高知 龍子(4)
「それじゃ、入ってきていいよ〜」
生活指導室の入口の扉に向かって、沖縄流は声を掛けた。
「ん? 誰か居るのか?」
と、流の発言に生活指導の教師は訝しげな顔。
すると間もなく、コンコンと2回のノックが響き、失礼します…と男子生徒の声。
流、龍子、生活指導の教師の視線が一様に扉へと向けらる。
そして扉がスライドされ、1人の男子生徒が姿を現し、生活指導室の中へと入って来た。
冴えない感じの、普通な男子生徒。
その男子生徒の顔を見た龍子は、息を飲んだ。
「なっ…お前、なんで…っ⁉︎」
それは数日前。
「テメェ人様の肩にぶつかっておいてゴメンなさいだけとか、ふざけた事してんじゃねーぞ!」
「んだんだ! 金だ、慰謝料寄越せガキ!」
「ボスの肩にぶつかったのは罪なんだよ、死ぬか金出すかどっちかだ!」
「金出せコラァ!」
「いや、本当…スミマセん…」
1人の冴えない感じの男子高校生は学校が終わり、帰宅していた途中で他校の不良グループとすれ違い。
たまたま狭い道だった故に少しばかり道の中程へ寄った際、不良グループの1人と肩がぶつかってしまったのだ。
そこから世紀末の漫画の不良よろしく、ベタベタなカツアゲに会ってしまっていた。
「金出さないと殺すよ?」
「いや本当ゴメンなさい…っ」
不良グループの迫力は学生ながらに凄く、その威圧感にただただビビってしまう男子高校生。
ひたすらに誤り続け、なんとか場を凌ごうとしていた。
しかし、不良グループの追求は止まらない。
「…金出さないのね?」
「ゴメンなさい…本当ゴメンなさい…」
「…なら、殺すよ…まあ、殺人まではアレかな。せめて制裁ってぐらいかな」
と、不良グループの1人が拳を振り上げる。
「ボス…殺すのを留めてあげるとか優しすぎっス!」
「流石っすね!」
「おいガキ! ボスの命までは取らないという寛大な処置に感謝しながら殴られろよ!」
不良グループの囃し立ての中、制裁…は始まろうとしていた。
「じゃ、先ずは一発目〜!」
上がった拳が振り下ろされる。
狂気の笑みを浮かべた不良の気持ち悪さと恐怖、そして直ぐに来るであろう打撃の痛みに怯え、グッと目を瞑る男子高校生。
その時だった。
「よろしくねぇな、この状況…」
刹那、男子高校生の目前にいた不良が、
吹っ飛んだ。
「ぐあっ…⁈」
そこからは、まさに一瞬だった。
突如としてこの場に1人の女子高生くらいの人物が乱入。
拳、蹴り、様々な攻撃手法で、
数人いた不良グループの学生を1人で鎮圧。
「なっ、何だよコイツ…」
「お、女っ⁉︎ つ、強い…」
「ボ、ボスっ!」
その一瞬の、強烈な攻撃に誰1人として太刀打ちが出来ず、皆地面のアスファルトへ這い蹲る形となっていた。
「誰だテメェは…ナニモンだ?」
不良グループのボスと呼ばれた学生が、乱入してきた女子高生へと問う。
「アタシか? アタシは…高知龍子。都道府県学園の頭張ってる、番犬だ!」
明るめの色のセミロングの髪を風に靡かせ。
その鋭い目付きで、不良達を睨み付けた。
「いいか? アンタまでこの喧嘩に絡んでるって知れたら、面倒くせぇ事になる。
今回の喧嘩はアタシとあいつらだけで勝手にやった喧嘩だ。アンタは一切関係ない。
…そう言う事だ。大人しく、何もしゃべる必要もなく、明日から普通にまた学校生活を送りな」
不良達は龍子の眼光に怯え、一目散に去っていった。
残された龍子は、未だ怯え腰が抜け、動けずにいる男子高校生の側へ行き、冷たく言い放った。
そしてこの場を去ろうとした瞬間、
「なんで…」
男子高校生が震えを抑えながら、声を出した。
「なんで…俺を助けてくれたんですか?」
「ア?」
龍子は未だ立ち上がれていない男子高校生の方へ向く。
「俺も都道府県学園の生徒だから知ってます…あなた、確か学園の裏のグループの…確か『維新』のリーダーで番犬の異名を持つ…高知先輩ですよね?
不良でヤンキーで…弱い者なんか視界に入らないとまで言われている荒くれ者のあなたが、何で俺を…」
「オマエ、よくこの状況でそんな事言えるな」
カツアゲから助けてくれた人の事を、不良だヤンキーだ荒くれ者だと…
「…確かにアタシは喧嘩っ早いし、学園からは問題児とかよく言われてるけどよ…別にアタシは暴力が好きとか、不良だとかじゃねぇよ。
…間違いを1つ正してやる。アタシは弱い者は助ける。変えてくんだよ。弱い者が暴力で従わされる、こんなくだらねぇ理不尽を。そのために、拳奮ってんだ」
龍子の瞳は力強く輝いていた。
「まあ自分の道を突き進む中で、やり方がやっぱり拳になる訳で、不良だ暴力だとかよく勘違いされて言われてるけどよ。生憎アタシはバカでさ、
力で弱きを痛ぶる奴には、それ以上の力で制裁を加えるやり方しかアタシには出来ないんだよ。例え喧嘩になろうが、誰か何言われようが、アタシはアタシの道を突き進む。理不尽の無い世界を、拳で創る」
なにをこんなヤツに語ってるんだ、と。
龍子は興醒めし、この場を去る。
龍子が拳を奮うのは、悪に対してのみ。
弱き者を助ける為の力。
そして。
生活指導室に現れた男子生徒…あの日龍子の手で不良から救ってもらった彼は生活指導の教師へ事情を弁明し、
この件に関しての龍子のお咎めは、無しとなったのだ。




