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【season 0】現在追加章

桜が散り、青葉芽吹く川沿いを三台のチャリが進んでいく。


チャリ籠の中には、釣り竿にリュックサック、飛行場が見えた所でダラダラとチャリを漕いでいた少年らはチャリをこぐ足を止めて話し始める。


「んじゃ、いつもみたいにビリな奴がジュース奢りな?」


今時珍しい坊主頭の少年は、ツレの二人に確認をとるように話しかけた。



「いいけど、影丞大丈夫か?」


「おぉ、負けねぇぞ?」


メガネをした少年が、一回り小さなシルエットの少年にはなしかける。


なりは小さいが闘争心だけはいっちょ前にあるようで、ふんすふんすと鼻息も荒く答える。


「…んじゃ、行くぞ」


三人は狭い道を横並びに一列に揃えゆっくりと走り出す。


飛行場の周りの道は長い直線になっており、三人の勝負はそこから始まる。


滑走路脇の道は距離がとても長く、暇で始めたこの勝負なのだが今では釣りに行く時の恒例となっていた。

となると、もはや三人のあいだで説明などはいらない。


そして、小さな影も持てる力を足に込めグンッと加速をし――



そして、覆い被さってくるのではないかと思うほど背丈のある草に視界が塞がれる。


「ふぁっ!?」


小さな影は田んぼに突っ込んだのかと、しきりに辺りを見回すが、いまのいままで乗っていたハズの自転車はどこにもなく道路はアスファルトから砂利道に変わっている。


少し離れた場所に立ち止まって此方を訝しげに見ているのは、現代日本では考えられないコスプレをした男が二人。


だが、それよりも幼なじみ二人がどこにも居ない事に気付いて声を上げる。


「健!?真一!?」


振り返っても同じような景色があるだけで、前の男達以外だれもおらず、たとえ多少道をそれたのだとしても、近くに見えておかしくないハズの飛行場の電波塔すら見当たらない。


「たけるーっ!!しんいちーっ!?」


「うぇっ!?」


再度周りを見渡しながら二人の名前を叫ぶ。


いきなり叫びだしたから、男達も驚いてるみたいだけど、いかがわしい姿の二人の視線を気にしてはずかしがってる場合じゃない。


耳をすましても背の高い草がざわめく音がするだけで二人からの返事はない。


草の種類はススキとかみたいなんだけど、テレビでみたようなサトウキビ畑みたいな景色が砂利道沿いに延々と続いてる。地元では見たことない、知っている場所にこんな草が生えてる場所はないし。


「たけちゃーん!?しんいっちゃーん!!返事しっ!!てー?!」


本気で叫んだ。


けど、どうしてこんなにオレからこんなに高い声がでてるんだ!?


…ジャリっと音がして振り向いたら、さっきより二人が近付いて来ていた。


ちょ!?斬新なかつ上げかわかんないけど、文句なら聞かないからこっち来ないで!?

顔を見るとなんだか見たことあるような気がしないでもないが、オレの足は自然と後ろに下がりる。


ジャッと足元の砂利が音を鳴らし、それを見て二人の男は警戒してるのか足を止めた。


ゲームのハンターのアバみたいな変な格好してるけど二人とも結構背が高い。

チャリも荷物もないし、二人が追いかけてきたらすぐに追いつかれるかもしれない。

でも、逃げ出すならまだ距離が開いてる今しかない。


風が強いのか、半袖シャツにはなかったはずの、しろい袖がやたらバタバタと暴れるている。

基本的に黒しか着ないんだから服の色もなんかおかしいし、片口より下まで髪が伸びてるのもおかしい。


「影丞?」


「真一!?」

すぐ逃げるつもりで、男達から視線を逸らすと、多少低い気がしたが聞き慣れた声が近くからからかけられ辺りを見渡す。


が、彼ら以外にはだれもいない。


しんいちどこっへ!?


「真一、やっぱアレ影ちゃんだったな」


「たぶんそうなるんじゃないかと思っただけだよ」


聞き慣れたもう一人、健の声も聞こえ二人をもう一度しっかり確認する。


「健みたいな…」


なんか、信じられないくらい逞しいけど、二人は幼なじみの顔つきそのものに見えた。


「その健だから、走って逃げたりしないでくれよ?」


ホッとしたように健が力を抜いて、その場所に完全に立ち止まる。


「…じゃあそっちは真一?」


「あぁうん、そうなんだけど影丞の違和感スゴいね…」


なにが!?


二人の格好の事なら違和感どころか有り得ないでしょう?


健は、ヒャッハー鎧に長い剣を背負ってるし、真一は羽織袴に物干しみたいな朱塗りの槍持ってる。

オレ、それ最近同じ物を画面で見た事あるわ。


「なんで、お前ら絵師さんにもらった姿絵と同じ格好してるんだ?」


ゲームの公式サイトのプロフに貼り付けるためにゲームマネー使って書いてもらった格好だ。

なんのつもりかガチャ装備そっくりなモノを作って持ち歩くとか意味分からん。


んで服はともかく、舗装されてない砂利道を歩いててチャリが見当たらないとかおかしいだろ。


「それが、お互い様だから困ってんだけどな。」


「大丈夫か影丞」


二人ともなんの話ししてるんだかわかんないけど、流石にオレだって自分がおかしい事くらいわかるよ。


痛い訳じゃないんだけど、極度の打撲を受けたように胸の辺りで服の下側から腫れているようだし、パサパサと黒い髪の毛が背中で暴れている。


「ねぇ、オレらって飛行場んとこから車ではね飛ばされたりして死んだのか?」


「…いや、そんなはずないよ」

「車なんか来てなかったし、飛行機もたぶん来てなかった」


飛行機の墜落事故巻き込まれた訳じゃないならいいけど流石にソレはわかるだろうしな。

「だけど、オレさっきから彼方此方身体の様子がおかしいみたいなんだけど」

いや、体調は言いみたいなんだけどさ。


健も真一もオレの首の下に視線を落としてる。


そうなんだ、なんだかしらんがオレの服が弓道部が着るような着物になってて、鎖骨の下側には深い谷間が出来ているんだ。


本来は襦袢とか着るんだろうけどないからな。


「…オレ、怪我をしてるとかじゃないんだよね?」


「触って確認したけど、怪我はしてないはずだよ」


-触…


「いや、違うからな?倒れてたの起こすときにウッカリ掴んで…」


「…寝てる間に健に弄ばれてた!?」


「いや?!してないしっ??」


健がブンブンと顔を左右に振る。


「健、今のは言い方が悪いよ。肋骨が全部砕けて腫れたんだとしても、そこまで深い谷間は出来ないと思う…」


そうだよな、鍛えてなかっから筋肉なんてなかったし、胸骨と引き換えに更地が夏蜜柑くらいまで腫れるんだっら、命を惜しまないチャレンジャーだって出て来て、ちっぱい大国日本は、デート日よりの休日の翌日に病院が重危篤な患者だらけになるわ。



「弓道着って意外と露出高かったみたいだね…」


「胸でかいと、あて布しないと見えるって本当なんだな」


当て布、いや充て布かもわからないけど、鎖骨から下側が見えなくするために胸と着物の間に挟むハンカチとか手拭いみたいなのだよな。


女性の谷間が見えないようにする為だよ?

そもそも股下があり得ないほど物寂しいのはなんでだよ。


―なんで、オレ女なんだ?チャリで爆走していたはずなのに、気がつけば草原で女体になっている。


どんな奇跡?


「健たちは、なにが起こってるのかわかる?」


「ん?ああ正直おれにもさっぱりだ」


健が、頭を横に振っておどけるように答え、真一が二人で歩きながら話していた事を掻い摘まんで話し始める。


「…で、全員アバターみたいだから、ゲームの世界にでも入り込んだんじゃないかと思ってるんだ」


「…現実味が無さ過ぎて訳が分かんないよな」


わかります。

異世界転移とか、ログアウト出来なくなるデスゲームですね?オレ達も一応同一のオンラインゲームのユーザーだし、あり得なくはなあ訳だ。

ただ、ありがちなVRMMOじゃなくて、普通のガラケーでできる2DのMMOだから3Dとかリアルになってる説明がつかないから、異世界転移である可能性が高い…と。


「現状になってからさ、いままでかなり歩いてきたんだ。

けど、影丞だけロボットみたいについてくるだけで意識無かったから二人だけかと思ってたんだ」


「意識が、戻ってみたいだから話できて安心したけど返事もなくて怖かった」


あれだ、オレはさっきまでゲームのNPCみたいに返事はないが、ドラQエの仲間みたいに付かず離れず一定距離をついて来るお人形さんだったらしい。


遊びに出たのは8時くらいだったけど、太陽はいまは真上あたりにある。


そのあたりも含め二人にいくつか質問しながら歩く事にする。少なくとも二三時間二人で歩き続けてきたらしいが、少し前に小高い丘から町が見えたから今はそこを目指しているとのこと。


背の高い草のお陰で視界が限られて目視は出来ないが、二三キロ先に見えたからもうじき着くはずだと二人は話す。


「でも、一人だけじゃなかったのが救いだよね」


「マジでそうだよな、一人だけで歩いてたら暇だろうし」


いや、健さんや。真一は暇云々ではなく、孤独感や寂しいとかの話をしたかったんじゃないかと思いますがね?


「なにより、今までかなり歩いてきて魔物みたいのが出てこなかったからちょっとホッとしてるよ」


「まだわかんないんだけどね」

街に着くまでが遠足ですか?


「センセー!オレのバナナはドコにありますか?」


女体かしたからバナナないねん。


「そこは、バナナはおやつにとかだと思うんだけど?」


「いや、影丞のバナナがないなら桃を食べればいいんじゃないか?」


パンがないならお菓子を食べればいいじゃない?ってネタだろうけど、ネタとして捻りすぎてわかりにくいよ。


そもそもあの話しに至った経緯ってさ、パンをつくる為の小麦がないからパンが作れなかったんじゃないのか?

そうなるとお菓子なんかも作れ無いはずだから、報告した人は貴族様との価値観の違いに絶望してもおかしくないな。


今の子供がスーパーで売られてる魚の切り身が、あの姿で海で泳いでると思ってると勘違いしてるのと感覚的には同じじゃないだろうか。


いや、現代じゃないんだからお菓子屋さんなんかないだろうし、クッキーやビスケットみたいなお菓子のストックなんかそれこそ僅かだと思いませんかね?


砂糖や飴だけじゃ力なんか入らないし、小麦がなけりゃパンもお菓子も作れないよね。


貴族様には画期的な代替え案だったのかもしれないけど、部下としてはもうちっと頭使って欲しいとも思うんじゃないかな?

だとしてもだね。


「つまり、オレはいずれ食べるデザート?」

胸にならんだ二つの桃と、まだお尻に存在するはずの大きな桃。


バナナも桃も傷みやすい、バナナは傷みかけてからが旨いかもしれないが、桃は痛んだら食べられない。


まだ、全容は確認していないが我が娘たる体にはたしかに桃が三つも存在している訳ですよ。


そうですか、近日中にオレの桃は消費されちゃう訳ですか。


「いや、影丞の桃は毒リンゴより危険じゃないか」


「確かに、そうゆう話も良くあるけどやめようよ?」


二人ともスルーした、TSBLとか需要無いことを祈るしかない。


いや、確かに体についた桃を食べられる前提で話をしてたんじゃダメだわ。


「バナナや桃をカジられて死ぬのはやだなー」

「それ、どんな恐怖映像?」



血だらけ必至で、バナナなくてもヒュンしちゃう?


いやいや、ヒュンどころかガタガタブルブル震えてしまうわ。


健となかなか、スプラッタな話をしている横で、真一は「これで、三人揃ったから第一魔物も現れそうなんだけど」キョロキョロ当たりを見渡している。


意外と真一積極的と言うか戦闘の期待に溢れてるみたいだけど魔物なんか居るのかね?


もし、姿が変わっただけで日本だったり、鎧や武器を装備しないような平和な世界だったとしたらひたすら恥ずかしいだけだよね。


「そう言や二人とも武器使ってみた?」


「使ったよ」


健は言葉で真一はニヤニヤ笑いしながら肯定する。


「…どう?」


「ゲームよか笑えたけど、実際に使うとなると萎えるかも」


剣にはピアノの鍵盤みたいな模様が入っていて、打撃を与えた場所からピアノ鍵盤そのままの音が鳴る夜店で売られてそうなハイパーブレード。


某勇者みたいに、グランドピアノを持ち上げなくても、ピアノミサイルになるわけですね。盾はシンバルで、音楽家ガチャとかのタイトルの、戦闘中に作曲家になれるというガチャアイテムだったかな?


真一は、槍でありながら縦笛の音がして長さも伸びた筈。


「オレのどうなんだろ、一応背中には弓が背負われているし」

使ってみたい。


「試してみれば?」



「それがいいね」


二人も同様に気になっていたようであっさりとGOサインがでる。


「…だがしかし、《矢》がないのだわ」


弓はあれど、それにつがえる矢羽根がない。

ゲームだと弓は矢なんか必要ない武器だったからな。


使用と現実の違いって訳だね。


一応、矢がない状態でも真似事位はできるから、構えつがえて引いてをなんどか繰り返す。


ゲーム中なら一発放つ毎に《鉄砲玉》の精霊が打ち出されて様々なセリフとエフェクトを残し消えてはずなんだけどなんも起こらない。


音楽ガチャと違い、こちらは精霊の弓と言うネタガチャのレアで見た目ほど攻撃力はないが命中率の高さがハンパない。



「…不良品だ」

「町で、矢をかってからだね」なんども、引いて放つを繰り返していたら飽きた。

そもそも街に入れるかとか、武器屋とかもあるかわからないんだけどね?


「とりあえず行こうか?」


―了解。



どうやって入るんだ?


そびえ立つ壁に、街の中心には巨大な塔が見えた。

高圧電線の鉄塔くらいの石造りの塔だなんてちょっと物見台しては立派過ぎませんかね。


壁も海の防波堤より高いし、普通にこの世界の建築技術って高いんじゃないか?


そもそも、ゲームなの?異世界なの?


「門を探さないとだな」


門が見あたらないのでそのまま壁沿いに歩き始める。


「結構歩いてきたけど疲れないもんだね」


「いや、一時間くらいなら中学通うくらいだからそんなもんじゃないか?」


トミ中は遠かったからな。

歩きなれた範囲で収まっだけの話しかね?


いや、今更なんだけどオレら高校一年生でチャリ通初めてまだひと月だから体が覚えててくれたと見た方がよろしいか。


みんな誕生日10月以降だから15才しかここにはいないんだよね、街に入れないとかなったらどうしようか?


「…あったな、ちょっと行ってくるから影丞達はまってて」


門と見張りらしき人を発見した健がオレ達に指示をだして歩いていく。


万が一、町が敵なら三人で逃げる予定になってる。


「二人とも大丈夫だよ」


……………………さよか。


「いくよ?」


真一に腕を引かれて歩いていく。

基本的に、町の出入りは自由らしく問題なくはいれた。


ただ、門衛の人の表情がオレを見たあと引きつった物になった。


そうです。オレがオカマです。いや、健に一人が女装趣味と言う設定を言えと頼んどいたからだと思うよ?


「お世話になります」


「い…(ポッ)…らっしゃい」


通りすがりに会釈を一つ。

怖いから、顔を赤らめたりしないでくださいや。

しかも、店みたいな受け答えとか…。

後日聞いた話だと、見張りをしている門衛には基本的に話しかけないのが普通なんだそうだ。

理由は、魔物が来たら急いで門を閉めなくてはならないから視線は常に外を見てなくてはならんからだそうだ。


魔物いるんだ…やだな。


壁の内側の街並みはレンガ建築中心みたいで中世とかのヨーロッパ風になるのかな。


ただほとんどが平屋でたまに大きな建物は木造で作られているみたいだ。


門からは真っ直ぐ道が続き、あちらこちらで、焼き鳥屋みたいな露天が点在していた。


「いい匂い…」


昼を回っているから腹が減ってきてしまった。

オレはまだしも、真一と健はだいぶ腹減ってきてるみたいだしどうしたものか。


仕事とか探ささないとなんないけどバイトもした事ないんだよな。


「バイトだと皿洗いからだと思うけど…」


「…困ったな」


消極的な意見ばかりで、いつ飯にありつけるか全くわからん。

広場の一角に腰を落ち着けたオレ達はこれからどうして行くかに集中する。


「金もってそうな奴を路地裏に連れ込んで奪う…」


裕福そうな格好をした通行人を目で追っていた健が、真剣な眼差しをしてこちらに向き直る。

「いや、犯罪はやめようよ」


「そうだよ?いきなり死刑とかありそうだしもう少し様子を見てからにしようよ」


「真一もそんなの様子を見るまでもないだろ!?」


真一も健も犯罪方面に前向きになるのやめて?

様子を見てから大丈夫そうでもやらないでほしい。

奴隷落ちとか、盗んだ腕を切り落とされたりするの嫌じゃないか。


「そして処刑日に二人に助け出されて、後日盗賊団のリーダーとして賞金首に?」


「健だと見捨てられないし、冗談じゃ済まなくなるからやめてって…」


「やらないから大丈夫だよ」

「腹減った…」


健はおなか鳴らしてるし、本当になんか対策考えないとならないよ。


「万が一手段が見つからなかったら最悪ウリか…ぎゅっ!?」


「…おい、マジでやめろ」

ゴスッと頭に衝撃を受けて、オレは頭を抱えて地面をごろごろと転げ回る、お星様が見えるとか優しい表現じゃなくて、首に頭が埋まるかと思った。


「そうだよ、冗談でもそれはやめてくれないかな?」


「イッテっ!だから、最悪って言ったろっ!」


“最悪”そうするかなってだけだから、まだやると決まった訳じゃないし、出来たらやりたくないんだよ。


「…その最悪ってのが目の前にあるからいってんだよ」


健がオレの顔面を掴んでレスラーばりのアイアンクロー。


「ぎゃーっ!痛い!離せぇぇっ!?」


バタバタと暴れていたら、真一がオレのワキ腹に手を添えてきた。

助けてくれるにしては妙な位置どりだと思っていたら、真一はコチョコチョと手を動かし始めた。


「うきゃ―!?擽られてるのに痛い!」


顔面は痛いのにワキ腹は擽られてみを捩る暴れれば暴れるほど苦痛が増していく。


悲鳴を聞きつけ駆けつけた冒険者は、涙とよだれをたらし地面でヒクヒクと横たわったあどけない少女の姿と、必死にそれを介抱する二人の少年を見たと言う。



気がつけば、ぼんやりと部屋の中を眺めている自分がいた。

カウンターのある店の長イスに横にされていたみたいだ。


「…地獄を見た」


未だに感触の残るワキ腹に、恐ろしさを感じずにはいられない。


「ごめんやりすぎた」


目を覚ましたのに気づいた真一は膝をついて謝ってきた。


「いいよ、それよりここどこ?」


「冒険者ギルドだって、健は今奥の部屋で登録手続きしてる…」

「ワキ腹は今日から禁止だからな?」


「…今後絶対さわりません」


そうだよ、いくら叫んでもやめてくれないし呼吸も出来なくなる、擽られて失神とかどんな地獄体験だよ。


健は顔面だけど真一が悪乗りしてきたのが原因だからな?


「わかってます、でもやめろと言われるとやりたくなりのが心情…」


そう言いながらワキワキと指を動かす真一。


―ねぇやめて?


たまたま失禁とかしてなくて助かったみたいなのに、どうしてわざわざオレを追い詰めるような真似をするのさ。


ゆっくりと近づいてくる真一の指。

無言でバシバシと撃ち落とすオレの姿はさぞかし滑稽に見えるだろうけと、内心これ以上ないくらいに必死です。


お願いだから、ホントに反省してって!


自分の手をみろ、払われ続けて手の甲が赤くなってんじゃないかっ!それなのにゎなんで嗜虐心刺激されてんだよお前は!


「やめてやれよ、そのうち嬢ちゃんに嫌われるぞ」


カウンターに座っていたオジサン達が声をかけてくれて、ようやく真一の嫌な動きが止まる。

「…もう、みだらな接触禁止だからな」


「そこは、“みだり”じゃないの?」


「そうとも言う。でも淫らで顔もきしょく悪かった」


「きしょ…」


よくわからんが、あのニヤニヤ笑いははっきり言って気持ち悪かった。

子猫とかとたわぶれてる感覚なんだろうけど、オレには二度とやるな。


カウンターにいた誰かから「下心しかねえだろうからな」と呟いているのが聞こえた。


「そうだ、真一は今の自分の顔を見た?」


「え、あ、あるけど」


いや別に下心満載の顔を見てこいととか言うわけじゃなくてだな?


「…どこで?」


「そこのトイレに鏡が…」


「ちょと、見てくる」


オレは、身を起こして急いでトイレに駆け込んだ。


トイレの形は和式みたいだ。

鏡は入口の正面に大きな姿見が置かれていた。


あれか、着ている装備を見れるようにしてあるのか?


「なるほど、美少女だ」


鏡に映った自分は想像したより遥かにちんまりとしていた。


これは可愛い美少女だが、御世辞にも美人とは呼べぬ。


小さいが確かにアバター装備を意識して絵師さんに描いてもらった姿をしている。

けど、それよりなにより伝説のボットンらしくてウンコ臭いわ。

ついでにトイレしようだなんて考えてたけど、この匂いは無理だ。


美少女のインパクトよりトイレの匂いが強烈過ぎたて、美少女なんてたいしたことないとおもった。


ポットン便所はどえりゃあ臭え。


近所にあった現場の仮設トイレも臭かったいけど、ポットン超臭ぇ。


いまから、これ使わなきゃならないと考えただけでめまいがする。


水洗トイレくらいないのかとか思いながら、トイレを済ます。


-ん?色々あるのだが内面的な詳細は省くよ。


男なら普通に竿出して汁切って仕舞うだけだから説明なんか要らないでしょ?


半紙がががが置かれてたのは多分親切心からだと思う。


「コレがギルドカードな」


トイレから戻ったオレにそう言いながらギルドカートをした健。

安っぽい鉄の板に名前とかが描かれていた。


「予想したのと違う…」


スチール製のドッグタグその物にしか見えないのが残念無念。


「とりあえず身分証位にしかならないって話だからこんなもんじゃないか?」


健は首から下げた二枚のカードをチャリチャリと弄る。


一枚はギルドカードで、もう一枚はまだなにも刻まれていないがグループカードだと話していた。


それがあれば、何人かで依頼を受けていても精算を一人で出来るらしい。

これは、健が一番物怖じしないので真一が健に任せると言う話しで取得させたらしい。

今は健預かりではあるが、短剣なんて武器も支給して貰えたとの事。


因みに、街に入るときには落ちていた木の棒を手にして歩いてきた。

ガチャ武器に関してはゲーム的な機能でオレの分も仕舞ってくれてある。


木の棒の先に短剣をくくりつけて槍みたいにでもしてみようか。


「…とりあえず、今からの為に依頼を探してみよう」


「まさか、異世界で冒険者になるとは夢にも思わなかったな…」


歩く健を追いかけるように二人で席を立つ。

真一がボヤくように呟いているが、オレとしても苦笑いするしかない。


「冒険者はいいけど、女冒険者をしなくてはならないんだぞ?女を演じる自信はないよ」


不幸自慢じゃないけどこれ結構重要だからな。


「女の人の影丞?見たいような見たくないような…」


「…悩むと後が大変だよ?」


割り切らないと、本当にオレが困るんですが?


「…これかな?」


入口の壁に紙が貼られた掲示板があり健がそこで足を止める。

いや、精々コンビニサイズの建物だから付いてくなんて程でもないんだけどね?


「ちょと失礼、これおススメですよ?」


カウンター奥に居たお姉さんが健を押しのけ張り紙を追加していく。


依頼の追加みたいだけど健が張り付いてたから邪魔だったみたいね。


「「テンプレ来た」」


新しい紙を覗き込んだ二人が同時に呟く。


―薬草採取―

門の南側の平原に生えている薬草の採取。

ギザギザの葉に黄色い花をつける《ポポタン》


買取方法:1キロ=1000ギル

数量制限なし


焼き鳥が1串200ギルだったから1ギル1円くらいかな?

一キロ千円ときたら結構率がいいのかな?


んで、ギルドの知り合いの宿屋が雑魚寝の部屋で1グループ三千から五千だから10キロ集められたら…かなり難しい話だの?


でも、個室は1人七千とか言うてたし?


もう半日過ぎてるから、宿屋くらい何とかしたいね?


「…いまから草をとれるだけ取ろう」


健の判断に任せる。


他の依頼はよくわかんないし草抜いてくるだけで何とかなるならその方がいいや。


「え、魔物退治じゃないの?」

真一が、残念そうにしているけど“ナンタラ山に住む~”とかばっかりだから今からじゃ無理じゃない?


「いやさ、生き物は解体しないとならないらしいからあんまり」

健も狩りには消極的な様子。


「…一応さ、まだ裏口で解体やってるだろうから見に行く?」


なんか青い顔してると思ったら、ソレを見て気分悪くなってきたんだそうだ。


なら、オレはみたくないから行かない。


「気になるから行ってくるよ」


「そうか、返り血に気を付けろ?」

好奇心だらけの真一の背中に健が声をかけたけど、アチラはどんな状況なん?


「よく影丞が行かなかったな」


「基本的に内臓は無理だし」


健は意外そうなな顔してますけどね。

ウナギの肝をマジマジと見てたらだんだんと気持ち悪くなってきて、今では内臓系食べれなくなりましたからな?

普段食べないからキライで構わないと思うし、どうせその内見なきゃなんなくなるのに、自分にとっての地雷をわざわざ踏みに行きたくないよ。



「…影丞、意外と飛び散るみたいだよ?」


戻ってきた真一は血まみれでした。


―猟奇


真一はギルド職員に水場を教えてもらい血を洗い流しに…と言うか水を被るだけだから丸洗いなのか?しみになったりしたら困るんだけど、戻ってきたら草刈りに行かなきゃだね。



ポポタンとはタンポポでした。

抜いては袋に詰めるだけのお仕事です。


すり潰して絞った液体を煮詰めて軟膏になるんだそうだ。


いや、地球じゃ白い液体が毒だとかゴムになるとか言ってたんだけど軟膏か…。


異世界違うな。


「一面タンポポだらけで助かったね?」


「種とかまいたひまわり畑並みに生えてんだから、テンプレートなんだろ」


「なるほどね、植樹済みか」


ありがちありがち?とりあえず、これから有りそうなテンプレを例にあげたりしながらポポタン草を抜く


「それはそうだけど、まだ採るの?」



袋一杯にタンポポが溜まったら健に渡し、健がインベントリに収納します。


なんだかんだで、山が出来るくらいは集めたんで宿代くらいは確保出来たと思うんだけど?


「いやいやいやいや、一回で依頼がなくなるかもしんないんだからなるべく大量に集めて帰ろ?


「了解」


健は、日が暮れるまで続けたいみたいだ。欲張りってよりホントに必要だから否定する気はないけどさ、いい加減腹が減ってきたんだよね。



「健、どうしようまぢで腹減ってきた…」


「そこは草でなんとか…」


「むちゃくちゃいうなっ!?」

健が差し出してきた毟った草をオレははたき落とす。


「一応食えるんだけどな」


健は土を払って「どくだみだから食えなくはないんだよ」と言いながら口に運ぶ。


「「?!」」


躊躇いのないその行動に呆気にとられる中、もしゃもしゃと健の口から咀嚼音が響く。


―モグモグゴクン


「ほら大丈夫」


「「………」」


口の中を開けて見せてくるが、全く信用できない。


「騙されたと思って食べてみな」


そして健は真一に草を手渡すと真一は受け取ってしまった。


―パクモグモグ


「おおぇっ!」


噛んで二秒で吐いた。


「…慣れればどうということもない」


いやむりっしょ?そんなバカしながら草むしりしてたらホントに暗くなってきた。


「健、そろそろ危なくないか?」


「そうだな、そろそろ帰ろうか」


オレの提案に、焼け野原の如く荒れ果てた大地を前にした健がようやくポポタン探しを諦めた。


昼過ぎからポポタンを抜き始めてからこっち、根こそぎと言う表現がコレほどピッタリな景色もあるまいて…。


「もう少しまてば、魔物もきてくれるんじゃ…」


なんて事を辺りを警戒していた真一のたまう。

いや期待してたんだろうけど無茶じゃない?口の中もどくだみ臭いし流石に疲れたから戦闘をしないで帰りたいと思う。


「そんなんじゃ、戦闘できるかすらわからないじゃないか」


真一は魔物倒したくてウズウズしてる。

尤もな意見だけど、冒険者は安全第一で冒険しないんだって受付さんも言ってたんだぞ?


「魔物より、帰ってもっとましなもん食おうぜ?」


結果的に、どくだみを食らって思った事は、生なんとなく苦いし臭い、ゴーヤの苦味に比べたらどくだみくらいならなんとかなる。



帰ってもっとましなもん食おうぜ?」


結果的に、三人ともどくだみを食らったが、生は苦いし臭いけど、前に食べたゴーヤチャンプルよか苦くなかった。

ゴーヤの苦味に比べたらどくだみ程度なんとかなるもんだ。


と強がってみる。


食べたくて食べてる訳じゃないんだよ?健が炒めた方が美味いと言うから、明日はフライパンと油を用意してこようかだとさ。


「炒めるくらいなら出来るだろ?」


健がオレを見てそんな事のたまう。


見た目は女だけとオレにそんなスキルはないんだぞ?


「家でお母さんとプリンとか作ってたじゃん」


「今すぐ黙れ、期待をするな!」


プリン液なんか簡単に作れるし、プリンが好きなんだからいいじゃないか。


一応レシピは、卵三個に砂糖60グラムと300ミリリットル


家族来客用に小さな器でたんと作ってたけど、それ以下の分量はあんま作った記憶ない。


卵一個なら砂糖20グラムと100ミリリットルで多分大丈夫。


基本レンジで五分だけど、蒸したり焼いたりだっら様子見ながら火を加減してさえいれば大概出来る。


茶碗蒸しは卵にダシ汁だけと似たようなレシピで出来るけど今は忘れてくらはい。それでも、プッチンサイズ三つはできるな(濁汗)


でも、余ったのはみんなオレのおやつに出来たから多くても困りゃしなかったんだよ。


むしろバチコーイだった。


それくらいで黒歴史とか騒ぐ話しじゃないけど、其処に期待されても後が困るんだよ。



くるる、くきゅ…


日も落ちた頃、オレたち三人はギルドの待機室で力なく机に突っ伏していた。なんと、ポポタンの取りすぎで買取の計測がいつまでたっても終わらないという前代未聞の罠が待ち受けていた。健が持ち込んだ量に受付さんがしばらく口開いたまんま見てたそうだから確かに大量だったんだろうな。


くるきゅ~


「…腹減った」



くるきゅ~


「…腹減った」

ギルドの受付カウンターにも人がおらず、過去最大の草山に鑑定小屋が埋もれて、ギルド職員総出で薬草の鑑定をしてくれている。


―次からは、交代で売りにこよう。


くるるるきゅ~


「くふっ、…すまん影丞」


「こちらこそ…」


全員机に伏したまま話をしているが、腹が減ってるからと言う理由だけではない。


くるきゅきゅきゅ…


「…どゅふっ」


「げひゅっ…きひ


異音がなる度に、二人から押し殺した笑いが聞こえ肩が震える。


恥ずかしさで死にそう、さっきから絶賛演奏中なのはオレの腹です。


―誰か助けて下さい。


笑うと腹が減ると言う理由で、二人とも笑いを堪えてるんだよ。

さっきまで、爆笑してくれてたからな。

オレはもう、恥ずかしいやら悔しいやらで顔を上げらんないよ。


くきゅるるるるる…


「影丞、おなか静かにして…」

「…くふっ」


無理~~!


揉んでも押さえても止まらないんだよ。


「そう思うなら、なんか食わせろ」


「ちょっと堅いウィンナーなら…」


「あ、俺もフランクフルトなら…あるかな」


―それチン〇だよな?


「そのウィンナーパンに挟んでないか?」


日本男子の半分が火星ホーケーだからな~?


「きたないから下ネタやめぇ…」


「おなもーみ」


「ひっつき虫か?アレも食べれるって話だったな…毒もあるらしいけど」


真一は響きが卑猥って事でおなもみを選択したらしいけど、健が、蘊蓄ウンチクをたれ始める。


もともとは干ばつなどで作物が穫れないときのためにご先祖さんが植えて広まった植物で、食べるのはやはり種の中身だそうだ。

でも、牧場に自生していたおなもみを食べた牛がその毒だかで死んだ事もあって食べるには勇気が必要だから控えようだと。

―いや、食わねーから。


みつけても、基本的に投げるだけだから食べる前提で話しするのやめてくんない?


ヒヤシンスだかの球根もどこぞの高山では、水分に含まれた毒素を足で踏んで水ごと抜いて毒の量が少なくなった球根を保存食にしてたらしいけど、ジャガイモが育つようになってからはジャガイモを足で踏んで水抜きして保存食にしてるらしい。


中国は都合の悪い事はヒトでも電車でも埋めちまうらしいけど、ヒヤシンスは毒だからわかるけどジャガイモの水分にはでんぷん混じってるんだからもったいないともとも思ったっけな。

その地域の人は、どうしても足で踏まなきゃ気が済まない真性のSばかり住んでるとか?


くるきゅきゅきゅ…


うんちくするよりおなか空いたな~。


「健まだかかりそう?」


「いや、もうちょっとで見える」


―三州の河?


イスの下で衝撃が走ったけど、健が真一に蹴られたみたいだ。

なに暴れてんだとか思いながら視線を下に移すと、オレの弓道着の胸元が“かなり”開いてきていた。


机の下では桃源郷(乳首)がみえそうでしたか?


「で、なにが見えた?」


服の襟を抱き寄せてテーブル下をのぞき込むと真剣な顔をしたガン見していた二人が明らかに落胆した顔をしていた。


「見えたか?」


「「………」」


沈黙。


くるきゅきゅきゅくるきゅきゅきゅ…


二人して、谷間をガン見してたのは構わないんだけど、ある意味音の鳴ってたお腹をずっと見られてた方が恥ずかしいわ。


なんだ。あの笑いを堪えてたのはお腹がなってたからじゃなくて、おっぱい見えそうだったから“ウホウホ”してたって事なんか?


文句の一つも言うべきかも知れないけど、オレは放置しておくべきだと判断する。


「まぁ、そんなもんだよな…」


「影丞おこらないのか?」


「女でもないから見られたくらいじゃなんとも言えない」


オレが同じ立場なら多分同じように見るだろうし、それよかなにより腹へってんだもん。



「…怒れよ」


なんで健が不服そうにしてるんだ?


「やだよ女じゃあるまいし面倒臭い。オカマの胸元覗いてる様なもんだぞ?」


「…なるほど」


「見たけりゃ見せてやっても構わないんだけど、どんなに外見がよくっても中身がオレなんだから、エロ方面に持ってってどうする気だよ」


胸をテーブルの上に出しぐだーんと机を占領する。


…これ、乳が楽かも。


「それにさ、見られたからって二人に対してスケベとか言うのヤだよ?可愛いのは確かだから二人が何かしら悶々とするのもわかるけど、それこそ初日から色エロ理解してたらヤバいだけだろ」


「けど、メチャクチャ可愛いんだよ」


「本当に可愛いんだから困ってたんだよ」


健は頭の毛をガシガシとかき回し、真一が机に伏して声を出す。


「いくらなんでも、見た目に拘られても私困るです?」


見た目に合わせ、ネトゲでよく使ってたような言葉を使ってみるが、中身が自分だとしっくり来ない。


あれあくまでチャットだし、実際に口に出したことないから気持ち悪さに自分の顔が歪むのを感じた。


「そんな顔するくらいな言うなよ。おれらが悪かったわ。」


「あいあい了解」


二人も空腹で正常な判断が出来なくなってたんだろうから気にしないよ。


くきゅ…


「それよか、オレのお腹止めてくれたら何しても良い気がしてきた」


「「ごめん無理だ」」


即答すんなよな。



「やっと飯が食える」


計測はまだ継続中だが、受付さんから声がかかり、現在わかっている金額だけ受け取る事が出来る事になった。

盛大に腹を鳴らしているオレを見たギルド職員が、これ以上遅くなると、食事ができる店がなくなってしまうからなんて言う配慮をしてくれたらしいです。

でも、山の半分ほどで二十万と言う大金になったので、さい先はいいと見ていいのかな?くきゅ…


金が手に入ったら先ずやることは飯。


「とりあえずここか?」


きゅるくく…


健の先導でたどり着いたお店にはいるなり、なりを潜めていたお腹が盛大に鳴り出したが、オレの左手は真一にガッチリ握られたままでいる。

ギルドからこっち、オレがあっちこっちへフラフラして見えたらしくてそうなった。


「行くぞ」


「影丞はちゃんと歩いてよ」


くるくるきゅ~と空腹が限界です。



「ごめんください」


健の後に続いてゾロゾロと店内に入る。

店内に人気がないのは時間が時間だからだろうね。

シチュー


「お~、いらっしゃい」


カウンターの奥のドアから戦国武将みたいなワサワサと髭を生やした大柄な男性が出てきた。

「もう、火は落としちまったから、簡単なもんしかだせないが、それでいいかい?」


「肉はっ?にんぐぐ~っ?!」

すかさず肉を頼もうとしたら隣の真一に口を塞がれた。

そして真一が“たぶん薪だから火を起こすのに時間かかる”と小さく耳打ちしてくる。



「いや、肉じゃなくてもいいんでとりあえず腹に溜まるようなもん頼めますか?」


「あ~、それならシチューとかになるな、ちょっとまってろよお嬢ちゃんにもハムくらいなら出してやるから」


そう言いながらオヤジさんは厨房へと消えて行った。


「影丞、薪だと火を起こすの大変だから焼き肉は無理だと思う」


―なるほど了解。


「それに、どんな肉使ってるかわかんねぇんだからな」


あるあるですなわかります。


とりあえず、追加注文予定で三人はカウンターに陣取る。

ありとあらゆる店で大量にたべるなら店員が目前にいるカウンターに座るのが基本です。


入れ替わりに、30才位のお姉さんがやってきた。


「お兄さん達宿に泊まるつもりなら、三人部屋と個室と大部屋全部開いてるから一律一人二千よ」


深夜料金“割引”らしいです。


「あ、それなら三人部屋ありますか?」


「個室じゃなくて大丈夫?三人部屋でも一部屋でも値段一緒よ?」


「一緒のほうが安心なんで、それから体拭ける物を…」


「その娘も一緒に?」


「えぇと、身内だけどそれは流石に…影丞一応飯食べたら先に拭かせてもらえよ?」


くるきゅ


「…らじゃ」


口より先に腹が答える、なんという存在感。



「あれっ!?いがいと入らないっ!」


ハム二切れに固いロールパンとシチューを一皿食べた所でほどよい満腹感に満たされる。


健と真一もそうなのかと聞けば全然たらないと答えたので、体に見合った量しか入らないのはオレだけみたいだ。」


「マジか、前より体が小さいからか?」


「たぶんそうだね、俺はまだ食い足りないから残り貰うよ?」


健と会話するそばで、何気なくオレの皿からハムとパンを誘拐していく真一。

どうせ入らないから残るだけだけど、オレの了解を聞いてからにしよか?


「まぁいいや、先に部屋でからだ拭かなきゃならないし」


「寝る前なら夜食も頼めるみたいだから、貰ってくからよ」


「飲み物は?」


「酒かミルク」


「んじゃミルクで」


「了解」


酒はいかんよ酒は。



そして、三人部屋で体を拭く健達はとてもいい体をしていた。オレと違って見た目チートで羨ましい。


この体でムキムキに鍛えるのはあり得ないからひたすら二人を羨もうと、その晩はペタペタ二人の体をまさぐり倒したら「らめぇ~」とかいいながら二人が宿から逃げ出した。


―それオレの役割だぞ!?


◇◇


金物屋でフライパンか鍋を買ったら油を探さないとならんし、食器洗剤も欲しい。


スーパーマーケットが一つもないのはホントに不便だ。

ナヲタラ商会と言う大きな商いをしている商人が居るらしいが、小麦や鉄を王都に売りに行くみたいな輸送力の必要な商売をしているらしく、専門的な店がほとんどらしい。

何軒かまわらないとならないようだから昼に戻ってきた時に買い物をすると言う流れになって、夜明けと共にポポタン依頼を持って意気揚々と町の外へ。


昨日刈り尽くした様な気がするから案外早くに街に帰ってくるかもしれないと、荒廃した草原を想像しながら街を出たら掘り返した跡など何一つ残っておらず、一面ポポタン草原になってました。


「異世界のタンポポってこんなに成長早いのか?」


朝からプチプチとポポタンを抜く作業を再開。


昨日の稼ぎは総額で三十五万になったそうだ。


でも、鋼の剣一本で20万以上するからまだまだ稼ぎ足りないらしいし、剣って高いんだなぁ。

あと、シャモジと包丁欲しい。

昨日と同じくらいポポタンを収穫し、予想以上の収穫にちょっと腰が引けて早めの帰宅?


草の成長おかしいらしくて、ポポタンの若葉が生えてきてて正直気味が悪かったから途中から走ったら、健と真一の二人に一瞬で離された。


一人だけおいてかれて、バタバタと「待って~~~?!」とか叫びながら門に辿り着くと門番さんに「魔物が来てるのかっ!?」と二人が詰め寄られてて、いとワロス。


でも、一人だけ置いてかれるとかイミフだし全然笑えねーよ?

ああいう時てなんか知らないけど物凄く焦るよね?


あと、花が咲いてる草は薬草になるものが多いらしいので、束ねた花も何種類か持ちこんでみた。


査定を待ってる間に買い物に行く事に~。

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