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256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第六章 Helpless
14/32

hack 14

今日は雨が降っている。

近頃、某国境線の如く、晴れ間の覗く日がない。


曇りがちな日々が多く、薄暗い天井が日常の東京は、

それでも傘と言う花を咲かせ、人々が行き交っている。


 「……うーん」

ログが唸っていた。

 「どうしたの?」

 「こう雨の日って、電波の強弱が曖昧でハッキングしにくいんだよな」

 「へえ、天候にも左右されるなんて」

 「ま、屋内なら大丈夫だろ。 とっとと、何処か濡れない

場所に行こうぜ」


駅までの道をそれとなく足早に歩いていると、メールを受信した。


元クラスメイトで今は隣のクラスの三雲高志からだった。


これまで何通か受信していたが、悉く無視を続けていた。 

開いてみると内容は、桐ヶ谷奈々果の自殺のこと。 

今日の放課後、みんなで線香を上げに行かないか、と誘われる。


寧音は一考した。 

一度線香でも上げておけばこの胸の奥で疼く、

しこりも取れるかもしれない。 


 『了解』 とだけ、書いて返信した。


続いて、駅のホームで以外でもないが少々以外な人物と出会った。


 「岩瀬さん」

奈々果の元彼氏と遭遇した。


 「なに?」

 「昨日は、その、ありがとう。 助かったよ」

 「……別にわたしは何も――」


CDのチェックをしただけ、それ以上の事は何もしていない。


 「その、今日、奈々果の家に行く予定なんだけど……君もどう?」

 「え……」

 「君は何の問題もなかった、って言ってくれたけどさ、

僕としてはやっぱり気になるんだ。 

どうして奈々果が――あぁなってしまったのか」


 「それに、僕より君に奈々果のパソコンを見て貰えればって……」


今度は奈々果のパソコンまで調査しなくてはならないのか。 

そもそも原因は、あんな画像を撮って保存して、

自分のPCに保存している彼自身の責任ではないのか。


 「あんなアブノーマルな事しなきゃいいのに」


世の中にはこんな穢れた、男子しかいないのだろうか。

そんな思いを、気づけば勝手に口にしていた。


 「……そ、それを言われると返す言葉もない……。 

でも、あれが始めてだったんだ。 彼女と僕のその――」


バツが悪そうに、言い淀む。 概ね伝わってはいるが。


 「面倒だから却下」

 「え、そんな――」

 「わたしに責任はない。 責任があるとしたら、

あなたたちどちらかのほう」


いい加減、しつこく纏わりつかれてこの手の話題には飽きてきた。

こっちだって暇じゃない。


 「そこを、なんとかお願いします!」

必死に頭を下げてくる。


 「……それに」


少し彼の口調が変わる。


 「葬儀のあと、君と会話したあと――僕の携帯のデータが

全部消えた。 彼女とのメールのやり取り、写真も何もかも。 

出荷時の状態みたいに真っ白になった。 僕が錯乱して

消しちゃったのかとも思ったけど、冷静になって考えたら

僕はそんなことしない」


寧音の心臓が飛び跳ねた。


 「君、インターネットに詳しいんだよね? だったらさ――」

目付きが変わった――ような気がした。

恐怖か狂気に背筋が凍りつく。


丁度、電車が到着する。

寧音は、それ以上の疑いを持たれる前に乗車して、

彼の視線から逃れた――。


机の上に花瓶が乗せられている桐ヶ谷奈々果の席――。


奈々果の友人らは、彼女の机の側で葬式の続きの涙を流している。


一方、その傍らで別の話題を語っているグループがあった。


例の三人グループの情報流出の件が今になって

騒ぎになり始めていた。 


原因は桐ヶ谷奈々果の情報流出による自殺から、

相次ぐ当校の生徒の個人情報流出。


そしてその矛先は当然――。


 「あんた何か知ってるんじゃない?」


昼休み、1円も払う価値のない茶番劇。


今日は生憎雨の為、体育館の倉庫にて寧音は三人グループに

呼び出され、問い詰められる。


 「別にあたしらは個人情報が流出しようが、番号やアドレスを変えれば

それだけで済む話なんだけどさ、これっておかしくない?」

安達が寧音を壁際へ追い込む。


 「岩瀬さんと関わった相手の情報がみんな流出するなんて、

普通に考えても、おかしいでしょう」

大木が髪を梳かしながら言う。


 「お前さ、インターネットとかに詳しいんだろ? 

ねぇ――あんたもしかしたら裏で何かやらかしてんじゃないの?」

九条まで蔑む視線を向ける。


まずい、疑惑を持たれ始めている――。


 ※


 「ちょっとまずいかも」

 「ん? どうした?」

チャラチャラした男はカップ麺を啜りながらデスクトップの男に聞いた。


 「データ情報の不自然な流れが、各キャリアの間に話題になってる」

 「どういうことだ?」

 「彼女に任せてるハッキングの勢い……それが早すぎて、

データ通信に不自然な流れを残しちゃってるんだ」


この辺りを見てくれ――と、モニターを指す。


 「通常、データのやり取りはこんな感じで波打ってるんだけど、

彼女がハッキングを開始した時、介入した各キャリアのサーバーに

異様なほどの負荷が掛かってる」


ハッキングが開始されると、グラフが極端に高く上がり、

終了すると、余韻を残しながらも徐々に平常のデータグラフへ戻る。

これは時々、オンラインゲームなどのネットに負荷が掛かる場合に、

見られるケースが多いが、ここまで不自然な繰り返しを複数台の

端末で同時発生したら、キャリアが見逃すはずがない。


 「ふーん、なるほど、そりゃ少しやばいな」

 「猶予はない。 だけど、これ以上減らすのも問題だしなぁ」

 「ここは姉さんに相談してみるしかないな」



桐ヶ谷奈々果の自宅は、流石にまだ娘の自殺の余波が残っている風で、

居心地が悪い。 数名の生徒が線香を上げに来た事に、

彼女の母は涙を流していた。


 「ちょっといいですか?」

見計らって寧音は母親に言い寄った。

 「あの、わたし岩瀬寧音って言います。 

このCD彼女に返したくて持ってきたんですけど……」

そうすると母親は、少し微笑んで奈々果の部屋を案内すると言った。


男子、女子を含む6名で奈々果の部屋へと向かう。


 「片付けてないの。 あの子、良く散らかす方だったから……」

 「あ、大丈夫です」

 「その、良かったら……あの子の物、何か貰ってくれませんか?」

 「え?」

 「遺品整理として残しておきたい物もあるんですけど、

それとはまた別に、あの子の友達に貰ってもらった方が

またあの子も喜ぶのではないかと思いまして……」


そう言う事情だったら、とクラスメイトは納得して部屋を物色し始める。


マニュコンのCDが棚に並んでいる。

たった一日だったが語り合った日が懐かしく思えた。


机の引き出しの中を空けて見ると、2枚の紙切れが入っていた。

マニュコンのライブチケットだった。


 「あ、岩瀬さんずるい!」

 「これ、あの子が楽しみにしていたんです。 

確かライブは来週の週末だとか……」


ライブ会場――それも比較的、大き目なライブハウスだ。

大勢の人が居る場所でハッキング出来るチャンスになるかもしれない。 

状況の中だけに不謹慎だとは思ったが、それでも寧音は

ハッキングの事を考えていた。


 「良かったらそれ、貰ってくれませんか?」

寧音はクラスメイトの女子と一枚ずつ交換した。


寧音は日曜日のチケット、もう一方は土曜日のチケットだ。 


線香を上げに来たはずが、思わぬ収穫に胸が高鳴った。 

またあのライブに行ける。


 「奈々果ちゃんの分まで楽しんできます」

クラスメイトの女子は涙を流しながらそう言った。


寧音は続けて、奈々果の使っていたと思われるパソコンに目を付けた。 


今朝の、高橋真人の言葉を思い出す。


寧音は、面倒だと思いながらも彼女のパソコンを調べてみることにした。


 「あの、これ付けてもいいですか?」

 「おいおい、岩瀬ここはネカフェじゃねえぞ」

横槍が入るが構わない。

 「え? ああ、どうぞ」

母親の許可も下り、寧音は奈々果のデスクトップパソコンを起動した。


 「何するの?」

 「調べ事。 どうして、彼女の情報が流出したのか」

 「そっか岩瀬さん、そう言うの詳しそうだもんね」


立ち上がりが遅い。 三年ぐらい前のパソコンだろうか。 

学校のパソコンよりマシとは言え、自分のマシンを比べると、

イライラするレベル。


ようやく立ち上がり、確認する。


セキュリティソフトは導入されているものの、更新のライセンスが

半年前に切れている。 


一昔前に企業などに関する、パソコンのセキュリティや

脆弱さについて、情報流出の歯止めが掛からない時期があった。 

今回もそれに似ている。

パソコンを使うには、アンチウィルスは絶対だと言うのに。


これじゃウィルスに感染しても仕方ないな、と寧音は思った。 

同時にやはり自分の責任ではないと確信が持て、安堵した。


一先ず、使えるセキュリティソフトをインストールして、

とっとと削除してしまおう。


ネットで検索し、一ヶ月は無料で使えるセキュリティソフトを

インストールする。 

最新バージョンに更新して、ウィルスのチェックを行う。


三十分ほど掛かりそうなので、クラスメイトとお茶やお菓子を頂きながら

時間を潰した。


スキャンが終了して、唖然とした。


脅威の数は0だった。 


半年前にライセンスが切れたソフトで削除出来たのか?

いいや、それなら流出する前に感染に気づけるはずだ。


そうなると話の線路はまだ逸れてくる。

高橋真人、彼のパソコンが感染源に最も近くなる――。

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