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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

曖昧なチョコレート

作者: 西村颯斗
掲載日:2015/02/04

私はあなたの一番じゃない。

きっと私じゃあなたの一番にはなれないの。

だってあの子が居るから。とっても邪魔なあの子が。


でも、今このときだけは私だけのあなたで居てくれませんか......?




今日はバレンタイン。

たくさんの人々の想いが交差する日。


満天の星空の下。

彼の家の前で私は彼が帰ってくるのを待っている。

まだ寒い冬の夜。

冷えきった自分の手に息を吹きかける。


きっと今頃は彼女と笑い合っているのだろう。

そんな姿を想像しては湧き上がる憎しみを押さえつける。


私の想いはきっとあの人には届かない。

だって彼にはもう彼女がいるから。


彼女の名前は小沢リナ。

リナは私が心から信頼していた友人だった。

だけどリナは私を裏切った。


私が彼のことを好きだと知っていながら、彼のことを私の目の前で奪っていった。


許せない。


リナはきっと私のことを友人だとも思ってなかったに違いない。

タイムラインの投稿をわざわざリストを作ってまで私に見えないようにしていたものね。

知ってるよ。私は。

だって私にはリナとの共通の友人はたくさんいるもの。


みんなみんな私にたくさん情報をくれる。

全部私の見方。

もうリナのことを信じてる人間なんてリアルには誰もいない。

信じてる人間がいたとしてもリナのネット上の友達くらいだと思う。


リアルでどんどん孤立していくリナを見てるのはすごく愉快だった。


一方、あの人と仲良くしているリナを見るのはすごく不愉快。

SNSでのペア画やペアネ、いかにも愛し合ってる風な一言、お揃いのブレスレットをわざと見せ付けてくる。

そんな行動を見るたび吐き気がするほどムカついた。


絶対に私を敵に回したことを後悔させてやる。

そんな思いでずっとチャンスを探していた。


そしてやっとチャンスが見つかったの。

それが今日。バレンタインの夜。

今から計画を実行します......。




遠くから彼が歩いてくるのが見えた。

私は彼に向かって手を振った。


そうすると彼はすぐに気づいて私のところまで駆け寄ってくる。


「どーしたの?こんな時間に。」


彼は慌てたように聞いてきた。


「今日だけはあなたに会いたかったから。だめだった......?」


「い、いや。だめじゃないけど。ちょっとびっくりしたよ。ここじゃなんだし僕の部屋入る?」


私は小さく頷く。

そしてそのまま二人で部屋の中へ入って行った。



部屋の中は外より暖かい。

この部屋に入るのは久しぶりな気がする。

前とあまり変わらない部屋の雰囲気の中に一つだけ変わっているところがあった。


リナとのツーショット写真。

それが机の上に置いてあった。

写真に写る二人の姿はとても幸せそうで......。


パタンッ......。


写真を眺めていたら後ろから彼が写真たてを倒して見えないようにしてしまった。


「ほら、暖かいココア入れてきたから一緒に飲もう。寒かったでしょ?」


私は彼に促されるままに彼の隣に座る。

彼がさりげなく私の手に彼の手を重ねてきた。


驚いて彼の方をみる。

彼の瞳はまっすぐ私のことを見ていた。

それは前と少しも変わらないもので、私の鼓動は高鳴る。


「シオリは僕のことどう思ってる......?」


「わ、私は......。」


真っ直ぐなあなたの瞳に心の中まで見透かされてしまいそうで少し怖い。

私はあなたから視線を逸らした。


好きだなんて言えない。

本当はまだ今も大好きで大好きで仕方ない。

でもそんなことを言えばあなたはきっと困ってしまう。

だってあなたには......。


「......私は嫌い......あなたのことなんて嫌い......だよ?」


私は嘘をついた。それは冷たくてとても悲しい嘘。

今にも泣き出してしまいそうな私はもう涙を堪えるので必死だった。


「もう......。そんな嘘僕にはつく必要ないのに。ほら、顔を上げて?」


首を小さく横に振り、やだと呟く。


「全く、困った奴だな。」


彼が私の顔を覗き込んでくる。

そして、そのままやさしくキスをした。

懐かしい感触。彼の香り。

楽しかったあの頃を思い出し、堪えきれなかった涙が頬を濡らす。


「僕はシオリのこと好きだよ。」


......嘘だ。そんなことありえない。

私の気分はその一言で一気に冷めてしまった。


「嘘だ。そんなこと信じられるわけないよ!!いつもそうやってたくさんの女の子たちを落してきたんでしょ?リナにだって同じこと言ってるんでしょ?!」


私は隠し持っていたカッターナイフを取り出した。


彼は私の突然の行動に驚いて何も言えない。


カチカチカチ......。

カッターの刃を出す音が部屋中に響く。


そしてカッターを使ってあなたの顔を切りつけた。

肉を切る嫌な感覚が手に伝わってきた。

それと同時に彼の頬から鮮血が流れ出す。


「......あはっ。あははははハハハははははははははハは。」


さらに大好きな彼の顔を切りつけていく。

狂ったように何度も何度もなんどもナンドモ......。


私が切ることを止める頃にはもう彼の顔は血で真っ赤に染まっていた。

そこら中に彼の血が飛び散りまさに地獄絵図。


「やった!!ついにやった!!これであなたは私をずっと覚えていてくれる!!決して私のことを忘れたりしない。顔の傷を見るたびに私のことを思い出してくれる!!あははハはハハ!!」


私はついに悪魔になってしまった。

こんな私は消えたほうがいい。

きっとこの世に私の居場所など何処にもないのだから。


私は彼の血で赤く染まったカッターを自分の喉元に突きつけた。

ザクッ......。

肉の裂ける音が私の耳にまで鮮明に届いた。


私が倒れこんだ床には彼に渡せなかったチョコレートが転がっていた。

血に染まりもう食べられないチョコレート。


せめて彼に渡したかった。

おいしいって笑って欲しかった。


最後に浮かんだのはあの夏の日、彼の眩しい笑顔。

どこから狂ってしまったのだろう。


全てが輝いていたあの日々にはもう戻れない。




......。

目を覚ますとそこは病院のようだった。

白い天井。白い壁。

そして真っ白なベッドに横たわる重たい身体。


隣を見ると顔に傷のある男の人が座っていた。


「おはよう。やっと起きたんだね。」


一体あなたは誰?


問いかけようとして初めて声が出ないことに気づく。

何度か声を出そうとしてみるが一向に出来ない。


「あぁ。君は声を失ってしまったんだよ。あの時のこと覚えてないかな?」


そういえば私は何も覚えていない。

自分がどうしてここにいるのか。

今がいつで、あなたは誰なのか。


私は何か大切な記憶を失くしてしまったようで大きな不安が広がった。


「大丈夫。今度こそ僕が君を全てから守って見せるから。本当に君を......君だけを愛してるから。」

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