魚が食べたい今日この頃
サハギン編の序章ですね。
地球もココも季節の巡り方は同じ様で、異世界に来て三週間ほどすると寒いと思うような日はなくなってきた。
こちらは西暦みたいな暦はなく、国毎の建国歴が基本だそうだ。
一年の流れは此処も地球もほぼ同じだけど、この辺りは夏が長くて冬も雪はまず降らない温暖な気候だとか。
夏でも冒険者は薄着は厳禁で長袖だけは必須らしいよ。
まぁ、森なんかに狩りにいけば虫とかいるから当然なんだろうね。
ローブの袖は長く丈が踝まであるから良いみたいだけど、ブカブカだからもし下から虫(蚊)が入ったら全くわからないのがちょっとした難点だよ。
ローブの内着を薄い、ワイシャツとハーフパンツで固定になった。真一が作ってくれた物だが、市販されてないゆったりとした造りのズボンは普通に破れにくい事も判明しオレの普段着になり、健と真一はカーゴパンツをはいてサンダル履きで過ごしている。
つまり、ユニQロしか買わなかったオレでさえ超ダサいと思うような出で立ちなのさ。
基本は同じ服ような着て過ごしてるんだけど、追加で卵のカラがお出かけ用の仮面になった。
かなり恥ずかしかったが、二人に“顔で苦労したくなかったら着けろ”と言われ、言いたい事が判らないでもないから着ける事にした。
健に肩を掴まれながら歩くと視線を集めていたのが治まった。目を背け誰も目を合わせようとしないのはいいが、宗教裁判とか魔女狩りとかないといいな
◇
今日は、草刈りをしながら川で魚を釣ってみることになった。竹竿に糸は綿で針は特注でちょっと太いのが難点だけど、それでも釣りは釣り。
転移前に行こうとしていた事をひと月送れでやっと果たした訳だ。
木の枝にさして、焚き火の周りでジックリ焼いて食べよかなと考えてたんだけど、釣り上げた川魚は斑尾なパステルカラーだった。
「うわ~、魚の脂が落ちた場所が危険地帯に見える」
真一が、落ちる脂はもったりとした紫色で焚き火の周りに毒々しいシミを落としている。
見ていて気持ちがいいものじゃあない。
「健、俺鮎は食べた事あるけどコレ危険すぎないかな?」
「やっぱそう思うか?」
落ちた油は香ばしいが見た目がアウトだわ。どくだみの様に、何も考えずに口にしたら死ぬんじゃないか?
いや、どくだみもかなり騒いだ覚えあるけど、この魚に関しては向こうの世界から来た人間からしてみればあり得ないと思う。
市場に似たようなのならんでたけどイヤだわ。
「…無理だな。捨てよう」
「今度は海に行って釣りしてみようよ」
「うん、そうしよう」
激しく同意。
焚き火の近くに穴を掘って中に埋める。
市場の魚も凄い色してたが、滴る脂が紫色では、とても食べて生きてられる自信がないわ。
「あー、ちょっと期待外れだったなー」
「マトモな物なんかないとなると自給自足も厳しいよね」
健はガックリと肩を落として真一がそれを宥めている。
焼き魚で昼飯を浮かす予定でいたからねー。
とりあえず、黒パンとハムと炒めたどくだみに塩コショウ振ってお昼を終了して再び草刈りに戻るのだよ。
―異世界に来て三週間今日もまた草刈りで日が暮れる。
因みに、金額は割愛するがオークションにだした花のお陰でちょっとした大金は手に入れたけど、片手団扇のスローライフにチェンジするにはまだまだ先は長いねー。
生活様式も変わったよ。帰宅するのは宿屋の外壁になってる細長い小屋なのさ。
イメージ的には、田んぼの近くにある稲を干すための竹竿を仕舞うために作られた細長い小屋かね。
あれは風通しよく壁もトタンで隙間だらけだけど、入口になる土間以外は壁も床も木材でしっかり作られてて床に横になって昼寝もできる。
でも、自由に過ごせる代わりにベッドが無くなって生活水準はちょっと下がった(笑)
毛布と床にしいたりくるまったりして寝てるだけだけど、もともと煎餅布団で寝てたから硬い床でも寝覚めは悪くないね。
布団と違ってベッドって眠りを強制されてるような気分になるのはオレだけか?
布団だったら四つ折りにして分厚くして寄り掛かりながら寝たり、半分に折ってダラダラ横になったり…。
健と真一はベッド派らしいけどオレお布団好きよ?
服を崩すと二人から注意されるからダラダラはできないけど、健がパン1で部屋の中をフラフラ歩くようになりだした。
まぁ、健に関しては昔から部屋に居るときはパン1になってたりしてたけど、女の前でそれをやるって事はオレと言う存在(女子)が居る事になれてのか?
悪くはないけどスッゴく暑苦しいよ?
このままだと、夏になったら全裸になってたりするんじゃないかな?かな?
それでいて、真一は真一で肌を見せようとすらないから逆に気になったりするけどさ。
中学時代みたいに、不意にわき腹をつついたりするのはやめてほしい。
―切実に!!
【続く】