海の匂いててて#19
くたりとしたまま見上げた空はただただ青く、東に進むにつれ潮の香りが強くなっていく。
異世界でも海の匂いはさほどかわらないようだ。
プランクトンの死骸やらの匂いが混ざったのが海の匂いだからか人によっては不快と取る者もいるらしいけど、オレはこの匂いは嫌いじゃない。むしろノリの匂いみたいで腹が減るんだけど、ここに来て磯海苔岩海苔が蛍光カラーだったら泣くかも知れない。
「ぴかぴか?」
それはともかく、オレを抱えた健が移動しながらピカ語でこちらの様子を探るのが頭に来る。
「…ぴっか~?」
どうした?大丈夫か?とかようわからんわー。
成人男性にしか見えないくせに、つぶらな瞳するのはやめてくんないかな?子供なら可愛いかも気しんないけど大人がそれやると持ち悪い。
「ソーナンス」
敬礼しながらソーナンスと叫ぶ真一は何に対抗しているのか…。
◇
「…海に着いちゃいましたね」
浜辺に降ろされたオレは正座したまま二人に話しかけている。
「今日はオフレコだからな」
「フリーダムで行くよ」
昼前に着いたみたいだから日が暮れるまで何時間も遊べるだろうけど、二人ともいきなり全裸はやめてくれないかな?
太陽の光を受けて輝く健の先端の眩しさ目を背けると反対側には真一の自主規制。
―高さが目線にあるから最悪。
右も左もアナコンダ、お前らいっぺん死んでこい?
まぁ、敢えて指摘しないで半日も過ごせばなれる訳です。
真一がモリで魚をついて健はナイフで岩についた貝を集めオレは貝を餌に岩場から釣り竿を垂らす。
どうやら地球と同じで岩場付近にはカワハギとか河豚みたいな餌取り名人がいるらしく貝の消費が終わらない。
ゴンベさんが種まきゃカラスがカー?
夕暮れ時健が首を傾げていたけど気にしない。
モリで突かれた魚は真一自ら開きにして干していったからオレの周りは生臭いわ。
「油鍋やりたいから、あの洞窟に行ってみないか」
「あそこなら入口を塞げば泊まれるよね」
二人が戦利品をインベントリにしまいながら今夜の予定を立てていく。
岩場の海苔は緑色だったから明日ひたすら海苔を採取して海苔巻きおにぎり食べたい。
スノコとかみたいのがないから佃煮にするだけでもいいや。
今夜は、魚揚げる油鍋だけしかやらないけど、明日一人で岩海苔集めて佃煮作ってみよか?
◇
夜洞窟から煌々と灯りが漏れている。
「…失敗だったな」
「やりすぎたね…」
オレら三人は洞窟が内部から燃える様を眺めているのだ。
鍋に大量の油を入れて熱した後、ウツボを投げ入れちょっと溢れた油に引火し「火事だー」と真一が騒いだ後で、健さんが貝やら魚やらをバケツで投下溢れた油に引火し洞窟内部は一瞬にして火の海となった。
「二人とも反省して?」
「「らじゃ」」
凡そ一時間で鎮火、鍋に残っていた魚で夕食にする。ガリガリとかじるも骨まで炭になっていた。
夕食は失敗だ。すっかり暗くなってしまったが仕方なく近くの森に分け入る。
インベントリに食べ物あるのにキャンプは現地調達以外許さないとかなんとか主張してくれたから暗い森を歩かされてる。
いくら森が食料豊富だったとしても素人にわかるような果物が都合よく在るわけないでしょう?
「真一なんかありそう?」
「…いや、流石に暗くてわからないかな。」
「だったら、ランタン位出そうよ」
―パン
「バカ、無人島にランタンなんか在るわけないだろ」
後ろの健が憤慨してるけど、ここ無人島じゃないし。
―パパパン
気分出したいのはわかるけど、異世界だから無人島生活みたいにはいかないと思うんだけどな。
―パン
「…ねぇ、さっきから何の音?」
「健がなんかしてるみたいだけど、獣除けとかじゃない?」
「いや、何もしてないぞ」
―パン
そう言いながら健は虚空に向かって腕を振るっているみたいだ。
「真一灯り出して…」
「も~、しょうがないにゃあ」
にゃあじゃありませんよ。暗すぎて何にもわかんないんだから灯り位は確保しましょうよ。
「つけたよ影丞」
「ありがとう真一。やっと周りが見えるように…」
真一のランタンに灯った明かりに健を振り返れば、後ろから歩いてくる数体の歩く魚。
関節らしき物があるヒレを使って健の肩に飛びかかってきた。
―パン
噛みつこうと口を開け健に近づいた魚が文字通り微塵に弾け飛んだ。
「…今の何?」
「健の無意識カウンターじゃないかな?」
いやそうじゃなくて、いつのまにかオレら魔物に襲われてませんか?
「ムツゴロウが進化したら“コウ”みたいいな?」
ギョロギョロと飛び出した目玉と黒い鱗じゃいいとこ出目金でしょ?
出目金の目玉たて白目みたいたとこ血走ってんだけど、人間サイズのそれが暗闇から飛びかかっては健に殴り散らされていく。
「いや、なんもしてないぞ?」
オート攻撃って無自覚なのか、健さんが殴りながら否定している。
―パチュ…バタバタバタ
最後の一体だけ両の目玉を腕が突き抜け串刺しにされたままバタバタと暴れ始めた。
「うおおおっ!?気持ちわりいっ!!」
ネチャリと腕を引き抜いた健が草ムラに腕を突っ込んて粘液を拭い始めた。
「うあぁあ゛くせぇっ、エビのウンコ身てぇな臭いするっ!!」
手の匂いを嗅いだ健が大騒ぎしてるけど、エビのウンコってセワタの匂いと一緒で磯臭いだけやん?
お前ナガラミとかサザエのウンコ部分美味い美味いって言ってるくらいスカト〇好きの癖に何いきなりわめきだした?
気がついたら自分の腕が生き物の頭突き抜けたとか軽くトラウマになるか~。
ゲーセンのパンチングマシーンの殴る部分にマグロの頭ついてておもくそぶち抜いてやりました―――――ないな。
う~ん、雨の日に転んだら手の下に引かれてまだ動いてるカエルがキェェェェェッ!??
なんてもん想像しちまったんだ、軽くトラウマになりそうだよ!!
「影丞~、手拭い貸して…」
「手拭いってかオレの荷物にサラシしかないからわたさないけから、海で洗い流せ」
お笑いネタで風呂上がりに健にサラシを渡すならいいけど、体に巻きつけるものを粘液まみれにされたかないわ。
洗っても遺恨が残りそうだよ。
「風呂に入りてぇ…」
血塗れの体を拭う健から身をはなして真一を盾にする。
インベントリに魚しまったけど、まさか食べるつもりか?
「…とりあえず晩飯ゲット」
やだ、健さん食べる気まんまんだ。
ぶつ切りにして、串焼きかな?