感謝をアナタに・修正版
「あったけー。」
「チョー気持ちいい。」
テントの仕切りの向こうから、ニ人のまったりとした声が聞こえてくる。
現代の工事現場の足場の骨組みを真似た鉄骨足場をリヤカーの周りに組んで、リヤカーの天幕を張り伸ばし固定。それによりリヤカーは八畳間くらいのテントに姿を変えた。
リヤカーの中じゃ狭いから、そうやって雨風をしのいでいるわけです。
水生の魔物の皮を重ね張りして作った屋根と足場のおかげで中も骨組みもものすごく頑丈だし、アンカーも打ち込んでいるので、並みの嵐くらいならこのまま耐えられるのだよ。
テントの奥、仕切りとしてカーテンを張り、浴槽と俺たちが呼んでいる木箱を設置。昼辺りから天候が崩れてきたので、二人が雨に濡れて帰る事を想定していたので、お風呂の支度しといたのだ。
アイテムボックスから取り出した後、ストックしてある綺麗な水を張り、熱い石を何個も放り込んで適温にした暖かいお風呂なのさ。
ちなみに、木箱の隙間は健が貝殻を溶かして作った漆喰で埋められている。
貝殻を焼いて砕いた粉である消石灰を作り、麻スサのかわりに麦藁、海藻から作られたと言っていたノリを鍋で混ぜながら煮て木箱の間に詰めたのだ。
大昔の船もこうして隙間をなくしてたらしく、今の所水漏れはない。
お風呂を支度した後で、オレもしっかり浸かったけど、サービスシーンなんかいらないでしょ?
別に楽しいもんじゃないし。
そんなこんなで、髪も乾いた頃に雨で体を冷やして帰ってきた二人が今はお風呂に入っている。
そして俺は仕切りの前で《さんすけ》っぽい姿で待機中。
ステテコのかわりの短パンの紐を締め直し、そのまま仕切りに手をかけ勢いよく開く。
「あーざぁっすっ!お背中流しに参りま…し…たぁっ?!」
「「キャー痴漢よ?!」」
仕切りの先、裸同然と思われた二人は濡れた服のまま風呂桶に足だけ入れていた。
そしてなにより解せないのは、肩を組んで悲しそうにこちらを見ている事だ。
いや、さっきのセリフと言い、突然の侵入者に女子なら抱き合うように身を寄せ合ったりしてるなん場面だろうけど…。
「なぜ、裸で入ってないっ!」
足湯、そう二人は鎧を着たまま足湯をしていたである。
せっかく支度しておいたというのに、二人は風呂桶の縁に腰を掛け足湯で済ませていたのだ。足以外全然あったまらない、濡れた服のままだから身体は冷えたままのはずだ。
「片方ずつならまだしも、俺達二人じゃどの道無理があるんだよ」
「…気持ちは有り難いけど、流石に二人で入りたくないよ?」
カポーンと言う音の変わりとばかりにカカッと稲妻が走る。
◇
「一人ずつ入れたら仕込みがばれちゃうのに…。」
「”ろくでもないこと考えてんだろな~っ”って、真一と話をしながら待ってたんだわ」
先に健だけ濡れた服を着替え、見張り役に健が配置された。
ただいま真一がゆっくりと湯船に浸かってる。
サービスカットを所望する女子に捧ぐ、写楽的な挿し絵を希望。
しかも、真一が風呂に入り始めてから健と正座で向かい合った状態で居ることを強いられている。
「…お茶飲みたい」
「まぁまぁまぁまぁ、おすわんなさい。」
足を崩してソロリと立ち上がろとしたのだが、健がオレの肩を掴んで無理やり座らせる。
「あの…喉がね?」
「ん、これでいいかな?」
そういいながら、コップ一杯の牛乳を持たされる。
「バーブー?」
「ハーイ?」
コテンと首を傾げながら言うと健も同じ仕草でかえしてきた。
『何かやってんの?』
ただ一人、仕切りの向こうにいて状況の見えない真ちゃんだけ不安そうな声を出している。
そう今のオレは、少しでも動こうとすると、健に行動を阻止されるのだ。
「…ぶー!ブー!」
「ブーブーとか…」
ほっぺを膨らませブーイングすると、健は苦笑しているだけだ。
『…ねぇ、いまどんな状況?』
せっかく雨の中帰って来た友人達を出迎えたというのになんて仕打ちだろうか。
「前からそうだけどね、影丞は余計な事に気を回しすぎ、生活面の支援だけで俺達がどんだけ助けられてるかわかったもんじゃないんだから変な事せんでもいいよ」
そう言われても結局はサポーター(荷物持ち)ですらないし。あとは、帰って来てから労うくらいしかないじゃないか。
「女になった事を気にしろとはいわないけど、さっきみたいな仕込みだって、おれが同じようにしたら結構ヤバいってわかって?」
覗きどころか堂々と踏み込みましたからね!
女扱いされたくはないが確かに異性に裸を見られたくはないか。
「ハーイッ!」
「チャーン!」
『マジでなにやってんの二人でっ!ねぇ!?』
敬礼をして元気よく答えたら外野席がうるさくなった。
でも、サンスケが危険かなんかの映画で見たのを真似た格好だから…。
「ヤッパリ著作権侵害はいかんよね」
「いや、違うって」
「イタすっ!」
著作権とボケてみたら、健から脳天チョップされた。
痛くはないけどイタい。
「でも、仕方なくない?一人で待機とか結構寂しいんだからな。二人が無事に帰って来るのは当然としても心配は心配だと思うんですー」
「それは解るけど、女の子と一緒にお風呂はロマン過ぎるだろ?」
「そんな事で、毎日無事にかえってくるんなら毎晩だってやりますが何か?」
「おま、独りになれもしないのに花街までどないせーちゅーの?」
「毎日のケアで二人が万全の体調になるならそれくらいいくらでもやってやるさ」
「やだもー、わかってない!?」
それを聞いて健がバタンと横倒しになってしまった。
なにがイヤかね、曲がりなりにも女の子が身の回りの世話をしてあげるといっているのに。
そろそろ真一が風呂からあがってしまう今日の仕込みは完全に失敗だった。
「わかった、仕込みしないで常識の範囲内でやるようにする。」
「あまり刺激なんかしないようにして…」
疲れたように答える健。
まあ、あまり煽ると貞操までやばく成ることがあるのはわかってるけどな。
中身が男で本当にごめんね?
風呂上がりの真一にそよそよと扇を扇いであげても「ありがとう、でも大丈夫だから」と、無用だと断られてしまう始末。
まぁ、美人相手ならともかく仮面をつけた怪しい人に扇がれてもうっとおしいだけかもしれない。
おかしな行動はやめようよともいわれてるけど、こう暑いとなんとなく仰いでやりたくならない?
「…本人が汗かいてたら意味ないだろ」
健が団扇でパタタタタタとリズミカルに仰いでくれた。
焼き鳥屋さん並みに扇がれてるから種火があったらよく燃えそうな勢いだよ。
「や~、涼しい~」
腕が汗で湿気ってるとちょっとした風でも涼しいよね。
「俺達が影丞から離れる事は多分ないだろうし、依頼中以外離れて行動するとかもしないんだから変に気を使わなくていいよ。」
某CとAのアーティストのライブ中にCさんがいった言葉のパクリに似てますが全く違いますね?
わかります。でも、なんだかオレが寂しがってるように誤解されている気がする。
「…っ、別にあんたのためじゃないんだからねっ!?」
「ツンデレか…」
「似合わないよ、影ちゃんはツンがないから…。」
さよか。
「オレ、別に変な心配の仕方はしてないと思うんだけど。」
特に二人に何かあったらなんて考えてもするだけ無駄だし、思いつきで家族サービスのつもりだったんだけど二人からの受けが悪いな。
「いや、どっちかっていうとオカンに近くなってってる気がするから言うんだよ」
…所帯じみてきてた!?しかも若奥さんとかお母さんでもなくオカンだとかまるで世話焼きオバチャンじゃんか。
オレがこのままオバサンになったらそうなる?
軽く、泣けてきたよくわかんないけどなんでこんな話になったよ?
「早く帰ろうね」
「間違いが起こる前にな…。」
こらこら、2人だけで結託するとかどうなんだ。
間違いとか言われても、現状では真一と健以外は関係者がいないんだぞ?
「うち娘の誰にもわたさんよ?」
大事な大事な自慢の娘は二人にも渡せない何しろ中身オレだから被害甚大なんだからね。
「「……」」
なにこの沈黙は。
「…そうだね、このまま影ちゃんが怪しい人を継続してれば大丈夫だね」
「過ちで済ませるは簡単だけど、影丞がギリギリのラインを維持するのが大変だなぁ」
―つまり、手を出さないライン。
健さんや、不安になるから本人を前に過ちとか口にしないでくれるかな?
「真一と健はやりたかったら俺TUEEEとかしてもいいんだけどな?」
もちろんオレとしては二人が中二病に走るのは嫌だけど、実力的でいったら二人はヘタな英雄とかみたいな活躍に走っても問題ないんだよね。
「二人ならハーレムとか普通に出来そうだし」
「「やだよ」」
二人は面倒な世界に踏み込むのは嫌だとか言ってるけどオレは気にしないからね。
現状で生活できているのだから未成年の間は苦労したくなんかないってのが一番らしいけどさ。
「影ちゃんが、服を脱がなきゃならない事態になったら色々やるかもしれないけど今はこれで十分」
とは健。いやいや健さん?往来で服を脱いだ(裸)なら確かにヤられますが…それが何か?
「…そうだねぇ、確かに仮面を脱いだらやるしかないよなぁ」真一も仮面を強調してからウンウンと相槌をうつ。
仮面の下は素顔と、とてもわかりにやすい補足をありがとう。でも、オレの素顔云々が鍵になるって状況はあんまりないと思うんですがね。
「二人とも大丈夫だよ、パンツは脱いでも仮面は脱がないから」
下着に関しては共同銭湯とかだけだけど脱がねばならんし。
「パンツも脱ぐなよっ!」
言い訳したら余計にたちが悪いと健と真一に同時にシバかれたっ!
―ちくしょう、いつか夜中に襲ってやる。