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第十四話:驚きの結末

 アダムを無理やり日本語にして『安田やすだゆめ』とは、なんとも安易だと、我が母上の口から聞いたときには思ったのだった。

「アダムって、なんだか男の人みたいで可愛くないでしょ? だから、ちょっと考えてみたの」

 我が母親ながら、人の名前に対してなんてことを言うんだ。

 母さんは父さんと違ってまとも思考をしていると思っていたのだが、どうやらそれは、肉親というフィルターで見ていただけらしい。アダムという新たなファクターが加わって、ようやく客観的に理解した。

 母さんは、度を越すほどの世話焼きで、お節介な性格だったのだ。





「夢ちゃんにはウチに住んでもらう事に決めたわ」

 俺が学校で大変な思いをしたその日、帰宅してまず始めに聞いた言葉は「おかえり」でも「お疲れ様」でもなく、アダムが我が家に居候するというなんともぶっ飛んだ言葉だった。

 まず「夢? 誰だそれは」と思ったが、よくよく話を聞いてみると、なんとアダムのことらしい。なんかいつの間にかあだ名がついていた。

 しかし、身分の証明も満足に出来ない人物を簡単に受け入れるとは、なんとも剛毅な母親である。

 まあ、冷静になってみれば、俺としてもこうなるような気がしていなかったわけではない。母さんが、というのは予測できなかったが、そうでなくても父さんによって同じ結果がもたらされていただろう。伊達に長年家族をやっているわけではないから、それくらいは予想できる。

 そもそも、父さんが「部屋数は多いほうがいい! 多いほうが……なんかいい!!」といって建てたこの家に、家族の人数分よりもたくさんの部屋があったのは、このような事態を妄……予想していたのではないか。ただ、部屋が増えたことで一部屋あたりの面積が減るという弊害が起きたわけで、俺としてはぶん殴ってやりたいが。

 部屋数に関しては、絶対に反対するはずの母さんが許したのは何故だろうと、昔、考えたことがある。そして、母さんに聞いたところ、

「それは、ほらお父さんがね……もう、一人や二人くらいはって……」

 なんて真っ赤になって答えられた。母さんはどうやら懐柔されたらしいが、俺の心には微妙なトラウマが残った。


 閑話休題。


 結局、アダムは俺の部屋の隣に住むことに決まったようだ。俺のいない間に。

 俺の意思とか意見とか、人権とか結局朝のことはどうなったのかとか色々問い詰めたいことはあるが、まあ俺としても美人と暮らせることに文句はない。それに、なんだかんだ言っても命の恩人だからな。

 二階に上がって、アダムがいるらしい部屋の戸をノックする。だが、しばらく待ってみても返事は無い。もう一度ノック。

「…………」


 へんじ が ない ただ の しかばね の よう だ


 あまりの静けさに、ベタなギャグに走ってしまった。しかしこの場合、屍なのは返事をしないアダムなのか、叩かれているドアなのかどっちなのか。とてもどうでも良かった。

 仕方なくノブをひねると、鍵はかかっていなかった。ドアを押し開ける。

「お〜い、アダムいないのか?」

 アダムは、ベッドに横になっていた。

「ああ、あなただったのか」

 普通にいた。普通すぎて逆にびっくりした。

「お前、ノックしたんだから返事くらいしろよ」

「ノック……? ああ、あの音がそうなのか。分かった、次からは返事をする」

 ああそうだ、こういうやつだった。戦っている姿の印象が強すぎて、今朝のこととか忘れてしまっていたようだ。

「どうやら我は、知識と経験が伴っていないようだ。言葉は知っていても、これだと言われないと分からない」

「そいつは……赤ん坊一歩手前だな」

 つまりそれは、何も知らないのと変わりがないということだ。

「というか、その”あなた”ってのやめてくんねぇか? なんか、言われ慣れてないから誰のことか分からなくなりそうだ」

「しかし、我はあなたの固有名称を知らない」

「あれ、言ってなかったっけ」

 アダムは頷いた。というか、それは盲点だった。てっきり、もう自己紹介したものかと。

「悪かったな。ホントなら最初に言わなきゃならねぇのに。俺は、伊藤武史。武史でいい」

 なんだか、改めて自己紹介ってのは照れるな。

「そうか……武史か」

 噛み締めるように、アダムが俺の名前を口にする。

「それより、お前身体大丈夫なのか?」

 頬が熱くなって来た様な気がして、慌てて話題を変える。

「大丈夫だとは言えない状態だ。しばらくは戦闘行為は無理だろう」

「普通に生活する分にはいいのか?」

「ああ、それは問題ない」

 良かった。下手したら重症なのかと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

 だが、こうやって話している最中も起き上がらないということは、寝ていたほうが回復が早くなるということかもしれない。あまり長居するわけにはいかないな。

「そうか。まあお前は学校とか無いんだし、存分にゆっくり寝てろ」

 俺は立ち上がって、横になっているアダムの顔を一度見ると、踵を返す。

「この場合は……お休み、と言えばいいのか?」

「おう、その通りだ。お休み、アダム」

「お休み、武史」

 そして、俺はアダムの部屋を後にした。





 まぶたに強い日差しを感じて、俺の意識は急浮上する。先ほどまで見ていたはずの夢は、輪郭を失って記憶から抜け落ちていく。

 また、カーテンを閉め忘れたらしい。薄く開いた目に、太陽の光が差し込んできて、思わず強く目を瞑った。

 これでは目を開けられない。目を瞑ったままベッドから降りようと、身体の位置をずらしていく。

 だが、ベッドの端まで移動しようとしていた俺の身体は、何か柔らかいものに当たって止まった。

(……ん? なんだ?)

 寝起きのぼんやりとした頭で、その何かに手を伸ばす。手に触れたものは、とても柔らかくて暖かかった。

「あら、朝から大胆ね」

 頭の上から降ってきた声は、なんだか聞き覚えのある声だった。

 俺はゆっくりと、目を開ける。俺の手は、黒い布地に包まれた誰かの胸を思い切り掴んでいた。

「――――え?」

 思考停止。

 …………。

 …………。

 …………。

 再起動。

「うおわあっ!!??」

 俺史上最速で腕を引っ込める。それと同時に跳ぶようにベッドの反対側から降りて、いまだベッドに横たわる人物を見た。

「もう、朝から叫ばないでよ」

 黒いドレスのような服。黒い髪、黒い瞳。

「お、おおおま、おま、お前はっ!?」

「あら、ルシファーよ。忘れちゃったの?」

 違う。俺はそんなことを言いたいんじゃない。

「なんでここにいるんだ!?」

 そう、俺は、これが言いたかったのだ。





 またもや、叫び声を聞きつけた母さんがドアを開け放ち、誤解する。

 そして再びの家族会議。

 だが、我が家でまともな家族会議など開けるはずも無く、「女の落とし方を教えてくださいっ!!」などと土下座しほざいた父さんを母さんがボコボコにして、会議はお開きとなった。

 その後、俺は春香と共に学校へ向かったが、昨日のような天使の襲来はない。

 友人と談笑し、授業という名のお昼寝タイムを満喫する。なんとも、夢のような時間だった。

 だが、それも時間の問題に過ぎなかったりするのだから、最近の俺は充実過ぎる人生を送っていると思う。

 家に帰った俺が耳にしたものは、その瞬間に、俺に切腹という選択肢を考えさせるほどサプライズにまみれた言葉だった。

「ああ、リリーちゃんにも、居候してもらうことにしたから」

 この日、リリーシア・ルシフェルと名を変えた悪魔のような女が、ウチに住むことに決まったのだった。

どうも、ここまで読んでくださってありがとうございました。

今回の話で、第一章完結、といったところでしょうか。

次からはまた新キャラが出てきますので、お楽しみに。


感想や質問はもちろん、苦情や酷評でも何でも募集中です。ドンドン書き込んじゃってください。

それでは、これからもよろしくお願いします。

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