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256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第十章 ロジカ//ライズ
28/32

hack 28

2-3組。

ここの鍵までしまっていたらどうしようかと思ったが、

ドアはすんなりと開いた。 

普段、教室のドアは最後まで残った人間が閉めて行く決まりだ。


完全下校まで校内に残っている生徒、部活動をやってる人間、

教室でカードゲームに熱中している男子――。


恐らく、そうした生徒が鍵を掛け忘れてくれたのだろう。

寧音は無意識に自分の席へと付いた。


なんだか登校したのは久しぶりな気がする。

何時だったか、くじ引きの席替えで引き当てた三列目の真ん中の席。 

可能なら窓際がよかったが、生憎その時点で運は味方に出来なかった。


45分経過――。


地震などこない。


窓際に移動して、すっかり陽の暮れた都市を見渡した。


 「え……」


寧音はそこで驚くものを目にした。


 “すっかり陽が暮れた” のではなく――


都市全体に明かりが灯っていない。


地震が来た訳でもなく、都市全体が大停電を起こしている。

寧音は教室の電気のスイッチを弄った。


 「付かない……」


地震ではなく、大停電は本当にやって来た――。


 「いよいよ始まるのか」

 「いよいよ始まりますのね」


アナとログが突然、喋りだした。


 「お前とは短い付き合いだったけど、それなりに楽しかったぜ」

 「わたくしもですわ」


 「え……」

なにそれ、お別れみたいな言い方。


 「俺たちとお前は、ここでお別れだ」

 「わたくしたちは元のマスターのところに戻りますわ」

 「も、元のって――」


 「元のマスターから言伝を預かってる。 

一回しか言わないから良く聞けよ?」


ログはそう言って、言葉を続けた。


 「追伸。 君の成果は十分なものとは言えなかったが、

此方の要求が強欲過ぎた、とも言える。 

それでも君は、我々の計画の一端に十分の成果を出してくれた」


 「「メビウス計画は、今を持って発動される」」


 「「計画によって君の稀なる病は完治され、

ネットワークは初期化される」」


 「「岩瀬寧音、これが君の以て行った協力の成果だ」」


 「「協力に感謝する――」」


アナとログは声を重ね合わせ、

それらを言い終えると光の鱗粉を散らしながら、

画面の中から消えた。 


そしてアプリケーションも自動で消えていく――。


 「計画の発動――?」


呆然とそれを見つめる寧音。


アプリケーションが完全に消えると、突如の頭痛が走る。


 「な、なに、これ……き、気持ちわるい……」


頭蓋骨に穴を開けられ、鉄の棒を埋め込まれるような不快感。


ふと落としたスマホの画面を見ると、

今までアンテナ5本立っていたものが、県外と表示されていた。


 「……だ、ダメ――苦しい……」


呼吸が辛くなる。

視界が揺れる。

全身に寄生虫が走る――。


悶え、吐き気を殺し、机のパイプに縋り付く。


  「……はぁはぁ……た、たすけ――」


 ※


都市は大混乱に陥っていた。


都市を輝かせる全ての電力が失われ、携帯電話の電波さえ届かない。

人々は自我を忘れ、混乱を極めている。


そんな中、一人だけ、唯一の世界を無視し、

電話を耳に当てながら通話をしている女がいた。


 「停電は成功したわ。 残りの方はどう?」

 「オーケー。 都市を束ねる、ネットワークの中枢の侵入に成功。 

けどやっぱ出力クラスタ不足で世界にまでは届かない。 

東京都全体のデータが抹消出来れば良いほうだろうね」


やはり、ネットワークの初期化なんて不可能なのだ。

東京ですらこの規模の有様。

世界中のネットワークなど、理想と妄想も甚だしい。


 「……でも成功すれば十分な結果と言えるわ」


 「僕の将来の夢は天才ハッカーになる事だからね。

このぐらい出来ないと注目して貰えない」


 「世界のネットワークを初期化なんて野望、

長編スペクタクルな映画でもない限り、元々無理だったんだよ。

つまりフィクション、夢物語だったのさ」


靑木の言う通り。


だけど、これは彼の悲願でもあった。 

悲願を妄想にしない為にも、だから、今ここで、

出来る限りのことは尽くす。 


例えそれが失敗したとしても。


あの娘の為にもなるのなら――。


 「ま、俺は楽しかったから良いけどよ」

 「それに実際、ネットが使えなくなったら困るのは僕らだしね」

 「……そうね、今までありがとう」


明里は珍しく、感情の篭った声で礼を言う。


 「な、なんだよ急に改まって……これが終わったら、

また大学のサークルに戻って、馬鹿やるんだろう? 姉さん」

 「ふふ、そうね」


混乱する人々とは真逆に彼女は不覚にも、笑顔がこぼれた。


 「それじゃ、行ってくるわ」

 「ああ、気をつけて」

 「健闘を祈る」


明里は歩き出す。


闇に食い潰され、混乱した都市をすり抜け、

GPSの示している彼女の居る場所へ――。

十章 ロジカ//ライズ

完結

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