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永遠の愛を誓います  作者: ゆずる
聡子の物語。
7/15

7話


 今日は村の地主の娘の婚礼とあって村全体はお祭り騒ぎだ。


 櫻木家で婚礼が行われることとなった。


 両家の親戚が整列して座り、新郎新婦の登場を今か今かと待っている。


 「ーーそれでは準備が整ったようですので、新郎新婦に登場していただきましょう!神田博さんと聡子さん、どうぞ!」


 司会がそう言うと襖が開き、新郎新婦が中に入ってきた。


 周りから拍手と口笛が飛び交う。


 新郎新婦は揃って礼をし、高砂に座った。


 進行は親族による祝辞を聞きながらの食事がスタートした。


「あなた。聡子は気分が悪いのかしら。ずっと俯いてますけど。」


 母ウメはこっそりと藤作に告げる。


「ほうっておけ!この期に及んでまだ不貞腐れておるのだろう。」


 聡子は白無垢に綿帽子を頭に被っている。

 『綿帽子』とは頭をすっぽりと覆う布である。『式が済むまで、花嫁は新郎以外の人に顔を見られないように』と言う習わし通り、ほとんど花嫁の顔は見えない。

 …にもかかわらずさらに聡子は終始俯いており、招待客からは聡子の顔は見えないに等しい。


「カツラで頭を締めるから頭が苦しいのかしら。私もかつてそうでしたし。」


 ウメは聡子に声を掛けようと立ち上がった。


「母様。心配しなくても大丈夫ですよ。姉様は緊張されてるだけだと思います。」


 そう母を制したのは小太郎だった。


 父にも息子にも止められウメは『そうね。』とその場に座り直した。


「…ところで光子はどこに行ったのかしら?」


 先ほどから光子は席を空けていた。


「あー。お腹でも壊して用を足しているんでしょう。」


「…それにしても遅すぎる気が。」


「そんなに心配なら僕が見て来ますよ。母様はここにいてください。」


「ありがとう。小太郎、お願いね。」


 小太郎は光子を探しにその場を後にした。

 

 進行はそれぞれ親族の挨拶周りが始まっていた。お酒を注いで周るのだ。


 当然新郎新婦に注ぎに来る者もいる。新婦はまだ15歳と若いが新郎に負けずにお酒を飲んでいた。


 心配した新郎が声をかける。


「おい。無理に飲まなくてもいいですよ。お水もらいましょうか?」


「いえ。平気ですわ。貴方こそ顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?天下の遊び人がこんなにお酒が弱いなんて笑ってしまいます。」


 そう言って新婦はぐびっとお酒を飲み干す。

 化粧で顔の表情は分からないが本当に平気なようだ。


 幼い新婦に馬鹿にされ、新郎はむぅっと顔をしかめた。


 新婦の言う通り自分は大分お酒が回ってきているのは自覚している。

 だが、これでも自分は村でも『酒豪』で通っているぐらいお酒には強い。まあさすがに今日は日本酒やら焼酎のロックを間を開けずに飲んでいるのだから酔ってしまうのもしかたあるまい。


(…しかし、この女。)


 若いにお酒を水のように飲んでケロッとしている。


 この瞬間、新郎はこの妻に惚れてしまった。


 今までの自分に媚って来ていた女とは違う。誰にも媚びることなく立派に振舞う姿勢は新郎の心を撃った。

 ーー生涯かけてこの妻を大切にしよう。そう胸に誓った。





 式も終盤。

 やっと両親が新郎新婦の元へ挨拶にやってきた。


「博くん。どうかウチの聡子を頼みますぞ。ウチのは少しお転婆なとこがあるが家事裁縫は徹底的に習わしたからその点は安心してもらいたい。」


「いえ。気立ての良さそうな女性で仲良くやっていける気がしますよ。」


「それはよかった。末永く聡子を幸せにしてやってくれ。」


「はい。」


 藤作と新郎が談笑している時、母は聡子に声を掛けた。


「聡子?体の調子が悪いの?」


「…(小さい声で)そんなことないわ。」


「いいえ。ちょっと俯かずに顔を見せてご覧なさい。」


「…あ!」


「…え?」


 母ウメは新婦を見て絶句した。

 娘の顔を正面から見ると…。


「…光子…。」


「…何?!!!」


 新婦の衣装を纏っていたのは妹の光子であった。


「さ、聡子の奴…どこへ行ったーーーーッッ!!!」


 藤作の剣幕に周りの集中が新婦に集まった。

 新郎も驚いた顔で新婦を見る。


「姉様でしたら今朝松川恭平さんの元へ1人で行かれました。」


「な、何だって!!??」


「姉様は今まで苦労をされてきました。僕は姉様には幸せになって欲しい。」


「い、今すぐに連れ戻せ!許さんぞ!!」


 藤作は下の者に命令をし、下の物が外へ出た。


「父様、やめてください。姉様の幸せを考えてください。」


 光子が父に向かって叫ぶ。


「こんな遊び人と結婚されては姉様が可哀想過ぎます。私だってこんな人と結婚したら自殺してやるわ!姉様は自分の幸せを見つけたのよ。父様にだってその幸せを奪う権利なんてない!!」


 光子の叫びに辺りはしーんと静まり返った。『遊び人』と名指しされた1名は大変落ち込み首が垂れている。


「…しかし、これでは神田家にも無礼をはたいたことになった。やはり隣村との交流を無くすしか…。」


「父様は姉様を見殺しにする気ですか?姉様はもう隣村の者です。隣村の支援をやめることは姉様をも見殺しにすることと同じですよ。」


「…ぐぬぬ。」


 小太郎に痛い所を指摘され、藤作は八方塞がりになった。


「…もういいです。」


 そう言ったのは新郎だった。皆が新郎に注目する。


「帰りましょう。父様、母様。」


「し、しかしだね。こんな屈辱を受けて帰る訳には…。」


 神田家当主が慌てて新郎を引き止めた。


「いいんです。僕の今までの行いも悪かったのですから。今から僕は更生します。そしたら…。」


 新郎は白無垢を着た光子の手を取りそっと口づけした。


「僕と結婚してください。」


 光子の顔は一瞬で赤くなる。


「遊び人はこのようにして女を口説くんですのね。一体貴方と結婚の約束をした女性は何人いらっしゃるのかしら?」


 新郎は苦笑する。


「そう言われてもしかたありません。だから貴方に認めていただけるようこれから努力するんです。こんなに欲しいと思った女性は貴方が始めてだ。必ず貴方を私の妻にしてみせます。覚悟なさってください。」


 B村一の美しい容貌の青年は微笑を浮かべて親族を引き連れて帰って行った。


「まー。これで父様も姉様を認めてあげてくださいね。」と小太郎。


「…ッ知らん!!」


 そう言うと藤作は自室へ引っ込んでしまった。






 …一方、藤作に命令された下の者2人はと言うと…。


 櫻木家の門を出たまではよかった。…だが。


「あらー。なんだいそんな物騒な顔してさ!こっちきて荷物運ぶの手伝ってくれや?」


 門の周りではごった返す程の人だかりができていた。


「ところであんた。B村って言ったらハンサム揃いなんだって!?神田の息子を一目見たいのよ。ちょっと入らせてよ。」


 そう言ったのは村の娘達。門が開いたので我先にと中へ入ろうとする。


「み、皆さん!中への立ち入りは禁止です!!」


 下の者の叫びは虚しく周りの声にかき消されていく。


「いいだろ、ケチ!誰もお前みたいなじゃがいも男の顔なんか見とうないわ!」


「B村の若者も手伝いにここに来ているって言うじゃないかー。絶対お近づきになりたい!お前みたいな眉毛はよーどっか行け!」


ーー『女』は時として残酷で強い。


 『じゃがいも』と『眉毛』と言われた下の者は涙を流しながら門への侵入を防ぐのだった。





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