シンイチのニ
さあ、新しい人生の始まりだ。
俺はもう何もしないで生きていけるんだ。毎日いやいや起きて、職場に行って、怒られて、それでも我慢して働くといったようなことをしなくていい。
まずは、何を売るかだが。そうだな……人間にはいらないものがあるわ。そう、髪の毛以外の毛だ。すね毛なんて汚いだけで何の役にもたっていないしな。よし決めた。まずは毛を売ろう。
俺は例の指輪にキスをして、ライラを呼び出した。
「さっそくだが、売るものを言うよ、いいかな」
「いいよ、ただし、言い直しはできないから慎重にお願いね」
「OK。じゃあ、髪の毛とまつげと眉毛以外の毛をすべて売ってくれ」
「了解。少し照会に時間かかるから待ってね」
待つこと5分くらいだったであろうか。
「お待たせ。一番高い人に売ってあげたよ。全部で67,800円ね、6,780円は手数料でもらっておくよ」
「おお!あんなカスみたいなものが。これで1か月分の家賃払えるわ。サンキュー。ライラ」
「いやいや、ギブ&テイクだから。また何かあったら言ってね」
ライラは去っていった。
俺はさっそく大家に家賃を払いに行き、何とか来月以降の住処を確保できた。
おおっ、体がつるつるだ。手も足にもまったく毛がない! あ、鼻の中もないや。これはちょっと困ったかもしれない。でもまあそれで風邪引いたらまた『風邪気味』を売ればいいんだから、気にしないでおこう。
あ、でもさっき家賃を払ってしまったから、手元には1,000円くらいしか残ってないわ。ちょっとこれじゃ寂しいな。
よし、もう1回ライラを呼んで、おいしいものでも食べに行くか。
さて、どうしようかな……。
そうだな、本でも売るか。この部屋にごみのように積まれている雑誌、それから実家の部屋にある本全部売ってしまおう。本など2回読むことなんてないんだから。
俺はまたライラを呼び出した。
「この部屋と実家にある俺の本全部売ってくれ。」
「了解。」
しばらくすると
「39,800円になったよ。例によって3,980円は……」
「すごいじゃん!あんなゴミみたいなものが、39,800円だなんて!」
「学校時代の卒業アルバムがあったみたい。それが高値で売れたようだね」
「あー、そうか。ちょっとそれは複雑だな……」
でも、まあくよくよしてもしょうがない。
俺は気持ちを切り替えて、軍資金とともにファミレスに向かった。今日は日替わり定食じゃなくて、肉がたくさん入ったものを頼めるんだ。1,000円を超えた注文ができるなんて夢のようだわ。
あと、帰りは漫画喫茶によって、ドリンクバーしながら漫画読み放題だな。何たる幸せ。至高の瞬間。
この時、俺の胸の高まりは最高潮に達していた。
……5日後、自堕落な生活を送りすぎた俺はお金を使い果たしていた。




