4話
恭平は約束通りひと月に一回櫻木家に向かう前に聡子に会いにきてくれた。
聡子は恭平を知れば知るほど惹かれて行った。
ーーしかし、恭平の方はどう思っているのか…。
相変わらずの笑顔で聡子に笑いかける。
どちらかと言うと聡子ばかりが話し、恭平が頷いていることが多い。…どこか友達と言うより兄妹のような…。
(恭平さんは私のこと、どう思ってる??)
※※※
ーーその日は朝から雨が降っていた。
「雨がひどくなってきたわ。」
2人は傘を差して、祠の前で話をしていた。
雨はだんだん激しくなっている。
ピカッ!ゴロゴロ!
「きゃーーッ!!」
雷の音に傘を放り出して聡子はその場にうずくまった。
実は聡子は雷が苦手なのだ。昔父に蔵に閉じ込められた時に雷が鳴った。真っ暗な中で1人で震えて以来、雷が怖くてしかたがない。
「雷怖いの?」
恭平は聡子が濡れないように自らの傘で2人を包み、聡子と同じように座りこむ。
「…大丈夫、大丈夫。僕がいるよ。」
恭平は聡子の背中をさすってくれる。…それが聡子には暖かくて…。
(…恭平さん。…本当に貴方が好きです。)
ーー恭平の笑顔。腕。髪。優しさ。全て好きだ。
恭平にもっと触れたくて…聡子は恭平の肩にこつんと肩をのせる。
恭平に触れていると雷の恐怖が薄まっていくみたいな気がする。
「!」
恭平は傘を持つ手とは逆の腕でそっと聡子を抱きしめた。
当時は年頃の男女が2人でいることさえ問題になる時代。まして抱き合うなどは論外だ。
「…恭平…さん?」
「…ッ聡子!」
恭平の抱きしめる腕が強さを増す。
「…僕は…君が好きみたいだ。」
「…え?」
「もう友達でいることに我慢ができない。君に触れたくてどうにかなりそうだ。君が兄のように慕ってくれてるのは分かってる。…だけど…。」
「私も恭平さんが好き。」
恭平に負けない力で抱きしめ返す。
「…嬉しい。私、妹のようにしか思われてないんだと思ってたの。…両想いだなんて夢みたい。」
恭平の顔は抱きしめられていて見えないが、恭平の鼓動が早まっているのが分かった。
「聡子!結婚しよう!僕は一生君と生きて行きたいんだ。」
ーー答えはYesに決まっている。
聡子は何度も頷いた。
2人は抱きしめあったまま互いを見つめた。…自然に互いの顔の距離が狭まってゆく。
ーーしかしーー
神様は残酷だった。
「…お前達、そこで何をしている。」
今まで2人きりだと思っていた空間に予期せぬ訪問者がいた。
「…父様…。」
目の前にいたのは、聡子父の櫻木藤作だった。