埼玉 欅(2)
楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行く。
「私…今日ずっとトイレにいた気がする…もう口の中がヤバイ…」
「大丈夫かよケヤキ、目が…目が死んでるぞ」
「だからケヤキって呼ぶなよ膝上で吐くぞ…」
「しっかり、しっかりと気を持てケヤキ」
隣の席のケヤキの、半開きの口から聞こえる小さな嗚咽。
えーっと、確かエチケット袋は座席のポケットの中に…
…ふと、窓の外へと目をやると。
日も暮れ辺りはオレンジ色に染まりきっていた。
春の遠足もお開き。
つい先程、千葉ちゃんプレゼンツ遊園地満喫ツアーは幕を閉じ、珍しくはしゃぎまくっていた千葉ちゃんの満面の笑みの中、帰路につく事となった。
「今日は楽しかった〜! 本太郎、またみんなで来たいわね!」
「お、おう…」
今度があるなら、次は自分のペースで回りたいモノだな。
…けど。
「何だかんだで楽しかったよ。ただ、ペース配分アレだったけどさ」
結局は遊園地を満喫した宙。
「もう少しゆっくりしたかった…けど、楽しい遠足だったね…」
と、珍しくアクティブな発言をした伊吹。
「めっちゃ楽しかった! もうこれはアレだね、悪の組織が来たってめったんめったんのボッコんボッコんに出来るよ!」
何がどうして桃子はヒーロー気取りで。
シーンは戻り。
…夕暮れに染まったバスの車内。
先程までの遊園地での思い出を早速語り合う者
売店で買ったお土産を開封する者
疲れて寝息を立てている者
皆々が新たに刻まれた青春の1ページを噛み締め、
楽しかった思い出の余韻に浸り、
しかし、その楽しみの終わりに少し切なくなって。
窓から覗く夕陽が、その終わりの現実味を味あわせてくる。
楽しかった思い出と、終わりを迎えた切ない気持ち。
様々な複雑な思いが渦巻く中。
皆が三者三様に振る舞うバスの中で、
俺はひたすらに…
エチケット袋を探していた。
「あれ? 無い⁉︎ あれマジかっ⁉︎」
遠足の余韻に浸るための時間、と言っても過言ではない、帰りのバスの車内。
しかし現実は残酷だ。
隣に座るまな板少女(何がまな板かとは詳しく言及はしないよ)の口元には、無意識のうちの一筋の涎の跡が。
「うぇっ…またムカムカしてきた…吐く」
「待って、待って! 今エチケット袋探してるからもう少し頑張れ!」
座席のシートのポケットに手を突っ込み、ガサゴソガサゴソと中を漁ってはみるが。
袋らしき感覚は無かった。
「そんなバカな…だって行きの時には確かにあったのに…」
そんなこんなしている間にも、隣では。
「さようなら私の胃酸…まあここで吐いたら社会的死は免れないから、私の遺産ともさよならなんだけどね、胃酸だけに…ふふっ…おえっ」
ダメだ、ケヤキ(のメンタルが)死んだ。
もうその眼が見ているのは、死後の世界…
「頑張れ、頑張れよケヤキ…」
思わず溢れる激励の念。
彼女はこんな所で死んでいい人間じゃあない!
早くエチケット袋、エチケット袋…
「エチケット袋を探してるの?」
ふと、後ろの座席から。
女神のお声が聞こえた。
「アタシの席の、使っていいよ」
俺は振り返る。
女神、鹿児島 宙。
彼女が持っているのは、まごう事なきエチケット袋!
「宙様…なんと、なんと…っ!」
思わず越後屋みたいになる俺。
「いやだって車内で吐かれたらイヤだしね。アタシ…もらいやすいから、さ…」
そう言う宙の顔も、心なしか青白い…
「さあ早く、そのエチケット袋を欅の口元へ」
「サンキュー宙! めっちゃ助かr」
「おえぇぇぇ……っ」
俺は宙の方へ視線を向けたままの状態。
つまり、椅子に腰掛けている自らの下半身は視界の中にあらず。
しかし何故かな、幾分太ももあたりが生温かい。
まるで、お湯が掛かったかのような、謎の温もり。
温かいのに、温かいのに…鳥肌が。
「……っ⁉︎」
目前の宙が目を見開きつつも、即行で自らの手で自らの口元を押さえる。
「……待って、待ってくれよ」
俺は誰に縋るでもなく、懇願する。
「待ってくれって…」
一方、全ての元凶とも言うべき、ツンツンツーテール娘さんはと言うと、
「……すやぁ」
幸せそうな寝顔を共に、健やかな寝息を立てていた。
最悪な終わり方でしたが、これにてこのお話に1つの区切りが打てました。
とりあえず、都道府県のキャラ付けとして、
埼玉→美的センスの無いぺったんこな暑がり
千葉→メルヘンチック(特に遊園地とか)が大好きな夢見がちツンツン系ツーテール娘
宮城→凛として真面目なクール系先輩
滋賀→猫に愛される物静かなお昼寝大好き娘
岡山→正義のヒーロー気取りな爽快やんちゃ元気娘
鹿児島→マイペースで自由気ままだけど芯はある頼れる系女子
こんな感じです。
次回よりメンバーがガラッと変わり、新都道府県キャラ登場です。




