プロローグ
テルミヌス大陸の最西端に『不浄の森』と呼ばれている漆黒の森がある。
黒く不気味な木々が生い茂り、足を踏み入れれば何処からともなく悲鳴が木霊する。
そして何より恐ろしいのは、『魔王サタン』と肩を並べる程の災悪と謳われる邪悪『大淫婦クイーンハーロット』がこの森の主であるということだ。
ただ、クイーンハーロットは脅威ではあるが不浄の森を出ることはない。
手を出さない限り降りかかることのない災悪と認識されていたため、誰も不浄の森に近づくことはなかった。
――ギィイイアアアアアアア!!!
「うっはっは! 豊作じゃあ!」
聞けば忽ち死に抱かれると言われている『マンドレイクの絶叫』を雑音程度に聞き流し、ざっくざっくと引っこ抜いては放り投げ、山を築いていく。
ノリはさながら芋ほりだが、その収穫風景はあまりにも異様である。
収穫作物がマンドレイクであることももちろんだが、収穫している人物の格好もおかしい。
黒のウェディングドレスにピンヒールである。
「ああ、良い仕事したわあ」
妖気漂う漆黒の森に囲まれた畑の中、不釣合いな爽やかな汗をながしながら農作業に勤しむその人は……。
人呼んで、泣く子も黙る『大淫婦クイーンハーロット』であった。