表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第四章 アップローダー
11/32

hack 11

殴られ蹴られた傷口が傷むがスマホの死守には成功した。 


買ったばかりの8万円相当の電話が

翌日に破壊でもされたら、それこそ涙ものだ。 笑えない。


身体的にアイドルみたく顔を大切にしたり、

特に庇う部分もなかったのが幸いか。 


三雲のアドレスは消されてしまったが、元々興味もないので、

ダメージもない。 

それに無意味、三雲のスマホは既にハックし、偶然にも保留済み。


本当、これ以上ないほどの無意味。

誰か盛り上がってくれなければ、ただ痛い思いをしただけ。


ハッキングアプリ 『アナ/ログ』 これにも一切、触れられなかった。 

不幸中の幸い? 人の携帯に入っているアプリなど

気にもしないのだろう。


それにその間、寧音は三人のスマホをハッキングしていた。


 「やっちまえよ」


またも聞こえる青き蝶の囁き。

寧音は少し考える。


《拡散》 このボタンを押せば、三人のスマホの情報が

ネットに流出する。  

データが自分の手元にある以上、どの様に扱うは自由自在だ。


中身に興味はない。


初めての拡散――流出させて、騒ぎになれば嫌でも分かるだろう。

彼女らの愚行が、三雲にも伝われば――。


それでは、悪魔――青い蝶の囁きに従って、ささやかな復讐と行こう。


 《拡散》


スマホの画面に映る、アップロードの文字。 

パーセンテージが順調に進んで行き、やがて完了する。

これで三人の情報はネット上に流れ出た。


 「どうなるのかな」

 「知らん顔してりゃいいさ、それがハッカーってもんだ」


転送も勿論、忘れずに行う。



帰宅途中、ミゾバシカメラへと寄った。


人の多い所でポケットの中のスマホと

独り言を繰り返すのは流石に恥ずかしい。 


今朝、青い蝶に言われた通り、ヘッドセットを購入しに来たのだ。

手ごろな2000円弱のヘッドセット購入する。 

肩耳に嵌めるタイプのやつで、海外ドラマの出演者なども

良くこんなのを嵌めて、連絡を取り合っている。


ミゾバシのトイレに入り、早速開封して、Bluetoothで接続する。 

万引きした犯人みたいで少し気が引けた。


 「テスト」

 「オーケー、感度良好」


接続は簡単に成功した。


 「でも、電車の中で話しかけるのはなるべくやめて、あと人前も」

 「分かってるよ。 マナーは大事だもんな、マナーは」


本当に分かっているのか。 

AIのくせに感情を持つ発音が出来るから、余計に怪しい。


夜、お風呂から上がり、部屋に戻ると

スマホのランプが点滅していた。 


確認してみると、知らないアドレス――しかし、内容を見て

誰だかすぐに分かった。


三雲高志――。 

早速、メールが送られて来た。 

寧音は、学校での三人グループの間抜けさにふと、笑った。 

受信拒否でもしなければ、これでは本当に意味がない。


殴られ損しただけ、理不尽が加速する。

返信しても面倒に巻き込まれそうだったので、放置を決めた。


翌日、学校で特に騒ぎはなかった。

三人グループの情報流出の件に関して、何か騒ぎが起きているのではと、

想像しながら登校したのだが、不発に終わっていた。


 「不満そうだな」

 「別に」


特に流出して困る物もなかったのかもしれない。

或いはまだ気がついていないだけなのか。


そもそも、よくよく考えても見れば流出すると言っても、

何処に流出しているのだ? 

昨夜の時点、自分がネットをしている限りではそれらしい情報は、

目にもしなかった。 何処かのアップローダーや、投稿サイト、SNS、

様々な場所が思い浮かぶが、検討が付かない。 


奈々果の時は画像そのものが流出し、ネット上での祭りが起きていたので

分かりやすかったが、今回はそのような気配は感じられない。

嵐の前の静けさだろうか。


肝心の 《転送》 作業については早くも滞りを見せていた。 


本日、通学時に10名ほどのハッキングに成功したが、

未だ三桁にすら到達できていない。 

一日に数十名だと、一ヶ月の期間で5500と言う数字は余りに厳しい。


管理者は安易と言ったが、何かもう少し効率良く

稼げる方法を考えなければ。


寧音は今日の帰りに、喫茶店やファストフード店に寄る事を決めた。 

飲食店なら一時間も居座れば多少なり、

多くのハッキングを成功させられるだろう。

もってつけの場所だと思った。


下校時刻――。


校門の前で、声を掛けられた。


 「岩瀬さんって、君だよね?」


男だった。 

別の学校の制服を着ている。 

何処か見覚えがあるが、思い出せない。


 「俺、高橋真人、奈々果の彼氏――って言えば分かるかな」


寧音はああ、と思い出した。 

つい最近、奈々果と家を訪ねてきた人物だ。 

あの時は奈々果の怒り狂った様子に狼狽して、夜間であったことも含め、

男の方には注目すらしていなかった。


 「あの、何か……」


ポケットでスマホを操作する。 ハッキング開始。


 「……その、奈々果のことなんだけど」


紳士に見えて、言いにくそうな雰囲気を醸す。 

こんな男でも童貞を捨てているのだ。 

変態な趣味も持っているようだし、汚らわしい印象が付いた。


 「今日、奈々果、登校してきてる?」

 「ど、どうだか……」

 「ど、どうだか、ってクラスメイトでしょう?」


高橋真人と名乗る男は、やや戸惑った表情をした。 


 「わたし、クラスから孤立してるから」

 「そ、そんな……」

 下校していく生徒らが横目でこちらを見ていく。

 「それで、何か用ですか?」

 「ああ、そうだ。 奈々果と連絡が取れないんだ」

 「そう……」


 「……あの日以来、奈々果と連絡が取れない。 

家にも帰ってないらしい。 家の人が捜索届けを出しているんだ。

彼女は君を――その、恨んでいる風だったから、もしかしたら

何か知ってるんじゃないかと思って尋ねて来たんだけど……」


寧音の反応にむっ、とした表情を一瞬見せたが、

とりあえず用件を伝えてくる。


 「いえ、わたしも何も知りませんが……」

 「そっか……参ったな――」


行き詰まった刑事の如く頭を掻く。


失踪――していたとは初耳だ。 学校でもそんな話は聞いていない。 

当然、把握しているだろう学校も騒ぎを避ける為、

敢えて伏せているのかもしれない。


 「あの時はあんまり、話せなったけど、君が本当にやったの?」

やった、とは流出の件だろう。


 「わたしはただCDを焼いただけ……」

ウィルスが入り込む余地なんてないし、そもそも感染していれば、

寧音自身のデータも流出している。


 「……やっぱ僕が原因なのかな……」

 「心当たりでも?」

高橋はかぶりを振った。


 「あの、そろそろ時間なのでいいですか?」

下校する生徒らの横目が気になって来た。 

また三人組みに見つかれば面倒なことになりかねない。


未だ彼女らも騒ぎを見せることなく日常の中に居る。

 「あ、そうだね、ごめん。 もし何か分かったら連絡して欲しい」


高橋は鞄から紙とペンを取り出し、電話番号とメールアドレスを書き、

それを寧音に渡した。 

そんなものを渡されなくても、もう知っている――。


《保留》 《転送》


駅前のファストフード店は下校途中の高校生で溢れている。 

ここなら大量のデータが入手出来そうだが、

根暗な寧音が一人で入るには、突入と言う言葉が相応しいほど

難攻不落な要塞を思わせた。


撤退して、軽めな喫茶店へ行く。

喫茶店はオープンテラスになっており、店に入らずとも、

近場で待機しているだけでハッキングが捗る。 


一時間ほど、不審者に思われない程度に佇んで

30人程のハッキングに成功し、今日はその場を後にした。


 「流出した情報は何処に行くの?」

 「役目を果たし終えた人工衛星が鉄くずと化した時、

宇宙の何処を彷徨うの? と同じ定義の質問だ。 分からない」


青い蝶は知識だけは高めているが、役に立たなかった。


 「赤い蝶と話したいんだけど」

 「そうだな、あいつなら何か知ってるかもな」


過去にオレとアイツは一心同体などと偉そうに自慢していたわりには、

お互いの役割について余り把握出来ていないらしい。 


そう言って画面内を飛び回る青い蝶は一回消えて、

程なくして赤い蝶が現れた。


 「こんにちは。 寧音さん。 認証の時、以来ですわね」

赤い蝶が出てきて、喋る。 

青い蝶と打って変わり、淑やかなお嬢様を思わせる綺麗な声と口調だった。


青い蝶も同じだが、とてもAIとは思えない。 

再び青い蝶も出てきて寧音の周りを、小バエのように飛び回る。


 「質問があるの」

 「なんでございましょうか?」

 「拡散させたデータの行方について知りたい」

 「あら、マニュアルをご覧になってなくて?」

 マニュアル? 初耳だった。


 「アプリの中央のメニュー一覧に設定、とありますでしょう? 

そこからご覧になれますわ。 最近は電子マニュアルが主流ですから、

見落としやすいのですわね」


言われたまま操作してみると確かにマニュアルが載っていた。 

だが、英語で何を書いてあるのかサッパリ分からない。


 「翻訳致しましょうか?」

 「出来るの?」

 「勿論でございますわ。 処理するので少々お待ちを」


一度 『アナ/ログ』 のアプリが自動終了し、勝手に立ち上がる。

メニュー周りが日本語へと翻訳されている。


 「これで翻訳完了ですわ」


二匹の蝶が戻り、赤い蝶がそう言った。


再度、マニュアルを開く。 

全て完璧な日本語に翻訳されていた。 

ネットブラウザで翻訳する機械的な文章ではなく、

日本語そのものだった。


寧音は 《拡散》 についてのヘルプを調べた。

どうやら拡散させるには、場所アップローダーを選ぶ

必要があるらしかった。 


何処のサーバーか、何処のアップローダーか、P2P、

ファイル交換ソフトか。 


拡散させるファイルから、細かく自分自身で指定し、設定出来るらしい。 自由で便利だが周りくどい操作は面倒だ。

本当に面倒なので予め用意されている何処か国内の

アップローダーに設定した。


早速、三人のハッキングデータを探す。


 「……」

見つからなかった。 


今日までハッキングしてきた多くのデータに埋もれて、

消えてしまっていた。

記録に残るのは最大、10件まで――。


 「過去ログを検索いたしますわ」

 「そんなことできるの?」

 「蓄積の限界は10件までですけれど、一度転送されたデータなら、

転送元のサーバーに残っておりますわ。 電話番号やメールアドレス、

名前等を仰ってくれればお探し致しますわ」


電話番号もメールアドレスも知らないので、三人の名前を教えた。

ここまで執着する程の恨みもないが、実験的な意味合いとして

この機能を試してみたい、ハッキングを続けている間に芽生えた欲求。


 「それでは、この三件を 《拡散》 致しますわね」

赤い蝶はそう言って、プログラムを実行した。


《3件のデータをアップロード中……2%、10%、17%―ー》


 「ねえ」

 「なんでございましょう?」

 「青い蝶とか、赤い蝶とか、呼び辛いから、名前、教えて」

肝心なそれを今になって聞く。


 「オレは、ログ」

 「わたくしはアナですわ」

 「「二人合わせてアナ/ログ、ですわ」」

そうか、それで、このアプリの名前の由来が分かった。


 「今時、アナログなんて古い言葉だろ?」

 「やっている事と名前が正反対。 名前負けも良い所ですわ」

 「しっかし、これには皮肉な意味も込められているんだぜ」

 「皮肉な意味?」

 「計画が進めば、そのウチ、分かるかもな」

 「ですわ、ね」


アナとログはそう得意げに言って、

ひらひらと寧音の周りを飛んでいた――。


《86%、94%――100% アップロード完了》

四章 アップローダー

完結

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ