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high school symphony  作者: 結城麗漓
14/16

動き出す陰謀 (其の壱)



生徒会小屋に戻るなり、昴は蕾に声をかける。




「戻ったぞ。蕾、試算済んだか」




「今日子がやった~。てか昴、今日子スゲェな!」




回転椅子に胡座をかいて座った蕾が、眼を爛々と輝かせながら応えた為、昴は眼を通していた書類から顔を反らす。


難しい案件の書類なのか、その表情はしかめっ面だ。


なので、一騎が代わりに疑問を訪ねる。




「蕾先輩。今日子ちゃんが、どないしたって? 」




「おうよ!球技大会の試算、ぜーんぶ暗算で答えるだぞ!! 今日子って、めっちゃ頭良いのな!」




「そら、すごいわ。今日子ちゃん、数学得意なんか? 」




「は、はうっ、と、とんでもないです。得意だなんて、そんな恐れ多くて……」




話を振られた今日子が、両手と顔を同時に振りながら応えた。


褒められ照れた顔は真っ赤で、昴ではないが、確かに可愛らしいと、一騎や蕾が納得する。




「得意なら得意で良いだろう。何も恥じる事はない、誇って良いぞ。今日子」




同じクラスだからこそ知っている。


今日子はいつでも、授業を真面目に受け、真面目に勉強していた。


その努力がこうやって結果になっているなら、それは謙遜せずに誇って良い事だと、昴が書類を見ながら告げる。


そんな彼の言葉を、今日子は素直な気持ちで受け取り、朗らかな笑顔を返す。




「ありがとうございます、紫狼くん」




「別に……」




どうやら此方は照れ臭いらしく、書類で顔を隠した昴がぶっきらぼうに呟く。



初々しい彼らの様子に、一騎や蕾だけじゃなく、紗弓、そして要と円も微笑ましく笑った。



その時、生徒会小屋のドアを叩く、軽いノック音が響く。




「失礼します」




(タカ)。どうしたのですか? 」




落ち着いた声音で挨拶し、生徒会小屋に姿を見せた男子生徒に、今日子が一番に反応し、声を上げた。


癖のない真っ直ぐな黒髪と、隙を見せない無愛想な表情の男子生徒に、昴は見覚えがある。


いや、見覚えもなにも、クラスメートだ。


確か、今日子の幼馴染みで、(マユズミ) 尭之丞(タカノジョウ)と言う、なかなか古風な名前だったろうか。



要と同じ剣術部部員で、彼の後輩にあたる。


以前、今日子が言っていた『剣術部にいる友達』と言うのは、恐らく彼の事だろうと、考えながら、昴が来訪の理由を訪ねた。




「なにかあったのか、黛」




「海老原って生徒、生徒会(こちら)の人ですよね」




誠の名前が出た時点で、昴はもの凄く嫌な予感がしてしまう。


げんなりとした表情で、一先ず尭之丞の話を促す。




「あいつが、何かしたのか? 」




聞かなくても、予想はつくけどと、昴は溜め息を漏らしてしまう。




「『やっぱり、俺には力仕事は合わない。アディオス』とか言って、看板の取り付け途中で逃げました……」




呆れた様子で溜め息を漏らした尭之丞の話に、昴は頭を抱えて、今一度、深~~い溜め息を溢す。




「……あのドブガニ、あとでしばく」




「逃げた時に、取り付け途中だった看板も落としていったから、お陰で看板に少し(ヒビ)が入って、今急いで修理中です。会長、あの人、見付けたら斬って良いですか?」




「た、(タカ)、お、落ち着いて……」




物騒な発言をする幼馴染みに、今日子が青ざめるが、気持ちは解ると、昴が彼女を手で制した。




「見付けたら、切るなり、炙るなり、好きにして良いぞ。あんなザリガニ。それから、黛。同級生でクラスメートなんだ。敬語は使わなくて良い、呼び方も普通に名前で呼べ」




「……解った。そうさせてもらうよ」




少し考えた後、頷いた尭之丞が了承の返事を返す。


どちらの事に対しての了承かは解りにくいが、とりあえず敬語はなくなったので、良しとしよう。




「それにしても、黛。そっちには皆守(ミモリ)もいただろう? 何故そうなったんだ? 」




彼らの話を聞いていた要が、疑問に感じ口を挟む。


なので、困ったように肩を竦めた尭之丞が説明する。




結城先生(こもん)に呼ばれて、席を外した隙に逃げました」




「……まったく、あのドブガニが」




こめかみを押さえた昴が項垂れてしまう。


このまま誠を野放しにしていたら、一般生徒からの、生徒会への信頼度が暴落してしまうだろうか。




「すまん、黛。ザリガニの件は、俺の不手際だ」




「別に、逃げたのは海老原の勝手だし、あんたのせいじゃない」




ただと、今日子の方を見やった尭之丞が、少し棘のある口調で続けた。




「此方も人手が足りなくなっているし、そろそろ今日子を連れて行きたいんだけど。クラスの女子たちも、煩く言い始めてるし」




昴の傍に置いておきたくない。


そんな意味合いも含めた尭之丞の言葉に、昴はしばし無言を返す。



尭之丞が今日子の事を、幼馴染み以上の存在として見ている事は、さすがの昴でも解っていた。


また、彼の言う通り、クラスメートの一部女子が、今日子だけが生徒会の手伝いに回っている事をやっかんでいる事にも気付いている。



余計な波風を立たせない為なら、此処で今日子を帰すべきなのだが、昴はそれを受け入れなかった。




「悪いな、黛。此方も大忙しなんだ。外の準備が出来たとしても、書類上で準備が出来てなかったら本末転倒。そうだろう?」




少し嫌味が強い言い方だったかもしれないが、昴も意地を譲れなかった。


人手不足で忙しいのもお互い様だが、今日子を傍に置いておきたいのも、お互い様だ。




「とやかく言うクラスの女子は、後で俺が黙らせる。そっちが人手不足ならば、此方の仕事が終わり次第、手伝いに向かう」




「……それは、生徒会長としての意見かい? 」




「そうであり、俺個人としての意見でもある。好きなように解釈してくれ」




昴と尭之丞。


厳しい視線を真っ正面から突き合わせ、静かに火花を散らす。


成り行きを傍観していた紗弓が、オロオロしたように2人を交互に見やるが、彼女以上にオロオロしているのは、もちろん今日子である。




「あ、あああの、尭、クラスのお手伝いには、後で必ず向かいますので……。紫狼くんのお仕事をお手伝いする事にしましたのも、私が決めた事ですし……。その、ですから、えっと……」




眉を八の字に垂らし、険悪な彼らの様子に慌てる今日子を見かね、一騎と蕾が動く。


狼狽える今日子の頭を、ポンポンと、優しく叩いた一騎が、睨み合う昴と尭之丞を諌めた。




「ほいほい、そこまでや。今日子ちゃんが困っとるやろう。肝心のお前らが今日子ちゃんを困らせて、どないすんねん」




一騎の的を得た意見に、昴と尭之丞はムキになってた自分自身に気付き、返す言葉もない。



そして、昴の座っている会長椅子の背凭れ部分を、蕾が軽く蹴った。




「なんだ、蕾」




少し眉を寄せた昴が振り向くが、制服の上に着ているパーカーのポケットに両手を入れた蕾は、呆れたような表情で促す。




「っーかさぁ、一番悪いのはザリガニの馬鹿なんだし、あいつを探して、今日子の分も働かせれば良いんじゃね」




「そやなぁ、それもこれも、ザリガニが逃げたせいやし」




蕾の意見に同意した一騎が口添えし、後ろで話を聞いていた要と円、そして紗弓が確かにと、頷いていた。


なので昴は腕を組み、暫し考えた後、結論を出す。



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