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256の世界とメビウスのロジック  作者: YK from エル
第一章 アカウントハック
1/32

hack 1

始めてこの小説を読んでくれる人に向けて一言。


この物語には、異世界や超能力、魔法ファンタジー等と言った要素は

一切出てきません。 実際の現実で、“もしこんな出来事があったら”と言う

陰謀論をテーマにして書き上げた作品です。(100%自分の趣味ですが^^;)


なろうの中には異世界系が多いですが、もしこのような作品を探し求めている人がいて、これを読んで、面白いと思ってくれたら幸いです。

興味ない人も読んでみて、楽しんで貰えたら嬉しいですね。

それでは、お楽しみください。

聞こえてくるのは外から響く、上空100メートル以上の高さを誇る

新築高層マンションの工事現から降り注ぐ、金属音。


一年ほど前から高層マンションの建築が始まり、今では

組み上げられた外郭に重力に逆らうか如く、

重々しくクレーンが空の存在を真っ向から否定している。


更に耳を澄まさなくても聞こえてくる、

都市を駆ける救急車のサイレン。 


誰を迎えに良くのか、果たしてそれは助かるのか。 

知ったところではない日常的分野の効果音。 

他人事。


そして――意識すれば眠たくもなる、聴こえてくる

クラシック音楽、エリック・サティの楽曲が、

ここ――襟原メンタルクリニックの待合室で流れている。


岩瀬寧音(いわせねおんは学園の帰宅がてら、バスを途中で下車し、

都会の隅に立つ高層ビルの16階にある、

襟原メンタルクリニックに通院していた。


待合室には自分以外人一人もいない。 


サティの楽曲と空調設備のプロペラが無機質に回っているだけ。 


待合室がこの具合なら診察の順番もさぞ早いだろう、

と思っていたのだが今、診察室にいる患者は寧音の期待を裏切り、

もう20分ぐらい待たされている。


20分以上の診察カウンセリングは追加料金を取られる仕組みなので、

もうそろそろ切り上げてくれても良い頃だと思うのだが。


余程、重傷な患者なのか、深刻な話でもしているのだろうか。


隅の方に置いてある大人向けの週刊誌や

子供向けの漫画には微塵も興味がなく、

ただ迫り来る眠気と戦い、順番が来るのを待っている。


受付の人も退屈そうに何か雑誌を読んでいた。

診察室の中は外の待合室の患者に声が漏れ伝わらないよう

防音となっており、中の様子を伺い知る事はできない。


午後4時22分――

陽も暮れ始め、薄曇った気候に僅かな夕陽が

ブラインドから射し込み、自身や診察室の影を映す。



寧音は携帯電話を紺色の学生鞄の中から取り出した。 

スマートフォンが主流の今、ガラケーを使っているのは

学校でも寧音ぐらいしかいない。 

特に不満もなく、周囲との疎外感も無い。

不自由がないので愛用して、5年にもなる機種。


昼休みに投稿した自身のブログのチェックをする。


コメントが一つ付いている。

ハンドルネームは『真っ暗なくらら』と呼ぶ、

陰鬱さを漂わせるフレンド。 


自称、女(実際は男かもしれいがそこは重要ではない)

は、寧音がブログを開設して、初めてコメントをつけてくれた相手であり、

それ以来ネット上では親友を語り合っている。


また、くららもブログをやっているので

付けられたコメントに記されていたURLからジャンプした。


彼女のブログの更新は二日前で止まったままだった。

お互いの内容は日常から趣味、それに病気の事だったり、

当たり障りのないごく普通の星の数ほどあるブログ。


無作為なランキングも底辺をうろついているが気にしない。


くららも精神的な疾患を抱えており、話が良く合う。 

メンヘラ同士の友情というやつだ。 

今日は通院した、薬が変わった、などと互いに自慢を繰り返す。 

他愛のないメンヘラ会話。


寧音のブログ更新は、一日で多い時には10回を超える日もある。 

くららの更新頻度は週に2、3回。

ただ寧音が書いた記事には必ずコメントを残してくれる。

寧音もまたそのコメントに必ず返信する。


くららは自称、家事手伝いを名乗っており、日々時間を

持て余しているようだが、あまりにも寧音の更新頻度が多い為、

コメントを残すのが大変だと、苦笑いの伝わる

コメントを貰った事もある。 


しかし彼女からのコメントは寧音にとって安心の源であり、

どんな精神安定剤よりもその効果を発揮している。 

繋がっている――この単純で匿名な結びつきが寧音の全てだった。


付けられたコメントに返信をしようとした所、診察室の扉が開いた。


「それじゃまた、二週間後ね、忘れずに来るように」

 「あい、分かったよ。 ん、じゃね、看護師の姉ちゃん」


ばいばい、と軽く手を振って出てきたのは

二十代前半と思わしき金髪の青年。 


服装からしてチャラチャラとした印象を醸し出し、

ジーンズから垂れるチェーンが静かな待合室を不協和音に変える。 


一見してメンタルクリニックに通う必要のある人間には見えなかった。 


だが、こうした輩は多かれ少なかれいる。


薬だけが目当てで通院する。 

それを服用するか否かは別として、ネットで違法な取引をしたり。 

精神安定剤の類はネットで高く売れる。 

探せば掲示板などですぐ見つかる。

ただ最近は取り締まりも厳しく、

逮捕された、と言うニュースも聞かなくはない。


 「ふーん、君も大変だねぇ。 現役の女子高生が、今なら

魔法少女にだってなれちゃう時代なのに、こんな陰鬱な場所に通うなんて」


寧音は携帯から首を上げ、訝しく彼を見つめた。 


香水の匂いが鼻につく。 

学校でも校則を破り香水を付けて通学してくる生徒がいるが、

ここまで匂わせている生徒はいない。


 「ま、良いけどねー、人はそれぞれ悩みを持つ生き物だし、ははは」


人は見かけで判断できないが、そう病人の様子を欠片も見せることなく、

ポケットに手を突っ込んだまま、受付の会計へと去っていった。


一体、なんなのだ。 


寧音はこのクリニックに3年近く通っているが、

あんな患者は見た事がなかった。 


最近通い始めた新患か何かだろうか。

彼に気を取られコメントを書く手が止まってしまっていた。

打ち直そうとした所で先生に名前を呼ばれ、

そのまま診察室へと入った。



高層ビルの13階に位置しているだけあってか、

診察室から都市部への見晴らしは何時見ても素晴らしく美しい。 


今日は生憎の曇り模様だが、それもまた一興だ。 

ブラインドから光りが僅かに射し込んで診察室に影を映す。


主治医で院長の襟原は中央の窓際付近に席を構え、

何処か企業の社長を思わせる。 


その脇には白衣ではなく、ブランド物の服で身を固め、

大胆に胸元を晒している、女――看護師が立っている。


これ見よがしにスカートから伸び出た、太ももの黒いガーターに目が行く。社長と秘書――いいや、もっと質の悪い何かにしか見えない。


 『憂鬱な患者が美女を見れば元気になる』


そんな理由で雇っているらしく、

何度来ても場違いな雰囲気を醸しているメンタルクリニック。


 「はい、こんにちは。 座ってくれて構わないよ」


軽い口調で襟原は寧音を手前の椅子へ誘う。

襟原院長は年齢三十代半ば、若さを伝える清潔感があり、

髪や髭もきちんと整えられている。 

彼も白衣ではなく、私服と思われるラフな出で立ち。 


彼は元院長の息子らしく5年ほど前から跡を継ぎ、今では

好き勝手にやっている印象が強く目立つ。


当然、この看護師も襟原が跡を継いでから雇われた。 

元院長がどんな人物か知らないが、この有様ではさぞ嘆いている事だろう。


寧音は携帯をいじりながら椅子に座り襟原と向かい合う。


 「相変わらず、ケータイ依存症、いやネット依存症だっけか、

治ってないみたいだね」


寧音は無視してくららへのコメントを書き続けた。


 「ま、今時のJKってのはさ、下手に無視するとスグにハブられたり、

色々大変みたいだから、手放せなくなるのも分かるけどねぇ。 

僕が学生の頃には無かった文化だ」


 「技術の進歩は凄まじく、我々の生活はどんどん便利になって行く。 

けどその一方で、そう言った君みたいな患者も増えている。 

良い時代なのか嫌な時代なのか分からないね。 本当に」


「ま、ウチら業界の人間にとっては、病んでくれる人が多い方が

何かと儲けられるから良いんだけどさ。 あはは」


無視を続ける。


 「でもさ、これって逆に言えば面倒な人付き合いと

簡単に縁が切れる、って事じゃない?」


 「うざいと思ったら無視して次の日からハブにしちゃう。 

これぞ逆転の発想。 あはは」


 「実は僕もあんまり仲良くしたくない、医学会の相手がいてね。 

一度無視してみようかな。 なーんてね」


襟原とのやり取りは何時もこんな感じだ。 


これまで何件も精神科やらを転々と、盥回しにされてきたが、

ここまでインチキな先生にはかかった事がなかった。


そもそも今やり取りしているのは友達は友達でも

ネット上のフレンドだ。 


ネット上のフレンドには、ハブも何もない。 

何の前触れもなく、姿をくらましたフレンドなど幾らでもいる。 

匿名だから、特に傷付きもしない。


まあ、くららがいなくなったらブログを続ける理由もなくなる――


そうした意味では、心の何処かで彼女を失いたくないから、

コメントはキッチリ返しているのかもしれない。



怠惰でインチキでヤブ医者の精神科医、襟原はカルテをざっと捲った。


 「君が僕の所に通い始めたのって三年前、

高校生に上がった頃からだよね。 それまでずっと、

それはもう小学校の頃からいろんな病院を転々としてきている。 

これってさ正直に言うと、もう治る見込みってあるのかね」


間違っても医者の言う台詞ではなかった。


 「症状も意味不明だし、自分でも気づいてるんじゃない? 

治る見込みなんてない、って」


 「だったら、こんな所通うの苦痛以外の何物でもないでしょう。 

通院、嫌ならやめてくれても良いんだよ? 

普通のJKらしく、遊べば良いのに」


襟原は足組み直して、


 「どんな薬を処方しても効果が見られない。 こんなの誰から見ても

無駄遣い。 不眠症、鬱病、統合失調症とかなら入院とか

こっちも色々考えられるけど、君の場合は特殊すぎる。 

ご家族の方もそこら辺、何か言ってこないの?」


寧音は携帯を打ちながら、「さあ」 と答えた。


 「ま、せっかくだから君の症状をおさらいしてみるけど、

えーと、なんだっけ……」


襟原はまたカルテを見直す。


 「そうそう、頭がおかしいんだ」


普通の患者なら、憤怒してドアを蹴破り出て行ってもおかしくない発言だった。


こいつ、どうやって精神科医になったのかと問いたくなる。

そもそも本当に精神科医なのかすら怪しい。


 「産まれた時、看護師のミスにより命の危機に陥った。 

何度も長時間の手術を受け、なんとか手術に成功」


 「今、君が生きているのが不思議って、

ぐらい医療ドラマみたいな美しい展開だねぇ」


寧音は何も覚えていないが、こうも軽く言われると流石に腹が立ってくる。

自分を医療ドラマと一緒にするな。


 「だけど……脳に後遺症は残った。 あぁ残っちゃったんだー。 それも頭に。 最近では世界が分裂して見えるとか。 

それってどんな体験なの? 体験談みたいなの聞かせてよ」


 「前にも話しましたけど」


 「いやいや、もう一度聞く事で治療に繋がる何か――ヒントが見つかるかもしれないじゃん。 覚せい剤による幻覚症状とか、そんな宇宙を見たり

神様と交信が出来ちゃうみたいな?」


メンタルクリニックとは何度も同じ内容を繰り返し話して、

自分に合う薬が見つかるまで薬のチェンジを繰り返す、それだけの場所。

それ以上の以下でもない。


得にこの患者を治す気のない襟原メンタルクリニックでは。


 「ま、話したくないなら無理には聞かないけどさ。 

何か気分転換になる別の事でも初めてみたらどう?」


 「朝起きて学校、帰宅してネット、そんな繰り返しの生活を変える。 

ほら君にも出来る唯一の行動療法だ。 生活改善って結構重要なことよ。 ネット依存なんだから、いっそLANケーブル抜いちゃうとか。 

ま、それで首吊って自殺とかされても困るんだけど」


ウチじゃ、薬を変える事ぐらいしか出来ないよ、と苦笑いする襟原。


看護師はただずっと傍に立って睨むわけでもなく、

人形のようにじっとしていた。


 「まあ、いいよ。 何時もの薬出しておくから。 

それとも変えてみる?君の好きな薬言ってよ」


 「君ぐらいベテランになっちゃうともう試してない薬の方が少ないし、

何出しても無駄な気がしちゃうから、適当に処方してあげるよ」


医師失格。

完璧なヤブ医者、壁に飾ってある医師免許が本物か確かめたくなる。


 「いつもの薬でいいです」


それだけ言い残して寧音は診察室を後にした。 


診察時間十分弱。 去り際に、


 「あ、もう、通うの面倒だったら別に来なくても良いから。 

どうせ治らないんだし」


腹が立っている所にさらに追い打ち。 

さすがにイラッときた。 振り返って軽く襟原を睨みつける。


寧音だってこの症状に苦しんでいるから医者に助けを求めている。

小学校に上がる前からずっとだ。 

寧音の症状は自分でも分からないぐらい複雑なのだ。 


けれど近場で通える医者は通い尽くしたし、何処も最終的に匙を投げられた。 最後に紹介された此処だけが、今唯一通える病院だった。


頼れる場所が他にないから、

嫌でも、ヤブ医者でも、治したいから毎週通院するしかない。


 「薬局に買い物行く感じで、また来ますよ、多分」


それだけ言い残して今度こそ寧音は診察室を後にした。

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