ご飯まで~・修正版
12/27二回目
「ただいまー」
長家の扉をくぐると、真一が玄関のテーブルに荷物を広げているところだった。
空瓶も幾つか並べているので、採取してきた薬草の部分毎に仕分け作業をしようとしていたみたいだね。
「おかえり~、ずいぶん早かったけどマリアンさんなんか言ってた?」
「大将がクマの肝くれるってはなしだったみたい。」
「いや、その肝は?」
「いま臭み抜きに牛乳にひたしてるから昼か夜に出してくれるって」
「ふうん、クマの内臓は食べたこと無いな~」
「コワいよね…」
「クマは普通に恐いけど、大将が料理するなら大丈夫だと思うけどね~」
作業をしている真一の隣に座り選り分けを始める。
小さな一番上の若芽だけを入れる瓶と、葉の部分をつぶして丸めて入れる瓶と、細かく刻んだ茎を詰め込むための瓶。
それぞれ酸化したり萎れたりしないようにするために、薄いレモン塩水が入れてある。
極端な話しこの作業によってポーションの味が決まったりします。
持ち込む人の漬け込む汁がそれぞれ違ったりするんだけど、材料の組み合わせによってはとんでもなく不味いのが出来たりするわけだ。
そして、基本的に加熱され濾過された青汁と判断しても差し支えない代物だから、どう足掻いても美味くはならないそうだ。
青汁のレモン塩味。
「それよかさ、今回薬草あんま採れなかったね。」
いつもより量は少ないが薬草は仕分けをしておくと割高で買い取って貰える。
普通は、束で適当にギルドに持って行くだけなのだが、部位毎に分けてから持って行くとただ薬草を持ち込む時とで二倍近く売る金額に差が出るのだけど、ギルドが販売してる専用の瓶の容器が意外に高いから1・5倍くらいにしかならない。
それでも、仕分けを止められないのは、帰宅と同時にやることが無くなるからだ。
―テレビゲームプリーズ
チマチマと摘ん芽をビンに詰めだり、葉を毟ってカゴに入れたらそれを真一が刻んで丸めたり、合間に根っこを切り落としてバケツに入れたりとオレ達二人の手元は忙しいさ。
「そうだね、街からも離れてたからそれなりに種類が揃ってたんだけど歩いたり馬に食べられたりでだいぶ荒らされちゃったのがツラいね」
何十人規模の冒険者が寝泊まりしていたのだ、馬に食われたり採取されたりであの辺りの薬草は当分生えては来るまい。
「でもさ、真一と健の二人は毎日狩りしてた訳なんだけど、武器の磨耗とか大丈夫?
二人が使ってる剣と槍は刀身に鋼も巻いてないような安物だからねー。錆びる前に研ぎくらい出したほうがよくない?」
「どうだろ刃物なんて俺らじゃいくら見てもわかんないし、研ぎに出した方がいいのかな?」
「錆びてたりなんかしたら、ギルドの人に何を売り付けられるかわかんないよ」
こびりついた血は拭っただけでは処理出来てない。安物の鉄製品なんかは、刀身にカバーを付けていても知らず知らずの内にサビが浮くなんてのは普通にあるそうで、サビの浮いた刃物で伐られた魔物の肉は腹痛など食中毒を引き起こす原因になる事があるのであまりにサビが酷い場合は商品にされない事もあるそうだ。
もっとも、サビサビの剣しか持てないような輩は食肉になるような魔物を狩れないらしいけどねー。
「最近は採集系だけで食べられてたから、そっち方面でお金かからなくて済んでたんだけどな」
「武器の手入ればかりはどうしようもなくない?」
緊急クエストに扱われてしまえば実力不足であれど強制参加だから仕方がない事だとあきらめるしかない。
「だいたい鉄の剣しか持ってないのに参加させるなんてね…。」
「普通なら参加したくても頑として追い出す癖に、ヤになりますよねー」
鉄の剣は魔物相手にした場合に、文字通り刃が立たないのが普通だから、いい口実になるかと思ってたんだけど、冒険者ギルド販売の鋼剣を売りつけられそうになった。
その事に対する不満を、二人でぶつぶつとグチりながら手元はプチプチと仕分け作業に従事する。
「…そう言えば、健は?」
「今更?健なら売れそうな物をギルドに売りに行ったよ」
強制依頼の枠じゃないから、賃金の代わりに手みやげ(参加賞)として無理矢理持たされた毛皮とかを売りにいったようだね。
「今更どうかと思う話しなんだけどさ」
「どうした真一?」
真一が作業の手を止め此方に向き直って真剣な表情で話を始めた。
「俺達は、何で鉄の武器だけで魔物切り倒して歩いて来たんだろ…」
真一が遠い目をしているけど、今更すぎて何もいえないわ。
「…そりゃ沢山もらって帰ってこれる訳だよ」
参加賞の記念素材で新しい装備を作ったりするのが通例ではあるんだけど、生憎と向上心が全くないオレ達は、安くて買い替えも楽な初心者装備から卒業する気がない。
防具はランクがあがると鉄の金製品が混じるので意外に見えない所から痛みやすい。
接続部以外は皮だけの初心者装備はそれなりそれなりに仕上がっているから、ほとんどの日に戦闘をしないオレ達にはこれでいいのだ。
けど、スリガゼルグループのベテラン様達には完全に実力を見抜かれてますね。
鉄剣しかないと言い張っときながら、魔物相手にほどほどの成果を毎日上げて無傷で帰還してましたな。
ベテラン様でも鉄製品じゃ難色を示すといふのにねぇ…。
「…そろそろ二人とも鋼買っとかない?」
今更誤魔化せないだろうけど、知らない人には言い訳がたつかもしんないじゃん。
「だって、鋼剣くらいだと欲しいと思わないよ。どうせなら聖剣クラスの武器がほしいよ」
「なんで?」
聖剣なんて悪目立ちしますがな。
「錆びたりしないみたいだしメンテナンスとかいらなさそうたから」
メンテナンスしなきゃいけならいなら全部同じとかそう言う問題じゃ無いんだけどね。
「聖剣にロマンとか感じたりじしない?」
「聖剣で魔物相手に暴れるよりも、マリーさんに一晩カチカチ棒を癒やしてもらうほうがロマンあるね」
「いきなり下ネタかお前は」
「…ウヒヒヒヒヒヒ」
「…お巡りさんコイツです」
「影丞に通報されますた。壁の向こうに行きますか」
とか言いながら真一はお座敷に移動していくけど、もしかして刑務所代わりに座敷牢か?
―壁の向こうにいっても元気でな。
二人の分別作業は延々と続く。