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ライン  作者: 桐乃シン
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鏡の中の魔法使い

 鏡面世界と言うものをご存じだろうか。

 

 

 その世界は諸説、色々な説明で語られることがあるが、正確には裏側の世界と言うことらしい。 

 現世に最も近く、最も遠い世界。全てが反転した世界。それが鏡面世界と言われる由来だと。そう紅色の少女は言った。

 

 鏡面世界は、反転している故に相互は密接でありながらも、基本的には接触しない。

 相互不干渉の関係を俺が元いた世界と保ってきたらしいが、ここ数年前から、現世に迷い混んだ『影』と言われる怪物が『色』をむことを覚えてしまい、『影』が何度も現世を行き来するうちに、不完全ながらも現世とパスが通るようになった。

 

 どうやら俺はその空間の歪みに投げ出されたらしい。何とも迷惑な話である。 

 「他に何か聞きたいことはある?」

 先程まで饒舌に語っていた、久音くおんさんは首を傾げながら俺の顔を覗きこんだ。

 少女のような面影が残るが、シャープに整った顔が近くに迫った。少しドキッとなったが、興奮するよりも、今は疑問の方が心を占拠していた。  

 「じゃあさ二つほど聞いていい?」

 「ん、いいよ」

 「何で君には『色』があるの?」

 この、灰色の世界において、彼女の髪は鮮やかな紅色に染まり、服の間から覗く肌も、学校の制服に見える服も全て、元ある世界の様に『色』を持っていた。

 それに対し、俺の体は駅の一件以来灰色に染まっていて、『色』が戻る気配は今のところ無い。

 その事を疑問に思い聞いたが、その説明は突拍子の無いものだった。

 

 「ん。これは僕の王の力だよ」

 「えっ」

 「あはは!冗談冗談。…えっとね、この世界にも『色』の概念を持つものは色々あるんだ。例えば…魔法…とかね」

 「ま、魔法!?」

 魔法……やっぱりmagical的なあれなのか。

 「そそ。この世界はね。基本的に『存在が視覚的に視認でき、物理的な干渉が可能な色が消えている』んだ。だから魔法気さえ体に内風ないふうしていれば、外見上は色の付いた体に見えるってわけ。まぁ、他にも裏技みたいなのもあるけど」

 魔法、魔法気。話す内容が違う世界過ぎて実感がまるでわかなかった。

 「君もこっちの世界に来たってことは魔法が使えるはずだよ」

 「そ、そうなの……?」

 「うん。だって私もこの鏡面世界に来てから魔法が使えるようになったもん。みんなもそうだったはずだよ」

 みんなとは誰を指すのかまだ分からないけど、魔法が使えるというのは少し胸が踊る話ではある。

 「じゃ、じゃあさ後二つほど聞いてもいい」

 「おうさ。何でも聞いてちょうだい」

 「その『影』っていうのと裏技って何かな?」

 今のところ俺自身に魔法が使えるようになった覚えは無いし。突然「お、俺の隠された力が……」みたいな展開に期待するのもアレ。でも、早いところ自分の体の『色』くらいは取り戻しておきたいのだ。

 『影』についても聞いたのは、あきらかに危なそうだっからだ。危険は早めに知っておきたい。

 情報不足で死ぬなんてまっぴらごめんだからね。 

 「んんー。何て説明するかなぁ」

 俺の質問に久音さんは顎を右手でつまみながら困った顔をした。

 少しまずっただろうか。 

 よく考えなくても。さっきこの世界に来たばかりの奴が、不躾ぶしつけに聞く内容じゃなかったのかもしれない。

 「あの……答えづらいなら別に」

 俺がそう言った時に。彼女の顔が一変した。それは獰猛な肉食獣とでも言い表せる笑顔だった。

 

 「ラッキーだね」

 「え……」

 「説明する手間が省けた」

 

 灰色の世界から『影』が顔を出した。

 それは人の形をした何かだった。全身がすすのような黒いオーラに覆われ、声無き声を発する。その不気味さに背筋が凍った。

 

 【ノタッナニトコナンコデンナ】

 【イナクタレサロコイナクタレラベタ】

 【アアアァァァァアアアアアアア】

 

 理解できない声で『影』はわめき、うごめく。

 俺はその姿に、完全に恐怖してしまい、その場で固まってしまう。

 

 「まぁ、アレは初めは怖いよね」

 しかし、彼女くおんさんは冷静だった。

 散歩をしている時みたいに、かの怪物に近付いていく。

 その足取りには一辺の揺らぎすら無い。

 そして化け物の目の前にまで辿り着くと。今までは結んでいた口を開いた。

  

 

 【アカ

 

 

 それは炎だった。前触れもなく、突如彼女の体がその炎に包まれた。

 ごうごうと燃えたぎるその炎は、彼女だけでなくまなこの先にある怪物すらも容易く呑み込んだ。


 【アアアアアアアアアアアアァァァァァァァアアアアアアア!!!】

  

 『影』の怪物から苦悶の声が吐き出される。その声に同調するかのように炎は勢いを増していく。

 結局。炎がやむことは、『影』が死ぬまで無かった。

 

 「よっと。これこれ」

 あの戦闘から十分もたつと流石に体の緊張は途切れる。ふぅと息を吐くと、先程まで怪物の消えた場所で、何かを探していた久音さんが戻ってきた。

 「これは?」

 「色彩結晶」

 色彩結晶?こちらの世界の道具なのだろうか。

 慣れた手付きで、その結晶状のものを久音さんが割ると、そこには白色の光を放つ石が入ってあった。

 「これが裏技」

 「これが?」

 「ちょっと口を開けてみて」

 言われた通りに口をひらく。

 「ムゴッ!」

 先程の石が口に放り込まれた。不意打ちだったため、激しく咳き込む。

 「な、なにするんですか!」

 抗議するもよほどせたのが面白かったのか彼女は声に出して笑った。

 「ふふ…。ほら、手をみてごらん」

 彼女に言われてからはっと気付いた。

 


 俺の体には数時間ぶりに『色』が戻っていた。

 

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