エピソード0 どうして俺の始まりはこんなにも可笑しいのだろうか? 死亡疑惑とかありえなくない!?
お久しぶりです。天条光です。
さて、新作はまたしても学園ラブコメ(自称)でありますが、今回は原点回帰を目的として書かせていただいた作品であります。
これまでも様々な学園ラブコメを書いてきましたが、やはりどれも結果は同じ道を歩んでしまい、結局は同じ終点についてしまうということ。
それすなわち、主人公が辛い場面に陥ってしまうということです。
だから、私はそこに関しては割り切りました。どうしてもそうなってしまうというなら抵抗しないで、その分以上の幸せを主人公にもヒロインたちにも与えようと。
ということで、今回は遠慮なく進んでいきますので宜しくお願いします。
不気味で、そして深淵から誘い込まれているような感覚に襲われる暗黒の世界の中に、俺――――暗雲 陽夜は立っていた。というよりは浮いていた。
上下左右どこを見渡しても、何もなく、あるのは無という名の闇と、そして自分の身体だけ。
――――もしかして、死んでしまったのだろうか?
と、未だに理解が追い付かない頭で一応の仮説として導き出してはみたものの、それは違うんじゃないかと思いついて直ぐに切り捨ててしまった。
―――――なら、これはどういうことなんだろうか。
俺は頭を抱えて考えむ姿勢になる。
現状をまとめてみれば、俺は身に覚えのない不思議空間(時空でも可)にいるということだろう。で、辺り一面には禍々しいわけじゃないが、ダークワールドが広がっているだけで、風も吹いていないし、俺以外の生物もいないという完全孤独状態。そして、俺の身体は宙に浮いている。プカプカと。
以上のことからはじき出される一番有力な仮説は……俺って幽霊なんじゃね? ということなんだが……いやいや、ないない、あるわきゃない!! いや、あってたまるか! どうしていきなり俺の知らないところで死んでんだよ! 理不尽だろ! あっ、でも運命は理不尽とよく言うしな、受け入れなくちゃいけないのか? 無理、絶対に無理だよぉぉぉぉぉぉぉ! だって、俺まだ十五歳だよ? 明日から青春の大舞台である高校生になるんだよ!? 受け入れられるわけがないだろうが!
誰にともなく俺は虚空の世界へと叫び声を上げて、おのれに降りかかった不幸に落ち込んだ。どのくらい落ち込んだかと言えば、我慢しなければ、とめどなく涙が流れてしまいそうになるレベル。もちろん、泣かないけどね? だって、俺は強い男の子だし……れは関係ないか。ないな。
とはいえ、どうしたらいいんだろうか? 一応自由に体は動かせるから、移動に関しては問題ないんだが。でも、辺り一面が真っ黒い闇しかないから、どこを目指していけばいいか分からなくて、右往左往するのが落ちだろうし。あと、声も出せるには出せるんだけど、仮に声を出しても誰も答えてくれないし、精神的な面から言えば、なんか恥ずかしいし虚しいだけなんだよね……はぁ、どうしよう、これ。ていうかさ、そもそもの疑問なんだけど……俺って実際のところ死んでるのか?
とりあえず、そこの疑問を解消するとしようか。
何度も繰り返して悪いんだけど、今の俺の身体の状態は浮いているし、いわゆる幽霊と呼ばれる超常存在と同様に体もうすっらと透けている。周りに物がないから試せないけど、仮にあったとすると突き抜けるんじゃないかと思う。
とすると、幽霊になったということが一番可能性としてはしっくりくると俺は思っている。まぁ、絶対に認めないけどな、自分が幽霊になったなんて両親が聞いたら、自殺しそうだから。……あぁ、これがもし本当だったら、俺成仏できる気がしねぇんだけど、すまん、お袋、親父。
などとあまりの事態に両親に対する謝罪を述べてしまった。が、まだ死んだと確定したわけじゃねぇのになにやってんだよ、しっかりしろ! と思い直してから、更に気合いを入れて(?)俺は思案の時間へと戻った。
では、仮に幽霊になってしまったとして、なぜこうゆうことになってしまったのかを考えてみようか。一番考えられるのは、不意打ちの交通事故に遭ってしまって死んでしまったから、この状況が分からないという案。
例えば、フンフンと気分よく鼻歌を刻みながらいつもの通学路を歩いていた俺、そこへもの凄い速度(マッハ5ぐらい?)の車がこちらへと向かってきていたが、それに気づいていない俺は横断歩道を渡り始めてしまう。そして車の運転手も気分が高揚しすぎていて前を見ていなくて、そのまま直進を続ける……そして。バコーン!、ドン、ヒュルヒュル! ドン、ドン、ドテ……(イメージしてください)。そんな感じで事故が起きてしまって俺は命を失ってしまったということである(分かりにくい! ある意味で自画自賛レベル)。
ともあれ、この場合は、いったいどれ程の痛みを味わって死んだのかということが気になるところではあるが、残念ながら覚えていないのでその苦痛を伝えることが出来ない。でも、これは違うと思うんだよね、俺。
自分で出しといてなに言ってんだよって俺も思うし皆もそう思っているはず。
だけどさ、確かに薄っすらとしてるけど外傷はないんだよね。これは、偏見というか、なんというか、とにかく事故に遭って死んでしまった人とか焼死とかバラバラ死体とか、そうゆう言い方が悪いけど惨たらしい死に方をした人ってさ、どこかしらに痛々しい傷を持っている霊になったり、禍々しい霊気を放つ悪霊になったりすると勝手に俺は思っているんだけど。で、それに照らし合わせた場合、俺は違うじゃないかな? って。だってさ、俺には体を見渡して確認したんだけど掠り傷すらないし、あるとしても幼い頃に負ってしまった勲章の跡ぐらいなものである。……あの子は元気にやっているだろうか。
そして何よりの否定の理由が、こう言っちゃ変だけど、幽霊(仮)でいることに嫌悪感とかはないし、むしろ清々しいんだよね。なんというか、寝ているみたいな気分? ……ん? 寝ている? ん? ん? あっ、あああああああこれだぁぁああああああああああああああああああ!! 失念していた! 盲点だったわ。
そうだよ、そう。これっきゃないよ。いや、これだよ絶対。これなら色々と辻褄が合うじゃん、ちょっと強引だけどさ。
記憶がない―――――というよりは単に忘れているの方が表現としては適当だろうか、ほら、夢の世界の中にいる時にやっていることって起きると忘れてしまうのと同じで、男子諸君なら分かってくれることと願うが、夢の中で好きな女の子とあんなことやこんなことをかくかくしかじかしているやつを自分だと思えないよね? たぶん、あれって自分という人格を忘れている。つまり、現実での自分を忘れているからだと思うんだよ。じゃなければ、あんな事出来るわけがないよ! 緊張しちゃって! 手を出す前に緊張のし過ぎでノックダウンするのが落ちだと思うね、うん(さすがに強引な理論すぎるだろう………これ、我ながら酷いと思わざるを得ないんだけど………まぁ、いいよね。うん)。
というわけで、色々と悩んでしまったけどこれにて一件落着。異論反論抗議質問は一切受け付けません。閉店ガラガラ。
と、超強引に思案を終えて、
「ふぅ……なんとか暗雲死亡説は否定することが出来たのは良かった。で、となると、なんでこんなに暗い闇の世界なんだよ、俺の夢の世界さんは?」
はぁ~とため息をつきながら、やっぱり思ってしまう疑問を漏らしてしまった。
さっきも言ったような、好きな女の子とウフフアハハアハンは超レアでそうそうお目にかかれるものではないが、それに負けず劣らずのレア夢はけっこうな頻度で見られる物である。まぁ、ごくごくたまにこのような意味のわからない夢をみることもあるちゃあるんだが……これもその類なのか?
そう考えるなら納得出来るんだが、でも、直感が違うと訴えかけてきているような気がする。翻訳すれば、「これフラグだよ。ギャルゲーでいうとターニングポイントだよ」って感じである……いや、すまん。壊れてるわ、こいつ。
そういう冗談を抜きにしても、これは魂がいつもとは異なるものだと言っているのは確かなんだよな。何かはさっぱりだが。
と、そろそろ思案の無限ループに入ろうという時だった。
「な、なんだ! あれは」
俺は驚きに目を見張った。視線の先では、なんと今まで何も無かったところに大きな口が出現したのである。さすが、夢だな、なんでもありかよ!
そんな一人ツッコミを入れている間に大きな口はあろうことか俺に向かって前進を始めたのだ。俺の数千倍はあろうかという巨大な巨体が迫ってきている。そう、大きな口と表現したのは視界に入るのがそれしかなかったから。 おいおい、今度はバトル展開かよ! しかも一方的になぶられるだけの。ねぇ? それって単なる拷問なんじゃないの? 違うの?
「どうすればいいんだよ、これ。とりあえず、逃げる? いやいや……」
徐々に徐々に迫りくる怪物に冷静さを失っていた俺は判断を決めあぐねでいた。
その間にも、ズンズンと進んでくる黒口(ニックネームを付けてみた)。
迫り来ればくるだけ冷静さを欠いていく俺にはもはや判断という行為を実行することが出来なくなっていた。目前まで近づいた巨体を全身をガタガタと恐怖で揺らしながら、まるで石造のような直立不動で眺める。それくらいしか、俺には出来なかった。
「おいおい、マジかよ。夢の中で圧倒的なデカさを誇るモンスターに食べられるとか。普通、こうゆう時ってさ、聖なる力とか身に宿る力が目覚めたりして逆転勝利ってパターンじゃないのかよ……」
相も変わらず、減らず口だけは吐いていたがな。
そして、遂にその時は訪れた。黒口はその大きな口を更に広げて俺へと迫ってくる。その中に見えるのは、圧倒的な闇。光の介在する余地のない絶対支配の闇の世界であった。……でもなぜだろうか、その闇には恐怖は感じなかった。相変わらず、全身はガクガクとまるで壊れる寸前の機械のように震えていたが、目の前からだんだん近づいてくる闇は、恐くない。
むしろ、その更に深層にあると思われる闇が尋常ではないほどに怖く、畏怖している。まるで遥か昔に封印した禁断の扉に触れるような感覚が俺の全身を包み込んでいく。
――――怖い、怖い、怖い、怖い
そんな俺の心の叫びを黒口が汲んでくれるはずもなく、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
問答無用で飲み込まれてしまった。ったく、本当に喰われるとかさすがに思ってなかったんだけど。
読了ありがとうございました。
次話でまたお会いしましょう!