秘書の憂鬱
「満たされない。で、すぅ」
主のいない社長室。ムギムギパッチンの秘書グレギナは、PCから取引情報をメモリにコピーすると携帯から雇い主に送信した。
「スパイやっても全然満たされないのはなぜかしら」
秘書のスパイ行動を観察していたホワイトタイガーとアルマジロが、グレギナのもとへ甘えにやってきた。
グレギナはクシを取り出すとホワイトタイガーの毛並みを整へ始めた。
「お前達は、気楽でいいよね。動物だから。私は、人間で。人間だから。キケンな恋がしたいのよ。ああ、ムギムギパッチン、サマ。どうして私の気持ちに気づいてくれないの。そして」
「ギャウ、ウ」
グレギナに毛を鋭く握られ驚くホワイトタイガー。パニックのアルマジロは周囲を走り始めた。
「なんだ。あの、お・ん・な、女」
ブチッ!
「ギャウウウウ、ン」
怒り狂ったグレギナに毛を毟り取られ禿げさせられたトラは、涙目で飛び上がった。
「ああ、幾多の男達の心を掴み、裏切ってきた私。私に見向きもせず知らない女と姿を消すあの男。いったい、いったいどうすれば」
「グレギナ君」
「社長」
夢の世界で盛り上がるグレギナの様子を観察しながらムギムギパッチンの体に宿ったジャムスキンが引きつった顔で立っていた。
「なにか、あったのかね」
「何もないで、すぅ。あの、お客様は」
「たいした用ではなかったよ。もう帰られた」
悲壮な顔からパッと晴れやかにチェンジしたグレギナはルンルンと部屋を後にした。
ジャムスキンのもとに泣きながら禿げたホワイトタイガーと丸くなったアルマジロがやってきた。
「そうですか、さて」
ジャムスキンは窓から海を眺めた。
「セティ殿。ご武運を」