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256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第十章 ロジカ//ライズ
26/32

hack 26

情緒不安定――そんな言葉がしっくり来る。 

うつ病患者特有の倦怠感や、矛盾した無感情に寧音は悩まされていた。 


この事件の真相を知る一人の人間として落ち着いていられない。


自分の住む都市で、こんな大事件が起きた。 

災害なら災害で、それなりの理解として受け入れられるが、

今回の件は全く別だ。 


災害と事故では雲泥の差。

自分のブログ更新から半日以上経った今でも

『管理者』 からの返信はない。


このままニュース番組を見続けていても意味がない。


そう、判断した寧音はとりあえず、外へ繰り出す事を決めた。


通学、通勤の類は、電車の運行の目処が経たない為、学校は休校に。 

仕事のある人間――寧音の父親も臨時休暇となっていた。


心配する家族を無視して、寧音は外へ出た。


外の空気を吸うとまた気持ちがひとつ違う。

新鮮な空気が肺の中を通過して、

想像していたより、自分は落ち着いているな、と思った。


とりあえず、事故現場の様子を見に行こう。 

普段ならバスを使い都市部へ向かう所だが、

バスも昨日の信号機トラブルの影響で運休している。


徒歩で20分ぐらい掛かるが、

街の様子を見て回って歩けば案外すぐ着くだろう。


街の雰囲気は思っていたより、平然としていた。

普段と何ら変わりはない。 

皆、外出を恐れて家に引き篭もっている――そんな様子もなく、

犬を散歩させたり、植木の世話をしたりしていた。


都市部よりは、少し離れたこの地なので、

感心がなくはないが、無関係を保てるのだろう。


地震等、何時起こるか分からない災害との危機感の違いだ。


或いは日常の行動を維持することにより、

恐怖から目を逸らしているだけかもしれないが――。


都市部へ近づくと、人々の様子の変化や、

煙の匂いが濃くなってきた。


黒焦げになった車が路上の真ん中に放置されている。 

衝突し、ボコボコに凹んだ車や横転したトラックもそのままだ。


寧音の心は、それでも平然としていた。


この世界観に慣れたのかもしれない。 

又は、もう麻痺してしまっただけか。


黄色い封鎖線の敷かれた中で、

警察や自衛隊員が事故現場の捜査を行っている。


事の重大さを改めて身で感じさせられた。


ニュース番組で良く見かける、中東の戦争を連想する。


焦げた地面を避け、なるべく歩道を歩くも、

ガードフェンスが砕けていたり、歪んでいたりと、

その効果を果たしていない。


流石に近所と違い、都市部の方は多くの人が行き来している。

野次馬が殆どか――。

携帯でカメラを向けている人が目立った。

写真に動画、どうりでネット上に情報が溢れる訳だ。


寧音は横目ですり抜けて、都市を闊歩し続ける。


さてようやく、問題の列車落下現場へと到着した。


警察が道を塞ぎ、そこに群がるマスコミや野次馬たち。

背の低い寧音には、背伸びをしてもその向こうを伺う事が出来ない。

諦めてその場を離れる。


改めて現場を見ると、お祭り気分、としか思えない光栄に映った。


場所を変えて、遠目に列車の落下現場を見る。

車両二体が落下。 高架線の上では転倒した車両。

風景には、未だ煙りが上り続ける車や、消火活動の止まない

消防隊員の慌ただしい行動――。


これは現実――ドラマでも映画でもない。

未曾有の世界が広がっていた。


 ※


 「都市のほうで、大惨事が起きてるそうじゃない」

収監施設で襟原が檻の外の看取に言う。


 「そんであんたはこんなつまらない仕事を熱心に全うしている」


 「こう言う時って精神科医にとっては商売チャンスなんだよねー。 

心の病んだ人間がわんさか押し寄せてくる」


 「とりあえずPTSDにしておけば診察も楽だし、

予約なんて三ヶ月は一杯になるほど大繁盛」


 「この商売チャンスを逃すなんて、ツイてないなぁ」


看取は何の反応も見せない。


 「ねえ、君が一人、熱心に六時間も突っ立てるから、

こうして会話相手になってあげてるって言うのにさ、

ずっと無視するってちょっと酷くないかい?」


 「外に出たいなぁ」


襟原の独り言は虚しく、空調設備に切断される。


 「ふん、売春に児童ポルノ、違法薬物の摂取に取引、

お前みたいのは一生、檻の中がお似合いさ――。 

ぐらい、罵ってくれてもいいのに」


 「あ、そうだ――里見ちゃんはどうしてる?」


里見も一緒に逮捕されたが、処遇は全く違うはずだ。


 「彼女はちょっと僕に手を貸してくれただけ。

僕よりマシなんだし、案外すぐに出して貰えるのかな?」


 「まあ、僕もその気になれば稼いだお金で、

すんなり出られる訳だけど」


 「けど、今は外に出ない方が良いのかなぁ」


 「ねえ、そう言えばどうして、流失なんてしたんだろうね」


 「個人情報の流出なんて今時、日常茶飯事でしょう? 

対岸の火事かと思って見てたら、まさか自分に降りかかるとは。 

とんだ災難だよ」


 「でも此処に入れられたおかげで僕は助かった」


 「だって、外に居たら僕も巻き添えを食らっていたかもしれない。 

個人情報を流出させてくれた誰かさんには、

感謝しないといけないのかなぁ」


 ※


近くの精神科へ寄った。


事故の件とは別に、人混みに酔って頭痛や吐き気が酷くなり、

駆け込むように立ち寄った。 


以前、盥回しにされた内の一つの病院だが、

精神安定剤さえ処方してくれればそれで良い。


しかし、怪我人でもないのに、今日はやたら患者の数が多い。

完全予約制ではないから、この大惨事に不安を感じた人間が、急いで

駆け込んできたのかもしれない。


二時間は待たされ、診察は5分で終わった。


適当に鬱病の症状を説明し、

以前、ヤブ医者から処方されていた薬を所望した。 


先生は殆ど寧音と目を合わさずに、 「分かりました」 

などと軽く言って、診察終了。


次から次に患者が駆け込んでくるので、

一々与える薬を考えたり、話を聞いている余裕もないのだろう。


薬局でも1時間は待たされた。

各病院から押し寄せる患者達で、人手不足と薬の在庫切れが発生し、

取り寄せや、調合に時間が掛かっている。 


不眠症や、ただのかすり傷程度で通院しているのだったら

家に篭もっていてくれたほうが良い。

本気で困ってる患者の邪魔だ。


薬をその場で飲もうと、自販機を探したが全て品切れだった。

何件か自販機を見回るも、何処も品切れ状態。

お汁粉すら、品切れていた。


 「……にがい……」


デパスは舌下でどうにかなるが、その他、抗うつ薬は舌下に向かない。 

苦いし、中々溶けてくれないし、舌がピリピリしてくる。

唾を溜め込んで、喉に無理矢理通した。


今度は喉がヒリヒリと痛み始めた。


外出なんてするんじゃなかった。


次第に、精神が落ち着いてくる。

気がづけば、もう夕暮れだった。


崩壊の光景を見せた都市も、夕暮れの中で血を吐き、

冷たく転がる、メッキのようだ。


帰宅しよう――。

そうベンチから立ち上がった時、思わぬ人物と遭遇した。


 「あれ、いつかのお嬢さん?」


チャラチャラした何時か襟原メンタルで見た男だった。

あまりに場違いな雰囲気を醸していたので、今でも覚えている。


 「あ、あの時の……」

 「おぉ、俺のこと、覚えててくれたんだ。 うれしいねー」


今日も香水の匂いを撒き散らしながら、

満面の笑みを浮かべている。 

真正面から彼を見るのは始めてだったが、案外整った顔をして、

この胡散臭い雰囲気を除けば、それなりのイケメンとして、

女子からの人気も高くつくかもしれない。


実際、こうして一人で居る女に声を掛けてくる辺り、

色々な意味で警戒に超した事はなさそうだ。


男は寧音の隣に座り、気安く話しかけてくる。


 「その後の君の体調はどう?」

 「別に――」

 「俺は不眠症を患っててさ、なんつーか、あれよ。 

酒と一緒に飲んで寝ると、ふわふわーってならない? 

ああ、君はまだ未成年か――」

 「睡眠薬は飲んでないので……」


あら、そうなの、と以外そうな反応。


 「なんだか顔色悪いし、眠たそうに見えるから、

君も俺と同じ、不眠症かと思っちゃってたよ」

 「元からこう言う顔です……」

 「しっかし参ったね、あのヤブ医者が捕まるなんてさ。 

あそこだけだったんだよー最大量超えても処方してくれるの。 

まさかあんな外道だったとはね」


寧音は、はあ、そう、いえ、とか、そんな単語しか返せなかった。


 「都市もなんか物騒なことになってるしさ」

話によると、彼のバイクもトラックに衝突され、

オシャカになってしまったらしい。


 「ったく、この都市のインフラは脆弱すぎんのよ」

 「え……」

 「だってそう思うでしょう? こんなの人間の手じゃないと

引き起こせないよ。 ただの衝突事故なら普通にあるけど、こんな

立て続けに、それも大規模に。 テロリストはよっぽど

この国に恨みがあって、念入りに計画を立てたんだろうね」


寧音には心辺りがある分、その反応には困った。

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