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フライパン

「鍋とフライパンで三万か…なかなか痛い出費だな」


健が銭袋を仕舞いながら「信じらんねー」と空を仰いでいる。ホームセンターなら三千円だせばテフロン加工のが買えるけど、金物屋とか鍛冶屋さんだと鉄製なだけで値段がいくな。


一般的に使われている薄い銅製の鍋とフライパンは「武器にならないからダメ」と健が突っぱねたせいなんけど?


「これで影丞の武器も出来たし、後は買わなくていいか?」


包丁とフライパンでどこに行けというのだ?


「後は油とコショウとか香辛料が欲しいかな」


水煮しただけの草を食べるとか味気ないから、味付けくらいしたいよ。


「醤油やミソがあるといいんだけどね?」


「異世界モノだと無いのが普通だし諦めような」


実際道端に点在する肉焼きの屋台は、塩焼きがほとんどみたいだから存在しないだろうな。


「それでもコショウくらいは欲しいけどあるかな?」


「そうだな確かにコショウも欲しいよな」


「そうだね。コショウさえあれば焼き肉だけでもなんとかなりそうだよね」


これには健も真一も同意してくれたけど、金並みに高かったらどうしようか…。

腹減ったからと言いながら小遣いでスーパーに肉買いに行った仲ですからの?

お菓子じゃないのがミソですな。


エバランのタレが欲しいです。


「とりあえず、食べ物屋を探さないとだけど…」


トマト系の味付けはあるみたいだけど、麺とかパスタは文化としてないようで、フライパンみたいな堅いロールパンとスープが一般的な食事みたい。


「パスタなら作れるかも知れないから小麦粉も買おう」


「そしたら、うどんも出来そうだね?」


パスタは塩と小麦粉とバターだけだっけ?

固めに練ってのし棒で平たく伸ばせば平パスタが作れたっけな。


うどんは、小麦粉だけでいけたかね?


「…多分いけるかな?」


確証はないが、それらしき物は出来るはず。


「…チネリ米みたいなパスタも作れたと思ったけどお米もあるみたいだからよかったね」


白い米じゃなくて赤米とか黒米らしいんだが、一応米そのものはあるようでザルで売られてる。

10キロ千円相当らしいが籾の着いた状態だと考えたら高いかもわからない。


「スーパーはないみたいだから、見て歩かないとならないみたいだね」


「…面倒だけどな」


健が素直な感想をくちにするけど、ほんとにスーパーとか百貨店でもあれば楽なのにな。


「…影丞まっすぐ歩け」


「まっすぐ歩いてますが?」


「いや、なんか違ったから…」

「…わかんないよ」


「健、絶対離しちゃだめだからね」


「まかしょ」



真一が前を歩き、健がオレの後ろから肩を掴みながら歩くんだわ。いや、健と真一の二人はオレの歩き方がなんだか危なっかしいと思ったらしいんだけどさ。



そのまま歩いてたら前の方がにわかに騒がしくなってきたね。


「おー、喧嘩してんじゃん」


「あぁ、女の子が絡まれてるみたいだね。」


真一と健が立ち止まり遠くを見ている。

今歩いてる道はアメ横みたいに露天や商店があるお陰で歩く人がやたらたくさんいる上に、日本でもヤイズに住んでたんじゃ体験出来ないレベルで人が居るから身長150あるかどうかのオレからは全く見えない。


人混み初体験ですが、人壁しかない状態ですわ。


見えるのは背中だけ、オレの身長では旋毛の見える人間はこの世界にはいないかのような錯覚すら覚えるよ。


それ以前にこの世界に来てから若い女の子とすれ違った事もないんだけどなんでだ。学生はまだしも幼児すらいないのよ。


それだけ治安が悪いのかと思うと流石に不安になってくるな?


「あ?なんか、あんまよくない状況みたいだから引き返そう」


「ん、危ないしな左にまがりま~す」


「りょうかいっす」


聞き耳を立てていた真一と健が、ゆっくり向きを変えるので、肩を掴まれたオレも徐行でUターン。


「ファックします。ピピーピピー。ファッ〇しまs…」


「…フ〇ックはしないから町中でネタはやめような」


トラックとかのバックしますのアナウンス真似てたら顎捕まれておちょぼ口にされた。


息は出来るが滅茶苦茶情けなす…。


「いやさ、あれは助けるのがテンプレなんだろうが流石にさ…」


「真一が思うこたぁわかるよ。本当にラノベの主人公って勇気あるよ」


つまり、ラノベは一月以内に何かが起こる。

頭を突っ込むか何を突っ込む簡単な分岐点がそこに有るわけだな。


つまりオレが言うべき言葉は…。


「まだ二日目ですし?」


「「そうそう」」


にこやかに会話して来た道を戻る三人だけど、君子危うきに近寄らずだからイイよね?


その後、なぜか香辛料の類が興味で覗いてみた魔法道具屋で売られてたのを発見し二万ほど放出した。


塩は岩塩が1キロ千円相当だったのでこれも購入。


意外と安いのかもしれないが、南に行くと海があるらしいから鍋を買って某無人島生活みたいに塩を作ってみようと言う話になった。


昨日と同じ宿屋に荷物だけ置いて日が暮れる前に、健と真一だけでギルドへ行くことになった。


-オレは荷物の番人に任命されましたです。


因みに、弓は武器屋に置かれてない事が判明。


どうやら弓みたいな遠距離の飛び道具は許可がないと所持が禁止されてるらしい。


鉄の剣かなりの重さで使える気がしない。


フライパンと包丁しか身を守る術がないとか厳しすぎる。


「影丞、帰りに草刈り鎌と鉈とスコップ買ってきたよ!」


「これで明日からもっと楽になるぞ」


帰って来た二人が、新品の道具をテーブルに広げていく。

健の特注品で鎌にはノコみたいにギザギザの刃がツイてます。



「でさ、花に希少なもんがあったらしくていくつかオークションにかける事になった」


「へぇ、そうなんだ」


この世界のポーションは、花の名前がついて売られていて、月下美人という花はエリクサークラスの回復が見込めるんだそうだ。


「で、持ち帰ってきた現物がコレ」


月下美人とは、サボテンとか多肉植物の花。

夜しか花が咲かず、朝には萎んでしまう花なんだけど肉肉しくなくてむしろ中輪菊とか大輪菊みたいな綺麗な花。


朝顔と反対の時間に咲く花もあるんだね。


でも、受粉とか考えたら夜に飛んでる蜂なんかいるのだろうか。


その辺りは異世界って言うより単純に生態系なのかね?



「…いやさ、アッチにサボテンなんかあった?」


ツルツルした茎はどちらと言うと彼岸花みたいな感じがするが見た覚えありませんが?


「そこは異世界だしな」


確かに、世界が違うんだから花の型が同じというだけでも奇跡に近いか。


でも、どくだみ食べる時其処まで考えてなかったような…。


「大丈夫だ。どくだみだから毒はないはずだ」


その異世界の知識のままでいて大丈夫かなと考えたんだけどさ。


「ダメならみんな道ずれになるだけだし?」


健さんや、それ全然大丈夫くないよ?


「まぁ、お腹も痛くならないから大丈夫なんじゃない?」


二日目は食べてませんが1日目にたくさん食べたから今更諦めるしかないのだと真一がいふ。

「でも、市場の野菜の色合いはすごかったから多分どくだみのがマシなんじゃないか?」


真一が、昼間見た市場を引き合いに出すが、売り物と野草の違いは売られていない事なんだが、この世界の野菜は凄くギラギラしていたからマシと言われても仕方ないかも知れない。野菜は蛍光色なのが当たり前らしく中身に至ってはもっと鮮やかだった。


キュウリの紫紫蘇漬けの鮮やかな蛍光紫の状態のキュウリ、水色のタマネギに、スパンコールみたいな輝きを放つ葉物野菜。

それらは自然界では生えてこないそうで国が定めた畑でしか栽培されてないそうで高価なんだそうだ。


普通の畑の野菜はと言うと蛍光色が黒ずんでるのでひたすら美味くなさそうだったのは確かだがまず言いたいのはどれも食べ物の色じゃない。

昨日サラダも鮮やかだったけどそこまで蛍光色じゃなかった気がした。

基本的に世間様では見た目を楽しむ食事らしく色を生かして塩味ばっかりみたいだね。


オレらが香辛料と認識していたスパイスの類は顔料などの扱いで食べ物として扱われてすらなかった。


どうやらこちらの住人達は、口の中を刺激される事にとても抵抗があるらしいです。


故に、唐辛子も芥子もありません。


そのくせ生野菜はほとんど食べず煮物かスープ。

色移りしたシチューは蛍光ホワイトでスープは塩味の色水が普通なんだそうだ。


ひたすら塩!そして色!


出汁がないからコクはないし味も薄い!屋台中の塩焼きもジャリジャリ砂混じってたりすると健が話していた。

いつ買ったよ。そしてなぜお土産として持って帰って来ないんだとの話になるわけなんだけど、そこに異世界らしいハプニングが!


A.曰く、肉がゴブリンだったからでした。


問い詰めた時の健は泣きそうな顔をしているのは、材料を聞いてから心底後悔したのを思い出してしまったからだそうで、筋が多く可もなく不可もなく塩の味。

うまくもなんともないから金輪際人型の肉は口にしたくないと健は話している。


夜中に忌避感に悩まされる健を宥める事になるのだが、なんぼなんでも人型はいかんよ人型は…。


これから露天や屋台の材料は店に何を使ってるか確かめてから購入しなくちゃ食べられないね。



夕方宿屋の食堂にてこんな一幕が…。


「ほら、お嬢ちゃん昨日食べたがってたオーガ肉のステーキだぞ」


「…くりふ」


黒々とした丸太の輪切りのような骨付きステーキを出された瞬間にオレは意識を手放して床に倒れたらしい。


オレの意識が飛んだ後、二人が料理のオジサンを土下座でメチャクチャ説得してオレらのテーブルに人型だったモノの肉が上がることがなくなった。


ありがとう二人とも!!


そして異世界メンタル弱くてゴメンナサイ。


◇◇


翌日、下着を購入するため服屋を徘徊する事をギルドの待合室で決めた。


替えの下着に気を回したのはオレじゃなくて真一だ。

基本的にアバターなら白いスポーティーな下着が付属されてたはずなんだけど、ブラはないし下はお子ちゃま向けの所謂カボチャパンツという下着というより短パンに近いモノで、健と真一はトランクスを使用している。


でも、この世界の男は基本的にフリーダムらしく勃〇した人間が歩いていても下着が抑えてくれないのでオッキしてるのが丸分かりだったりする。

あまりにオッキとの遭遇頻度が高いの小声で二人に聞いてみる事にする。


「この世界って大らかなのかな…」


「いや、若い女なんて影丞以外いないから¨覚め派¨したんじゃないか?」


「影丞だと、中学生くらいにみえるから子供だと思われてカラカワレてるだけだと思いたいけど、影丞以外狙いだと怖い…」


「そんな奴らが通ったと思うと気味が悪いな…」


小さな円テーブルを真ん中に俺が奥のトイレ側の壁沿いに座り二人が人が歩きそうな方に敢えて座っている。


まぁ、昨日の夕方は、戦に備え臨戦態勢であろう若めの冒険者が結構みかけられたが、ギルドのテーブルに座っていると目線の高さにアレが来るからオッキしてるのがハッキリわかる。ただ、堂々とオッキして歩いている人の中には、オレに気付いて慌てて隠すような人なんかもいるし、そんな人はまだいい人なんだろうね。


ちょっと、粋がってそうな荒くれッポイ人なんかパッツンパンズでそのまま歩いてくるんだからたまったもんじゃないわ。


いや気にされてないならそれでかまわないけど、とにかく異世界人は視覚的テロは控えなさい。

―今すぐに。


健と真一の二人が彼らの前に立てば、巡航状態のままで制圧出来ると確信してんだ。冒険者の装備はランチャーとバズーカは威力抜群の兵器であるかもしれないが、巨チン兵二体を目の当たりにすれば、矮小な自信など一吹きにて消し飛ぶに違いない。


あ、オレは色んな意味で枠外だから大丈夫。


今はナイ上にプライドなんか修学旅行の時に失われてるからな。

オレの背後さん(地球ボディ)は火星の人だったし。


でも、宿泊先のお風呂ってちょっと熱かったんだよね。


そんなだから、お風呂入る前にムキムキ出来る奴は頑張ってムキムキしてから入浴したのが仇となり、デリケートな局部を浸けるのが大変だったらしくて皆大変そうだったのさ。


いにしえの二人もな?


今のこいつらはそんな心配もいらないだろうけどさ。


「よし、健スボン脱いで異世界人共にマグナムを見せつけてやれ!」


「おれかっ!?」


「それは流石にやめようよ」


「大丈夫!健なら勝てる」


「勝ちたくねぇよっ!そもそもこんな場所で丸出しにしたら捕まるか変人あつかいじゃねぇか!」


「自分の可能性を信じてっ!!」


新たな扉が拓くかもしれないけど!


「自分にないから気楽に言うな!?」


「健なら、どこに出しても恥ずかしくないじゃん!」


「それ以前の問題だわアホたれ」


「痛い!?いたいってばっ!!」


ばっしんばっしん健に頭を叩かれる。


「影丞も、脱いでなんていわれたら脱がないだろ」


「オレは明らかにアバターだから脱いで脱げない事はない…かな」


いけなくなくない、いけるかいけないかならいけなくはないかいかない。


「でもさ、俺は脱ぐ脱がないより影丞のカボチャパンツはどうにかしたいよ?」


とにかく、替えの下着をどうにかしたいのが真一です。


「そうか?おれは色気がなくていいと思うけどな」


健が真一にこのままでいいと意見するが色気はないとはあんまりである。

着替えがないのも確かだが変な下着はノーセンキュー。

「せっかく可愛いいアバターなんだから、下着もそうであってほしいんだよ」


わけわかんない主張をし始めた真一だが、コイツパンチラ胸チラ大好きだった、チラリズムじゃなくて多分ひたすら下着に萌えてたと思うんだが…。


「とにかく、抑えておきたいのは黒Tバックだよ。影丞も娘様に黒のTバックは試させたいだろ!」



いや、黒Tは抑えておきたいいわれましても困るんですが??流石にそれを熱弁されてもオレとしてはドン引きするしかないわ。

いや、わからないでもないがわかりたくない。


「…脱げ言われた気分がわかるだろ」


「わかる、わかるから真一とめてくれよ」


脳内補完でエロ下着をハかされるのも勘弁して欲しい。


「無理じゃないか?ゲームのアバターのスウェットみたいな下着が気に入らないとか前から話してたくらいだし」


「…だけど、こんな真一みた時ない」


「影丞なら思うように可愛いく弄れるんじゃないかと思うんだろ」


「げ」


「…安心しろ母親が娘を着飾りたいのと多分同じだ」


「いや、それは流石におかしいでしょ」


「受け入れてやれ、可哀想だから…」


「いやいやいやいや!?」


そんなこんなで、熱弁する真一をよそにひそひそ健と話をしていたら、やおら真一が立ち上がり。


「よしわかった。影丞の下着はボクが選ぶ」


との宣言したった。


―いや¨ボク¨といわれましても…。



三日間同じ下着だったのでソッコーで部屋に帰り着替える。風呂に入れと?

うむ、オレの体はキレイだから大丈夫大丈夫。因みに、公共の大浴場が存在するらしいが、場所が定かではないので行かないでいる。いや、ウッハウッハ女の園ワッショイウッハウッハだろうけど、他人様に肌をさらすのは恥ずかしい事ですからおそらく女の園の内側は永遠の謎だろう。


なんか犯罪チックだし。


「影丞、下着が男女兼用で助かったな」


「まぁ、ブラ奨められたりとかしなくていいのは助かったよ」


ひもパンしかないので、装着するにあたり、いきなり大人の(いけない)階段を登ってしまった気分である。


男女で下着の種類が別れてたら、もう生きていけなかったかもしれない。


男は黙ってフリーダムな精神で下着が発展しなかった異世界よありがとう!


「ふしょうわたくし、この世界に来て初めてきてよかったと思いました」


「女になるわ小さくなるわお前一人だけ散々だからな」


「全くだよ。健も真一もカスタムされてんのに何でオレだけコストダウンされてんのさ」


「でも、いくらいい体手に入れても、こう燃費悪くちゃたまんないぞ」


「またドクダミ食べてる」


「屋台行くより精神的にマシだ」


「肉はもういいよ肉は…」


とりあえず。ズボンが黄ばむのは嫌だから日本人は黙って下着を着ける。

異世界はオレ達をほっといていいですわ。


「そういや真一がまだ帰ってこないんだけどどうしたんだろ」

「服屋に聞いて下着の種類にショック受けてたみたいだから今頃まだ店員に下着のなんたるかを話してるんじゃないか?」



「ふーん?あ、下着じゃないけどサラシの代わりに布買ってきてるから切るの手伝ってくれる?」


「まだ着けてなかったんだ?」


「いや巻いてから気づいたんだけどタオル並みに幅があるから結び目がデカくて三つ目の偽乳が出来ちゃう」


「…トータルりこー〇か?」


「いや、お腹にまわすともう妊婦さんでも通るんじゃないかと思う程です」


わかりにくいだろうから手近なカーテンとカーテンの端を軽く結んで見て下さい。


そうそう、そんな感じです。


なんにしても、服の素材になる反物を少しばかり売ってもらって来たのだが、そのまま体に巻くと幅が広くてハシを結べないから幅を減らして枚数を増やすようにしたのだ。


サラシみたいにすれば、着物のままでも胸元が見えなくなるし毎日取り替えが出来るようになる。


「半分じゃまだデカいかもな。三等分にしてサラシの端は結ばないで谷間にでも詰めといたらどうだ?」


「…結ばないでも大丈夫かな」


「捻挫した時に包帯の端っこが包帯と包帯の間に挟まれてたくらいだからいけるだろ」


なるほど、結んどくよりいいかもしんないね。


「…あんまり、縛ると乳が潰れて壊死したり内出血するらしいからキツくやらないようにな?」


「そうだね多少の支えになりすれば構わないしそうしてみるよ」


自前のおっぱいが壊死するとか怖すぎる情報ありがとよ。

やらなくても構わない気がしてきたけどブラじゃないだけマシだから頑張ってみるる。


「あんまやると真一が手を出そうとするだろうしな」


手を出すっても性的な意味じゃなくて指導って意味ですな?

昔母さんが話してた矯正ブラの指導員的な手の出し方でサラシの装着を友達に手伝われるのは真面目にやだな。


「あ」


「どした健、何かあった?」

健に支えてもらいながら包丁でピリピリと布を割いていく。


右に左によれてくからホントハサミもほしいよこの作業は。


「もしかしたら。もしかしたらの話なんだけどさ。今頃真一の奴は店員とブラ作ってるかもしれない」


影(」゜□゜)」⌒◇ポロッ


健が至極真面目な声で顔で告げたもんだから、思わずオレの作業の手が止まる。


「…いやでも流石に構造まではわからないでしょ?」パンツはまだしも、ブラみたいな複雑なモノの構造なんかわからんだろ。


「…真一が普通人ならおれも言わない」


冗談でせう?いやマジだから勘弁してとかフラグ点てるなくそワロ太鼓。


「…しっかり巻いたら諦めるかな?」


「真一に影丞が下着講習受けないように巻き終わったら手伝う」


健に手伝われるのもやぶさかではないが万が一の時は頼む。



「これでヨシ!」

キッチリとサラシを巻いた胸をパシパシと叩いて確かめる。


ふわふわぽよぽよしていたものが安定し一割尺の機動性を手に入れた。

サラシを巻くとつま先がみえるんだぜ?


初日に階段を踏み外してから階段を下る時は体を半身にして降りたりしていたからな。


それから昨日手に入れた此方で一般的に着られている衣服。


ボタンでない紐を結ぶシャツと、ゆったりとした飾り気のない男物のズボンを着る。

相変わらず黒髪は背中に流しただけのじょうたいだが、一般的な服装になった事で奇異の目を集める事もないと思う。


「着替えたか?」


言葉と同時に健が扉を開いて入ってくるが、事後承諾もいいところだ。


「今更きくか?」


「ギリギリを狙ってみました」


「焦るのはオレだけですか」


「問題ないよな」


「…まぁないわな」


着替えが終わったから入ってきたのは明白だから、怒りはしないがこのやるせなさは一体なんでせう?


「おっぱい太鼓でクソワロ太鼓」

「笑うなそこまで響かねぇ!」


健が胸を叩いてドラミング、どどどどんっとか動物園のゴリラが耳を塞ぐくらいに響いてマジウルサい。


「オレがおっぱい叩いた所で痛いだけだわ」


正直おっぱいが腫れ物とそうかわらないよ。

叩いたら痛いし触るといたくはないが¨手が触ってる¨感触が伝わるだけだから触らない方針になりつつある。


異世界にきたら歩くのに邪魔なコブが増えてました。


逆に下の方はアレが無いからポジショニングに悩まなくていいな。


マグナム持ちの二人は下手な位置撮りで視覚テロを引き起こさぬようポジションチェンジに余念がない。


姿勢も動きも巧みになっていく。

まぁ若いと歩いてる最中に意味なくオッキする事あるのは仕方がない事さ。


詳細が気になる人はドコゾで呟けばわかるさ、自制心も理性すら乗り越え、オッキする事が仕事なんだからよ?

もし、オッキしてる事に気がついても仕事と言う事にしといてやって、指摘するのは社会の窓だけにしてあげてください。


疲れててもオッキするんです~。


って、なんの話だったかな。


「あ、やっぱりダメだ…」


「どうした?」


「…いや、やっぱり影丞の仕事着は今まで通りにした方がいいよ」


「??」


何でどうして?


「谷間がないから視線がそこにいく…」


「おっぱい指さすな」


健の指をベシと撃ち落とす。


しかしパシッと逆逆襲された。

「イタす!」


「…悪いなんか条件反射で」


カウンタースキルばっか集めるてましたからねアナタ。


「許さんが?」


「…まぁそうだよな」


そうだよ。


「とりあえず、暗くなる前にちょっと真一の様子見てくるから影丞留守番頼むわ」


「あいさ、安全なお土産ヨロ」


「なんかないか見て来るよ」


「いてら」


「はいはい、行ってきます」


健の背中が扉に隠された。


「…そして、いつものように宿を出た冒険者達だったが二度と宿で会うことはなかった」


「人の出掛けに変なナレーションをつけるな!!」


手をさすりながら小さく呟いたのが聞こえたのか健が引き返してきて文句を言ってから今度こそ本当に出掛けた。


いてら~!



「ごめんくださぁい」


衣服屋の入口から声をかけるが誰も出てこない。

仕方なく奥へ進事にすると奥から話し声が聞こえてきた。


「つまり、現在我々が作成したモノの原型がブラジャーと言いまして…」


「…凄いですね。これなら確かに胸を下から支えてくれそうです」


隙間からのぞき込むと、大ざっぱにつくった試作品ブラジャー一号を服の上から体にあてがう衣服屋の娘がいた。


「伸縮性がないのでこんな形しかありませんが、本来のバストの保持のみならずバストアップの為の矯正ブラなどが主流で、これは女性に話して良い話しかを迷いますが、男性がいわゆる連れ込み宿に胸の形のいい女性を連れ込んでブラを外した所ガッカリしたという話がいくつもあります」


「はぁ…」


娘さんと針子さん4人達に熱弁を振るう真一だが、針子さんは現物を見て女性陣だけで話をしている。

真一とは違う意味ではあるがブラに興味津々なのだろう。


「真一そのくらいにしておけ」

「いやいや、今から下着のデザインの大事さを語らなくちゃならないんだよ」


いや、大事かどうかわからんが時間がな…


「あ~、お姉さん方は大丈夫ですか?」


「そうですね、今からでも真一さんに意見聞きながら作ってみようかと…」


針子さん達には概ね好評のようだからほっといて帰ったほうがいいのかな。


「わかった、影丞も待ってるだろうから先に帰るぞ?」


「あ~、健それなんだけど」


真一がもごもごと言いにくそうにしていると、ブラジャーを手にした針子さんが声を上げた。


「…あの!それなら真一さんは今日はウチに止まると言うことではいけませんか?」


その場にいた全員が「え?なにいってんのコイツ」と視線をむけたが、すぐさま他の針子さん達も彼女を擁護し始めた。


「まぁいいや。とりあえず宿はとっとくからさ」


「ありがとう、影丞にヨロシコ」


ヨロシコじゃないだろ。


針子さん達は二十代の女性ばかりだから多分大丈夫だろう。

真一だけ女の子と知り合ったなら腹が立つけど、おれから見たらキャリーオーバーだしな。

異世界に来てから真一だけ初のお泊まりかわるくはないが、影丞と二人きりなのもなぁ。


あー魚がいたくなってきたような気がする。

少し遠いけど市場に回ったら魚の干物でもないもんかな。


市場の近くには確か歓楽街もあるんだよな。

ポケットのなかに入れておいた釣り銭がチャラと音をたてる。―銀二枚…。

男だから処理の仕方も考えないとならない。つまりちょっと下見をするくらい許されるハズ…。


いや金はみんな影丞に預けてきたし、ちょっとだけな?


そうしておれはピンク色に輝く街に足を踏み入れた




「影丞、お土産だぞ」

健も日が暮れてだいぶたってから帰宅した。


手にしていた鮎みたいな魚の串焼きを渡されるが、真一は還らぬ人となったようだ。


「真一はダメだったか…」


「いや確かにつれて帰るのはダメだったけど、まだ真一はしんじゃいねぇから!」


香ばしくて良い香りなんだけどそれに混じって香水のような匂いがする。


「ありがとう凄くいい匂いだねぇ、でも焼き魚から女の人みたいな匂いがするってのもビックリだね?」


匂いとは粒子で構成されていてフェロモンも粒子で構成されてるから、似たような匂いが食べ物からしても不思議じゃないかもしれないんだけど、ちょっとまさか、見た目が焼き魚なだけコレ焼き魚じゃないんじゃないとかないよな?

「…っいませんでしたぁぁっ!」

いきなりドゴンッ!!!と頭から地に付けるみごとなジャンピング土下座する健。


― な に ご と か っ!?


「悪気は!悪気は無かったんです!」


ふむふむ、ちょっと興味で夜の歓楽街の入口辺りを徘徊して客引きのチャンネーの谷間を堪能していたら、いつのまにか綺麗なチャンネーが一人しがみついたと思ったら次々と綺麗なチャンネーに取り囲まれてオシクラ饅頭みたいな状況になり、這々(ほうほう)の体で逃げてきたんだと。

しかも、商売の人ではなく普通の人っぽかったとか。


…っ、なんて羨ましい!!


モテ期か?!健にモテ期到来なのか!?

お前どうしてそこまでチャンスが与えられておきながら見送り三振してきた、アベ◎打走Sでチャンバツの振り逃げとかありえんだろっ!?こうなってはしかたがない、オレとしては健にどうしても言わなければならない事がある!


「お前は馬鹿か?」


「スマン…」


うなだれて平謝りする健、あぁコイツなにもわかってねぇ、なう。


「くっそ!なんでオミヤ代しか持ち歩かないんだよ!!もしものために今度から飲み代食事代ホテル代は持って歩けぇぇぇいっ!」


「えぇぇぇっそっち!?」



オレは手に取った枕で健をバフンバフンと叩きまくる。


後悔先にたたず、オレは体験出来ないんだからエロ体験くらいしてこいっ!

健から異世界パラダイス体験談を聴取する機会が永久に失われたかもしれんっ!


「そこがアダルティーなチョコボール18禁か日曜日夕方5時になるかどうかの境目だっただよ!?」


「ガン〇〇と同じ時間とか狙いすぎだろ!?」


「子供向け番組の偉大さを知れぇぇぇいっ?!」


「アダルト回避して怒られるとか意味が分からんわっ!!」


健も負けじと枕を手にとりバッシンバッシンと互いに枕で殴り合う。


枕と枕の打ち合いをしている内に握力がなくなったオレの手から枕がすっぽ抜け健の横の壁に激突する。


「やっ!しまった!?」


「…くくくっ、どうやらここで終わりのようだなっ!!」


転がってきた枕を拾い上げた健は、一つの枕を腰だめに構え、もう一つの枕は盾を構えるように中央をつかんで前に突き出し戦士のように構えた。


「くっ異世界最初の獲物がオレになるとは!だがまだだっ!」

備え付けのテーブルからズリズリと木製の椅子を引っ張り出したのだが。


も ち あ が ら ん っ!


「…このイス重ったいわ」


仕方なくギコギコと椅子を元の位置に戻す。

いや、持てると思ったんだけど、なんか知らんが異世界に来てから身の回りにある物がやたら重たいんよ。


「枕叩きで椅子を持ち出すお前なんかこうだ!!」


「イタっ!イタすっ!」


ビシバシビシバシと容赦なく降り注ぐ健の攻撃にあっという間に部屋の隅に追い込まれる。


「なにか言い残す事はあるか?」


「ドーテー捨ててこi…」


「自主規せぇぇぇいっ!」


ドッパアァァァァンッ!!


「でゅぷらっ!?」


およそ枕が立てる音とは思えぬ音を出しながら枕が爆散。

綿と鼻血が宙を舞いベッドのシーツに微妙過ぎる赤色を散らしてオレ達の戦いは終わりを告げた。


「ちょっとあんたら!なにやってんのっ!?」


視界が傾き意識が薄れていく中、女将さんが怒鳴り込んできたのでオレは潔く意識を失った。

■暗転■


◇鼻血の止め方?◇


トントンと首筋を叩いても鼻血は止まりません。


頸動脈に手を添えてそのまま心臓が止まるまで、首をキュッと締めあげますと、血流が止まったお陰で鼻血も止まってしまうので鼻血は止まったでしょう?◇人生もオワタ◇


ティッシュ詰めたいけど異世界にはティッシュなんか無いんだよ…。


トイレの藁半紙だとキツそうだぁ。


でもまさか枕で意識を失い鼻血まで出しながら倒れるとは思わなんだ。


「…ここどこですかね?」


目を覚ますと、知らない天井のみならずしらない部屋に運び込まれていた。

自宅に戻ってるのを期待していたからちょっと残念。


夢なら気絶したら逆に目が覚めそうだけど、ほんとに夢落ちとかじゃなかったんだねぇ。


異世界あきた、ゲームしたいゲームセンター行きたいカラオケ行ってお母さんのご飯食べて風呂入って愛しの息子様の調子を確かめたら布団で眠りたい。


安いベッドだと逆に寝づらくてかなわんわ、寝るのには床敷きのの布団が一番いいわ…。


さて、殺風景な宿の部屋と違いキチンとした家具が置かれていて、ここが人の住む家で部屋だと主張している気がする。


この家の奥さんは収納上手にちがいない。


「起きてるかしら?」


「いま起きました!」


ドアから入って来たのは宿屋の女将さんで、何故か上半身裸でした。


■暗転■裸の女達が大きな風呂に浸かっていた。パラダイス!素晴らしい光景だがオレは風呂屋に来た記憶はない。

振り返るお姉さん達and揺れるパイオツブラヴォーワンダホー


―だが!これは孔明の罠だ!



「夢………のようなおっぱいっ!!」


再び目を覚ましたらせうめん(正面)に谷間が見えた。


上に視線を動かすと宿屋の女将さんであるマリアンさんの同衾(添い寝)ですかヤバいな。


そして、おっぱいは素晴らしいと思えるのに熱いパトスも燃え上がるリピドーも何も感じないが、おっぱいが其処にある。


うん、オレの青春は終わった。

どうしてこうなるのかな?せっかく異世界デビューしたのに、性別変わるわセクハラされるだけで、魔物は会えないし戦う(椅子を持ち上げる)だけの力もない、挙げ句の果てに健に枕でぶん殴られて気絶。


これが異世界かっ!!


よし、このまま不貞寝しよう。


―強いられている。


それが彼の言葉だった。


朝、マリアンさんに起こされて下に降りていくと健がイスに縛られていた。


あ、正座の文化がないから正座を強いられる事なかったらしい。


なぜ縛るのか?此方では昔からそうなんだそうだ。


健が縛られるのを受け入れたのは反省の意味合いであり、目覚めた訳ではないと健の名誉の為に補足しておこう。



「今日は何しようか?」


「…時間も時間だしなぁ」


人気のない食堂のテーブルに座って壁に寄りかかり立っている健に話しかける。


健がイスに座らないのは、座らされ続けて、休む時にまで座っていたくないかららしい。


健が解放されるのを待っていたら昼近くになってしまった。

女将さんと大将の目の前で、健にやりすぎだったと謝られたもんだから和解したら、二人が驚いていた。


オレら三人昔からこんなもんよ?


オレは負けるのに慣れてるし、めげなければいつでも再戦出来るもん。


それよりも、昨日でポポタン依頼は打ち止めになったみたいだからこれからは毎日他の依頼を探さないとならない訳だけど、昨日から真一は帰って来ていない。


異世界に来て四日目、健は捕らわれ、オレは意識不明になり、真一朝帰らぬ。


グループ崩壊もいいところだ。

「今からじゃ依頼なんかないだろうし、どうしようか?」


「そうだよねぇ…」


冒険者は夜明け前に動きだすから今から行っても高ランク向け依頼があるくらいで低ランク向け依頼なんかないだろうね。


「…なんか作って時間潰すか」

「なんかって何?」


「リバーシとかみたいなあそべそうな物?」


「オセロねぇ。」


所謂、娯楽性のある玩具で金儲け出来そうなアイテムでめもあるけどオセロ好きじゃないんだよな。


いや、オセロがではなくテーブルゲーム系統全般なんだけどさ。

「…それより体動かしたい」


「そうか…」


そんな、落ち着きがない子供を見るみたいな目をしないでくれ、実際に草むしり以外で体動かしてないんだよ!?


「草刈りも玩具もいらないから健に構って欲しい…」


「構うのは構わないけど言い方考えろー?」


「愛は要らないわよ?」


「美人が”わよ”言ってんのに違和感しかないのがスゴい」


「まぁ、オレだから仕方なしに」


「女やる気か?」


「やらないよ。どう考えても面倒いもん」


「いや、月のモノとかありそうだし」


オレより先にソレを口に出来る健はデリカシーの塊ですと思います。


「…まぁ何とかなるだろ」


「ならないと思うけどな…」



オレはアバターだから無いと思うんだけど、健が有り得ないだろう?とか、オトコ二人でなんて事を話題にしてるんだろうの。


「来たら教えるよ」


「いや、教えられても困る」


まあそうだよね?


「おぉい、二人とも昼飯食うのか?」


カウンターから顔を出した大将が聞いてきたので二人で「「食べる」」と反射的に答える。


因みに、このあたりの宿屋は三食宿代に含まれてるのが普通です。


タダ飯じゃないけど食えるなら食わないと。


「ごっは~んっ!」


「いえ~いっ!」



二人でハイタッチ。大将が「兄妹で仲いいな」とか言いながら奥に消えていく。


なんでいつの間にか血縁関係になってんですか?


「いや、他人だと誤解されそうだったし、田舎でオヤジがアナーキーだったって言う設定にしてみた」


男二人と女一人だから誤解を避けるのにみんな兄弟とした?

いや、アナーキーってなんだ?


「女遊びが好きでそこら中に子供がいるって事」


「いや違うでしょ?」


「多分違わない」


知らない間に遊び人な父が出来ているサプライズは嬉しくないな。


「でも、珍しくないみたいだったぞ」


「…ほぁん?」


「こっちじゃ、父親がゆきずりの冒険者でその子供が冒険者になるなんてのはよくある話しらしいし


「ラノベとか物語だとゆきずりの貴族とかはあるよね」


「貴族と冒険者じゃ人数がちがうけど、普通の冒険者が父親じゃ物語的に盛り上がらないからないんだろうな」


それだけ話をしてから健は何処かへ歩き出した。


「便所してくる」


厠ですかごゆっくり。


まぁ、これで二人にはオレがやたらと気安くて煩わしい男女間の話を振られないで済む理由が出来た訳だ。


恋愛は自由にすればいいと思うけど、恋愛した人間がはたして異世界から戻れるものかね?


今んとこ旅行気分でいられてるから全部保留にしてるけど色々話してかなきゃならない事が多いね。


辻褄あわせないとならんし?


食後に衣服屋さんに足を運ぶ。※


前回同様外からの呼びかけには一切応じない店員のいない衣服店。

入口に影丞を待機させ、おれひとりで奥の作業場に向かう。

影丞を店の中にいれるとなんか余分な事しそうだからとは口が裂けても言えない。



チクチクチクチク…


何度作業場の扉を叩くも返事がないので作業場の扉に僅かな隙間を作り覗き込む。

室内に居る者達は無言のままひたすら針仕事をしている。


その目の下にはクマがクッキリと浮かび上がっていた。


―ヤダ入りたくない。


健はそっと扉を閉じ扉と柱の隙間に黒板消しトラップのごとく手紙を挟み込んだ。

手紙にはこう記されていた。


シンイチ江


チチキトクスグカエレ



衣服店の前で待っているとチラチラと視線が寄越されるのがわかる。こちらにはない和服、しかも弓道着だから変わった衣装だと思われてるんだろう。


そのうち何人かに話しかけられる。


内容的には「迷子かい」「お父さんは?」なんて話しかけられる事数回、確かに身長も低め設定にしてあるけど、異世界人から見たらそんなに幼く見えるものなのか?

みんな180超えてるからな

仕方なしにキリリとした表情をつくり腕を組ん堂々と立ち近づく者に睨みを効かせるてみる。

すると話しかけようとして止める人が見られたりしたがオレの幼女疑惑の危機は脱したと思われる。


後日談となるが、偶然その場を通りがかった冒険者の人に、迷子の子猫が精一杯の威嚇をしているように見えたとの感想をいただいたのだが、この時のオレは、そんな話になるとはつゆ知らず堂々と立っていた。店内の入口脇に置かれていたイスにでも座って静かに待っててもよかったんだけどね。



「…下着だらけで入りたくなかったから、二人でドクダミでも取りに行こう」


「下着だらけってなんぞ?」


「いや、あんま話したくない」

いや話してくれなきゃわからんし。


「真一の隣の籠の中身のあれが、影丞の分だとしたらしばらく下着にゃ困らない程度には作ってた」


「何が悲しくて友達の作った下着つけなきゃならないのよ」


「レースがないのが唯一の救いじゃないか?」


左様でございますか。


「ドクダミ集める袋どうする?」


ポポタンは手荒くズタ袋に入れて渡してたけど、食料にするドクダミは綺麗な袋にしまいたい。


「あ~、そんなに気にしなくても適当に布にまるけてインベントリに仕舞うからいいよ」


ドクダミを集めるだけなら街の門の近くだけで済む。


ステータスを見るには、看破スキルだか技能が必要なので全員ステータスは見えないんだけど、健と真一にはインベントリが存在する。


ゲーム時代に、無限収納やインベントリは有料で二人はアイテムだらけで拡張してたんだよね。

けどオレはインベントリの拡張してなかったからなのか一覧表も見えない100キロまで収納できるアイテムボックスだ。

百キロなんて装備と持ち物だけで直ぐ満タンになるけど、それでも冒険者をしていくなら非常に有り難い能力だよ。


ただ、アイテムボックスに仕舞うと髪の毛の中に消えていく感じがするのが凄くいやです。


多分、健や真一のインベントリ、冒険者のアイテムボックスとは全く別の御業だと思われる。

アイテムボックスはなんでもいいけど、健がオレの肩を掴んで歩くのがデフォルトになりつつある。

今も至極自然な感じでオレの肩を掴んで歩きはじめたし。


「…あのさ、重くははいんだけどせめて手を繋ぐとかぐらいにしてくんないかな?」


「人攫いとかいたらいやじゃん」


「そんな日中からさらわれるとかあまりないと思うんですが…」


「けど小説とかは日中だってさらうし」


手を繋いでたら流石にさらわれないでしょ?


「だって恥ずかしいとか思わないかよ。男同士でもした事ないのに…」


「確かにガキん時でもしなかったね」


お手でつないで仲良くもなければ肩組んで歩いた事もなかったぞ?


「それに…」


「後ろまわんな」


後ろに回った健がオレの両肩を掴んで歩き出す。


「両肩掴んで歩くとチャリのハンドル位の高さだからつかみやすい」


「その手をはなせぇいっ!」


ぺしぺしと肩にかけられた手をはたきながら歩く。


「小さいことはよゐことだ」


「よかないわい!」


なんぼなんでも、チャリのハンドルの高さと一緒にされてたまるかっ!!


「影丞が叩いても痛くも痒くもないから無駄だぞ」


でもな、肩掴まれて歩くのって掴まれてる方はかなり恥ずかしかったりするんだよ~。

チリンチリ~ンと鈴を鳴らすオジサンを発見。


「健、異世界でも鈴売ってるんだね?」


「あ~、形がベルみたいな感じだけど鈴だな」


看板には【獣除け】の文字。

リアルというか日本でも普通に熊除けの鈴とか売ってるけど異世界でも通じる物なのだね。


そうそう、何で異世界で文字読めるかって日本語だし、本当は違ったとしても日本語にしか見えないし?


言葉も日本語で通じてるし、和製英語も普通に通じちゃったりするから異世界は日本語であると断定されてますだ。

違うと言われても困る(´・ω・`)


うん(´・ω・`)困らせないでね?


そうこうしていたら健が店の前で立ち止まる。


「すみません。見せてもらって構いませんか?」


「いいよ、こんな風に鈴がついた耳飾りなんかもあるがどうかね?」


店番のオジサンが、鈴がついたピアスやカフスが並べられている昆虫採集の標本の箱にでもなりそうな小さな箱を開いて見せてくれた。


「あっ、それ一個買いでそれからコレとコレお願いします」


燻し銀みたいにくすんだ色をした鈴のついたカフスを見ていた健がオレと鈴を交互に見ながら購入を決断した。


同様にピンポン球位の大きさの鈴がついた足飾りを一つとベルトに巻くらしい紐付きの二連の鈴を三つ購入。


なんか見えたので足と耳を素直に差し出す。


「どうぞ」


「なんで影丞用だとわかった?」


「…わからいでか」


素直なオレに驚きながらも

冒険者の耳元でチリンチリン鳴るのはいかがなものと思うからぜひ遠慮させていただきたいですが、小さい子や子か飼い猫がどこにいるか解るようには鈴付けるよな。


「やるならやれ…」


「いや、お前目が死んでるから。とりあえず足は仕舞え、外で着けてくれればいいから」


恥ずかしさを忍んで脹らふくらはぎまでさらけだしてみたんだが耳飾りと足飾りを健に手渡された。


まぁ、健なら嫌がるだろうと思いながらやったんだけど、買ったばかりの物を人前で着けるとか鬼畜の所業ですし?


逆に、黙って見てたらつけられかねないのが健だからな。


「やっぱり、腰用の鈴だけまいといて?」


もぞもぞと袴の腰紐に鈴を取り付ける健だが街中で腰に鈴付けるとかないわ。


「異世界人の方がわからないし」


「…どんだけ異世界人をしんようしてないんだ」


「いや異世界人ってーより、異世界の常識が疑わしい」


―さよか。


「警戒して損はないけど気疲れしないようにな?」


「異世界に来ていきなりヒロインと生き別れるとか無理ゲーすぎる」


「あ、オレって一応ヒロイン役なんだ?」


「影丞がモブだったら最初の依頼でいきなりゴブリンに攫われて苗床に…」


大量のゴブリンとかオークに捕まる苗床フラグとかはマジ勘弁して?


「健さん、オレだけ冒険者やめていいですか?」


「いや、今のはオレの言い方も悪かったから行きなり辞めないでくれ」


この先も冒険者をやるかどうかは真剣に吟味してもいいと思うんだけどな。


「とりあえず、歩こう」


―それでも肩掴んで歩くんですね?


まぁそんなこんなで歩いて行くと商店の中には結構変わったもんもあるわけだ。


そして、ウィンドブレーカーとかコートみたいな中に黒いローブを発見した。

赤い文字の値札がついて安いようだし、光を反射しない艶消しの黒のローブとか渋くていいな。

それにローブだと頭からスッポリ被るだけで着替えが楽そうでいいかも。でも、裾やら襟やらヒラヒラしてるから私服として歩き回るのは少々恥ずかしいけどアバ体の我が娘様には似合うかもなー。

「500…五百円!?」


そして破格過ぎる価格に足が止めたら後ろの健が言いにくそうに口を出してくる。


「影丞、似合いそうだけど赤い札の商品のほとんどがいわく付きだから気をつけた方がいいってギルドの人がいってたぞ」


「!?」


見られてたそしてその情報はもっと早くに欲しかった。

赤い札は呪われてるんですか?

「マジですか?」


「ローブとしては破格に安いから買うだけ買ってみるか?

防具系の中古で安い奴は冒険先で拾われた誰かのお下がりが多いらしいけど、傷とか補修した後なんかもなさそうだ」


そういや、ギルドの支給品はみんなそうゆう奴だって話してたっけな。


「いいや、なんかついてても恐いし」


夜な夜な独りでに動き出したらと考えると恐い。


「そうか?それじゃ帰りにまだあったら聞いてみよう」


「ん~、別にいいんだけどね?」


と、話しをしながら歩いていたら、健の体に形をぶつけた男が「おっとゴメンよっ!?」と言いながら逃げるように歩いていった。

その時に、パキッとかバキッとか小枝を折るような音が混じっていたから足元を見たのだが、土が剥き出しの地面だけど枝らしきな物んか落ちていない。


テンプレなら「健、ケガはない?」とか聞きながらぶつかっていった男に対して文句を言うべきなんだろうけど、気のせいだと思う事にしてしばらく歩いていたら、遠くの方で『ぎゃぁぁっ!?腕が!俺の腕がァァ!?』ととんでもない大声で叫ぶ男の声がした。


「影丞、しっかり歩いてくれよ」


グイグイグイグイやたらと肩を押して先に進む事を促す健。


もしかして、無意識カウンターでもやりました?


「鈴もならないような当たりだったんだから気にするな」


「てか、普通に歩いてるのに全く鳴らないよ」


ただ歩いてるだけなのに腰に付けた鈴は全く鳴らないのがが不思議でしかたない。

手で軽く振り回せばチリンチリン鳴らす事は出来るので壊れている訳ではないようだ。


「魔道具とかで魔物が近くに来るとなる魔法がかかってたりとかなんじゃないか?」


「なるほど、異世界だしそのくらいの便利機能なんかは普通にありそうだね」


だいたい街中でチリンチリン鳴ってたら五月蠅いだけだからそうゆう機能があると考えるのが妥当なんだろう。


「はい歩いて歩いて」


「歩いてます歩いてます」


せかせかと歩かせるようにせるよりも、少しはオレの歩幅にあわせなさい。


ビリー


足元から不穏な音。


「今の何の音?」


「影丞のズボンがさばけた音がした」


五七五?


「さばけた?」


「うん、ビリッと」


「…足がスースーしてますね?」


「そこの路地に入るぞ」


「あいあい」


足を出すたびにピリピリと音がする。


…たった三歩で亀裂は股下に至りました。


「健さんや、ニッチもさっちもいきませんぞ?」


なんぼ下に着ているのががカボチャパンツ様とは言えども、後一歩でも動いたら大事な部分が見える可能性大。


「動けぬ…」


「わかった。抱えてくからもう動くな」


「ありがとう」


まあ、背後からお腹抱えられて移動しただけですが、人の情けに涙ちょちょ切れるわ。

物陰に移動し袴に着替え、脱いだズボンを健が手に何やら呟いている。


「内側から破壊されている。影丞いつのまにそんなに太った?」


「いちんちふつかでそんなに太ってたまるか!?」


てか、どこ見て内側からだと判断したの?


結局ズボンはチャイナドレス並みのスリットが入ってしまいカボチャパンツが余裕ではみ出すレベルにまでさばけている。


「影丞は普通に歩いてたのになんでだろうな?」


「さばけちゃイケない付近まで破れてます」


「もう、エロいとかの問題じゃないなぁ」


ちょっと縫製甘いんじゃないですか?文句を言うために衣服屋さんに戻ろうー。



大きな声でハッキリと来訪を告げましょう。

「たのも~」


「お前は道場破りか?」

弓道着だし、なんとなくやってみたかったと健に小声で答えると「陵辱系イベントに発展しないようにな」なんて言いながらポフポフと頭を叩かれた。


うん、今日破るのはズボンだけで結構だけど衣服屋さんに乗り込んで陵辱系イベントって何?

「出てきませんよっ!?」


「そうだろうな…」


衣服屋の扉をダンダン叩きながら叫んでみてもだんれも対応しに出て来ない。


「勝手に入ったら怒られるかな?」


「…お前、今更それをおれに聞くのか?」


「いや、なんかわるい気がするじゃん?」


健はズカズカ入って行きますけど、オレ小心者だもん。


「そう言や、おれんちに入る時でもそんな感じだよな」


「自宅以外は他人の家だよ?」


「いや、ダチの家ならそんなに足音立てないような歩きしなくてもいいと思うぞ」


「それが出来たら苦労はしないんだけど?」


自宅以外だとなんか知らんが妙な事にまで気を使うのは昔からですからの。


「絶対ウチで夕飯食べてかないしトイレもギリギリまで我慢するし、まさか宿屋も落ち着いてられないのか?」


「実はムチャクチャ気を使いますな」


「なら、どっか安い借家でも借りて移ろっか?」


「いや、自宅以外は多分同じだから無駄」


「ガンコだなっ!?」



自宅以外は皆同じで自室でないと気が休まらないのだよね。


「修学旅行に行った寺で行儀がいいと誉められたのは私だけ!っ!」


ふんす。


「行く先々の寺で坊さんにならないかと誘われて困ってたな」


「ある意味悪夢でした」


「小坊主が似合いそうでもないのに何でだったんろうな」


「まるこめまるこめ?」


「あるいは童子趣味だったか…」


「…恐」


高齢者の坊さんなんかは涙しながら抱きついてきたりされたりなんかもあったけど否定が出来ない。


「なにゆえか、通りすがりの坊さんに拝まれたり握手を求められまくりましたな」


当時から娘様が気法師してたけど、流石にゲームのモンスター倒してもレベルアップするだけで、お坊様の言うような¨徳¨までは手に入らないハズだからね。


しかも紙装甲に筋力初期値の遠距離攻撃ステに特化してたからか現在とても非力ですわ。


それやると、脚力腕力も移動力とかまで初期値なるけど、〇〇は〇破とか力業な無理やりパワー(規制)ザー 自主規制して気功間欠泉…いきなりださくなったな。


まぁ、放出技が出来るわけで後悔はしていない。


体軽くなる軽気功、一歩も動けなくなるが発動中はほぼ無敵の硬気功。


さらに支援回復技は距離が近ければ近いほど回復力が上がるが放出系を修めたワシは宇宙世紀の種系なニュートリノビーム並みの迫力で微回復させる見かけ倒し。



ありょ?ショートソードがやっと持ち上げるオレはこれからどうやって戦って言ったらいいんですかお兄さん?「戦わないから早く入れ」


「押すなよっ!」


考えていたことを口に出していたらしく健がグイグイ背中を押してくる。


確かに、縫製の糸がのきなみさばけたズボンの苦情をいいに来たのに、今何を考えていたのだろうな。戦い方は事じゃないのは確かだがよ。


「タケちゃんが陵辱系なんて言い出すから悪いっ!」


「ちゃん付け禁止だと話したぞー」


体格が良くなってちゃんが恥ずかしいとの話したからそうしたけど、もともとこっちじゃ《〇〇ちゃん》的な呼び方しないらしくてギルドでタケちゃんと呼んだりしてたら、年配の冒険者さんが《タケチャン》と言う名前だと思ったみたいだったからチャンの使用は禁止になったのだよ。



「話が進まないからはいれよー」


「進まないけど無理やり進めさせないで!」


ほら片足はいっちゃったじゃないか!


「よし、押してダメなら持ち上げる」


オレの脇の下に腕を差し込んでヒョイと持ち上げる。


うんあれだね。高い高いを同い年にやられるとか 超 屈 辱


「うわ、影丞マジで軽いわ…」

持ち上げた健が驚いている。女の子なら喜ぶんじゃねえかなって感じのセリフだけど、持ち上げられたのがオレなだけになんの特典もつかないよ。


「軽くて悪うござんしたね。どうせあたしゃダシをとりつくされた鶏ガラ程度のゴミでございやすよ」


少々ヤサグレた気分で空を仰ぐと、“抱きつけば?”とばかりに飛び出した家のはりが目に映った。


「うわ、埃だらけできったねぇ」


梁の上は掃除なんかしないから埃だらけで触りたいとは思えなかった。


「こんな掃除してっから、ズボンもマトモに作れねーんだな…」


「やつあたりか…」


「やつあたりだから下ろせ」


「肩車てやろうか?」


「…マジでやめてください」


そら幼い子なら喜ぶかもしれんが、オレがやられたら情けなくてマジ泣きしそうだからやめてくだされ。



作業台代わりらしきテーブルの上には、ひもパンヒモTひもブラもしくはただの糸をならべられ、真一はそれにいかなる行為が可能なのかと熱弁を奮う。


部屋の扉をソッと静かに開けたオレは、口元を押さえて目伏せながら「いとキモす…」と、呟いてみる。

すると真一が「キモくない!断じてキモくなんかないっ!」と反論してくる。

下着メーカー勤務の方に反感かいそうだけど、男子がエロ下着広げて見せるのって間違いなくキモいよな?


だが、ヒモTを掲げる真一はクマができているのにとても満足そうで、お近付きだけは勘弁じゃぁぁっ!


―逃亡

season0随時追加中

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