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永遠の愛を誓います  作者: ゆずる
聡子の物語。
3/15

3話

 貧しく汚れた服。日に焼けた肌。目は大きく背が高い。風呂敷を首に巻いている。

 ……この村では見たことがない。



「どなたでしょうか?」


 聡子は外側の顔で話かける。


「これは失礼しました。私は隣の村の者です。今日はこの村の地主である櫻木様に用事があって来ました。始めてこの村に来た者ですから少々迷ってしまいまして…。」


 青年は、敬語で話し始めた。


「…話し合いがうまくいくように、たまたま神社を見つけ、ここでお願いをしておりました。…すると、あなた様が走ってこられ泣かれていたので、出るに出られず…。」


 申し訳なさそうに青年は謝る。


「いえ、私も気づかずにお見苦しいとこをお見せしました。」


 始めて会った人に泣いている所を見られるなんて大失態だ。聡子は心の中で反省をした。


「申しおくれました。私は…聡子と申します。」


 …あえて名字を言わなかった。


 今の聡子は村人と同じような格好をしている。


 元々着飾るのが嫌で、村を歩く時は麻の布の服を着ていた。今日は山田のおばあちゃん家達に行った後にそのまま父親に叱られたので、麻布の服装のままであった。



 …どうして名字を言わなかったか。

 ーーそれは、青年と対等に話をしたかったから。


 この村の人々は聡子を地主の娘として敬う。聡子が何をやっても文句は言わない。『地主の娘』と言う看板が常に聡子を苦しめる。



 聡子は村人との壁が悲しかった。

 …結局本当の『友達』も出来たことがない。



 さて、今…。

 この青年は隣村から来たと言う。

 …つまり聡子が櫻木の娘とは知らないのだ。


 (…もしかしたら、彼は自分の友達になってくれるかもしれない。)


「お名前は?」


 これは失礼、と青年は口を開く。


「松川恭平と申します。」


「おいくつですか?」


「19です。」


 聡子より4つ年上だ。


「私、15です。」


「そうですか。」


 あの、と聡子は恭平を見上げる。恭平は背が高く、聡子は恭平の胸ほどしか身長がない。


「私と友達になってください。」


「…は?」


「私、あなたと友達になりたいんです!…あッ!よろしかったら櫻木様の所へご案内しますよ!」


 必死になると言葉が早口になるのは聡子の癖だ。


 恭平はしばし考えているようだ。

 そしてゆっくりと聡子を見た。


 聡子は恭平の大きい瞳に吸い込まれそうで息を思わず止める。



「…ではお願いします。えっと…」


「聡子と呼び捨てで呼んでくださいッッッ!!!」



 聡子のあまりの大きな声に驚いてカラスが数羽飛び立つ音がした。


 聡子の頬は赤くなる。

 恭平はそんな聡子を見てくすっと笑った。


「…はい。じゃ、聡子よろしく。」






※※※

「…ここが櫻木さん家です。」


 聡子と恭平は櫻木家の玄関前に来ていた。


 櫻木家にいくまでの道中はいろんな話をした。


 恭平についてもいろいろ知った。ーー5人兄弟の長男なこと。貧しい家なので自分も働いて兄弟の面倒を見ていること。


 恭平の話を聞きながら聡子は恭平に惹かれていった。


 恭平の魅力は笑顔だ。日に焼けた肌から覗く真っ白な歯がすごく惹きつけられる。


 櫻木の家にはすぐ着いてしまい、聡子はもっとたくさん話がしたくて少し落ち込んだ。


 「聡子、ありがと。」


 恭平は聡子に笑顔でお礼を言った。そのまま自分の服の端を破った。


「…え?」


 聡子が驚いているのにお構いなく、恭平は風呂敷を開き始めた。

 風呂敷の中には薬草と…お金の大金があった。


 恭平は薬草を少々取り、自分の破った布にくるんで聡子に差し出した。


「聡子。頬の傷にはこの薬草がいいんだ。女の子は自分の体は大切にしなきゃいけないよ。」


 そっと聡子の頬に恭平の手が触れる。父親に殴られた跡がちくりと痛む。


「…理由は分からないけど、いつでも僕に相談しな。」


 恭平の優しさに聡子の胸はふわりと暖かくなる。


「じゃね。」


 恭平はゆっくりと門に入ろうとする。


「あ!」と聡子が恭平を呼び止めた。


「次はいつ会えるかな?」


 恭平はうーんと少し考える。


「次はひと月後かな。」


「き、来たらさ、私にも会ってよ!」


「…どうやって?」


ーーその時、お昼を告げる鐘がお寺から聞こえた。村全体に響きわたる。


「この鐘がなる時に…あの祠のある松の木の下で待ってる。」


 …それは2人の最初の出会いの場所。


「…わかった。」


 恭平の肯定に聡子は嬉しくなる。


 その後恭平に自分の正体がバレないように村を散歩して家に戻った。


 夜に布団の中で恭平のくれた布を握りしめる。

 薬草を頬に塗ると痛みが引いたように感じた。


 次に恭平に会える日を楽しみに聡子はゆっくりと眠りについた。





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