表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第五章 ホームネットワーク
12/32

hack 12

 「なんかやたらイタデン、掛かってくるんだけど」

クラス女子が自分の席で足を組みながら、怠惰な口調で言う。


 「ウチもウチも」

 「私の所も。 メールで裸見せて、とか言われたんだけど……」

やだ、それキモイ、と朝のHR前。


茶髪の彼女が持つデコレーションされたスマホが

着信音と共にバイブレーションする。

 「ほら、また掛かって来た。 はい、もしもし? 

何度もうぜーんだよ……」

ひっきりなしに掛かってくるから、今朝充電したばかりの

バッテリーも既に70%を切っていた。


 「お宅らの情報、ネットに流出祭りですよ、あはは。 

そんでおっぱいのUPまだ? みんな待ってるお。 おっぱいおっぱい♪」

陽気な男から、セクハラな一言を残して勝手に切られた。


 「なんだって?」

 「ネットに流出だとかなんとか」

 「何、それイミフ」

 「ね、それより、今日のテスト――」


 ※


デジャヴを感じる。

教室の一定の箇所が騒がしく、嫌でも会話が耳に届く。


 「また流出したんだってさ」

 「え? なんの話?」

 「ネットに個人情報。 ほら、あの席の三人……」


寧音はスマホの音楽アプリを起動して、マニュコンを聴く。 

周囲の雑音を遮断する。

アナに感謝しながら、机に身を伏せた。



 「おい、こっちだ! 居たぞ!」

 「……ったく、こんな場所まで入り込むなんてよ……」

 「樹海特集でも組んだら視聴率取れるんじゃないっすかね」

テレビ局もいない場所で一人の青年が軽口を言う。


目の前の巨木の枝に、女が一人、首を括っている。 

まだ比較的綺麗な肌に這ううじ虫と、カラスにでも跡、

そして周辺を漂わせる死の匂い。 


死臭――。


 「こりゃ、死後三~四日ってところか……?」

 「このアングルだとパンツ見えますね、パンツ」

青年は現場の写真を首を吊った女性の真下から撮影している。


 「っ……お前、本当に嫌な趣味してんな」

 「女子高生なら死体だろうが何だろうが大歓迎っす。 

これだから警官は止められないんすよー」


 「……お前と仕事すると反吐が出るよ、正真正銘のキチガイめ……」

 「先輩、とりあえず、屍姦とかどうっすか? 

歴史的な事例もある背徳的な行為――」


 「お前が自殺すれば良かったのになぁ。 その場で火葬してやる」

 「うわ、先輩ひどっ!」


青年はさらに自殺現場の写真を納めている。

コイツは死体を見ると生き生きとした表情になるから

時々、相棒として怖くなる。


一体、どうしてこんな若い、まだ夢も希望も持てる年頃の少女が

自殺などしないといけないのか。 


コイツではないが、生きていればさぞ美人な大人にもなれただろう。


刑事は、これまでに何度も自殺の現場を見つけてきた。

その度にわき上がる理不尽な感情に苛立ちを覚える。

世の中? それとも人の心の弱さ?


 「おい、何か身元確認出来るものは?」

 「今探ってるっすよー」


刑事は大きなため息を吐き、樹の枝でぶら下がり、

腐食をし始めている遺体を木漏れ日の中で見上げていた。


 「カラスの餌になっちまってよ……

これが、あんたの本当の望みだったのかい?」


 ※


流出の騒ぎは、以前ほどは盛り上がらなかった。

別に盛り上げる為にやったわけでもないので、それで構わないのだが。


大人しく、平常運行で行こう。 

今日も放課後はカフェによってハッキング作業だ。


こんな身近で、根暗な女にデータを収集ハックされているなど、

誰も思わないだろう。 今ではこの端末さえあれば、

情報の操作は自由自在だ。

全ては自分の手のひらにある、と言っても過言ではない。


寧音はハッキングの感覚に癖を覚え始めていた。


 「今、どれくらい?」

 「126件ですわね」

 「気が遠くなるわね」


校内をうろうろしながら、データを集める。

時折、ニュースで世間を騒がすハッカー集団がいるが、

これを提供してくれた人物も、そう言った類の一人なのだろうか?


 『インターネットの情報を抹消する』


そう、余計なデータを抹消するのが役目だと言っていた。


ハッカー集団とは少し違うのかもしれない。

だとしたら寧音は自分を孤高のハッカーとして意識してみた。


高揚感が強く沸く。 不自然な程に心拍数が上がる。

ネット依存に取り憑かれ、繰り返すハッキングに快楽まで覚える。

まだ先は長い、けれど時間もない。


楽しめる時間はそう長く続かないだろう。

今は兎に角、ハッキングしたくてたまらない――。


 ※


 「――はい、そうですか――ええ、はい――分かりました」

 「――ええ、確かそうだと思いますが……」

 「――分かりました。 今からですか? はい――」


とある大学の女子トイレでの通話。 

その彼女は、深刻な表情をしながらも、何処か安堵した気で、

通話を終了した。


三ヶ月ほど前から失踪していた彼氏が、ついに遺体で発見されたらしい。


自宅のマンションで首を吊って、異臭がすると通報した住人により、

警察が駆けつけ発見に至るという、変哲もない日常の現実ドラマ


彼女は彼の死について、凡その想像は付いていた。 

姿を眩ましたあの日から、もう彼に会う事はないのではないかと。


安堵したはずなのに自然と涙が溢れてくる。 

分かっていたのに、涙が止まらない。


悲しくないはずがない。 

だって大切な人が本人にしか分からない理由で自殺したのだ。


あの時の彼のあの目を思い出す。

もっと何か掛けるべき言葉はなかったのか。

失踪する前に、気づいてあげられる事は出来なかったのか。


次々と浮かぶ後悔の念。


個室のトイレで、泣きすする女の声が木霊した。


 ※


喫茶店でハッキングを開始して、二時間ぐらい経つ。


流石に連日、喫茶店の外でハッキング待機しているのは

不審者極まりないと思ったので今日は客として、

カフェオレを注文しつつ、読書をするふりをしてハッキングを行う。


成果は上場、次から次へと個人情報が自分の端末に入ってくる。  

《転送》 されたデータは、 『向こう側』 のサーバーに保存され、

此方からも閲覧可能な仕組みをアナから聞いた。


例の三人組の情報を引き出した時と同じ手順を踏めば可能だ。


ここに居る十数名の相手は自分の個人情報が盗られている、

などと微塵も思っていないのだから、

子供の悪戯に似た、悪趣味な麻酔を掛けれたように気分が良い。

ハッキング依存症が加速するばかりだった。


スマホのバッテリーの残量が残り10%を切った。


 「おい、そろそろ、充電したほうが良いんじゃねえか?」


外で充電出来るアイテムなど持ち合わせていない。 

コンビニまで買いに行くのも面倒だ。 

陽も暮れて来たので今日はもう、そろそろ帰宅しよう。


寧音はキリの良い所で切り上げる事にした。


帰宅すると、玄関の前に母親が立っていて開口一番に呼び止められた。


 「あ、今、帰って来ました。 はい、代わります」

靴を脱ぐ間もなく、玄関に置かれた電話を母親から渡される。


 「学校からみたいよ」

理解出来ず、とりあえず電話を耳に当てた。

 「もしもし……」

 「ああ、岩瀬か。 オレだ担任の大塚だ」

 「先生……?」


学校や担任から連絡がある時は、台風や天災の時以外では、

大抵、悪い情報を聞かされる確率が高い。 

面倒な予感しかしなかった。


 「その、言い難いんだがな……」

担任の大塚はそう言って間を空ける。

この間こそが案の定、寧音の面倒予感を的中させた。


 「……あの、なんですか?」

言い辛いなら言わなくていい。 

さっさと切らせてくれと思った。

スマホの充電を真っ先にしたい。


 「……心して聞けよ。 ま、お前とはあんまり接点は

なかったかもしれないが……」

 「だから、なんですか?」

 「……こほん、同じクラスの桐ヶ谷――桐ヶ谷奈々果、彼女が今朝、

遺体で発見された……」


咳払いをしてから、深刻な声で告げる。


 「はあ……」

 「自殺だそうだ。 山中で首を吊って発見されたらしい」

 「それで……?」

 「一応、その連絡だ。 詳しいことはまだ此方も聞いていない。

詳しい説明は明日になるだろうから、なるべくなら欠席ずに来てくれ」

 「……はあ……」

寧音は気のない返事をした。 


桐ヶ谷奈々果が自殺? 

彼女と自分の接点はマニュコンの話題を少し語りあって、

CDを渡した程度で――最近、個人情報が流出していた。 

男と寝ている画像が出回り、態々、家にまで出向いて寧音に責任を

押しつけてきた人物だ。


そう言えば奈々果の彼氏を名乗る人物――名前は忘れたが――から、

彼女が失踪したとの旨を聞いた記憶が微かにある。


電話を切る。


 「学校、なんだって?」

母親が深刻そうな顔で問う。

 「別に何でもない」

そう言って、寧音は部屋に戻った。

スマホの充電をしなければ。 もう、6%しか残っていない。


夕飯、お風呂を済ませて、

ネットを巡回する。 


ブログを更新する。 くららや友達のブログにコメントを残す。 

充電ケーブルを挿しながらスマホを弄る。 

寧音は自分だけの世界を満喫する。


 「今日の成果は、78件ですわ」

 「合計でどれくらい?」

 「247件と言ったところですわ


先が長いなどと言うレベルではない。 

何処か一括で数千――いや、せめて数百、のデータを集められる

場所でにも出向かなければ一ヶ月のノルマに間に合わない。


 「ノルマに間に合わなかった場合は?」

 「分かりませんの」


自分のせいで 『管理者』 を名乗る彼らの計画に、

致命的な問題が発生しなければいいが――。 

期待を裏切り、失敗した事を前提とした考えを、首を振って払う。


 「何か対策を考えないと間に合わない――」

 「ま、向こうも余裕を持っての数値だろ。 

最低限のラインが、それってわけで完璧にこなす必要もねえよ。 

気楽に気長に行こうぜ」


ログこそシステムの垣根なのに、他人事だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ