就任(前編)
昴が心当たりとなる人物を思い悩んでいた為、自然と一騎や紗弓たちは沈黙を守る。
蕾も足をパタパタさせながら、暇潰しに室内をキョロキョロ見渡していた。
もっとも誠は会話についていけずに、すでに持ち込んだポータブルゲームでギャルゲーを始めている。
そんな沈黙を破ったのは、扉を叩く音だった。
「剣術部部長、己嶋 要だ。入っても構わないか?」
「ああ、構わん。入れ」
促した昴の声を合図に、生徒会小屋に入って来たのは、少し伸ばした緋色の髪を、項で束ね、右方に鋭い刀傷が残った顔は精悍で、そこに黙って立っているだけでも、存在感を強く際立たせている男子生徒。
彼こそが、件の人物・己嶋 要である。
剣術部部長と言うだけあり、逞しい体躯だ。
身長も、昴ほどとはいかないが、それなりに長身が高い。
剣の腕でもそうだが、それ以外にも一目置かれているのが頷けると、昴が彼を近くの椅子に促しながら思った。
「悪いな、突然呼び出して」
「いや。こっちこそ助かった。人払いの件、ありがとうな」
そう感謝の言葉を口にした要が、昴に一礼し、少し離れた席にいた蕾と誠にも、同じく礼を口にする。
「蕾に誠だったか。お前たちもありがとうな、お陰で大事な話をゆっくりする事が出来た」
「おうよー!どういたしましてだじぇい!」
「いやーそれほどでも~。この海老沢 誠にかかれば、あんな事、造作もないんでね!! 」
明るく応えた蕾はともかく、凄い得意気に胸を張った誠の態度には、すかさず蕾がローキックを入れる。
「オメーは、ひっきりなしにナンパしてただけだろーが!! このエロザリガニ!! 」
「あうーんっ!! 」
ローキックを喰らわされた誠が、何やら気持ち良さそうな悲鳴を上げた為、表情をひきつらせた紗弓が、「気持ち悪い」と呟く。
「ああっ!! 胡蝶さん、その蔑むような眼たまらないね!ゾクゾクするよ!! 」
「きゃあああっ!! 本気で気持ち悪いっ!! 」
変なスイッチが入ったのか、息遣いを荒くした誠が紗弓に這いずり寄った為、ぶっとい青筋を浮かべた昴が、近くにあった銅器の置物を投げつけ黙らせる。
「せやから、昴。鈍器はあかんって……」
「知るか」
笑顔をひきつらせた一騎が、床でピクピクと痙攣してる誠を見やりながらぼやくが、吐き捨てた昴が改めて要に話かける。
「悪いな、騒がしくて」
「いや、楽しそうで良い。生徒会メンバーは、仲が良いんだな」
そう穏やかに微笑んだ要の様子に、昴、一騎、紗弓は、彼と言う人物像を改めて知る。
剣術家としての己嶋 要は、全学年を通して知らぬ者はいない程の猛者だが、一個人としての要は、年齢、性別問わず友好的で誠実だ。
だからこそ、年下だろうと、抵抗なく礼儀を通せる。
「ま、ボクも仕事だし。またいつでも頼ってよ、要さん」
再び椅子の上で胡座をかいた蕾が言う。
どうやら、先輩呼びが堅苦しく感じたのか、さん付けで彼を呼ぶ事にしたようだ。
もちろん、要もそんな小さい事は気にしていない。
と、その時。
昴が軽く咳払いし、本題を話す合図を一騎たちに送る。
「要、いいか」
「ん、ああ。すまない、始めてくれ」
昴は会長席に座り直すと、真っ直ぐに要を見据えて告げた。
「要、いや、敢えて剣術部の部長としてのお前に頼みたい。すでに噂を聞いてるかもしれないが、お前を部活動長、または風紀委員長にと言う推薦が多数きている」
「ち、ちょっと待て。オレに、その部活動長と風紀委員長の両方をやれと?! 」
案の定、驚きを見せた要が声を上げる。
だが、無理はないだろうと、昴は静かに眼を伏せた。
剣術部部長、部活動長、風紀委員長の一人三役はとてもじゃないが、無理な相談だ。
「あ、あの、さすがに要先輩でも一人で三つの役職をこなすのが難しいのは、解っています」
「そうや、だから先輩には部活動長をお願いしようと思っとったんです」
昴のフォローをするように、紗弓と一騎が口々に言い、頭を下げた。
そして、再び昴が口を開く。
「責任の重い役職の為、誰もやりたがらない。俺も、無責任な奴にはやって欲しくないんでな。その点、お前なら信頼できる。頼まれてくれないか?」
真剣な昴たちの頼みに、要は腕を組み、少し考える。
正直、信頼し頼られるのは嬉しいが、さすがに即答できる問題ではない。
「……各部活動の費用を管轄するのは生徒会で、トラブルが起きた際に対処するのが風紀委員。じゃあ、部活動長の管轄はなんだ?」
ふと抱いた疑問が、口をついて出た。
あまり聞き慣れない部活動長の管轄は、すぐに思い浮かばない。




