円の決意(前編)
要と紗弓が円に会いに行ってから、15分くらい経っただろうか。
彼らの帰りを生徒会小屋で待っていた昴たちは、渇いたノック音に反応し、顔を上げた。
「ああ、入……」
入れと言う前に、扉が開けられ、黒髪の女生徒が躊躇いなく生徒会小屋へ足を踏み入れる。
一目で白石 円だと解った。
いや、顔見知りではあったが、やはり間近で見ると、迫力の美少女である。
「円、いきなり入ったら失礼ですよ?」
「気にしたら駄目よ。皆守」
彼女の行動をやんわりと皆守が諫めるが、円は全く意に返さず、妖艶な微笑を浮かべるだけだ。
「まったく、昴からも何か言って下さいよ」
「今更だろう。気にするな」
苦笑した皆守に話を振られた昴が、頬杖を付き、溜め息混じりに応えた。
紗弓の紹介で、数える程度に会ったが、我が道を行く彼女の言動を気にしてたらキリがない事に、昴は既に学習している。
そんな彼の返答に、円は含み笑いをもらした。
「分かってるじゃない。さすがよ、昴」
仕草の1つ1つが色っぽく、いちいち男心を擽る人だと、一騎は思う。
彼も彼女には会った事はあるが、昴ほど会話をした事はない。
「お姉さま。何処にいても素敵……」
姿が見えないと思えば、開けっ放しの扉の前で、紗弓が円の姿にときめいていた。
なので、後ろにいた要が中に入れずにいた為、見かねた昴が促す。
「取り敢えず、紗弓。後ろが詰まってんだ、中に入ってからやれ」
「はっ、す、すすすみません!要兄さま!」
昴の声で、我に返った紗弓が、慌てて後ろで立ち往生していた要に、ペコペコと頭を下げまくった。
どうやら、早速、兄さま呼びを始めたらしいが、昴も一騎も蕾も、気にとめていない。
唯一、誠だけが、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしていたが、紗弓は素敵に無視した。
取り敢えず、全員が生徒会小屋に出揃った所で、昴が生徒会長として、本題を円に告げる。
「さてと、円さん。現・風紀委員の貴女に頼みたい事がある」
さすがの昴も、彼女相手に呼び捨てに出来ないようだ。
「まぁ、生徒会に呼び出された時点で、なんとなく予想はついてるけどね」
対する円は微笑を浮かべたまま、悠然とした様子で昴の話を聞いていた。
「そうか。ならば回りくどい事は言わん。円さん、あんたを風紀委員長に就任したいと思っている」
「……やっぱり、その話」
そう呟いた彼女の表情は、何故か複雑そうだった。
身体を抱くように腕を組み、溜め息を一つ吐くと、斜め後ろに座る皆守を小さく一瞥する。
しかし、彼は穏やかな微笑みを浮かべたまま、厳しい言葉を返した。
「決めるのは円です。円の判断が適切なら、僕が干渉するつもりはありませんよ」
そう応えると思った。
皆守が甘くない性格なのは、よく解っているし、だからこそ、なんとなく彼に、厳しい意見を返して欲しいと思ったのだ。




