第1話 どうして俺の妹はこんなにも可愛いのだろうか? やっぱり妹は最高だぜ!
お待たせ致しました。
今回から物影が始まっていきますが、のっけからトラブル発生!
果たして、陽夜は平穏な高校生活を送ることができるのでしょうか?
ピイピイピイッ、と一定のリズムの感覚で耳の中に朝を告げる音が耳に入ってくる。音源は俺の頭の右上あたり、ベットの上にある棚の辺りからは発せられているようだ。なんて、ちょっと無駄に謎めいさせてみたが、そう、単なる目覚まし時計のアラーム音である。
俺は重たい瞼をこじ開けて、うーんと伸びをして意識の覚醒を促す。
「う~ん……。そろそろ起きないとマズいか。さすがに初日から遅刻は出来ないし」
しかし、そう簡単に目が覚めることはなく、なので俺はごしごしと目を擦ってという強制的な覚醒手段に打って出た。
だが、意識が覚醒しようがしまいが、このアラームの設定時間7時40分は朝食の時間、その他の準備に掛かる時間、そして今日から通う高校―――私立碧音学園への登校時間を計算して導きだされた時間であり。それはつまり、テラギリギリの起床時間であるということ。
ということなんで、
「さてと、それじゃちゃちゃっと準備しますか……。そうしないと妹が怒るだろうし、朝っぱらからあのハイパーボイスを聞くのは御免だ。それで近所からの悪評が立っている風の噂に聞くし、噂ですんでいる今の内にトラブルの芽を摘んでおこう」
だからと言って、そう簡単に急ぐような行動に出る俺ではないのことを自分自身が認識しているので、いつも通り最終手段を使うことにした。
その手段とは、適当に言えばなんかめんどうごとをでっち上げる。カッコよく言えば、明確な理由を挙げて、自身の内発的行動を促すということ……ううん、変わんねぇな。
とにかく、元来のマイペースマスターの俺はそういう理由を無理やりにでもこじつけないと動かない性格なのだ。もちろん、悪評が立っているのは妹の方で俺ではないというか、そもそもそんな噂など存在してすらいない。
が、先も言ったと思うが、そういう動機やらやむにやまれぬ事情をを立てないと、俺は睡魔の魅力に負けて夢の世界ーー。
と、そこでやっと俺は今さっきまでの出来事を思い出した。
「そう言えば、あれは一体なんだったんだろう……」
天井を仰ぎながら、そう呟いた。
あれとは、夢の中で見た出来事。つまり、陽空 晴見ちゃんとの不思議なやりとりのことである。
夢にしては随分とリアルティもある感じだったし、それに……晴見ちゃんとの出来事はちょっと記憶の中の事実とは少し違っていたけど、おおむねの部分は間違っていなかった。
数十年前のあの日。俺と晴見ちゃんは二人で近所にある公園、キズナ公園で遊んでいた。いつもはもう一人・妹を加えたメンバーで遊んでいたんだけど、その日妹は親父とお袋と三人で買い物に行くということだったから、俺は晴見ちゃんと二人っきりで遊ぶことになった。
そして、やがて空が茜色に染まり始めた頃、晴見ちゃんが「ボール遊びをしたい!」と言ってきたのだ。だが、空の色がだんだんと青色から朱色になっていくのを見ていた俺は「そろそろ時間だし、帰ろうよ。それに俺もハルちゃんも疲れててもう遊ぶ元気ないでしょ?」などともっとも理由を付け加えた上で晴見に提案したのだが、その日の晴見ちゃんは、どことなく切羽詰っているかのような顔で「大丈夫だよ。まだ少し時間はあるよ」なんていつもの晴見からは考えられないような台詞を述べた。
そんな晴見ちゃんに俺は少し驚いたが、でもそれ以上に、喜びの感情――――いや、言い訳は止めよう。そう、単純に嬉しかったのだ。まだ遊べる、晴見ちゃんと一緒にいられる。晴見ちゃんを見ていられる、ひとり占めできる。そんな感情の正体を俺はずっと知らないふりをしていた。今の俺にはこんな風に遊んでいられるだけで十分だったから、もちろん、この先にあるであろう関係のことは知っていたし、なれるものならなりたかった。
でも、それは恥ずかしいし、何よりこの関係が壊れてしまいそうな予感がしたから一歩を踏み出す勇気が出てこなくて、この恋心という名の諸刃の剣を隠していた。
だから、俺は晴見ちゃんの提案を断ることが出来るわけもなく、受け入れてしまった。それがのちに最悪の未来の引き金であるとも知らずに。
夕日暮れなずみ空の元、俺と晴見ちゃんはボール遊びを開始した。
公園の開けた場所に少し離れて、お互いにボールを蹴り合う。ポン、ポン、ポンという少し弾みような音が辺りに響き渡っていく。しばらくして、晴見ちゃんの蹴りのスピードが上がってきたので、俺も合わせるようにスピードを上げて蹴り返して、そうすると隠れ負けず嫌いの晴見ちゃんは更にスピードを上げてくる、俺もそれに合わせた。
その時の俺はもう人生の最高の幸せを感じていたと言っても過言じゃなくて、とにかく幸せだった。それ以上ないくらいの幸福感に包まれていた。この時間が、この光景が永遠に連続して続けばよいのにと願わずにはいられなかった。
だから俺は願った「神様。本当にいるのなら僕の願いを聞いてください。それは、この時間を僕から奪わないでください。それだけ、それだけ、それだけでいいですから」と晴見ちゃんの実に楽しそうな表情を見ながら願った。
けれど、神は俺の願いを聞き届けては暮れなかった。幸福の時間はあっさりと二重の意味の終わりの鐘を打ち鳴らした。
……? ……ん?。……あれ?。
……ところで、ここまで話しておいてなんなのだが、なぜ妹は怒りの形相を浮かべて俺の部屋に突入して来ないんだろうか? たぶんだけど、これだけ回想を語っていたのだから、結構な時間が経過していると思うんだけど? あれ? あれ?
辛い過去に浸っている気分など吹き飛んでしまった俺は、辺りをキョロキョロと危ない人並みに首を動かした。
「やっぱり、どこからどう見ても正真正銘の俺の部屋だよね。オタ臭漂ってる感じで分かりやすいわ……」
もしかしたら、まだ夢の中ではないかと疑いを抱いた俺は寝起きでまだ思いまぶたをこすりながら、部屋の中を見て回ることにした。
全体的な評価で言えば、まぁ、ちょっと一般的な見識からは受け入れがたい物があるが、それなりの男子が住んでいる部屋ってかんじである。ギャル語で言えば、……キモ、死ねば?である。……俺のギャルへの偏見酷過ぎるだろう。
で、
ここからは想像をしてほしいのだが、よろしいだろうか? いやまぁ、駄目です、と言われても決行するのであまりというか、まったく聞く意味はないだけどな。まぁ、問答無用である。さぁ、レッツ イマジン!
まず、君は霊とか、天使とか、悪魔とか、そうゆう超常存在であると仮定してくれ。その条件である理由は……特にありはしないが、強いて言えば気分の問題でだろうか。ん? 気分なんてどうでもいいじゃないか? はぁ、気分超大事だから、どれぐらい大事かって言うと、人間が塩がないと生きていけないぐらい。つまり、超大事! テラ大事なんだよ!……とっと、また話が進まなくなる。自重自重。
とにかく、超常存在になったあなた方はとあるオタクの部屋を上から見ている時、部屋の内部の情報を頭に入れていく調査を唐突に思い出した、と仮定。いざ、調査に乗り出そうとしたところへ神ハルヤが姿を見せた。そしてこういうのだ。
では、俺の部屋の世界をご紹介しましょう、と。
というわけで、神ハルヤ直接解説の部屋探索開始!
まず部屋の大きさは約四畳ぐらいで、特に補足説明しなければならないようなところは見受けられない。
南側にあるドアの右手側には、俺の寝ていたベットがあり、その反対側には本棚が設置されている。
本棚は五段構成になっており、一段目から三段目まではライトノベルや漫画、そして某週刊漫画誌が綺麗に並べられている。そして、四段目から五段目には俺厳選の神ゲーがほこり一つとして付いていない状態できっちりと整然と並べられている。
もちろん、人に見せられないようなお宝グッズは隠してあるのでご安心。その人間性が如実に表れている本棚の横には、小学生の頃から――――愛用しているなかなかに立派な机が置かれている。
机上にはパソコンが置かれている以外には物は置いておらず、この頃ちょっと勿体ないな、と思い始めてなにか有効利用できないかとウンウン唸っているのだが、未だにいい案は浮かんではいない。
というなんとも見ていて楽しくない部屋解説でありましたが、いかがでしたでしょうか? 是非とも、机の有効利用についての案がありましたら、こちらの連絡先にご連絡を―――――って! だからこんなことやってる余裕がなぜある!? ていうか、神ハルヤってなんだよ! 自分で言ってて「これはないわ」って気づいちゃったぞ!? てか、それよりも、どうして愛妹は俺を起こしに来ないんだ!? お兄ちゃん、早く起きないと千本ノックするよって! ……はっ! まさか妹の身になにかあったのか?
そんな不安に駆り立てられて、ふと目を向ければ、さっきから鳴りっぱなしの目覚まし時計が視界に入った。そして俺は驚き、固まる。何故なら時計の短い針と長い針が両方とも真南の方向に向いていたから。……真南? 午後六時三十分ってこと? いや~一日終わってるじゃん! 遅刻どころの話じゃないよ、これは初日から欠席というボッチフラグを踏んだね! でもさ……不思議なことがあるんだよね……言っていいよね? なんかさ、外が明るくてま~るで朝みたいなんだよね……めっちゃくちゃ、明るくなり始めてるんだよね、夜なのに! 太陽さんおはようなんだよね……やべぇ、ついに錯覚みるほどに現実と妄想の世界が混ざっちゃってるよ……アハハ、アハハ……キレていいですか?
その時計の意味するところを理解した俺は、す~と大きく息を吸い込んで、一気に吐き出す。
「こ、このくそバカ妹が!!!!! 人の目覚まし時計の設定いじりやがって! ちょっと、俺の部屋こいや!」
と、睡眠時間を一時間以上奪われた俺が怒りの声で集合をかけると、直ぐに一階のリビングの扉の開く音がドア越しに聞こえて、次いで階段をドンドンと駆けあがってくる足音。その音が聞こえなくなると、ドーン!
「おはよう、お兄ちゃん! 今日は起きるのが早いね」
ドアをもの凄い勢いで開けて部屋に入ってきた碧音中学の制服姿の妹―――暗雲陽華は満面の笑みを浮かべ開口一番そう言った。
どうやら、勝手に目覚まし時計をいじったこと誤魔化す気であるらしく、「起きたなら、下来て朝ご飯食べちゃってよ」なんてむしろ命令までしてきている。
そんな妹の態度に内心イライラしたが、表面上は極めて冷静に話の流れを変えることにした。
「それよりもだ。陽華さんや、何か俺に謝ることないかな。あるよね?」
ちょっとばかり語気が荒くなったのは勘弁。
「断定なんだ!? んと、そうだね。お兄ちゃんに謝ること……謝ること……」
ぶつぶつ独り言を言いながら、陽華はドアの前に立ったまま腕を組んで考えている。端正な顔を気難しそうにして、瞳をつぶりながら陽華はしばらくの間考えていた。
一方で流れ的に手持無沙汰だった俺は妹の姿を眺めていた。……言っておくが、別にこいつに恋愛感情はないぞ、妹だし。だだし、それを抜きにしてもこいつの容姿はなかなかに整っているわけで男子の本能として目が勝手に引き付けられている……それだけだ。
まず目に入ってくるのは愛らしさを感じる顔つきで、目は今閉じられてるけど、いつもはクリクリとした小動物のような瞳をしているし、口は丸みを帯びていて触ったらプ二プニとしてそう。
髪はショートの薄赤色をしており、どこか夕日を思わせるために見ていると心が落ち着いてくる……まぁ、今は全然落ち着きませんがね!
そして特に目を引くのが、中学女子にしては成長しすぎているプロポーション。手や足はすらりとしていて、まるで女優さんみたいだし、特に胸の大きさは巨乳。 そんなデカ物がついていれば、いくら妹だと言えど、男子たる俺が気になるのは仕方ないがないはず。だから、俺は妹のことを見ているに過ぎないのだ。
と、とにかく、端的に言って美少女なわけですよ、俺の表現力が無くて上手く伝わらないと思うんだけど。
などと妹の紹介をしていると、その妹さん―――陽華が「あっ、これかも!」と何やら思い出した様子で声を出した。
「そうかそうか。で、何を思い出したんだ? 怒らないと思うから、言ってみようか」
「怒らないと思うからって………それって怒るということだよね
?」
もちろんですよ。当たり前じゃないですか! だって、あれですよ? 俺の大切な大切な命の次ぐらいに大事な睡眠時間を奪われたんだぞ? それなのに、怒らないわけがないじゃないか。俺は睡眠は友達が格言のひとつなんだから。
まぁ、そんなことを素直に陽華に言うわけがなく、俺は大人の伝家の宝刀「建前」を発動して答える。
「大丈夫だよ。陽華が嘘をつかないでちゃんと本当のことを言いさえすれば怒らない…………かもよ」
俺超笑顔である。なのになぜか、陽華はビクビクしている。なんでかな~?
「かも……って言った!? それって絶対にない可能性の方が低いよね! 低いよね!」
陽華は俺の言葉からなにか危険な臭いを感じ取ったらしく、あわあわと騒ぎ始めた。
ふと、そんな妹の姿に、ちょっと悪いことをしたかなって思い始める。
なんせ、たぶんこれをこんな風にしてしまったのは俺のせいだからだ。……いや、正確にはあの事故といった方がいいかもしれないが、その二大要因に俺が関わっているのは間違いがないことは疑いの余地はない。
あの事故以来、陽華は過剰なまでに俺の行動を管理しようとするようになった。
少しでも帰宅時刻が遅れると、電話が掛かってくるし、小学生の頃に友達とケンカをして病院に行った時なんて、授業をすっぽかしてまで駆け付けたぐらいだ。
だから、俺はその時に言ったのだ「このぐらいの怪我で死ぬわけないだろうが。だから、陽華が泣く必要もないし、こんな風に自分を犠牲にする必要もない。むしろ、こういうことやられると俺が心配になるから」と。
しかし、陽華はそれでも首を横に振り、それから「私が一緒にいるから、絶対に置いていかないからね」と言うだけで、俺の言葉を汲んではくれなかった。
汲んで欲しかったななら、俺はそこでもう一度、今度は語気を強めて言うべきだったのだ。
けれど、実際は言えなかった。それは陽華の言葉の一部が酷く心を病ませて、そして救いを受けた気分になってしまったから。
置いていかないから、その言葉に込められた陽華の気持ちが癒してくれたから。
だから、俺は折れた挙句に、陽華に甘えてしまった。そのせいで、代償を陽華に与えてしまった。罪滅ぼしという鎖を。
それ以来、何度か言い続けてはいのだが、要因たる俺が強く言えないため、未だに改善は出来る気配も、兆しも見えてはいない。
そんな風に思い出していると、なんて小さいことで怒っていたのだろうか、という気持ちになった俺は陽華にこう言った。
「冗談だ。絶対に怒らないから教えてくれないか」
出来るだけ優しく笑いを浮かべて、柔らかい口調で陽華にお願いした。
もちろん、怒らないと言ったからには怒らないが、やっぱりここまでやってしまったからには一応聞いておこうと思ったまで。
しかし、陽華はそんな声に「本当? 本当だよね? 本当なんだよね」とちょっと怯えた声で疑っていたので、俺は「本当だ」と答える。
すると、陽華の顔が瞬時に笑顔に変わり、えへへと笑い声を俺に向けてきてくれる。……ううん、可愛すぎる! こりゃ、シスコンと言われても甘んじて受け入れられそうだ。いや、受け入れるし、なんなら「俺はシスコンだ!」と宣言してやってもいい。いやいや、それは俺の人生に角が立つからやめよう。
俺がシスコン宣言の脳内国会でなくなく棄却している目の前で、陽華は「良かった~」と溜まっていた重い空気を吐き出す。そして、満面の笑みでこう言い放ってくれやがった。
「この前ね、お兄ちゃんの部屋の中を掃除していた時、たまたま足元にあったお兄ちゃんお気に入りのゲームカセット踏んじゃって壊しちゃったから、こっそり捨てたんだよ。ごめんなさい」
そう言われて、慌てて本棚の方を見ると、確かに俺厳選お気に入りゲームソフトが一本足りなくなっていた。……フフフ、やってくれましたね、陽華さん。久しぶりですよ、こんなにも沸き上がるような怒りを覚えたのは……許さん! 許さんぞ、愚妹め!
と、某人気漫画のフ○ーザ様の真似を胸中でしながら、陽華を手招きする。
もちろん,哀れな子羊陽華は笑顔で寄ってきて、「なになに」となにかを期待した声を出していた。恐らく、気にするなよと頭を撫でてもらえるとでも勘違いしているのだろう。まぁ、ある意味で頭は触ることになるが。もちろん、頭をグリグリということで。
俺は陽華の耳元に顔を近づけて、さえざえとした声で裁きを言い渡す。
「陽華さんや………ちょっとその話…………詳しく聞かせて貰おうかな? あと、人の目覚ましの時間を変えた理由についてもみっちりと聞かせて貰おうか! 幸い、時間はたっぷりとあるしね、おかげさまで!」
ごめんなさい。いくら陽華に申し訳なく感じているところがあるとは言っても、これは許せない。
「あれ!? 頭撫で撫でじゃない!? ていうか、バレてる!? その前に怒らないって約束はどうなったんですか、お兄様?」
陽華はかなり動揺しているらしく、呼び方がお兄ちゃんから、お兄様に変化していた。その謙虚さに免じて一瞬許してやろうかとも思ったが、やはり悪いことをかくしてしまうような子にはお仕置きが必要であろうと思い直した。
だから、しれっと妹の質問に答えてやる。
「問答無用&前言撤回したからな」
理不尽? なにそれ、美味しいの?
「ちょっと話せばわかるから、許してぇぇぇぇ!」
それから30分間、俺は朝の涼やかな空気を感じながら、陽華を説教をしたのであった。
妹キャラ、陽華ちゃんがのっけからトラブルを起こしてくれましたね。けれど、これも兄の行動を管理して、何か起きても対応できるようにしようという考えであるわけで、本来は陽夜は感謝すべきなのですが、いくらなんでも睡眠時間の搾取は看過できないらしいです。なんたって、睡眠は友達が座右の名のひとつですからね、彼。うわぁ……将来は優秀なニートになりそう………。
ってな感じで、第一話をお送りしました。
では、次回は水曜日または、土曜日にお会いしましょう!