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苦手な方はご注意ください。

僕とシエナの生きる道

作者: 雨池蓮葵

撃襲

Just story of s nothing・・・


草木に囲まれた道路を、一台の真っ黒なサイドカーが走っていた。時速にして、一五〇㎞、この道の制限速度は、時速一○○㎞である。

運転しているのは、真っ白なライダースーツを着た女性のハーフエルフ。長い金髪で最高峰の美貌を持つといわれるエルフの中でもトップクラスの容姿をしていると思われる。腰には、オートマチックの拳銃、H&K P2000。致命度は低いが、装弾数が一三発と多くプラスチックを多く使っているため、軽量で、早打ちなどに適している。左腿には、同じくオートマチックの拳銃、デザートイーグル50AE。装弾数は7発と多くはないが、口径が大きいため、非常に致命度が高く、反動が大きい.

他にも、見えるところでは、腰に、カランビットというファイティングナイフ(戦闘用ナイフのこと)、ブーツにベルトで鞘をつけてブーツナイフという対人殺傷用の暗器(ナイフ)を身に着けている。

 サイドカーのほうに乗っているのは、黒いローブを着たヒトの少年。灰色の髪に灰色の目で少女といっても通用するきれいな容姿をしている。

サイドカーの後方に先が歪に曲がった杖が立てかけられていることからウィザードだということがわかる。すると運転しているハーフエルフは、従者だろうか。

「シエナ、速すぎない?もっとゆっくり行こうよ。」

少年がハーフエルフに言った。

「何言ってんだ? マスター。」

シエナと呼ばれたハーフエルフは馬鹿にしたような口調で言った。

やはりは少年の方が主人でハーフエルフが従者のようだ。

「いや、だってさすがに速すぎるだろ制限速度五〇キロもオーバーしてるし…。」

少年が言った。

「光属魔法の天才、フィオード・レイランド・マギ様がそんなんじゃダメだろ。しかも日が暮れるまでには次の村へつきたいって言ったのはマスターじゃねえか。」

シエナが言い返す。

この少年の名前は、フィオネ・ジ・マギというらしい。

「た、確かに言ったけどこんなスピードで走らなきゃ着かないなんて知らなかったから。知ってたら言わなかった。」

フィオネが言う。

シエナは、フィオネの様子を横目で見ながら楽しんでいる。

あまりのスピードでフィオネの顔色が悪くなってきたのでさすがにかわいそうになったのか、シエナは、スピードを時速一〇〇㎞まで下げてやった。

フィオネが青ざめた顔で、あ、ありがと。といったのを聞いてシエナはくすっと笑った。

「でもこのままのスピードで言ったら明日の朝になっちまうぜ?」

シエナがそういうとフィオネが

「いいよ、今日は野宿で。あんなスピードで走るんならそれの方がマシ。それに、野宿しても明日の昼には着くんでしょ?」

と言った。

まあな。とシエナが言ったの聞いて、フィオネはじゃあ僕寝るからと言って寝てしまった。

シエナは、その寝顔を見てクスクスと笑っていた。






 その夜やはり、フィオネたちは野宿していた。幸い、あたりは夏の草原なので多弁のには困らず、その辺を歩いていた鹿を狩って食べた。

 次の日の朝、陽が昇る少し前に、シエナは起きると、サイドカーのトランクにしまっておいた拳銃一式を取出し、分解して掃除を始めた。溜まったほこりを拭いて、油を塗る。

 次に、シリンダーを空にして何度も抜き打ちの練習をした。シリンダーの中身を補充してそれを腰と左腿のホルスターにしまった。

今度は、トランクから数十種類のナイフを取出しライダースーツのあちこちに収納した。ポーチからカランビットだけを二挺取出し、持ち手の穴に両手の人差し指を入れると五分間ほど何もないところを敵に見立てて振り回した。それがシエナの日課だった。たまにケリを織り交ぜていた。ぶぉんとかギュンとかとケリとナイフが空を切り裂く音を立てている。ふそれを終えるとシエナは朝食の準備を始めた。

少しするとフィオネが起きてきてローブを羽織ると寝る前にかけた守護の魔法を解いた。

シエナはほうれんそうとコーンのソテーを作っている。とてもいい匂いだ。

「ご主人、できたぞ。」シエナが言った。

「ん?ウィンナーは?」

フィオネが言うと、ああ、忘れてた、忘れてた。とトランクの中の食糧入れから凍ったウィンナーを二本ずつ取り出して、ソテーに入れて炒めなおした。

「できたぞ。」

シエナはそう言うと、目玉焼きを乗せたトーストをフィオネに渡し、皿に自分の分を残して盛り付けるとそれもフィオネに渡した。

「ありがと。」

フィオネが言っておいしそうに食べ始めると、シエナは嬉しそうに、どういたしまして。といって、自分の分を皿に盛って食べ始めた。

朝食を終えた二人は、携帯用の水と洗剤で皿とソテーを炒めるのに使ったフライパンを洗って片づけた後、すぐに出発した。

 しばらく行くと、十字路があり、その手前にコンビニがあった。

「十字路?あの村人、適当なこと教えやがって!」

シエナが言った。

「でもここまでは合ってたよ。それに丁度いいじゃん。そこのコンビニで道を聞こう

僕も欲しいものあるし、シエナのアモ(弾薬のこと。よく言うブレット【弾丸】とは、口から発射される物のことで、ブレットとパウダー【火薬】を組み合わせた物をアモ【弾薬】という。)も、もう無くなっってきてるんじゃない?」

フィオネはサイドカーのトランクから財布を取り出しながら言った。

この世界のコンビニでは、銃器関連のものも売っている。コンビニエンスストアー(便利な店)じゃなくて、ユニバーサルストアー(万能な店)という感じだ。

「ん、御主人がそういうなら。」

シエナは、サイドカーをコンビニの駐車場に止めた。

コンビニの中は結構広い、どうしても魔法具(魔法と使って作られた道具、または魔法を使うための道具)のコーナーが目立ってしまうが、日用品のコーナーや、おにぎり等の弁当のコーナーなど普通のものも売っているようだ。二人は、コンビニに入るとそれぞれ違うコーナーを見始めた。

フィオネは、魔法具のコーナーでドラゴンの髭で編んだロープやペガサスの羽で編んだローブなどを見たりお菓子のコーナーを見たりし、シエナは、カウンターでデザートイーグル50AEの50AE(アモの名前)、H&K P2000の9ミリグリセンティ(アモの名前)のほかにも.55Boys(アモの名前) .50Caliber(アモの名前)を買っていた。どうやらアモなどの商品は、カウンターで買わないといけないらしい。

店内は定員を除いてフィオネとシエナの二人しかいなかった。

二人は、ひととおり自分の買い物を終えると、定員に道を聞こうとカウンターに行った。

そのときコンビニの窓という窓を割り大量の弾丸が飛んできた。

それを察知したフィオネが守護の魔法の呪文を詠唱する。

「tha tofockaithi dinami nametatolipqusel.puroszeturipwi zynozuzfinik baru valufool fotosu!!!」

フィオネを中心に光の壁のような物がふたりを覆った。それに弾丸がふれると跡形もなく消えていった。当然フィオネが守っているのは自分とシエナだけなので定員はどんどん死んでいった。まあ、もともと二人しかいなかったのだが。

しばらくして銃撃が止むと、中に軍服姿の男達が入ってきた。

「シエナ!」

フィオネが叫ぶと同時に、シエナが飛び出し、H&K P2000を抜く、シエナは、一発一発的確に男たちの額めがけて楽しそうに弾丸をぶち込む。さすがハーフエルフと言ったところか、男たちもツァスタバM21というアサルトライフルを使い応戦する。毎分560発のスピードで弾が飛んでくるのだが、シエナには一発も命中しない。

「ヒャーッハァ!」

シエナは一度大声で叫ぶように笑うと、H&KP2000をしまって、カランビットを取り出し、残っている男たちの頸動脈をやはり確実に、楽しそうに切断していく。わずか三分ほどで、コンビニ内は血の池地獄と化した。

それを見てか、外にいる男たちは中に入ってこなくなった。

「ありがとうシエナ。あとは僕がやるから。」

シエナはちぇ、と不満そうに舌打ちして死体をデザートイーグルで死体をバンバンと打ちまくった。

死体の脳や内臓が弾丸の作った穴からトロトロと流れ出る。

「tha tofockaithi dinami chalsum perdunti pyuy lox vy tfe sperof light rain!!!」

フィオネが、拡散槍の呪文を詠唱した。無数の光の槍が出現し、外で待機している男達を誰一人取りこぼすことなく雨のように降り注ぎその体内で爆発した。ここまでで約四分。 

四分でコンビニ内とその周りが地獄絵図である。

「張り合いないなぁ。定員さんもみんな殺しちゃうし…ったく、道聞こうと思ったのに。軍の人たちもいったい何やってんだろうね。旅をはじめて三ヶ月なのに、これで三度目だよ。極秘で攻撃しかけてきたりして、指名手配しちゃえばいいのに。まあこんなことになってたら極秘ともいえないと思うけど。」

フィオネが言った。

さっきの軍服の男達はやはり軍隊のようだった。コンビニの外にはAH-1コブラ(軍用ヘリ)の残骸が三台分あった。全く使わずに終わったようだが…

「王国の王子様が妹殺して旅してるなんて国民が知ったら、国王の教育がどうだとかで政権交代、なんてことになりかねないだろ。」

この国では、一か月ほど前、王女が殺され王子が直属の女執事に誘拐にされるという事件が起きている。その真相が王子であるフィオネが王女である妹を殺して旅に出たということなのだろう。そして、その女執事がシエナだろうか。国王はそれを知って行っていて、自分の指示が下がるのを恐れ、間違った真相を世間に公開したのだろう。

「それは嫌だな…父さんじゃないとまた変な法律作る国王とか出てくんじゃない?」

フィオネが心配そうに笑った。

この国は前の国王が一年間に一番多く犯罪を犯し逃げ切った者に賞品として国の運営をその一年間任せるという法律を作った。ヒトは死ぬわ、強盗は起きるわ、国民はやりたい放題やった。国は荒れに荒れて、死刑される人は続出、国も軍を強化して、犯罪に備えたため逃げ切るものは結局いなかった。そこで立ち上がった現在の国王が前の国王を追放し 入れ替わってから国が安定し今に至る。

「アハハ、あんな王様さすがに出てこねーだろ。」

シエナがサイドカーのエンジンをかけながら言った。

「いや分かんないよ。あいつの息子あたりがもう一回やるかも。」

「そんときゃ俺達で殺ってやろーぜ。」

「国がもっといかれちゃうよ。」

フィオネがサイドカーに乗る。

クックック、とシエナが笑ってサイドカーを走らせた。

















旅立ち

The story of a master and a butler…



「フィオ様、朝です。朝ですよー」                   

シエナの声がする。

「う~ん、くぁぁ」

僕は、一回うなって、起き上がった。

「起きたか…いや、起きましたか?」

「ふあぁ、おはよう。シエナ」

「おはようございます、フィオ様」

「だからさ、シエナ。君は僕のことをフィオ様って呼ぶなって、言っているだろう? あと敬語も使わなくていいって」

僕は言った。

シエナは、かなり奇麗だ、金髪に猫目で背が高い、ついでにハーフエルフだから耳がとんがっているのもシエナの奇麗さを引き立てていた。

正直かなり好みだ。

「いえいえ、おれ…、あ、いや、私はフィオ様の執事ですので」

「ほら、また一人称が俺になってる。いいよ、自分のしゃべり方でしゃべって。僕シエナのしゃべり方好きだし」

シエナは少し考えるような仕草をした。

「ん~、そう毎日言われたらなぁ。じゃあ、そうすることにするよ。まったく、それ言い始めて一か月たってんじゃねえか?」

シエナがやっと了承してくれた。今日でちょうど一か月目である。

「うん。ちょうど一か月目」

しつけえなあ。とシエナは笑う。

「で、今日のことなんだけど…」

僕は言った。

「へえ、お前、やっぱりやるんだ」

シエナがクククと笑った。

うん。と僕はうなずいて着替えを始めた。

「それでさ、シエナ、僕の使い(サーヴァント)になってほしいんいんだ」

「いいよ」

即答だった。

「……ありがと」

「ん?オレが断るとでも思ったのか?」

「いや、そうは思ってなかったけど…即答するとは思ってなかった。僕の手下になるようなもんだから。シエナってそういうの似合わないような…ね」

マジ…か?ついに、ついについについにシエナ攻略のフラグが立った? これはこのままエンディングまで一直線? みたいな?

「まあね。まだ、ガキだし」

僕が心の中でウッキウキのときにその言葉はキツかった。僕はもう、自分の中じゃもう子供じゃない気分だったんだけどな。さらば、儚き僕の夢…今までありがとう。

「で、でも子供だとなおさら嫌なんじゃない?」

僕が聞くと、シエナは、まぁいいや…と言って話を逸らした。

う~ん、やっぱりフラグ立ってんじゃないか?

「でも契約ってどうするんだ?結構バリエーションあんだろ?」

う~ん、そこんとこ聞いてみたりしてみようかな。でもなんか恥ずかしくて嫌だな。あ、シエナとよく話してる人に聞くとかどうだろう。…ダメか、僕は、家族とシエナと一部の人以外じゃあんまり話さないからな。変に思われるかも。

「…ぶつぶつ」

「フィオ? 大丈夫か?」

シエナがどこかオカシイ人を見るような目で見ながら言った。

「へ? えっ、あっ、なな何っ?」

「いや、だから契約ってどうやんだ?」

「あぁ、それは、『(ゴア)の(・)交換(バーター)』を使おうと思うんだ。僕とシエナの両手の薬指の血をつかって魔方陣を組んで、その上で二人で傷口合わせて互いの血を交換する。それだけ、これ、簡単だけど、信頼関係みたいに心とか精神とかみたいな不安定なものが媒体じゃなくて、互いの血を媒体とするから切れることがないし強いんだ」

「へえ。でもさ、使い(サーヴァント)て何をするんだ?」

先に聞いてほしかった。

「えっと、契約者(ダーカー)呪文(スペル)詠唱中の守護や、身のまわりの世話をしたり、ほかは、契約者(ダーカー)と運命共同体のような存在になる」

今やってることとほとんど同じじゃねえか。とシエナが呟く。そのあと少しシエナが考えるようなそぶりを見せて言った。

「運命共同体って?」

「そのまんまの意味。一生同じ運命をたどることになる。契約者(ダーカー)が契約解消しない限りね。」

ふうん。とシエナは頷いた。

一生同じ運命をたどる。とか言ったのに気になんないのかな。

「で、いつやんだ?」

う~ん。と僕は少し考えて言った。

「昼ご飯食べてからにしよう。それまでシエナは父さん誕生日の準備をしててよ。」

「あいわかった。んじゃ、後でな」

そう言ってシエナは僕の部屋を出た。

さてこれから何をしようか。今はもう九時半だけど、僕は本来五歳から二十歳までの十五年間通う魔法学校を十三歳で終えているので学校に行く必要がない。学校に行ってるときは、神童とか言われて、回りからそれを妬まれて、陰で色々言われて誰とも話さず、関わらず、ふさぎ込んでしまった。まあ一部には、話し相手になってくれる人もいるけど。でも、三年前には卒業して陰口言われることもなくなってだいぶ楽になった。

早く卒業したから三年間暇で暇で。仕事に就こうにも王家だから就く必要ないし。だから時々学校に行って、入ったばかりの生徒に授業したり。まあこの間までは、恥ずかしながら泳げなくて半年くらいかかってやっと泳げるようになった、それ以外は、何もなかったかな。

今日は、少しばかり忙しくなりそうだけど。

 

 



      

         


シエナが父さんの誕生日の準備をしに行って、僕は朝食を食べ終えると、暇になってしまったので、とりあえず城の外を散歩することにした。

クローゼットから、お気に入りの黒いローブを取り出して、自分の杖を背中に背負い自分の部屋を出ると掃除婦さんが僕の部の正面に立っていた。

僕が部屋を出るのを待っていたようで、おはようございます。と僕に深々と頭を下げると僕の部屋に入っていこうとする。

「あ、僕の部屋は自分で掃除するから大丈夫。」

僕は基本的に自分の部屋に入られるのが嫌なので、入るなという意味も込めて言った。

「…申し訳ありません」

一発で意味を分かってくれたようだ。

ときどき何度も言わないとわかんない人とかいてすごく困るときがある。というのも中に入られたくないのは趣味で集めた古い魔法具や古書、ローブ、杖があって、それぞれの位置を動かされたくないからなのだけれど。

動かすとたまに魔法具の位置とかで変な魔法発動するし。

ちょっと前に無断で入って掃除した人が魔法を発動させちゃって大変だったことがあってからは大体入るなっていったらみんな入んなくなったけど。

「お兄ちゃん。どこ行くの?」

リトが僕の三つ隣の『リトの部屋』から出てきた。

「散歩だよ。僕は暇だからね。あれ? でもなんでリトがいんの?」

「だーかーらー、今日は、創立記念日だって昨日も言ったじゃん」

ああ、そうだった。リトが行っている学校は、父さんの誕生日に合わせて作られたのだったっけ。

つまり現国王の誕生日に合わせて学校が作られたということだ。父さんは、国王誕生日とかの祝日はいらないといって、自分が国王になったときこの祝日を廃止したのだった。父さんが国を治める上でのモットーは、国民全員が平等ということだった。もちろん国王も含めてだ。

「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」

「もーしっかりしてよ」

リトが頬を膨らませた。

するとリトがハッとして言った。

「…まさか、父上の誕生日だっていうのも忘れたんじゃないでしょうね?」

「まさか、忘れるわけがない」

だよねーとリトはホッとしたように言った。

まあ僕もそれを思い出したのは昨日母さんに言われたからなのだが。

「ていうかリト、その、父さんを『父上』って呼ぶのどうなんだ? なんか堅苦しくないか?」

僕は、前から気になっていたことを聞いてみる。僕は、身内を父上とか、母上とか呼ぶのが嫌だから、どうも気になって仕方なかった。

僕がなぜ兄上じゃないのかも気になったが、そこは聞かないでおいた。

「お兄ちゃんが、王家の自覚が無さすぎなのよ。もっとこう、気品を持っていなきゃ。せっかく王家に生まれたんだからね」

全く前向きな奴だな。僕もそのくらい前向きでいられたら…。

「ん? なんか言った?」

「なにも。けどお前ほど気品という言葉が似合わない王女はいないよ。ソレを言うならもっとしゃべり方とか上品にしろよ。しかも部屋とかガサツに片付いてるし、成績もそんないいわけでもないだろ?」

「フッ、なめてもらっちゃ困るわね。体育と歴史は学年トップよ」

学年トップが二つもあるのに成績が中の上ってどういう事だ?

「僕は全部学年トップッだったよ。飛び級して卒業したし。お前は部屋も汚いが、僕は綺麗だ」

僕は、勝ち誇ったように言った。

なんか意味不明な会話だ。

「私ね、実はクラスの友達にお兄ちゃんの部屋の写真見せたことがあるんだけどね…

みんなキモがってたわ。特に女子! 変なものがいっぱいあるってね。それに私の部屋は汚くないわ、お兄ちゃんの部屋が不自然にきれいなのよ。さすがにあの綺麗さはキモいわ。ってゆうか、私がガサツだったら、国民すべてがガサツになってしまうわ」

マジか…結構へこむぞ、それは。

さっきのシエナのことと言い、心が折れてしまいそうだ。

…ん?

「おい、なんで僕の部屋の写真が撮れた? 写真とか撮れないように魔法を…………………あ、父さんか」

確かに前、僕が部屋にかかってる魔法が全部解けてたことが一度あったな。あのときは、効力が切れたのかと思って気にも留めなかったんだけど。

「大正解! 父上だいぶ手こずってたよぉ」

リトは、うふふと笑う。

なんで父さんはそうリトに甘いのかなあ。

「甘くなんかないわよ! 父上にその報酬としておこずかい三か月分も払ったんだからね!どうしてくれんの?」

独り言だったのだけどリトはそれを聞き逃さなかった。

逆ギレだった。

世の中何か理不尽なものを感じる。

…ってか父さんは、金に釣られたのかよ。

「そう思うんだったらやるなよ」

「いやよ、私なんてなんかあるたんびにお兄ちゃんと比較されんだから。ソレくらいやる権利があるわ」

「比較?誰に」

「主にエネミス」

なるほど。

「本っ当、頭くるわ。私の執事の癖に何かあるたびに私とお兄ちゃんを比べんの。しかもあのしゃべり方、ねちねちねちねちと。勉強見てもらってるときなんて地獄よ!」

リトが怒鳴った。

「だから僕にあたるな」

「フッ、けど今日であいつともおさらばだー。ハーッハッハッハ」

リトが両手を腰につけ、胸を張って大げさに笑った。

どうやら本当に自分の執事のことが嫌いなようだ。

「旅をするための資金集めに執事やってたんだってね」

「よく貯めてくれたわ。あんなのが執事だったら身がもたないもん。あ、そうそう、さっきシエナさんとエネミスがまた喧嘩してたよ。シエナさんも突っかかってかなければいいのに、エネミスに口で勝てるやつなんかいないよ」

また喧嘩してんのかあの二人。

「じゃあ僕もう行っていい?」

僕は早く城の外に出たかったのでリトを無視して玄関へ向かおうとしたのだが、リトにローブの端をつかまれて立ち止まった。

「何?」

「どこ行くの?って最初から聞いてんでしょ」

「散歩だよ。行きたい所はこれから決める」

また付いてくる気か?

リトと散歩に行くといつの間にか買い物になってたりする。

それだけならべつに良いんだけどリトが行く店は、ヒトが多い。僕はヒトがいっぱいいる場所とか嫌いだから僕はリトと散歩に行くのが嫌いだ。

「要は暇なんでしょ。これから父上の誕生日プレゼント買いに行くから一緒に来て」

「まだ買っていなかったのか? 残念ながら僕はもう用意してあるのでのでいかなくてもいいのです。では」

そう言って僕はわざとらしくリトにお辞儀をして、また引き止められるのも面倒なので、近くの窓から外に出ることにした。

僕は、手前の窓を開け、その桟にぴょんと跳び乗って、そこから足を踏み出す。

「お兄ちゃんここ四階!」

リトが大声で止めるが僕は構わず飛び降りて翼部召喚魔法の呪文(スペル)を詠唱する。

「サモン・フェザー… 」

僕の背中に大きな翼が現れて(生えて)僕はゆっくり滑空した。

「この魔法かっこ悪いんだよなあ」

僕は呟いた。

杖に乗って飛ぶ魔法が使いたいけど僕は風使いじゃないので使えない。

誰かが城内で魔法を使うなと叫んでいた気がしたけど、それは無視した。

僕の魔力を感知して、リトの周りに武装した兵が集まってくる。それをリトが僕の方を指さしながら弁解していた。

僕は気にせず門の方まで歩いて行く。

 門を出るとそこから中央通りがあり、その先には町の出入りをするための門がある。

中央通りは、色んな店が集まっていていつも賑やかだ。その背景にはきっとここが城内町で国の首都だからということもあるだろう。地方から旅行で集まってきたヒト達、商売をするために集まってきたヒト達、元々住んでいるヒト達。それぞれが観光したり、商売したり、みんなが楽しそうだった。

「フィオせんせー! 」

僕を見つけた女の子が駆け寄ってきた。

何度か僕が学校で授業した子だった。たしか今日は学校は休みじゃなかったはずだけど。

「ん?クララじゃないか。学校はいいの? 」

「昨日から2週間学校休みなんだ。」

「ああ、学校火事にあったんだって? あはは。これで三件目。最近は良く続くねえ、放火」

「えへへー」

なんかスゲー嬉しそうだな。

「…なんかいいことあったの?」

「だって学校休みなんだよ。うれしいに決まってんじゃん。しかも学校建て直すのに半年。

半年間は家の近くの公民館で授業。いやっほーい!」

クララが、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

なるほど火事の後始末が終わってから授業を開始するのか。二週間もかかるのはなんでだ?教員だけで片付けをするつもりか?国から人員を雇う金くらいないのかよ。

「今私はとっても機嫌がいいのでこれを上げよう」

フフン。と笑ってクララは持っていた買い物かごの一番上にあるでっかいトマトを僕に差し出す。

すっごい笑顔だった。

「いや、クララがトマト嫌いなだけだろ」

「トマト不味いじゃん」

真剣な顔だった。

はあ。

「ま、いいや。ありがたく貰っとくよ」

「誰かからなんかもらったら言わなきゃいけないことがあるって、学校でなら会わなかった?」

「嫌いなものを押し付けられたんだからね、礼なんて言う必要はないと思うよ」

むーとクララが頬を膨らます。

「アハハ、じゃあね」

クララは、バイバイと言うと、僕とハイタッチをしてクララ位の子供が集まって遊んでいる方へ駆けていった。

よくみるとクララの学校で見かけたことのあるような子が他にも結構うろついていた。

学校閉鎖がうれしいのか走り回っている子や、お使いを頼まれたのか籠を持ってメモを見ている子、みんなやっぱり楽しそうだ。

平和だなあ。

僕はクララから貰ったトマトをかじる。

「あ、このトマト結構美味いな」

すっぱい味が口の中に広がった後ほんのりと甘くその割合がちょうど良い。そんな感じだ。

どこの八百屋のだろうか。この通りはいろんな店がいっぱいあるからな。

そんなことを考えながら僕は門の方へ向かう。

入退村口の門の前まで来ると、何か楽しそうに話している二人の門番がこっちを向いた。

「フィオード様。どちらへ?」

「ん、ちょっと散歩」

「でしたらこの書類に日時とサインを」

門番は僕にサインと日時を書くだけの枠があるだけの紙を渡した。

僕はポーチから僕の名前の入った印鑑を出して紙に捺し門兵からペンを借りて日時を書きこんでそれを門番に渡す。

門番はそれを一見もせず、二つに折って懐にいれた。

「確かに。」

門番はそう言って門を開けた。

「どうぞ」

門番は言って頭を下げた。

「ありがと。じゃ、君達クビね。ご苦労様でした。父さんには僕が言っとくから君達もう家に帰っていいよ」

僕は歩きながら言った。

「っな、どういうことですか?」

門兵が叫ぶ。

「その調子だといつも書類見ないんでしょ? そんな役に立たない門番は要らないよ」

僕は振り返った。

「そ…そんなことで…」

二人の門兵は呆然としている。

「うん。わかったら交代の門兵と交代して、さっさと僕の視界から消えてくれる?」

僕は、言( 、)っ( 、)た( 、)。

びくっと二人の門兵は一度震えると、何を思ったのか交代の門兵のいる小屋の方まで逃げるように走って行った。

少しすると交代の門兵らしい二人組が小走りでやってきた。

「ん、じゃあよろしくね。書類の確認をしないなんてことやったら君達もすぐクビだから」

と言って僕は門兵を見る。

「……………………っ?」

何を硬直しているんだろう。

「返事は?」

「っ! ハッ。申し訳ありませんっ」

「ま、いいや。ほら仕事。大丈夫? 真っ青だよ、顔。」

僕は二人を見ながら言う。

「はっ…はいいい!もうっもうししわけありまま、ありませんん!」

交代で来た二人組は門の前に並んだ。二人とも何故かがくがくと震えていた。

ったくあんなんで本当に大丈夫かな。まあ、あの程度の警備じゃ対して侵入に困る事もないのだろうけど。

僕は、門の正面の道から外れて、道の脇の林に入った。

林の木や草をかき分けてまっすぐ行くとけもの道のようになっている。僕はそこを進む。真横の木に鳥の巣を見つけた。中には、何もいない。ひながもう巣立った後だろうか。中を見てみると血が飛んでひなの羽が散らばっている。何かに食べられてしまったのだろう。

僕がここを通るほんの少し前だったのだろうか、血がまだ乾かずにべちょべちょとしていた。

また少し行くと兄弟だろうか。二匹の鹿が木の幹を競争するようにかじっていた。近くには、親の鹿がその兄弟を守るためかは分からないが、きょろきょろと周りを確認するようにしている。

その親が僕に気づいた。まだ木の幹をかじっている兄弟の鹿の一匹を鼻でつつくと、三匹で、走って逃げて行った。

僕って何故か動物に嫌われるんだよなあ。どうしてだろ。

今まで僕になついてくれた動物はいない。今まで僕が動物に近づくと何故かみんな逃げて行ってしまう。

シエナは、笑いながら、僕が怖いんだって言っていた。あ、違うな。笑いながらというより、楽しそう…ちょっと違うな。何だろうか、笑ってはいるんだけど目が笑っていない。という表現であっているだろうか。なんか違うな。僕の印象じゃあ、あれは僕に何かを期(、)待(、)し(、)て(、)い(、)る(、)、というような感じだった。

どういう事だろうか。

他にも、たまにだけど、僕の前でヒトががくがくと震えだすことがある。

そう、さっきの門番みたいに。あれもそうなのかな。僕はいたって普通にしているつもりなのだけど。そういうのは大体いつも誰かに面と向って話をするときになる。それも悪い話。他の例は、僕が魔法学校に入学して一年くらいのとき、子供心に納得いかないことがあって先生に反抗したら、いきなり先生ががくがく震えだして、それ以来その先生は僕に対する恐怖からか学校に来なくなってしまい、他の生徒からも怖がられる始末。それ以来一部の人としか話せなくなってしまったな。あ、そのときぐらいからかな、僕がふさぎ込むようになったのは。多分そのときに、僕に対する嫉妬や恐怖が生徒や先生達の間で爆発したんだと思う、それまでも少しはあった陰口が激増した。それを僕は聞きたくなくて、誰とも関わらないように生きてきた。と思う。一部の人を除いて。

足元をにょろっとしたものが通り抜けた。

「わっ、なんだ?」

蛇だ。

びっくりして飛び跳ねてしまった。その蛇も驚いたようで僕の足を一度噛んで威嚇していた。その蛇は毒蛇だったが、幸いそのとき僕はブーツを履いていたから、ブーツに蛇の歯形が付くだけで済んだ。僕はその蛇を刺激しないよう、その場で硬直して蛇が行くのを待った。いつ襲いかかられても対処できるよう杖に手をかけて。二、三分見つめあうと蛇は、自分に危険はないと判断したのだろうか。近くの茂みに入って行った。

ふう。びっくりした。

今日はブーツを履いてきて本当正解だったな。危うく命を落とすとこだったぞ。

でもそれを境に動物を少しずつ見なくなってきた。

「そろそろか」

目的地が近くなってきた証拠だ。

そこの近くになってくると緑がやたらと濃くなるのに反比例して動物がいなくなる。今僕が行こうとしている場所に関係あるのだが、それはまた後で話せばいいだろう。

少し行くと、なんかが死んでいた。

「何だろ? これ」

動物の図鑑で見た気がする。何だっけか。えーと、

「そうそう。狸だ。狸」

この辺にもいたんだ。初めて見る。

僕は近くに穴を掘ってやり、そこにその狸を生めてやった。

「なんまんだぶ、なんまんだぶ」

と僕は言って思った。

なんまんだぶって何だろう。昔から、何かか死んだり、死んでたりすると言うよな。そういえば、父さんが東方の言葉だといっていたな。今度あっちへ行ってみようかな。

僕はまた何事もなかったかのように歩き出した。



 



         


そこは多分、僕しか知らないと思う。

とはいえ、そこら辺にいる野生の動物や、旅人が迷って入ってくるが時々あるのだけど。

どこから流れてくるのかわからない、きれいな水に満たされていて、その周りを奇麗なミクリやアカバナ、他にもいろんな植物がいる、とても長閑で奇麗な場所だ。

僕はここが世界で一番奇麗な場所だと信じている。

何時からだろうか。僕はそこを『棲み処』と呼ぶ。

家とかにいるよりもここが落ち着いて、ここが自分の居場所のような気がしたから。

ここには、動物がまったくいない。

随分前のことだけど、ここで二匹の鹿がここの水を飲んだ。するといきなりビクビク小刻みに震え始めたと思ったら、ぱたんと倒れてしまった。調べたら死んでいて、原因がここの水なのは明らかだった。

その時僕はここの水には毒があることを知った。

でも植物は普通に生きている。

ここの植物は、この水でも生きていける植物なのだろうか?

それとも、動物にしか効かない毒なのだろうか?

僕の勝手な推測だけど、多分、後者だ。

だから『棲み処』の近くには、迷い込んできた動物の死骸がざらにある。

その死骸が植物たちの肥料となり植物達の成長を促す。

その肥料をこの水が作る。

この水は植物を外敵から守る。

不思議と風などによって遠くに種子を運んだりする種類の植物はここにはいない。まるでここがその種の植物を排除して、ここにとどまり続ける植物のみと暮らしているようだ。

僕は、それを知ってから、ここのことがさらに好きになった。

それを知って以来、なんかあってもここに来れば大体のことは落ち着いた。自分の醜いところを、その水が、殺してくれるような気がした。

守ってくれる気がした。

 「ん? 何だ、あれ」

池に淵の辺りに何かあった。なんだろうと思って地被いてみると、それは人だった。種族もヒト。一度声をかけてみたけど返答はない。僕はその人の首に手を当てて脈をはかってみた。

やっぱり死んでいた。

多分、ここの水を飲んだのだろう。

「まったくここで死なないでほしいよな。こんな奇麗な場所なのに。死体があると汚(、、、)い(、)じゃないか」

ここで死んでいいのは野生の動物だけでしょ。とか言いながら、仕方なく僕は近くにそれを埋める穴を掘る。

ヒトが埋められるくらい大きな穴を掘るのには結構時間がかかった。どのくらい掛かっただろう、三十分くらいだろうか。

僕はそれを埋め終えると生めた場所に向って言った。

「まあ、植物たちのために肥料になってやってくださいよ。よろしくお願いします」

僕は、それを生めた場所に座った。

「ははっ、あはは。あはっあは、あはははははははははは」

何故だろう。笑いがこみ上げてくる。

「ははははっははっ あはははははは」 

ダメだ。止まんない。

周りに誰かいたら、きっと軽蔑の目で見られていた事だろう。

僕は、そのまま、十分くらいずっと笑い続けた。

腹が痛かった。

自分の身を守るためとはいえ、魔法でヒトを殺してしまったことがある。

その経緯は語りたくないけれど、それまで、僕等は、魔法は殺しの道具じゃない、誰かを助けるための道具だ。そう僕は教えられていた。

それで当たり前だと僕も思っていたし僕以外もみんなそう思っていた。

でも破壊のための魔法等を自分の身を守るためと言われて教えこまれたのも確かだった、けどそれを僕達は信じてぞっと生活していた。

でも、ヒトは殺せて、僕はそれをやった。

怖かったし辛かったし悲しかった。

苦しかったし痛かったしその場で死んでしまおうかとも思った。

そのときでさえ、ここに来れば大丈夫だった。

家族でさえ駄目だったのだけど。

それ以来、僕は、何人殺しても平気だった。

だから、

ここに来れば大丈夫だと思っていた。

ここならば大丈夫だと思っていた。

ここだけは大丈夫だと思った。

僕は、火をつけた。

ふと気が付くと僕は、『棲み処』に火をつけていた。

いや、あらかじめマッチを三箱も持ってきて来ていたのでその気はあったのだろうけど。

僕は気が付かなかったが。

僕は、『棲み処』の木や草、花、燃えるもの全てに、火をつけた。

でも、最初にヒトを殺したときと同じ、

その程度にしか感じなかった。

ぱちぱちと、木々や草花が、燃える音がする。

「もっと怖くて、辛くて、悲しくて、痛くて苦しいと思ったんだけど…」

やっぱここも僕にとってこの程度だったということか。

     

「…ッハハ   」

僕は、また笑った。






         


僕は、『棲み処』が燃えきった後、火の始末をつけて城に戻った。

「あ、お帰り」

部屋に戻ると、シエナが既に昼ご飯作り終えて、作るのに使ったフライパンなどを洗っているところだった。

僕は、ただいま、と言って、ローブを脱いで、テーブルに着いた。

昼ご飯はパエリアだった。

「食べていい?」

「あー、ちょっとまって」

とシエナは言って洗っているものを洗い終えると、つけていた羊の毛で覆われたエプロンと羊のあのくるっと曲がった角のカチューシャをはずしてテーブルについた。

無論、これは僕の趣味である。萌え萌えですよ。シエナさん。

シエナもそれを別に変なかっこだと思っていないから不思議だ。他にもシエナは色んなコスプレ用コスチュームを持っている。無論、僕の趣味に合わせて。

「帰るの待ってたんだからさ、一緒に食べようぜ?」

そう言ってシエナがテーブルに着いた。

「ああ、ごめん、そうだね。じゃ、いただきます」

「あいよー」

シエナは料理が上手い、というか、何をやらせても上手い。

多分、言葉使いと口喧嘩以外何をやらせても城内で一番上手い。

このパエリアも、滅茶苦茶美味しいんだけど、分かりきっている事だし、いちいち言うのもなんか恥ずかしいのでとりあえずがっついて態度に表すことにした。

「おー美味いか美味いか。まだ少し残ってるから、フィオネ全部食っていいぞ」

「いいの?」

「うん。俺、パエリアあんまり好きじゃないんだ。フィオネが好きだから作ってるだけで」

「別に僕の好みに合わせないで良いのに。僕はそんな好き嫌い多いわけじゃないんだよ」

「そうか? でも好きなもの食いたいだろ?」

「まあね。でもシエナはそんな僕の事ばっか考えてなくてもいいよ。あ、そうそう、今日またエネミスと喧嘩したんだって? 口じゃ絶対勝てないんだからさ、いちいち突っ掛かってくのやめたら?」

僕が言うとシエナは、だってあいつが・・・などとぶつぶつ何か言っている。

まあ、いいや、本当は、何で喧嘩したのか聞きたかったんだけど、そろそろ食べ終わりそうなので、僕は契約の話を持ち出す。

「あのさ」

「……ん?」

ぶつぶつと何か言っていたシエナが反応した。

「契約のことなんだけど、『(ゴア)の(・)交換(バーター)』ではさ、書いた魔法陣の半分づつが、お互いの体に印として刻まれるんだ。まあ刺青と思ってくれればいいよ」

「体のどこに?」

「どこでもいいんだ。入れたいところをしっかりイメージすればそこに刻まれる。で、見えるところにあるのが嫌なら、服に隠れるとことか見えないところをイメージして。印は絶対つけなきゃいけないから勘弁ね」

「全然嫌じゃないよ。カッコイイじゃん刺青、入れてみたかったんだよね。どこにしよっかな」

シエナがはしゃいだ。

「ハハハ、シエナらしいね」

シエナなら腕とか胸あたりに入ってるとカッコいいだろうな。

「で、契約のとき、薄い生地の白い服に着替えてほしいんだ。後、下着も付けないで」

「なんで白い服なんだ?」

「魔法陣の上っていうのは、一応神聖なとこだからね。形はしっかりやらないと」

「ふうん。じゃあ、何で下着も?」

じゃあって何だよ。

「前と同じ理由」

とかそんなことを話しているうちに、僕達はパエリアを食べ終えていた。

「ごちそうさま」

「あいよー」

じゃあ、皿とか片付けておいて。と僕は言って立ち上がった。

シエナは皿を持って台所に行った。

「シエナ、濡れタオルとって」

「あいよ」

ピュンと台所からぬれたタオルが飛んできた。僕はそれを受け取って、ありがと。と言ってテーブルをふく。

テーブルの上を奇麗にしたら椅子を上に乗せ、椅子ごとテーブルを部屋の端に動かして、スペースを作った。

僕の部屋の趣味で集めた物を飾っている部屋から『(ゴア)の(・)交換(バーター)』に必要な道具持ってきていった。

「シエナ、終わった?」

うん。と言ってシエナがでてきた。

「じゃさ、血採るからこれで腕切って血この器に入れといて。線のとこまでね」

僕はシエナにナイフと、中に黒い線の入った底の浅い白の器を渡した。

「腕ってどの辺を?」

「肘の裏側。採ってる間は動かないでね」

シエナは床に直接胡坐をかいて座ると腕をピッと切った。だくだくと血が出ている。この分ならすぐに溜まりそうだ。

僕も床に座って同じことをする。

血の匂いが少しきつかった。

「こんなもんか?」

シエナが僕に聞いた。

白い器の黒い線のところぴったりに血が溜まっている。

「うん。オーケー。これで血を止めておいて。」

僕はシエナに拳くらいの大きさのボールを渡した。

シエナは、サンキュ。と言って脇の下の止血点にそれを挟む。僕の血も溜まったからシエナと同じようにする。

「その器貸して」

彫れ。とシエナが僕に器を渡す。

僕はそれを受け取ると僕のちと混ぜた。

「シエナは僕が呼ぶまで着替えてて」

解ったとシエナは自分の部屋にいった。

僕は、杖の先にさっきの血を付けて魔法陣を書き始める。

まず八芒星を中心から頂点までの長さが交互に長くしたり短くしたりして書く。その長い方の頂点に合わせて円を書き、八芒星と円の接点が四つになるようにする。できた四つの隙間に、一番上の一箇所だけ残して、ギリシャ文字のχ(カイ)、υ(イプシロン)、φ(ファイ)、Λ(ラムダ)、Θ(シータ)、Ξ(グザイ)、ο(オミクロン)、Μ(ミュー)、Δ(デルタ)、ρ(ロー)、Τ(タウ)、Γ(ガンマ)をひとつの隙間に四つずつ書き込む。残した一箇所には契約の象徴である、槍を交差させて(えが)いた。

「ててて」

書き終わった頃になって、ボールを挟んでいる脇が痛くなってきた。

「シエナー、もういいよー」

んーと言って、シエナが出てきた。シエナは真っ白のワンピースを着ていた。

少しの間見とれているとシエナが聞いてきた。

「フィオネは着替えなくていいのか?」

「え? ああ、忘れてたよ」

僕は寝室に行って、肌に直接、白い短パンと、シャツに着替える。

僕はリビングに出てシエナに言った。

「準備はいい?」

「オーケー」

「脇の下のボールを取って」

ボールをとって少しすると、切り口から地が流れ出した。

「裸足になって、血を垂らさないように魔法陣の上に乗って」

僕とシエナは切り口の下に手を当てて、魔法人の中心に乗り向き合った。

「傷を合わせるよ」

僕の傷と、シエナの傷を合わせる。

「いてて。このまま、血が魔法陣の中心にたれたら、契約が始まる」

「それだけ?」

シエナが聞いた。 

「ここからは流れだから」

ふうんとシエナが言ったとき、僕とシエナの混ざり合った血がポタンとたれた。

魔方陣が白く光りだした。

「名前を」

「あ、ああ」

シエナは、少し驚いたようだったけど、少し、間をおいて、はっきりと言った。

「シエナ・アリア」

僕もそれに続く。

「フィオード・レイランド・ジ・マギ」

ドクン、ドクンと心臓の動きが速まる。魔法陣が白く光りながら半時計回りに、中心に集まるように回りだした。シエナの血が、僕の体中を巡っているのが分かる。

魔法陣が、中心に集まりきると、すっと消えてしまった。

「えっと、これで終わり?」

シエナが言う。

「うん。腕の傷治ってるでしょ」

え? とシエナが腕を離して確認する。そこにはあるはずのナイフで切った傷がきれいになくなっていた。

「おお。ほんとだ」

そうシエナが言ったとき、いきなり体が火照るのが分った。

「………うぐっ、んん…か…体が」

体中が熱い。というか痛い、焼ける。首から左腕にかけてが特に。

思わず僕は、自分を抱きしめるようにして、しゃがみこんだ。

「ううう…んあっぐ」

さっきからシエナの声が聞こえないが、大丈夫なのだろうか。

ダメだ。意識が朦朧とする。



…ベットの上。

ということは寝てしまったのか。あ、テーブルも元の位置に戻ってる。シエナがもどしてくれたかな? でシエナは、あ、いた。ん? なんか食べてるぞ。

僕がおやつにとっといたドーナツだった。

「シエナ!」

「ん? ふぁ、ふぉふぃふぁ?」

たぶん、起きた? と言っているのだろう。僕が声をかけた時にはもう遅く、ドーナツは、もうシエナの口の中だった。

うまそうに食いやがる。

「そのドーナツ僕のなんだけど」

「え、そうなの? いやあ、知らなかったよ。うん。悪い悪い。でも知らなかったらしかたないなあ」

うん。うん。とシエナは腕組みして一人で頷いている。

何を一人で納得してやがる。

「でもびっくりしたぞ。確かに苦しかったけどさ。 マスター気絶しちまうんだもん」

「悪かったよ。でもシエナは大大丈夫だったの?」

「ああ。オレはマスターと違って丈夫にできてんだよ」

シエナが威張った。

僕はしっかりと印が刻まれているか確認する。首から両腕にかけて、交差させた槍から半分わけた魔法陣が巻き付くようにして刻まれている。

シエナの方を向くと、シエナがあの後着替えたらしい執事服を脱いでいた。一番上のブレザーを脱いで近くの椅子にかけ、ワイシャツのボタンをはずしていく。

「えーっと、何やってんの?」

シエナは気にせずに、ワイシャツも脱ぎ、ついには背中にあるブラジャーのホックにも手をかけ始めた。

「本当に何やってんですか? シエナさん」

「ホラ、見ろ」

シエナが嬉しそうに言った。

なるほど、シエナの奇麗な右胸から下へまっすぐ、絶妙なくびれのある腹の右側を通って魔法陣の半分が刻みこまれている。ズボンのせいで途中途切れているのだが。このまま右足に刻まれているのだろう。

シエナは、次にズボンにも手をかけ始めたので、もーいいもーいい。分かったから。と暴走を始めたシエナを止めた。でもシエナは膝下の所まである印を、どーしても見せたいようで、ズボンのすそを上げて、見せてくれた。元々奇麗なその太ももが、印のせいでさらに奇麗になっている、

まったく、なんてサービス精神持ってんだこの女は。

「うん。カッコいいよ」

「だろ」

嬉しそうにシエナが言う。

「だから、早く服を着てください」

かなり名残惜しいんだけど。

「はーい」

満足そうにシエナは服を着るが、僕は全然満足しない。

さて、そろそろ本題に入ることにしよう。

「あの事だけど、どうしようか。やっぱり暗くしてケーキの火を消したときかなあ」

「逆に、そのとき以外あんのか? 幸いお前の親父は、水使いだからな。暗いとこで気付かれる心配はないし」

「だよねー。僕疲れたからさ。寝るわ。あとで起こして」

「わかった」

お願いします。と僕は言って、パジャマに着替えた。

僕は、ベットに入って首から、両腕にかけて刻まれた印を見る。

「やっぱ見えないとこに入れればよかったかなあ…」






        

 

 今日で五二歳になる僕の父親の希望で、本来ならその辺の金持ちや親族を適当にかき集めて大々的にやるのだけど、家族だけで誕生日を祝ってほしいとのことだった。

こっちからしたら好都合(、、、)だけど、父さんからしたらどうなんだろうか。いろんな人に来てもらって、大々的に祝ってほしいとは思わないのだろうか。

まあ、僕からしたら、誕生日なんて祝ってもらわない方が、妙な感情や想いに駆られる事が無くて、気が楽なのだけれど。

夕食が並んでいるテーブルに、母さん、僕、リト、シエナ、エネミス、そして父さんがそろった。

「え~本日は、」

父さんが改まった口調で何か言おうとしたときに、リトが、はいはいはーい! と大声で言って、手を挙げた。

「ん、まあ、ちょっと待て、リト」

それを無視して、リトが元気に言う。

「いちいち堅っ苦しい挨拶なんていらないよ!」

「それがいいでしょうね。私とシエナさんは違いますが、みなさん家族なんですから」

エネミスが同意し、母さんもシエナも、そうね。とか、そうだな。と頷いていてそれにみんな賛成のようだった。

父さんは、そうか。と言って今度は、強く、はっきりと、それでいて、できる限りの笑顔でいった。

「今日は、俺の誕生日を祝い会を開いてくれてありがとう!」

かんぱーい! とみんながワインの入ったグラスをぶつけ合った。

しばらくは、(みんな)が、夕食を食べ終わるまでは、ワイワイと皆で、楽しく、色んな話をした。

リトのこと、僕のこと、母さんのこと、シエナのこと、エネミスのこと、そして、父さんのこと。それぞれがそれぞれの何でもない、何の変哲もない、普通の話を持ちかけて、そのことでたったそれだけのことでとても盛り上がった。

父さんは、祝ってくれる人の数じゃなくて、祝ってくれる誰かがいることが幸せなんだといっていた。

僕は、それならなおさら祝ってくれる人が多い方がいいと思うんだけどな。何か、その辺に矛盾を感じるような気がする。どうなんだろうその辺。

父さんにとって幸せがたったそれだけの物なのだろうか。父さんにとっての幸せとはどんなものなのだろうか。

僕は、幸せなんて物は、もう求めようともしたくないのだけど。あえて、僕の幸せを表現するとするならば、それをしないことこそが僕にとっての幸せと僕は表現する。

でもそれを僕が言ってしまうと僕が幸せという物を追っていると肯定してしまうから。

僕が幸せなんて物を本当(、、)に表現するならば、僕にとっての幸せとは、ただの言葉だ。

そんなありがちな表現を、僕はしよう。

そんな、どう置こうか、ここでは、「虚想」、そんな言葉はないけれど、そう置くことにしよう。

そんな虚想を思い描き終えたときには皆もう夕食を食べ終えていた。

それを見計らって、メイドさん達が大きなケーキを運んできた。

そのケーキには三重の円を作るように蝋燭が並べられていた。

「私が火をつけますよ」

エネミスが言って火属魔法のフレイムを詠唱した。

スッと蝋燭に火が付く。リトがてて手とシャンデリアのスイッチまで駆けて行って明かりを消した。

「父上プレゼント!」

とリトが父さんにプレゼントを渡す。

「これは、私から」

続いてエネミス。

「これがあたし」

と母さん。

僕は父さんに言う。

「僕とシエナからは、またあとで。僕とシエナからのサプライズということで、お楽しみ」

シエナが、かかか。と笑っている。

「ほう。楽しみだな」

「ケーキの火を消したらびっくりするよ」

僕は、挑戦的に言う。

シエナは、くかかかあ。とさっきよりも盛大に笑っている。

「じゃっせーのっ」

リトが言ったのに合わせてみんながバースデイソングを歌い始める。

僕は、杖を持って皆に気づかれないようにリトの後ろに回る。

「ハッピバースデイトゥーユーハッピバースデイディア、ローザー、ハッピバースデイトゥユーローザー、ハッピバースデイトゥユー」ローザ―というのは父さんの名前だ。

「俺はこの五二本の蝋燭を一発で消す!」

と父さんが言っていきを思い切り吸い込む。

がんばれ~。と気の抜けた声で僕は言った。

父さんが息を思い切り吹き込んだ。

父親ながらとんでもない肺活量の持ち主だと思う。この肺活量がなければ、この計画成功しなかったと思う。

父さんは、五二本の蝋燭を一回で全部けした。

部屋が真っ暗になる。

僕は、杖のいつも地面についている、細い方の先をリトの背中の心臓付近に思いきり突く。

「あが⁉」

リトが声を上げた。

エネミスがそれに気づいて急いで電気をつけに行く。

リトの血が僕の腕に、杖を伝ってたれた。生暖かい。

パッとシャンデリアの電気がついた。

「…………………っ!」

皆が絶句していた。

何もせずにただリトを、違うか、元(、)リ(、)ト(、)を見つめている。

僕は、それに突き刺している杖をそれから引き抜く。どばっと、それ(、、)から血が溢れ出し、それの周りに、少しづつ血の池が出来上がる。

僕は、ただ、物を見るように。シエナは、ニヤニヤと冷たく、楽しそうに、笑いながら。ただ、それを見つめていた。

「…貴様等…」

父さんが、小さいが、体の芯に直接届くような低い声で言った。

「どう?僕からのサプライズは。本当にびっくりしたでしょ?」

僕は、おどけたように言いながら窓の近くまで歩いていった。

シエナは、ゲラゲラと、本当に楽しそうに笑っている。

「もう一つ、面白い事を教えてえあげようか?」

僕は答えを待たずに言う。

「最近起こってる放火事件は、僕がやった」

計画していたわけじゃないんだけど。そのときの衝動に耐えられずに、ついやってしまっていた。『つい』で三件だから、我ながらとんでもない数だと思う。

そ( 、)ろ( 、)そ( 、)ろ( 、)か( 、)。

「しかも、僕は、使い魔と一緒に逃げようとしている。いろんなところを旅してみようと思うんだ」

「貴様ぁ・・・」

父さんが杖を構える。

「もう遅いよ」

僕は、間、リトから逃げたように窓から飛び降りる。

昼間の魔法は嫌だったから、浮遊魔法の呪文を詠唱する。

「イザークス・アラストリティ」

落下していた僕の体は、その場で、といっても空中なのだけど、落下を終えた。

僕が出た窓の下には計画通り、シエナがサイドカーをつけたバイクで待機している。そこまで移動して、サイドカーに飛び乗る。

「準備はいいかい? マスター」

シエナが僕に聞いた。

この場合の準備とは、どのような意味だろうか。リトを殺した事についてか。これから旅を始める事についてか。父さんを敵に回すことについてか。それ全部をひっくるめてか。

「いつでもどうぞ」

ドルルルとシエナがアクセルを思い切り開け門の方へサイドカーをつけているのにもかかわらず思い切りターンした。地面をえぐるようにタイヤが回り、門のほうへ勢いよく飛び出で、中大通りを駆け抜ける。

「あのさ、いつあの部屋を出たの? 全く判らなかったんだけど」

「えっと、マスターが、もうひとつ面白い事を教えてあげようかって言ったあたりからかな。わかんなかったのにあのタイミングで出てきたのか?」

「それは、そのタイミングには外に居てって指示を出したから」

シエナが、バイクを止めた。入退村用の門の前だ。といってもその二十メートル位離れているけど。昼間僕が交代させた門番が、ツァスタバM21を持って構えていた。もう連絡が行っているのだろうか。

「マスター。もう我慢できないんだけど・・・。」

シエナの息が荒くなって身体が火照ってる。シエナがいつも腕につけているゴムで、髪をポニーテールに結んだ。

こうなったらもう止まんないだろう。

「好きにやって良いよ」

「あはは」

シエナがひとつ笑ってバイクを下り、腰のポーチから、ダガーナイフを二挺取り出した。それを両手に持って、門番の方へ走りだした。

門番がシエナを撃った。毎分五六〇発というスピードで弾が飛んでくるのを、シエナは難なく交わしながら門番との距離をどんどんつめていく。門番との距離が、あと五十センチ言ったところで、シエナが、門番の一人の、顔に向けてけりを放った。ごぼ、と鈍い音が響く。次に、二十メートル離れていると良く見えないけど、その門番の首に、ナイフを突き刺す。門番の首からブシャアアと戸が吹き出ている。

二人目には、ツァスタバを手後と蹴飛ばす。回転しながらツァスタバが飛んでいく。門番が痛みで手を押さえようとする暇もなく、シエナは門番に馬乗りになると頬を殴る。殴る。殴る。殴る。どうやら殴って撲殺するつもりらしい。もう死んでいると思うんだけど、まだ殴り続けている。死体の顔は、貴と儀茶愚茶に変形している事だろう。門番さんも可哀想に。

最低でも百回は殴ったなと思った頃になってやっと満足したらしく、シエナは、門番の上を下りて門を開けるとこっちへ戻ってきた。シエナの服は返り血で黒い執事服だったのに、前は赤いのに背中は黒い変な服に返信していた。

僕は、シエナにぬらしたタオルを渡した。

「ありがと」

シエナは、顔を拭くとジャケットを脱ぎ捨てて、バイクにまたがった。

アクセルを開けて、バイクをまた走らせる。

「そんなに溜まってたの?」

「うーん。しばらくヤってなかったからな。興奮が抑えられなくて」

虐殺をなんか性的なものと勘違いしてないか、この女。

「で、マスター最初はどこに行くんだ?」

「どうしようか。近くの村はマズイと思うんだよ。だからさ、食料がなくなるまでは、村に入らない方がいいと思うんだ。だから当分は野宿にしようかと思って。シュラフとかも持ってきてるし。それともどっか行きたいとこあんの?」

「いや」

シエナは言った。

 僕は、今まで散々いろんな人を殺してきた。僕は、これからも、殺し続けると思う。始めこそ、死ぬほど辛かったけど、今はもう、別に何も感じなくなった。その相手が、妹でも。多分、それが、とても仲のいい友達だとしても、命の恩人だとしても、ためらわずに殺す事ができるだろう。そんな僕を僕は、誇らしいと思う。人を殺す事が良いことだとは、思わないけど。楽しいことだとも思わないけど。必要な事だとも思わないけど。

でも、それは僕にとっては、大切な事だと僕は思うから。何かをためらわずにできることはとても素晴らしい事だと思うから。

抽象的な言葉でまとめたけど、いったい僕は何が言いたいのか、全く判らないのが本音で、それをこれから探すのが、今の事にぽっかりと開いている穴を埋めるのが、この旅の目的になるんじゃないかなあ。

 ふと横を見ると、シエナが笑っていた。





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