご足労お願いできますか?」


 その言葉に3人とも了承の意を示し、それから案内された応接室へと移動する。

 そこで待っていたのは、先日の冒険者登録の際にも出会った小太りの中年職員――ここ公都第一支部の副会長だった。


「ようこそお越し下さいましたぞ。最近の活躍は聞いておりますぞ」

「いえ、それ程でも……やはり魔国(テネブラ)からは遠いだけあって希少で厄介な魔獣も居ないですから残ね……ええと、大きな波乱もなくお仕事を終えることができました」

「……そんな感想が出てくるティナの方が残念なのよ。絶対おかしいわ」

「……諦めなさい。ティナは魔国内(くに)の級友から見ても残念な生き物扱いだったから……」

「……もはや“残念な女”ですらないのね……納得だけど」


 クロエまでしれっとコゼット側に立って同意してくるのに釈然としないものを感じつつ、セレスティナはテーブルに並べられたお茶を手にして本題を促す。


「別にそこまで残念ではないですが……それはそれとして、指名依頼があるとお伺いしましたけれど」


 彼女の言葉に一つ頷くと、中年職員は1枚の依頼書をコゼットの前へと提示した。


「うむ。ルージュ家から赤銅冒険者コゼット殿への指名依頼ですぞ。内容は来週20日に開催される、ルージュ家令嬢シャルロットお嬢様の卒業記念パーティにおける館内警護。依頼料は衣装にかかる必要経費も含めて金貨3枚になっておりますぞ」

「金貨3枚!? 受けたい! 絶対受けたい! ……あ、でも指名されてるのってコゼットだけ? ティナとクロエはまさか留守番なの?」


 貴族家直々の依頼だけあって破格の報酬に即答を返すコゼットだったが、依頼対象が自分一人なのに気付いて慌てて周囲を見渡す。


「あ、私とクロエさんは普通にお客として招待されていますから、心配せずにどうぞ受けられて下さい」

「ほんと!? じゃあ受けますっ!」


 ひゃっほーい! と浮かれながら早速依頼受諾の署名を入れるコゼットを横目に、中年職員に確認を投げかけるセレスティナ。


「この話は、戦力だけでなく政治的な思惑もありますよね? コゼットさんをパーティの空気に慣れさせつつルージュ家の“紐付き”であることを他家にも知らしめるみたいな……」

「その通りですぞ。なので依頼料に衣装代も含まれているのですぞ」

「え? ならお洒落して行けってこと? うわ~どうしよう~、お姫様みたいなドレス、コゼットに似合うかなあ?」


 夢見る乙女の顔になってにへら、と笑うコゼットに、残念ながら貴族のようなドレスは金貨3枚では無理という事実を突きつけるのも忍びないと思い、周囲の大人達はとりあえず業者に投げることにした。


「え、ええと、でしたら明日は私の方もジャンヌ外交官と会談が入って冒険には出られませんので、オフにして服屋に行かれてはどうですか?」

「そ、そうですぞ。予算とドレスコードさえ伝えておけばその道のプロばかりですからきっと最適な物を仕立ててくれますぞ」

「ええ? ティナは一緒に来てくれないの? いくら残念でも一応貴族令嬢だから期待してたのに~」

「わ、私はほら、公国独自の流行とか文化とかに疎いですから、やはり信頼と実績のある現地の専門家にお任せした方が確実ですし」


 目を逸らしつつ、やや見栄を張りながらも苦手なファッション談義から逃げ出すセレスティナ。

 その後協議の結果、冒険者組合が紹介状を書いて、更にはこの手の冒険者への依頼に応じたドレスコードに詳しい受付嬢を一人随伴して、翌日にコゼットをいつもよりランクの高い仕立て屋へと送り出すこととなった。






▼大陸暦1016年、走牛(第4)の月15日


 翌日、夜の(とばり)が下りた公都の煌びやかな街並みを、ルージュ家の家紋を掲げた馬車が軽やかに進む。


「んー、それにしてもティナ先生って意外と手強いわね。賄賂にも接待にも釣られないなんて、わたくしの知る限りじゃあティナ先生とアルビオンのクリストフ宰相ぐらいじゃないかしら……?」

「うむぅ……なんか申し訳ありません。貴重な予算を乱費させてしまいまして……」


 この日、ジャンヌ外交官との会談でルミエルージュ公国との関係改善に向けて一定の成果が得られ、その記念と打ち上げも兼ねてシャルロットの主催でナイトクラブ巡りを決行した、その帰りである。

 馬車の中には、申し訳なさそうにしているセレスティナといつも通りつんと澄ましたクロエ、そんな彼女達を抜け目無く観察するシャルロットと今回の“お零れ”に預かって幸せそうにピンク色のオーラを立ち上らせる侍女のエマの4人が乗っていた。

 同行したジャンヌ外交官とは店先で別れたが、恐らくエマと同じような様子で余韻に浸っていることだろう。


 だが、結果は見ての通り。“シュヴァーリエ”の美青年騎士達による愛の囁きも“セバスティアン”の美少年執事達によるあどけない誘惑も、プロ根性こそ感じはしたもののセレスティナの心の琴線を弾いて音を奏でるには至らなかった。


「あー、その辺は気にしなくて良いわ。ジャンヌには貸しを作れたし、エマにも留学期間中色々支えてくれたお礼になったと思うし」

「そ、そんな……勿体無いお言葉です、お嬢様……」


 美しい主従愛だがあまり感動できないのはナイトクラブに対する偏見だろうか。セレスティナがそう考えていると今度はシャルロットがクロエにも話題を振ってくる。


「ティナ先生はまあ置いといて、クロエは誰かピンと来る相手は居なかったの?」

「あたしは、女みたいな顔したヒョロい男には興味ないから」

「クロエさんは渋いおじさんが好みなんですよ」

「それじゃあ、次はその手のバーにでも行ってみる?」


 豊富な資金力に物を言わせて次弾装填するシャルロットに、セレスティナは「その手のバーは女子会のノリで突入するには不適切では……」と曖昧な笑みで断りを入れた。


「それより、そろそろ私も公国の要人相手に接待する側に回りたいのですが、公都にはノーブラノーパンキャバクラみたいな浪漫溢れる素敵なお店とかありませんか?」

「ある訳ないでしょそんなの! そんな娼館みたいなお店を中央区に建てたら風営法に引っかかるわよ!」

「そこまで過激な制服にしなくても、“このお店で働くお姉さん達は皆ノーブラノーパンです”って注意書きを加えるだけで後は普通にしてくれたら男の人はそれだけで底知れぬ浪漫を感じるものなんですよ」

「……男ってバカよね……ティナ先生も大概だけど……」


 シャルロットが頭痛を堪えるような声を搾り出し、隣のクロエも似たような表情で大きく頷く。


「来週の卒業パーティが終わって一段落ついたら、大公爵閣下に企画書でも提出しましょうか」

「やめて」


 万が一企画が通過してしまう悪夢にシャルロットが頭を抱えだしたが、これ以上この話を続けられる前に強引に議題を変えることにした。


「……そう言えばティナ先生、今日の会談でジャンヌと合意してた件は先生一人の裁量で何とかなるものなの?」

「はい。瓶を安く仕上げた業務用“聖杯(ホーリーグレイル)”は多めに用意しておりますし、製法提供者の権利を行使すればある程度優先的に回して貰えることにもなっていますから補充も抜かりないです」


 公国との交渉の経緯をここに要約すると、国交を切り拓くまでに問題が2点あるのが現状だ。

 公国側が自由すぎる程の自由貿易を求めている事と、捕らわれた魔族の返還に当たって貴族や商家の協力を取り付けるのに難渋しそうな事である。

 これらの問題はセレスティナ一人では手に余る為、一旦テネブラへと持ち帰ることとなり交渉は一時保留になった。


 その間の繋ぎとして、今日の会談で決まったのが、公国側から以後テネブラ領に不法に立ち入りテネブラ国民や魔獣を密猟したり資源を盗掘したりすることを禁止する布告を発令して貰うことだった。

 これは公国内で魔獣が狩れないからと冒険者達がこぞって魔国(テネブラ)に流れてくるのを食い止めるのが主観に置かれている。

 見返りとして、セレスティナ側が新型万能薬“聖杯(ホーリーグレイル)”を、国のトップたる5家の大公爵家にそれぞれ3本ずつ献上するという大盤振る舞いを申し出ることで双方の合意に至ったのだ。


「それに、実は水薬(ポーション)は意外と劣化が早いですので、そろそろ大口の取引を入れて回転率を上げておきたかった所もありまして……」

「万能薬なのにさほど万能じゃないのね」

「まだ流通し始めたばかりの薬ですから、ようやく資材部が改良研究に着手した段階です。これから安価に量産できたり長期保存できたりと技術革新が進み始める筈です」


 更に言うならば、“聖杯(ホーリーグレイル)”の研究により新たに発見された素材や技術が従来品の傷薬や毒消しにも良い影響を及ぼす見込みもあり、ここ最近は資材部のポーション班の士気や熱意も大きく上がっていると、同級生のマーリンが言っていた。

 経緯を考えると棚ボタで手に入れたにも等しい“聖杯(ホーリーグレイル)”だけに頼らず、テネブラ独自の特産品をもう一つ二つ増やせないか。今度帰省した時に一度そのことをマーリンに相談してみよう、と心のスケジュール帳に予定を書き込むセレスティナだった。






▼大陸暦1016年、走牛(第4)の月18日


 シャルロットの卒業記念パーティを2日後に控えたこの日、シャルロットもコゼットもパーティ準備に忙しくしている中で暇を持て余していたセレスティナ達は、その卒業パーティにアルビオン王国からはるばる招待されたアリアと会っていた。

 時刻は丁度お昼時、女子グループや若いカップルの多いお洒落なパスタ店で食事を取りつつ、久しぶりに会う従姉妹の話を聞く。


「……という訳で、ティナに貰った“天空を泳ぎし海竜の光翼”で王都から僅か二泊三日だったのよ。公国(こっち)は初めて来るから迷わないように川沿いに進んで遠回りしたから、帰りは一泊二日でいけるわね」

「ええと、大海蛇(シーサーペント)の素材を使った舟のことですね。巧く使いこなせてるようで何よりです」

「街道沿いじゃなくて川沿いなのがアリアらしいわね」


 相変わらず独特な彼女のネーミングセンスに苦笑しつつセレスティナとクロエが相槌を打つ。


 尚、正式に招待されたのはアーサー王子のみであって、アリアを含むリューク達勇者パーティ3人は王子の護衛という立場だ。

 数日前に公都に到着したアーサー王子一行は公都のアルビオン大使館に宿泊しており、アーサー王子は勿論、勇者リュークや聖女アンジェリカにも面会や接待の誘いが数多く寄せられており比較的フリーなアリアがこうやってセレスティナに会い情報交換に動いているという状況なのである。


「あー、面会が無いのは気楽だけど一人だけ遊んでるようで気が引けるのよねー。あたしもそろそろ宮廷魔術師の道に進んで賢者の称号でも取ってこようかしら」


 この店お勧めのシーフードパスタをくるくると巻きつつ、気楽な調子でアリアが言う。


「アリアさんなら魔術の実力的には十分だとは思いますが、宮廷魔術師って王侯貴族の相談役のような側面も担ってると聞きますしそちら方面の試験対策は十分ですか?」

「ふふふ、このあたしの邪皇眼が真の姿を見せるその時には遥か深淵に眠る古代の知識が現世へと迸るのよ……使う毎にあたしの正気が失われていくからそんなに多用はできないけどね」

「……いや、魔眼にはそういうSAN値がピンチになるような設定ありませんから……」

「つまり、既存の賢者なんて安っぽい称号じゃあこのあたしを現しきれないのよね。賢者を超えし者、そう、超賢者とでも名乗らなきゃ」

「ちょーけんじゃ」


 なぜだかあんまり賢くなさそうで、一瞬リアクションに窮して食事の手が止まる。


「…………ま、まあ、アリアさんがそれで満足なら良いんじゃないでしょうか…………」


 所詮他国事情なので目を逸らしてぶん投げることにした。隣でも同じようにクロエが目を逸らしてベーコン増量カルボナーラを黙々と食しているので魔国(テネブラ)組にあまり感性の違いはない模様だ。


「ん、まあ良いケド。それで、昨日辺りにアーサー王子様が大宮殿に向かったらしいけど、ティナは何か詳しい話は聞いてない? 婚約の行方とか」

「その件は公都中で注目の的なってるみたいですね。ちょっとお耳をこちらへ……」


 シャルロットの縁談の話は、彼女の留学期間も含め公国側が数年がかりで進めてきた一大プロジェクトであり、当然それに対するアーサー王子の返答も一体どう転ぶのか皆が噂している。

 だからこそ声を落として慎重に言葉を選び、アリアに伝えることにする。


「……公式発表は明後日のパーティの時にとの話なので私達も詳しい結果は聞いていませんが、今朝シャルロットさんは嬉しそうに部屋でくるくる踊ってましたから、良い方向で纏まってるのは間違いないかと」

「……なるほどね。大体分かったわ。ありがと」


 その報告を聞き、アリアは安心したような柔らかい笑顔になった。彼女なりに、王子に淡い恋心を抱いていたシャルロットのことを気にかけていたのだろう。


 それからは肩の荷が下りた気楽な空気に変わった中、3人で他愛のない雑談に興じる。

 そしてデザートに出てきた旬の果物がぎっしり詰まったタルトに舌鼓を打ち、両者がそれをお土産に包んで貰い席を立ち店を出たところで、アリアが眉根を寄せて少し難しい顔になった。


「ところで、なんか嵐の匂いがするのよね……一波乱ありそうだから、ティナも注意しといて」

「……たまには何事も無く平穏無事に終わるだけのイベントがあっても良いのにと思うのは贅沢なのでしょうか……」


 そう呟いて雲の厚い空を見上げる彼女に、空も風もアリアもクロエも何も答えることはなかった。



次回は11月7日頃(努力目標)に投稿予定です。


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