hack 19
目隠しを外されるのと同時に、服を安達と九条の
二人掛かりで引っ張られた。
寧音の色白な、華奢な身体が――下着姿が露になる。
「趣味の良い椅子、持って帰って良いかしら」
中学校か何処かで使い古されたような、処分された木の椅子だった。
皮肉めいて、睨み付ける。
両手は後ろで縛られたままだ。
ウェーブの髪の女――大木奈津がスマホのカメラを向ける。
一枚、二枚と写真を取られた。
「ネットに流すの?」
「察しが早くて助かりますわ」
「高いよ?」
「生憎、ハメ撮り業者じゃないんで、ノーギャラで」
腕を組んだ安達は成り行きを見守っている風だ。
次に、下着に手を掛けられた。
「ちょっと待って」
安達がストップを掛ける。
「もう、分かってると思うけどレ○プされる前の気分ってどう?」
相変わらず写真は撮られ続けている。
寧音に羞恥心はない。
別にここで処女を奪われた所で今後そうした縁があるとも限らない。
貴重な経験としてブログのネタにさえなる。
「別に。 不感症だし、何とも」
チッと舌打ちする安達。
「もう、いいよ。 そろそろヤっちゃってくれない?」
別にネットに投稿されようが、いずれ計画により
全ては白紙へと戻る。 まるで意味のない事だ。
安達が声を掛けると、柱の影から男が現れた。
いかにもと言った筋肉質な第一印象。
「此方が本物――いや、元ハメ撮り業者の、
ジャックさんよ。 日本人だけどね」
「病気になって首になったらしい。 後は察しが付くでしょう?」
最悪だった。
ただ犯されるだけじゃない。
流石にこれ以上、事が進んだら他人事じゃなくなる。
死ぬのなら構わないけれど、これ以上、
自分の身体に病気が纏わり付くのは――穢されるのは簡便願いたい。
「い、いや……」
寧音は初めて怯えた声を出す。
自分の中にこんな感情があったのかと、それすら思い出すように。
「や、やめて……やめて……」
「やめない。 桐ヶ谷とは何の関係もなかった私たちだけど、
お前にも桐ヶ谷と同じ気分を味合わせてやるよ」
――きっと、桐ヶ谷もそれを望んでいる――。
男が迫ってくる――。
その手が寧音の肩に触れ、小ぶりな胸へと下りる。
下着の上から撫でるように触られ、ざついた舌が首筋に走る――。
※
急いで、帰宅して寧音の部屋を漁る。
連絡簿が何処にあるのかは分からない。 けれど自分なら、と、
床に乱雑に這う配線を跨いで、机の元へ。
あの子の部屋ってこんなだったっけ……。
ずいぶんと久しぶりにこの部屋に入った気がする。
幼い頃はしょっちゅうお互いの部屋を行ったり来たりしていた。
真正面にあるのに、
それなのに何時の間にか遠くに感じていた存在。
カメラ越しで見るのとは違う生の空気。
妹の匂いに、何処か懐かしさも感じながら――。
予想通り、引き出しの中から名簿を見つけ、名前を特定した。
早速、連絡を入れる。
「ここが今の現在地みたいだな」
「ここって……」
「ああ、今は使われていない防空壕みたいだ」
最悪の光景が目に浮かぶ。
「安心して、警察はもう呼んである。
それに、青木を既に向かわせてるから」
明里は床に崩れ落ちた。
安堵か疲労か、その両方か――自分でも分からなかった。
「大丈夫、 間に合うさ」
その言葉を信じたい。
明里は、切れた息を整える。
家には誰も居ない。
汗でベタ付く身体を洗う余裕はないから、着替えだけ済ませる。
陽が射して、オレンジ色に染まるリビングは
幼少時の一人、留守番を思い起こさせる。
不安な予感と、不吉な空気。
明里は、寧音の無事を祈って自分の身体を抱えた。
※
「時代の産物を呪うんだな」
青木はバイクを飛ばしながらスマホを弄っていた。
以前に事故ったことがあり、全治四ヶ月の大怪我を負ったが、
懲りずに弄っていた。
相手の居場所は特定出来ている。
しかし防空壕なんて場所、良く思いつくな、と思い、
靑木はバイクを走らせる。
小学校の社会科見学以来じゃないだろうか?
奥には戦時中に亡くなった人間の骨が残されているとか、
不気味な噂をよく耳にした。
赤信号で捕まっていると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえた。
「カーチェイスはあんまりやりたくないんだよなぁ。
日本の道路って狭いしさ」
信号が青になる。
防空壕まで残り一キロぐらい。
到着までする必要はない。
寧音を救出するのは、警察の仕事に任せるとして。
自分は半径200メートルの範囲で十分。
それ以上、現場に近づいたり、警察と鉢合わせて
余計な面倒には関わりたくない。
防空壕――その中は当然県外で、相手に直接ハッキングするには
すぐ近くまで接近する必要がある。
県内なら大学でどうにでも出来たのだが。
流石に県外だと、遠隔操作も出来ず、追跡が精々の限界だ。
何より、この目で警察の姿も一度は確認しておかないと
後で報告する時、自分が安心出来ない。
「さて、急ぎますか――」
※
大木の持っているカメラが突然、途切れた。
「あれ、ちょっと待って」
「ん、どうした?」
「バッテリー切れ……じゃないわよね……?」
大木は突然カメラが機能しなくなったことを伝えた。
「ったくこんな時に萎えさせんなよ。 ほら」
安達が自分の携帯を大木に投げて渡す。
だが、
「あれ、これも付かないよ」
「んなわけねえだろ。 携帯の使い方まで忘れちまったのかよ」
安達は奪うように自分の携帯を取り上げた。
確かに操作出来なかった。
真っ暗になって電源が入っていない状態だ。
電源を入れようとしても入る気配すら見せない。
「県外か? いや、だって今ままで使えてたしな……」
「ありゃ、こっちのカメラもなんかダメみたい」
九条も鞄の中から携帯を取り出したが、その画面は機能していなかった。
次第にサイレンの音が聞こえてきた――。
「おい、これ……」
「もしかして警察……?」
「まさか、通報なんてされるわけねえよ」
ここに来るまで完全に人気はなかった。
むしろ、此処は誰も寄り付かないような森の中にある防空壕だ。
別の事件か何かで偶然パトカーが近くを通りかかったに違いない。
パトカーのサイレンなど何処に居たって、救急車と同じで
日常茶飯事的に聞こえる
けれども――パトカーのサイレンは段々近づき、
此方へ向かってきているような気がする。
「……知ってる?」
寧音が声を発した。
「空には眼があるの」
「……え?」
「人は過去に何回も宇宙に、人工衛星を打ち上げている。
今の宇宙には多くの衛星が稼働している。
そして――それによって地上の人間は監視されているの」
ねえ、これがどういう意味か分かる?
と、寧音はほくそ笑んだ。
※
寧音は海外ドラマの受け売りを言ってみた。
確信はない。 けれど、恐らく 『管理者』 が助けを
寄越してくれたのだろう――。
「ば、馬鹿じゃないの、そんなの……」
「嘘じゃない本当よ。 人工衛星は全てを捉える。
犯罪者の行動も見逃さない。 GGマップって知ってる?」
「え……」
「地球上のあらゆる場所をリアルタイムで観測して、
マッピングしてるの。 見たことあるでしょう?」
「……」
相手は動揺して声も出せない様子。
男も戸惑った様子で寧音から手を引き、
成り行きを見守っている風だった。
「特にこんな珍しい場所――検索するマニアも多いんじゃないかなぁ」
「お、お前……」
全て口からでまかせ。
寧音は染み込んだ得意な他人事の口調で、
「さ、到着したみたいよ」
警察のパトランプが視界が入り、警官たちの荒げた声が聞こえてくる。
これでようやく、収束する。
開放されたら、早速、電話探しに戻ろう――。
七章 オフライン
完結




