表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第九章 インフラストラクチャー
23/32

hack 23

まずメビウス計画の実行にはテストが必要だ。


何事もぶっつけ本番なのは良くない。 

これは経験上、そしてチームの意向でもある。

いざと言う時の為の最終確認テストと言っても良いだろう。


青木は自分のスマートフォンとは別に、

SIMフリーの二台目の電話を持って、夕暮れの都市を練り歩いていた。


マップアプリの画面には明里の調べ尽くした、都市の

脆弱ポイントがマーキングされている。


それは最早世界全体、そのものが脆弱であると言っても過言ではない。

地球及び宇宙の誕生秘話は科学によって証明されたが、

同時に科学技術の進歩の代償とでも言うべき、

欠陥の免れない、不完全な没落システム

人類は支払う結果となったわけだ。


どの範囲で、どの程度、暴れられるのか――。

余興の開始はどの場所にしよう。


頭の中を巡る様々な憶測、短編映画のように描かれる妄想。

こうしたものは考えている時が一番楽しい。


 「よし、まずは、あの交差点にしますかねえ……」


青木はフードを被って歩き出す。 

夕日に照らされ、行き交う人々は茜色の中を何も知らずに歩く。


一歩、歩みを進める毎に短編映画は、

クライマックスを妄想リピートする。

その感情は次第に悪意を秘め、膨れあがって行く。


だが、妄想だけでアドレナリンを枯らしてしまうのは愚考だ。 


恐らく、一度は誰かにも経験があるはずだ。

ネット上で、自分は正しい意見を主張したつもりが、

何故か匿名相手の反感を買い、炎上や揉め合いになった事。


或いは、高飛車に調子に乗った相手が、理不尽に

此方を言い攻めてくる経験が。 


そしてそんな時、思う。


『こいつ、殺してやりたい』


そんな思いが芽生えるんだ――。


さて、はじめようか――。


 「余興その一、今日は夕方から夜にかけて、

みーんなは、このニュースに釘付けになることでしょう。 

大人も子供も、みーんなね」


赤信号で停車している道路で、青木はスマートフォンを操作する。


信号機の脆弱を確認。 


アプリのボタン一つで、ハッキングを開始。

赤信号を青信号に変更した。


反射的にアクセルを踏んだだろう、一台のワゴンが加速して前へ出る。 

同じく向かい、右の車線からセダンが突っ込んでくる。


激しい音、火花と共に、両車は衝突事故を起こした。


そこへ急ブレーキを掛けたトラックが追い討ちを掛けるように、

猛獣の如く突っ込んでくる。 

衝突した車両の間に割り込み、激しい衝突音が雑踏を揉み消す。


トラックの衝突を受けたセダンは勢い余って

人々の動揺する、歩道へと物理演算的な動きで吹き飛ばされる。


たった数秒で数十名が撥ねられ、恐らく死亡した。


絶叫、悲鳴、混乱――人々の感情が一斉に掻き乱れる。


 「あらら、信号はちゃんと守らないと――」


立て続けに他の信号機も操作する。


都市のインフラシステムは混乱を起こし、

各地で車の衝突事故や、飛び出した人間の人身事故が発生する。


 「うはは、うはは、これ最高!」


 「いいぞ! もっとやれ、俺!」


靑木は現実となった妄想を――いいや、それ以上に具現化した

現実に興奮を抑えきれない――。


元々死んでる街だと思ってたけど、

まさか本当に死んだ街になるとはねえ。


青木は信号機の脆弱さを利用し、実験その一を実行した――。 


人間と言う生物は物心を付けるその前から、

青信号に反応すると無意識に歩き出す習性を抱いている。

逆に赤信号を見れば無意識で停止する。 


そんな人間の習性を利用して、青信号には赤信号、

赤信号には青信号。 を繰り返す。


数分後には、各地で救急車のサイレンが聞こえ、

いよいよ、計画が本格的に始まった事へ、

青木はますます昂ぶりを抑えられない。


 「俺がやってるんだよ、この俺がさ!!」


誰も気づかないけど、誰も気づけないけど、この俺が!


炎上した車、引き摺られた人間の血痕、

千切れた手足や吹き飛んで転がる首、


血の匂いと死臭、そしてガソリンの匂い。


まさにここは世紀末――。


 「夕暮れに死者多数」


 「まだ足りない。 残り2箇所ポイント、これはまだ始まり。 

次もド派手に行きますか!」


青木は何食わぬ顔で救急車に運び込まれる

負傷者を見つめながら、その場を後にした。


 ※


早速、始まったらしい。

実験は青木の自由にして良いと、言ってあるから、

此方からそれ以上の命令を出す事はしない。 

都市がどうなろうが今、我々はその光景を見守るだけ。


青木にはネットに対する大きな恨みがある。

一度、掲示板で言い争った相手のIPを搾り出し、

実際にその相手の家へ乗り込んで、傷害事件を起こすほど、

彼のネットへの鬱憤は計り知れない。


彼は天才ハッカーではない。

ハッカーですらないのかもしれない。

けれど自分の為――それが個人的な恨みや、復讐が出来るのなら

何だって手を出す。 そんな異質サイコな執着力がある――。


スマートフォンのワンセグを起動すると、

早速、ニュース速報が取り上げられていた。


 『首都圏――同時多発的に信号機のトラブルか』


と言ったテロップで、各チャンネルは事故をライブで報道している。 

マスコミの行動力、駆け込みの速さには本当に驚嘆する。


信号機の管理局も、不具合を確かめると言って、

この後――何時からかは不明だが、記者会見が行われるらしい。


明里は大学の屋上のフェンスに寄りかかり、

硝煙の上がる都市を俯瞰していた。


 ※


外で凄い騒ぎ起きているらしい。

ネット巡回をしていたら、次々と投稿されてくる事故現場の写真。 

中には悲惨グロテスクすぎるものまであり、

今も脳裏に焼きついて離れない。


 「引き篭もってて大正解だな」

 「寧音様の身に何か起きたら、

わたくしたちの行き場もなくなってしまいますわ」


吐き気すら覚えるが意識は勝手に興味を駆り立てて、

次々に画像や動画をチェックした。


 「これが……計画?」


『管理者』 とのやり取りで、

計画は次の段階へ移行すると言っていた。 


言われた通りに水や食料の備えも用意してある。

確かにこれでは当分、外には出られそうにない。


くららのブログが更新されていた。


何処かで拾ったのか、騒ぎの画像を自分のブログにアップしている。


 『東京、超やばくない? ネオンちゃん、大丈夫かにゃ』


 『引き篭もりだから大丈夫』


即レスした。


この騒ぎは何時まで続くのか。 

そして何処までが騒ぎなのか。 


ふと沸く疑問に、心臓が脈を打つ。


同時に発作の合図が来た――。


どうしてこんなタイミングで……?


気づかない、気づけない、知らない、無関心、他人事――。 

この悲惨な出来事に対する、無関係と言い切れない、負の精神。


 「これって、もしかして――自分のせい……?」


寧音が加担したから、計画は実行され、

今現在、大量の事故と死者が出ている。


もし、この計画に加担したのが自分じゃなかったら、

くららのように、他人事で画像を張りまくって、

楽しんでいたのかもしれない。


けれど、これって――。


 「こんなの聞いてない……」


考えれば考えるほど、動悸が激しくなる。 

頭がおかしくなりそうだ。


精神安定剤を探した。

見つからない。 袋の中身は空っぽ。


今週、通院はしたが処方箋は貰わなかったのだ。 

否、貰えなかった。 

残っている薬もない。 


このままでは――。


世界が回り、分裂する。


急速な不安に飲み込まれ、取り込まれ、一体化する。


視界を塞ぐ、現実か空想かも分からない定かではない境界線。

360度、張り巡らされた256の世界ビジョン


256の世界に住まう、管理人が、寧音に語りかける。


その声は頭の中だけに響き、


 「やあ、久しぶり。 また来てくれたね」


と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ