白石 円
騒がしい誠を一先ず、黙らせた所で、昴が紗弓を促す。
「とりあえず、紗弓。白石先輩を呼んできてくれ」
「え、は、はい」
先程まで、誠を怒鳴り付けていたとは思えないくらい、しおらしくなった紗弓が、昴の指示を受けると、席を立ったが、そんな彼女を要が呼び止める。
「オレも行こう。円なら、まだ剣術部の部室でマネージャーの仕事をしてたはずだ」
「はい、ありがとうございます。要先輩」
彼の申し出を素直に受け取った紗弓が、小さく微笑みを浮かべ応える。
そうして2人は生徒会小屋を出て、部室棟のある方へ小走りで向かった。
その道中、要は気になっていた事を聞いてみる。
「なぁ、紗弓。どうして、円の事を『お姉様』って呼んでいるんだ?」
「お姉様は私のお姉様ですから、お姉様って呼んでいるんです」
「え、あ、うん、なる、ほど? 」
むしろ、どういう事だと、答えになっていない彼女の返答に、要は更に頭が混乱するが、とりあえず埒があかないので、後で円本人に聞いてみようと思う。
そうこうしている間に、体育会系部活動の部室棟に到着する。
4階建てのコンクリート製の建物は、アパートのようになっていて、各階に6部屋づつ部室が入っていた。
そして、1階にある剣術部の部室が視界に入る。
その部室の前に、髪の長い女生徒らしか人物がいるのに気付き、要が向かいながら声をかけた。
「皆守」
「要、どうしたんですか? おや、これはこれは……」
彼に気付いた髪の長い女生徒のような人物が、要と一緒にいた紗弓の存在に気付き、にやりと口角を上げる。
環 皆守。
要の同級生で、同じく剣術部部員。
要とは従兄弟にあたる。
背中までの長い髪は絹糸のようにしなやかで、睫毛の長い瞳は何処か愁いを帯びており、人目を惹く美人な容姿をしている。
女子の学校制服用のスカートを、足首までの長さにしているが、身長が高いのでよく似合う。
女の紗弓から見ても、綺麗な人だと思った。
とても『男性』だとは思えない美人さだ。
「いけませんねぇ。タカのいない隙に、他の女性と浮気ですか? 全く、隅におけませんね、要は」
「ばっ、なんでそうなる!! 彼女は生徒会の子で、円に用事があるんだ!! 」
からかう皆守に、要が思わず眉を寄せて言い返すが、クスクスと笑うと、紗弓を見ながら言葉を続けた。
「知っていますよ。生徒会副会長の紗弓さんでしょう。円なら中にいますから、ちょっと待っていて下さい」
そう言って、皆守は剣術部の部室の扉を開け、中にいる彼女へ呼びかける。
「円、お客さんですよ」
「……お客? 誰かしら」
琴の音色のように凛とした声と共に、部室の中から、1人の女生徒が顔を出す。
烏の濡れ羽色の黒髪を腰まで伸ばし、儚げな色白の肌と相反するように、芯の強い瞳は魅力的で、誠の言っていた『氷の女王』と言う異名も納得できた。
白石 円。
彼女こそが、生徒会の探していた人物。
「あら、紗弓」
「お姉さま!! 」
彼女に気付いた円が名を呼んだ瞬間、紗弓の表情が華のように明るくなった。
「それで、要まで一緒にどうしたのかしら。紗弓と一緒にいるなんて、浮気は駄目よ」
「お前らは、揃いも揃って……」
自分はいったい、どんなイメージなんだと、要は項垂れてしまうが、その横では、紗弓が改めて挨拶していた。
「お久しぶりです、皆守兄さま。円お姉さまとも、変わらず仲睦まじく、嬉しいです」
「いえいえ、紗弓さんも副会長として頑張っているようで、偉いですね」
「そ、そんな事ないです。ありがとうございます、皆守兄さま」
皆守に褒められ、紗弓は嬉しそうに笑う。
なので要は、放置されていた疑問を口にする。
「ずっと気になっていたんだが、お前たちはどうゆう関係なんだ? 」
「お姉さまと兄さまですよ、要先輩」
「いや、うん、そうなんだが……」
相変わらず要点を得ない紗弓の答えに、要は苦笑を浮かべてしまうが、そんな彼女を制した円が代わりに応える。
「紗弓、此処は私から説明するわ。あのね、要。私と紗弓は姉妹なのよ。と言っても、血の繋がりはないのだけど」
「は、初耳だぞっ!? 」
「おいそれと拡げる話じゃないでしょ。まぁ、つまりはそうゆう事よ」
あっさりとした円の説明に、要は驚きつつも、ようやく納得がいった。
つまり、こうゆう事である。
「円と紗弓は姉妹で、だから姉か。そして皆守は、円の恋人だから、兄同然だから兄さまって訳か……」
「「正解」」
円と皆守が綺麗に声を揃えて応える。
相変わらず仲が良い。
納得している要に、紗弓が懇願するように訊ねた。
「あ、あの、もし良かったら、要先輩の事も、兄さまと呼んでも良いでしょうか? 」
「あー……うん、好きにどうぞ……」
つまり、皆守の従兄弟の自分もまた、兄のような存在なのかと察した要が、乾いた笑顔を浮かべてしまう。




