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256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第八章 ラストハック
22/32

hack 22

 ※


騒ぎが起きる前に、寧音はその場所を離れた。


今日はハッキングに浸りたい気分でもない。 

連日の災難続きで疲労困憊だ。 

さっさと帰宅して、寝るかネットをしよう――。


久しぶりにブログの更新を再開する。 

そして、色々なブログを閲覧して、あっと言う間に時間が過ぎて、

何時もの日常に戻る。


寧音はそう、考えただけで、最近の何かに取り憑かれていた

心の重みが、すっと軽くなった気がした。


 ※


 「――分かったわ。 第二段階への以降を許可するわ」


クラスタ集めのハッキングはこの辺りで手を引いて、

次の計画に移ろう。 


次の計画はやや荒事になる事が予想される。


 「今の内に、水や食料、そしてお金をATMか銀行でも良いけど、

各自必要な分だけお金を下ろすよう、伝えておいて。 

ええ。 ガソリン? そうね、それも必要ね」


 「まるで世紀末のようだって? 良いんじゃない。 

どうせ世界は何時か滅ぶんだから」


 「ええ、分かった。 調整は任せるわ。 

但し、やるからには派手にお願いね」


世間一般に報道される、大事件と認識されるソレの裏には

政治家が関わっている事がある。

政治家が引き起こした国際問題等を、国民や報道陣に知られない為、

隠蔽工作――カムフラージュとして、別の事件を起こす。

そして国民の視線をそちらへ一点集中させる。


それは事件だけにとどまらず、異様な社会現象ブーム

として扱われたりもする。


これから行う行為は、そうした類のもの。


世紀末と例えられるかは別として、

これまで以上に過激な展開が待っているだろう。 


ハッキングはメビウス計画実行の為のほんの一端でしかない。


 「あの子へのメールは任せたわ」

そう言って明里は電話を切った。


自分も、ある日に備えて準備を開始しなければ――。


 ※


帰宅した。

家には母が居る。 

ただいま、おかえり、の会話もなく、ただ真っ直ぐ

階段を上り、部屋へ向かう。


着替えと手洗いとうがいを済ませて、再び部屋に戻る。

面倒な習慣が、何時しか寧音の潔癖症になっていて、

こうしないと落ち着かない。


パソコンを起動して、早速ネットを始める。


電源のコンセントから、ルーターへ。

ルーターからLANケーブルに。

LANケーブルからパソコンに到達する、デジタル回路を

巡り巡った電気信号。


久しぶりに感じられる、リアルなネットワーク。

自分自身の存在――魂がLANケーブルの中をすり抜けていく感覚。


トップページのGGサイトからニュースを見るが、

まだ例のヤブ医者の件は扱われていない。 


ああ言う情報は警察に垂れ流すのが手っ取り早かったかもしれない。


だが、流出、漏洩、には、それに適した楽しみ方がある。

ここ数週間で学んだ快楽だ。


寧音は、流出先のサイトへアクセスした。


ZIPファイルをダウンロードして、中身を確認する。


保存されたポルノ画像や、薬の違法取引の証拠となる

内容の書かれたメール、

それに繋がるあの助手の女――寧音は始めて名前を知るが――

松尾里見とのやり取り、メッセージデータ。 


スマホで覗いた時と同じものがそこにはある。


 『また個人情報が流失してるぞ!』


と、コピー&ペーストしたアドレスを匿名の掲示板に貼り付ける。


5分、15分、30分、大量のレスが付き、あっという間に炎上する。 


後は勝手に拡散して、警察が動き、彼は自滅する。


「ふふ、あはははは」


寧音は恍惚感に浸りながら、その様子を見守っていた――。


それは、夜――22時を過ぎたニュース番組で報道された。


襟原メンタルクリニックの院長、襟原芳樹が逮捕。 

その助手で松尾里見も自宅に居る所を現行犯で逮捕された。


マスコミが騒ぎ立てるフラッシュ、ネットの祭り状態は続く。


これ一人、わたしがやったんだよ、寧音はそう自慢したかった。

悪事を暴いた正義の味方?

そんなんじゃない、もっと崇高な事をわたしはやってのけた。


普段、会話のない食卓で珍しく母親が、

心配して寧音に話しかけてきたが、知らないふり、

ショックを受けたフリをした。


母との三文芝居にはうんざりだったが、

逮捕時の彼の目はただ虚ろで、気分が良かった――。


良かった気分は長くは続かなかった。


風呂上り、寧音はそのメールを見て愕然とした。


 『ハッキングは中止、各キャリアが疑問を抱き始めている。 

このまま続行していては双方に危険が及ぶ可能性がある。 

繰り返す、ハッキングは中止だ』


ハッキングが中止――もう、自分は用済み、と言うことだろうか?


 『そうではない。 君は良くやってくれた。 

達成数には満たなかったが、十分なデータを収集することに成功した。 

だからこその中止だ。 誇りに思ってくれていい』


誇りに思ってくれていい?

まだまだ全然、目標には届いていない。

中毒にも似て、やりたりない思いが心の中でいっぱいになる。


それでこれから自分はどうしたら良いのだろうか。


 『今、我々はメビウス計画を実行に移す準備をしている。 

君は、それを見守ってくれるだけで良い。 

君が起こした軌跡を、ただ見ていれば良い』


寧音は自分に他にも出来ることはないか訊いた。


 『水や食料、必要なだけの現金、それらを備えておいてくれれば、

当面は安全だろう』


メビウス計画は、まず停電を起こし、

その間にネットワーク上のデータを初期化する、と言うものだった。 


だとしたら、それらの備えは自然だ。

災害時に備えるのと同じ。


 『最後に、メビウス計画を実行するにあたり、

我々はもう一つの計画を遂行する。 

余計な用事がないのなら不要な外出は避けたほうがいい』


いよいよ計画が実行に移される――。


ふと沸く疑問がある。


パソコンの稼動音に耳を傾けながら、

明滅するルーターのランプに目を向ける。 

その矛盾に今更になって気づく。


停電、それが起こると言うことは――。


それに停電中にどうやって初期化ハッキングを仕掛ける?


いや、この手の疑問は素人の寧音の知りうる範疇ではない。


だとしても。


寧音は最後のメールのつもりで、尋ねてみた。


 『本当にそのメビウス計画、実行するんですか――?』

八章 ラストハック

完結

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