山形 光(1)
結局、天津飯は2つテーブルへとやって来た。
「ん〜これ、良いお米使ってますね! 噛むたびに餡との絡みの中にあるお米の甘さを感じます!」
先程のいざこざが嘘のように、幸せそうに天津飯を頬張る山形さん。
なんか小動物みたい。
「お米! やっぱりお米が美味しい!」
機嫌が治って何より。
「ふふっ、山形さん…お口の周りが餡まみれになってますよ」
と、食べていた麻婆丼の箸を止め、山形さんにティッシュを手渡す秋田さん。
「あひかとふほざいまふ!」
まだお口の中にたっぷりな山形さん、日本語が発言出来ていない。
それを見ながら俺も天津飯を1口。
…昔から変わらぬ味。美味い。
……。
もくもくと天津飯を食べながら、ふと気になっていたことを聞いてみる。
「…ねぇ秋田さん」
「はい?」
麻婆丼に伸ばされた手が止まり、視線をこちらに向ける秋田さん。
「別に変な意味でじゃなくて…何で今日夕飯誘ってくれたの?」
まあ今日初めてご飯に誘われた訳で。
「…いや、深い意味はないんですけど…」
と、続ける秋田さん。
「少し前に千葉さんから、日野さんはいつもお夕飯は1人でご自宅で、って……悲しい人なんだ…みたいな事を聞いたので、今日は久々に私外食の予定だったので、折角ですから…と」
少しバツが悪そうな顔で言う秋田さん。
バツが悪そうな…いや違う。
あれは憐れみの目だ。
「千葉ちゃんのヤツ…何言ってんだ…」
悲しい人て…家庭環境故にだからね。仕方ないの。
まあ確かに…1人でメシはよくある、結構つまらない、とは千葉ちゃんに言った記憶はあるが。
他人にまで言うなよ。
「…もしかしたら、ご迷惑でした?」
突如悲しい顔をし出した秋田さん。
「いや全然。むしろありがとうございます! 確かにどうせ家に居たって1人メシでしたし、全然のこっちのほうが!」
フォロー兼事実。
「そうですよね。だってあの学年1の美人である小白先輩からのお誘いですから。男子ならみんな尻尾振って喜ぶモノですよ」
と、一発ガンッと俺の脛を蹴る山形さん。
「いっつっ…だから何で…」
「小白先輩にお気遣い貰ってる分、ありがたく思うのですよ!」
「だから何で…山形さんが威張って言うの…」
山形光…秋田さん親衛隊の筆頭。
秋田さんと山形さんは幼い時からの付き合いとは聞いているが…
「山形さん…あんまり日野さんを…」
場の仲裁に入る秋田さん…
「…小白先輩」
「ん?」
山形さんの視線は敵対していた俺から、仲裁に入ってきた秋田さんの方へ。
「私たち、幼稚園からの仲ですよね?」
「あっ、うん。そうだけど?」
「じゃあ何で未だに山形『さん』なんですか?」
うわっ何かデジャビュを感じる。
「え? だって…えーっと…昔から私、みんな『さん』呼びだし…」
「すんごい小ちゃい時は光って呼んでくれてたじゃないですか? だから今も光で良いんですけど…私1つ年下ですし」
「えーっと…う、うん…」
ちょっと苦笑いの秋田さん。
対して山形さんは真面目に。
「なら山形さ…光、ちゃんも、私のことを先輩って付けなくても…」
「いや実際同じ学校の先輩ですから」
「え、えーっ…」
と、まあ女子2人がいちゃいちゃ呼び方問題の言及に勤しみ、忘却の彼方へと誘われた俺はひたすらに天津飯をもぐもぐ。
…なんとなーく、話の流れ的に1人メシ、からのウチの家庭環境の話になって、重い空気→秋田さんの慰め、良い展開へ…みたいな感じを予感していたのだが。
そうはさせん、とばかりに会話に入って話題転換に成功した山形さん。
恐るべし…
「まあ本太郎くん、1人ご飯に寂しくなったら…またウチに食べに来なよ」
伝票片手に優しい言葉を掛けてくる南。
「…ありがとな」
また微妙な空気で一緒にご飯会は幕を閉じた。
次回、次回からキャラクターのプロフィール紹介再開します! よろしくお願いします!




