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high school symphony  作者: 結城麗漓
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円の決意(後編)




一方、心配した要が口を開く。




「今さっきではあるが、オレも部活動長になった身だ。それなりに、フォローもしてやれるから」




「……ええ、ありがと」




そう応える彼女は、いつもより気弱な様子で、昴たちも拍子抜けしてしまう。


なので、皆守が気遣うように名を呼ぶ。




「大丈夫よ、皆守。断るにしても、承けるにしても、話さなくちゃいけない事だから……」




気遣う彼を静かに制して、円は昴たち生徒会の面々に向き直る。


紗弓が心配そうに、眉を寄せて見やっていたので、一度だけ微笑みを浮かべ、安心させると、彼女は口を開く。




「これは、生徒会にも通してなかった事よ。昴、最後まで聞きなさい」




「……解った」




いつにもまして、厳しい視線を向けた円の言葉に、昴は余計な事は言わずに、二つ返事で応える。


そんな彼の返事を確認し、円は厳しい表情を崩す事なく話し出した。




「風紀委員は、他の委員会と違って、任期はないのは知ってるわよね」




「まぁな」




昴、そして要、皆守が首を縦に振り応える。


一騎たちも、余計な口出しをしない。




「本当は、昨年の風紀委員長も、後任に私を選んだわ。でも、どうして私を選ぶのか、思惑も解らなかった」




それにと、重い溜め息を漏らした円が、嫌な出来事を思い出す。




「槍術部と剣術部のゴタゴタも、片付いてなかったしね」




だから断ったと、彼女は告げた。


なにより、自分にやれる自信がなかったとも。




「そーいや、先輩から聞いた事あるや。槍術部って、剣術部をスッゲー目の敵にしてたとか」




思い当たった蕾が、誰にともなく言い、円が静に頷き返す。


彼女や蕾の言う通り、当時、剣術部と槍術部は、部を巻き込んでの、いさかいが酷かった。




「その子の言う通りよ。理由は解らないけど、槍術部の顧問が、剣術部を目の敵にしていて、それが部員にも悪影響をもたらしていたわ」




当時、槍術部の副部長をしていた円は、そんな顧問の考えに賛同できず、顧問に感化される部長を始めとした部員とも、折り合いが悪くなっていった。




「そんな折に、剣術部の要と皆守と、互いの部の方針について話し合う機会があった。もちろん話し合いは良好だったわ」




もともと剣術部は、槍術部に対して、敵愾心を持っていなかったので、要も皆守も、円の微妙な立場を解ってくれたし、相談にも真面目に乗ってくれていた。




「だけど、その事が槍術部顧問の耳に入ってね……」




槍術部顧問は、円を他の部員の前で吊し上げるように、激しく非難した。


そして他の部員たちも彼女を責め立て、ますます肩身が狭くなり、円と槍術部部員の関係は、もはや修復不可能なまでに陥ってしまう。




「槍術部に在籍していた時、私は施設にいたし、その事を含めて、部員たちは私を嘲ったわ。紗弓の家に引き取られたのは、辞めた後だったしね」




剣術部との対立から始まった悪循環は、中立にいた円に全てぶつけられてしまう。




「孤児である事をネタにして、幼稚な嫌がらせや陰口を叩いてくるようになってね。それを統率してたのが、槍術部顧問と部長」




「うっへー、インケーン!」




円の語る槍術部の陰険さに、蕾が呆れてぼやくが、昴たちも、それは同意見だった。



部活同士の争いやイザコザがあるのは、生徒会も知っているし、その為の部活動長の存在である。


だが、槍術部のやり口は、些か度を越している感が否めない。




「あれ以上、顧問の剣術部に対する一方的な敵愾心にも、幼稚な部員同士のゴタゴタにもついていけなくて、退部届けを叩き付けたんだけど……」




当時を思い出したのか、表情が険しくなった円が頬杖をつきつつ語る。


そんな彼女に口を挟んだのは、誠だった。




「けどさー、先輩。それとこれが、どう関係あるんですか?」




「言ったでしょう。自信がなかったのよ」




誠に応えた円が、重い溜め息を漏らす。




「槍術部での一件で、そうゆう組織的な柵が鬱陶しかったし。なにより、私は基本的に興味のない事に関して、一切興味を持たない主義なの」




そんな性格故に、槍術部のような揉め事に巻き込まれる事も多かった。




「だから、風紀委員長なんて重責で、組織的だった柵が生じやすい役回りは、正直御免だと思ったわ。だから、やり遂げる自信もなかった」




だけどと、不意に要の方へ顔を向けた円が、真面目な表情で告げる。




「結果的に、多くの人に迷惑かけたわね。貴方たち生徒会にも、要にも。本当に、ごめんなさい。余計な手を煩わせてしまったわね……」




要、そして昴たち生徒会の面々に対し、円は深々と頭を下げた。


そんな彼女の姿に、すかさず紗弓が傍らに駆け寄り、(こうべ)を下げる姉の手を握り締める。




「お姉さまは、何も悪くありません!どうか、ご自分を責めないで下さい」




そう彼女を慰めながら、紗弓は昴に振り返り、すがるような視線を送った。


その視線の意味を察した昴が、小さく肩を竦めると、安心させるように言う。




「そんな顔するな、紗弓。誰も、円さんを責めたりしねぇよ」




そう言って、会長椅子から立ち上がった昴が、円の座る椅子の前に来ると、彼女と目線を合わせるように膝をつき、真剣な表情で告げた。




「槍術部の一件に関しては、生徒会は一切関知出来なかったが、今後は部活動長に要もいるし、俺を含めた生徒会が、風紀委員会をバックアップしてやる。もちろん、不平不満があれば、遠慮なく言ってくれて構わない」




だからと、昴は今一度、彼女に風紀委員長の任を頼む。




「風紀委員長の件、承けてもらえないだろうか」




「大丈夫だ、円」




昴の言葉に続くよう、要が穏やかに笑い言った。




「オレが部活動長になった以上、槍術部のような真似は、もう何処の部活動にも起こさせない。だから、円も力を貸してくれないか?」




部活動長である前に、剣術部部長である要にとっても、槍術部との一件は他人事じゃない。


事実、未だに槍術部は剣術部を敵対視し、いさかいがなくなってる訳じゃなかった。




「……心強いわね、要も昴も」




そう小さく微笑んだ円に、黙って静観していた皆守が、穏やかに声を掛ける。




「沈んだ表情は、円らしくないですよ。いつもの君でいて下さい」




「お姉さま……」




皆守に続いて、ずっと手を握り締めていた紗弓が、按じるように見上げて来る。




「ありがとう、皆守。紗弓も……」




紗弓と皆守に勇気づけられ、昴と要の信じるに値する力強い言葉に、葛藤を打ち払い、円は覚悟を決めた。


憑き物が落ちたように、晴れやかな表情を見せた円が、椅子から立ち上がり、昴へ決意を口にする。




「風紀委員長としての務め、果たさせてもらうわ」




いつもの凜とした表情で告げた円の言葉に、昴が口角を上げ、不敵に笑う。




「決まりだな。期待しているぜ、風紀委員長さん」




「私は私なりのやり方で、風紀委員長をさせてもらうわ。こっちこそ、バックアップ期待してるわよ。生徒会長さん?」




目尻を細め、妖艶な微笑を浮かべた彼女は、昴のよく知る白石 円だった。




「取り敢えずは、当初の問題は片付いたか……」




会長椅子に戻った昴が、背もたれに身体を預け座ると、ホッと一息をつく。


しかし、まだ問題は終わらない。



生徒会の補充ももちろんだが、来週から始まる予定の、聖桜学園球技大会の準備も迫っている。



全く、次々と難題が舞い込むものだと、昴は生徒会小屋の天井を見上げたのだった。


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