ゆうれい船とオオトカゲ2
セティは腕を組み船から降りてきた少年を睨み付けた。
「早く出発しましょうよ。ムギムギパッチン、さん」
「違います。私はジャムスキンです」
「はい。ボクはここですよ」
船長服を着込んだ幽体のムギムギパッチンが船上からセティの前に飛んできた。
少年姿のジャムスキンは、外へ向かって歩いていく。
「セティさん、ムギムギパッチン殿。ご武運を」
「ジャムスキンさん。行ってしまうのね」
格納庫には幽体のムギムギパッチンとセティの2人が残された。
「セティ、一つ確認しておこう」
「なあに」
「君は、幽体であるボクの姿が見えている。間違いないね」
「そうよ、だからチャコをさらった幽体離脱者が見えたのよ」
「ならボクのように幽体になることもできるのかい」
「そんなおぞましいこと、試したこともないわ」
ムギムギパッチンは、なるほどと頷いた。
幽体離脱とは霊能力者が持つ呪術の一つであった。島々からなるこの地域において霊能力者は予言者と呼ばれ宮廷使いや島長など高い地位についていた。それは幽体離脱による霊能力者同士の連絡手段が確立していたためである。
彼らは、あらゆる情報を秘密裏に集め、共有していた。そのため外敵の襲来や他国の情勢をいち早く知ることができ生き延びてきたのである。
通信技術や移動手段が確立した今日において、霊能力者は人々の記憶から忘れさられたが裏の世界、霊海においては、多くの者が密猟者となり権力を握っているのであった。
セティの先祖は時代の変化の中で霊能力者としての能力を封じ役目を終えたのだ。そのため幽体を見ることができても、幽体離脱という能力を引き継ぐことができなかったのである。
「私が幽体離脱できなきゃ連れて行けないってわけ」
セティがムッとしてムギムギパッチンに詰め寄った。
「いやいやいや、ただアレが見えるのかな、と」
ムギムギパッチンが上空を指した。
セティが顔を上げた。
天井の隙間から煙が出てきた直後、大きな黒い物体が降ってきた。
悲鳴を上げ意識を失いそうになるセティ。
物体はセティの顔の間近で停止した。中央からクリッと大きな二つ目が開き滝のような水がセティを頭からずぶ濡れにした。
「半透明野郎、煙を炊きやがって」
「ゆうれい船長だ」
ムギムギパッチンは謎の生物の自己紹介をはじめた。
「紹介しよう、この黒い物体の名はモトロット。私の相棒にしてこれから霊海を共に旅するトカゲ船だ」
硬直するセティにトカゲの長い胴体が絡みつく。トカゲは号泣していた。
「ゴキブリ退治の煙で起こす奴のどこが相棒だ」