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永遠の愛を誓います  作者: ゆずる
聡子の物語。
5/15

5話


 しばらく誰もしゃべらなかった。

 雨の音が異様に耳についた。


 口を開いたのは藤作だった。


「お前がいつも月1で外に出てしばらく帰ってこないから心配して後をつけたのだ。…するとこの有様だ。まさか隣村の小作人と逢引きしてたとはな!」


 鬼の形相で藤作は恭平の胸ぐらを掴み殴った。恭平は抵抗することなくその場に倒れる。


 聡子の悲鳴があがる。


「松川くん。私は君を見損なったぞ。娘をたぶらかしてどうする気だ。小作人の身分で地主の娘を手に入れられると思ったか!?今まで援助してやっていたがもう隣村とは縁を切る!」


 隣村は毎年洪水被害が多く、米が出来にくい。しかし、その村にしか生えない薬草が多い。なので薬草を売りお金を稼いでいる村なのだ。


 …金はあるが食べ物がない。


 なのでこの村に食べ物の施しを貰っていた。それを遣いでしていたのが松川恭平だったのだ。


…つまり、藤作の発言は恭平の村全体の『餓死』を意味する。


「待って!私が櫻木家の娘だと隠してたの!だから恭平さんがたぶらかした訳じゃないッ!私が勝手に好きになったの!」


 聡子は泣き叫びながら藤作に言う。


 藤作はきっと聡子を睨みつけた。そのまま聡子に手をあげようとする。


「ッお前はまだ目を覚まさんのかーーッッ!!」


(殴られる!!)


 ぐっと歯を喰いしめ覚悟をした。


 バシッ!!


 …殴られたのは聡子を庇った恭平だった。


「恭平さんッ!!」


 泣きながら恭平に駆け寄る。


 恭平は藤作が来てから一言もしゃべっていなかった。しかし、やっと聡子に向けて口を開いた。



「…騙してたの?」


「…ッ!」


ーーそうなのだ。バレたのだ。私が櫻木家の娘だと…。


 今まで櫻木家の娘だと隠していたのがこんな形で罰があたった。


「どうだった?小作人を騙す気分は?わざと小作人のような格好して…それはお嬢様のお暇な遊び?」


「ち、違ッ!私はただ友達が欲しくて。そしてそのうち、貴方が好きになって…ッ!」


 さて今、何を弁解して恭平に伝わるだろうか。それでも恭平を失うのだけは嫌だ。


「残念ですが、素性を知った以上言葉を慎ませていただきます。今までの無礼お許しください。」


「…恭平…さん?」


(『無礼』とは何を指すの?タメ口だったこと?抱きしめてくれたこと?『好き』と言ったこと?)


 恭平が敬礼の姿勢をとった。

 …それは聡子が一番恭平にして欲しくない言動だった。『地主と小作人』と言う身分の違いがありありと理解させられた。


 恭平は藤作にも敬礼をとった。


「櫻木家の御息女とは知らなかったとはいえ、大変申し訳ありませんでした。今後二度とわたくしはこの村に足を踏み入れないと約束いたします。」


 深々とお辞儀をする。


 藤作はふむと頷いた。


「今回はウチの娘にも非がある。私も先ほどは取り乱し過ぎた。隣村との今後も付き合っていくつもりだ。ただしお前以外の遣いの者を遣りなさい。」


「は!ありがとうございます。承知いたしました。」


 2人のやりとりをぼーぜんと聡子は見つめていた。


(…なぜだろう?恭平くんと全然目が合わないの…。)


 自分はずっと恭平を見ているのに…。どうして貴方は私と視線合わせてくれないの?


 彼は近くにいるのに、ずっと遠くに感じた。…まるで彼は私との出会いをリセットしたような…。



 恭平はゆっくりと向きを変え歩き始めた。


ーーもう二度と恭平はこの村にはこないだろう。





*・゜゜・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゜・*


『お名前は?』

『松川恭平と申します。』


『私と友達になってください!』

『…はい。じゃ、聡子よろしく。』


『僕は君が好きだ!結婚しよう!』

『私も恭平さんが好き。』


*・゜゜・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゜・*




 恭平がだんだん祠から離れていくごとに2人の思い出が蘇る。


 ただ聡子はその場で恭平の後ろ姿を見送ることしか出来なくて…。


(恭平さん…もし、私が櫻木家の娘でなかったら、愛してくれましたか?)


 恭平の背中に問いかける。







 …結局恭平は一度もこちらを振り返りはしなかった。










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