2話
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…出会いは偶然だった。
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聡子は15歳になっていた。
時代は大正デモクラシー。
男女平等運動、民主主義運動が活発になっていた。
…とは言っても、それは都会の話で…田舎のこの辺りでは相変わらず身分の差が激しかった。
ーー聡子は自分の身分が嫌だった。
何不自由ない暮らし。
温かいご飯と温かい寝床。
…だけど一歩外に出たらどうだ。
貧しい服。細い体。
貧しくて死んでしまう村人。
(皆の役に立ちたいわ…。)
そう考えた聡子は自分の家の倉から米をこっそり盗んでは村へ出て貧しい人にあたえていた。
「いつもありがとねー、櫻木のお嬢ちゃん。」
「気にしないで。山田のおばあちゃん。」
聡子は微笑んで言う。
「この後もどこかへ行くのかい?」
「うん。この後は向井さん家と、水川さん家と…後、木村さん家にも行かなくちゃッ!」
「無理してくれなくてもいいよ。父さんに怒られてしまうよ。私らは聡子ちゃんのその気持ちだけで感謝してるんだから。」
山田のおばあちゃんは涙を流しながら手を合わせる。
「そんな事気にしなくていーの!私は山田のおばあちゃん達に長生きして欲しいんだから。私が勝手にやってるんだから気にしないで!」
聡子はにっこりと微笑んだ。
「何をやっとんだーーッ!!」
バシッと鈍い音が部屋に響く。
「お父さん!そのくらいにしてください!聡子は嫁入り前ですよ!」
「お前は黙っていろッ!!」
母のウメの言葉も聞かず、父藤作は聡子をもう一度殴った。
…ついに聡子の行動が藤作にバレてしまったのだ。
聡子は涙をぐっと堪えて父を見上げる。
「だって父様!こんなに蔵に食物があるんだもの。少しぐらい村の人に与えてもいいじゃないですかッ!」
「何を行っておるんだ!あの田んぼはすべて櫻木の田んぼを小作人に貸してやってるんだ。だから小作人が私たちに年貢を納めるのは当然のことだ!」
「それがおかしいと思います。村人の人が作ったものは村人が食べればいいんだわ!威張り腐ってすべて取り上げる櫻木家なんか滅べばいい!」
バシッと藤作がまた聡子を殴る。
「…お前って奴はーッ!」
「あなたッ!それぐらいにしてくださいッ!」
堪らずウメが2人の間に割って入る。
弟小太郎と妹光子は怯えて泣いていた。
聡子は溢れそうになる涙を必死で堪えて外へ飛び出す。
走って、走って、村の神社へ向かった。
神社は村のふもとの山の頂上にあり、石の階段をひたすら登っていく。
昔から何か落ち込むと決まってこの神社に来ていた。
この神社は昔からこの村にある。
お祭りなどの時は賑やかだが、それ以外は誰も居らず聡子の秘密の場所だった。
神社には大きな松の木がある。
この木にしだれかかるように体重を預け、聡子は声の限り泣いた。
辺りは聡子の鳴き声と鳥のさえずりしか音はしない。
泣くことに集中して、聡子は人が近くにいた事に気づかなかった。
ふいにサクッと人の足を踏む音がした。
「誰!?」
気配は祠から聞こえた。
聡子は涙を腕でこすって止めた。
気配はゆっくりと祠から顔を覗かせた。
ーー現れたのは1人の青年だった。